第6話「冒険者ギルドとウィンドショッピングへ」
“草笛亭”の店主に冒険者登録をしたいと話すと、ギルドの場所を教えてくれた。
日は少し傾きかけている。登録にどれだけ時間がかかるかわからないが、買い物をする余裕くらいはありそうだ。
メルヘンでファンタジックな街並みを眺めながら歩いてゆく。
色々な店が立ち並んでいるが、やっぱり看板の文字は読めない。
けれど、それぞれの店には必ずエンブレムが掲げられていた。
宿ならベッド、武器屋なら剣、防具屋は盾。
見た目でも何の店かわかるように工夫されているようだ。
中世ヨーロッパ風の世界らしく、識字率は高くないのかもしれないな。
そういえば宿泊帳に記入するとき、エルシナーデさんが
「文字が書けないって言わない方がいい」
と警告していたな。
「エルシナーデさん。宿で“読み書きできないって言っちゃダメ”って言ってましたけど、あれはなぜです?」
(この世界では、文字が書けないと冒険者としてやっていけないのか?)
「それはね。値段交渉や報酬のやり取りの時に、足元を見られる可能性があるからだよ。
“草笛亭”の店主がそういうことをする人には見えなかったけど、世の中には悪質な商人や依頼人もいるからね」
「なるほど……」
「読み書きができない冒険者は別に珍しくないけど、冒険者同士のトラブルの大半は報酬の分配絡みなんだ。
騙した、騙されたで刃傷沙汰になった現場を、私は何度も見てきたよ」
(こっわ……。金は命よりも重い!ってなにかで聞いたことあるけど、それで人を傷つけるか?
……でも現代日本でも、パチンコの勝ち金で揉めて襲われる事件とかあるもんな。中世風のこの世界なら、なおさらか)
「それじゃ、冒険者ギルドではさっきみたいに?」
「うん。私が読んであげる。書くときは“草笛亭”の時みたいに私の指をなぞる。それでいこう」
そんな打ち合わせをしながら歩いていくと、目的の冒険者ギルドが見えてきた。
屈強な者たちが出入りしており、すぐにそれとわかる。
建物はぐねっと曲がった盆栽のような形をしていて、入り口には“剣と洞窟”のエンブレムが掲げられていた。
中に入ると、そこは活気に満ちていた。
人間だけでなく、獣人やエルフ、ドワーフなど、さまざまな種族が行き交っている。
「冒険者ギルドへようこそ!!」
元気いっぱいの声で迎えてくれたのは、受付カウンターの美人女性職員だった。
(ひゅ~~。やっぱりゲーム内の世界だけあって美人さんが多いや)
そのお姉さんに冒険者登録をしたいと告げると、用紙と規約書を渡される。
「字は読めますか? 代筆が必要ですか?」と聞かれたが、
打ち合わせどおり「必要ありません」と答えた。
受付から少し離れた広間の隅に移動し、小声で尋ねる。
「で、なんて書いてあるんですか?」
「ギルドの規約だね。内容は昔とそう変わらないみたい。
まずは“等級”について読み上げるね」
***
白等級 ― 年間300の貢献値
青等級 ― 年間500の貢献値
緑等級 ― 年間1000の貢献値
赤等級 ― 年間3000の貢献値
虹等級 ― 年間5000の貢献値
※
貢献ポイントの獲得
1.魔石の納品―
魔石はモンスターによって大きさや稀少性が異なる為、当ギルドで査定いたします。
2.依頼を達成する―
依頼を達成すると難易度に応じて貢献ポイントが付与されます。
未達成の場合は付与されません。
悪質な場合は貢献ポイントを減点する場合があります。
3.ギルドからの緊急依頼―
ギルドから緊急性の高い依頼を発信する場合があります。
その場合は原則受けて頂かなければなりません。
※怪我や病気といった特別な理由での参加拒否以外は貢献値を大きく減算します。
場合によっては冒険者証明書を失効します。
***
(う~ん⤴? 等級なんて、ゲーム内ではなかったぞ。冒険者レベルじゃないのか? それともレベルキャップが変わったのか?)
「難しい顔してるけど、どうかした?」
「いえ、俺がいた世界では“等級”なんてなかったんですよ。代わりに“冒険者レベル”というのが10段階ありましてね」
「ふむ。千年以上経っているかもしれないし、時代の変化で仕組みが変わったんだろうね。
ところでアキラの冒険者レベルはいくつだったの?」
「もちろん最高LVの10ですよ! 全ての”胎内”を攻略してバハムートと共に世界を救ったんですから!」
「さすがだね。“光の胎内”でモンスターを手際よく倒していたのも、一度経験してたからなんだね?」
「もちろんです! 六属性すべての“胎内”のモンスター特性や習性もバッチリです!」
サムズアップする俺に、エルシナーデさんがくすりと笑う。
そのとき、隣で規約書を読んでいた冒険者が振り向いた。
「お兄ちゃん! 声に出して読むならもうちょっと静かに頼むぜ。こっちも集中してんだからよぉ」
「あっ、す、すみません!」
(ひぃっ、モヒカンにトゲトゲ肩パッドだ……。まさか武器は釘バットとか火炎放射器じゃないよな?)
「私の声はアキラにしか聞こえないからね。他の人から見たら、君はただの独り言を言ってる変わり者だよ。まぁ、その冒険者の見た目には負けるけどね」
(数十年も”光の胎内”で冒険者を見てきたエルシナーデさんでも、この見た目は変わっているんだ…)
「人目もあるし、登録だけ済ませちゃおう。続きは“草笛亭”で話そう」
「登録料金は200Gかかるってさ。先にこっちに来ておいて正解だったね」
――異世界転生モノの“力を見せつけてギルドがざわつく”展開は、残念ながら起こらなかった。
職員のお姉さんは淡々と処理をこなしていく。
白い金属板のような冒険者証と、ギルドに関する説明書を受け取り立ち去ることに。
所持金は残り28G。これだけじゃ道具も装備も買えやしないな。
しばらくは遺骸から拝借した装備で我慢するしかないか。
「さて、これでようやく市場に行けるね」
「でも、お金がもうないです。それに戦闘の疲れもありますし、少し早いですが宿に戻りたいです」
……
「さて、これでようやく市場に行けるね」
(ん?あれ?デジャヴかな。俺、宿に戻りたいって言ったよね
?いや、まてここ異世界だ。っふ…時間ループがあってもとしてもおかしくないか…)
「でも、お金がもうないです。それに戦闘の疲れも――」
……
…………
エルシナーデさんが振り向き、すっと顔を近づけてくる。
「さて、これでようやく市場に行けるよね? ……よねぇ?」
その美しい顔にから、信じられないくらいの圧を感じる…その圧に耐え切れなかった俺は目をそらしつつ
「は、はいっ……ぜひご一緒させていただきますぅ……」
◆◆◆
「へぇ、今はこんな髪飾りが流行ってるんだ。あっ、こっちのアクセサリーも可愛いなぁ」
「うわ、不細工な人形まで売ってる。あはは、こんなの買う人いるのかな?」
「ん? ちょっと、今意識が遠のきかけたよ? しっかりついてきてね」
……そうだよな、やっと外に出られたんだ。とって触ったりは出来ないけど、見て楽しむことぐらいはしたいよな。
露店や服飾店をひと通り見て回ったあと、彼女は店の壁を抜けて俺の横に戻ってきた。
「待たせてごめんね。付き合ってくれてありがとう」
「満足しましたか?」
「まだまだだよ。でも、いつまでも付き合わせるのは悪いからね。
そろそろアキラの装備を見て回ろうか」
「お金、もう28Gしかないですよ?」
「知ってる。でも、どんな装備があるか確認しておくのも大事じゃない?
値段がわかれば、どこの狩場で稼ぐか計画も立てられるしね」
「なるほど! さすがです!」
「ふふ、もしかして“ウィンドウショッピングに付き合わせた”と思ってた?」
「う……そ、それは……」
「半分はその通り。あはは。でも楽しかったよ。付き合ってくれてありがとう。
さ、装備を見に行こう。お手頃な店を見つけたんだ」
(エルシナーデさん、やっぱり出来る女だ……同時に複数の目的を達成するなんて。営業マンとして仕事の出来る人ってのはしびれる!憧れる!)
俺は再び彼女の後を追って店へと向かうのだった
◆◆◆
高さ10メートルほどの樹の幹に、らせん状の階段が取り付けられている。
その上に、武器と防具の両方を扱う店があった。エルシナーデさんはそこへ案内してくれた。
「さて、アキラにはどんな装備がいいかな……」
「そうですね。まずは武器が欲しいですね。“光の胎内”は植物や昆虫系モンスターが多いので、
剣よりも斧やハンマーのほうが向いていると思います」
「え? 拳から鉤爪を生やして戦えばいいんじゃないの? あれ、かなり威力あるよ?」
「それが……出すとき痛いんですよ。皮膚を切り裂いて生えるので……」
「そっか。それじゃ、この斧なんてどう?」
指差す方を見ると――
デカーーーーイ!!そして真っ赤でド派手だ!
説明しよう。お勧めされたのは正確には斧ではない。これはポールウェポンと呼ばれるものだ(ゲーム内にもあったやつだから間違いない)
「いやいやいや、エルシナーデさん! なんでそれを選んだんですか!?」
「”光の胎内”…とくに第一階層は根っこの部分で、内部も狭く入り組んでいるじゃないですか?」
「ちがうよ。そんな取り回しのきかない武器じゃなくて、その奥のやつ」
お、こっちのは片手で持てるハンドアックスだな。
よかった俺の勘違いだったようで。一瞬、彼女のセンスを疑ってしまったぞ…
「うん、握りも丁度よさそうだね。でも、君の力で戦う場所を選ばなかったら、さっきの大型の武器も使いこなせそうだ」
(ふっ、俺の筋力は36だからな……)
《真・ソード&マジックワールド》では、装備ごとに必要筋力が設定されている。
武器の場合は筋力が下回ると命中率やダメージにペナルティが発生する。
防具の場合は移動や跳躍、回避にペナルティが発生する。
たとえば、そこに陳列されているショートソードは筋力5~15で設定されている。
一般成人男性の平均が10、訓練を受けた兵士や冒険者で14ほどだ。
一方、さっきのポールウェポンは必要筋力18以上――上限なし。
必要筋力36のポールウェポンを装備できる俺はこの世界では天下無双の強さなのだ!
…
……
ちょっとまった”竜人”になった俺のステータスってたしか
***
筋力:36
器用:13
敏捷:19
魔力:12
生命力:30
精神力:26
***
店内に姿見があったのでその前に立つ。
あれ?これマジ?筋力36に対して見た目が普通じゃね?
本当に筋力36あるのか?いやあるはずだ!
なぜなら《キラー・ウッド》を担いで持って帰って来たし。《キラー・ウッド》の生命力から俺の筋力36によるダメージ補正を逆算すると間違いない。
見た目てきには筋力15くらいの細マッチョだが、筋力15程度では《キラー・ウッド》を何体も倒し続ける事は出来ない。
それでもゲーム内では、TRPGをベースにしている。運が良ければそれも可能だが…現実的な確率ではない。
独り言を呟いていると、エルシナーデさんが近づいてくる。
「鏡の前でぶつぶつ言って、どうかした? そのハンドアックス、気に入らなかった?」
「いえ、使いやすそうなんですが、もう少し重みが欲しいなって思いまして。
ほら、こっちの刃が大きいタイプ。重量があればその分、打撃力が上がりますから」
「うん、それも悪くないね。少し値は張るけど、武器は妥協しない方がいい」
値札には400Gの文字。
エルシナーデさんが最初に示したハンドアックスは300G。
――一日くらい鉤爪の痛みに耐えれば、すぐ買えるか。
「この値段なら、明日効率よくモンスターを狩れば手が届きそうだね」
購入目標が決まった俺たちは店を後にしたのだ。
第6話も読んで頂き有難うございます。
次回、第7話は11月2日(日曜日)18:00の投稿を予定しています。
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前作の「落ちこぼれ召喚士少女、召喚したのはターミネーターだった」もよろしくお願いします。




