ギルドと街のざわめき
「⋯⋯なぁ、ルカ。これ見ろ。昨日の巡回記録」
「またあの屋敷の前通って溜め息ついてたの?いい加減にしたら?」
「違ぇよ!今回のはマジだ。窓がさ⋯⋯朝から晩まで一切開かねぇ」
「⋯⋯え、また?まさか、連続記録更新中⋯⋯?」
ギルドの休憩室で、ルカとカインが顔を見合わせる。
書類の上には、数日前から何かと話題の“植物使いの貴族邸”の巡回報告が積まれていた。
「ていうかアイツ、もう何日ギルド来てねぇ?あの《茨鬼》」
「ロゼリオさんね。ほら、前に“茨繭事件”で繭ひとつ持ち込んできた時もあったでしょ。
あれで《繭狩り(サイレント・ブランチ)》って渾名ついたくらいだし」
「それが今や、“部屋から出ない鬼”かよ⋯⋯はは、愛は人を変えるなぁ」
「⋯⋯アンタに言われたくないわ」
ルカが呆れたようにため息をついた時、ギルドの受付カウンターがざわついた。
「ねぇ、ねぇ聞いた!?あの屋敷の⋯⋯“赤髪の彼氏”、三日三晩、女の子抱えて出てこなかったんだって!」
「またぁ~噂でしょ~!でも、昨日のパン屋の配送、扉開けたら中から“女の子の悲鳴”が聞こえたって言ってた!」
「キャー♡どんなことされてるのかしら♡」
ルカ「うるっっっさいッ!!ギルドはゴシップ場じゃないのッ!!」
カイン(小声)「でもルカも興味あるだろ?」
ルカ(ボソッ)「⋯⋯ちょっとだけね」
ギルドに響く赤面大絶叫。
受付の裏では、ついに堪忍袋の緒が切れたルカが、配送ミスを理由にカインに報告書20枚の書き直しを命じていた。
「⋯⋯ってオレが怒られるのおかしくねぇ!?」
「アンタが“茨繭鑑定人”だからでしょ!全部あの事件のせい!」
「ぐぬぬ⋯⋯!」
その頃、件の屋敷の一室では──
「⋯⋯ねぇ、ロゼリオ」
「なんでしょう?」
「このままじゃ外、出られない気がするんだけど⋯⋯?」
「ご安心を。ギルドに報告済みです。“身体的に活動不能な状態のため療養中”と」
「⋯⋯誰がよ!?」
「もちろん僕がです。説明する義務、ありましたから」
「ちがう!療養って!それ!違うからッ!!」
屋敷の中は、今日も平和だった──。




