赤蔦の嫉妬 2
「⋯⋯ふふ、貴女が悪いんですよ」
紗凪が足元のおぼつかないまま宿の部屋に引き戻され、柔らかな寝台へとそっと押し倒されたとき、ロゼリオはその耳元でそう囁いた。
「えっ、ま、待っ⋯⋯んん⋯⋯っ!」
抗議の声すら唇で塞がれ、熱を帯びた舌が絡みつく。
身体の奥から浮かび上がる甘い痺れに、紗凪の背筋が震えた。
昼間、フォルス王国の街中で紗凪がたまたま声をかけられただけ——ほんの数言交わしただけの騎士見習いの青年。
それなのにロゼリオはまるで蔓が絡みつくように腕を絡ませ、どこにも行かせまいと包み込んできた。
「私がどれだけ我慢していたと思ってるんです?」
シャツのボタンを外され、項へと唇が落ちる。柔らかくも甘く噛まれたその場所には、赤い印が残される。まるでロゼリオの所有の証のように——。
「や、でも⋯⋯ほんとに、ただ話しただけでっ⋯⋯」
「そう。話しただけで、あれだけ嬉しそうな顔ができるんですね」
「そ、そんな顔、して⋯⋯ない⋯⋯っ、あっ⋯⋯!」
ロゼリオの指先が滑らかに鎖骨をなぞり、紗凪は反射的に身をよじった。けれどその動きさえも、蔦のように絡むロゼリオの腕に絡め取られ、逃げ場などなかった。
「貴女は、知らなすぎるんですよ。私がどれだけ、貴女一人に囚われているか」
愛しいと囁く声が、身体の芯にまで響く。その妖しく甘い響きに、思考が蕩けそうになる。
「そんな顔されたら⋯⋯明日どころか、一歩たりとも外には出させたくなくなりますよ?」
「う、うそ⋯⋯でしょ⋯⋯?
明日、ギルドに⋯⋯行く⋯⋯はず⋯⋯」
「延期です。私情により」
「わ、わがままっ⋯⋯!」
「ええ。愛する者には、少しぐらい独占欲を向けても許されますよね?」
布の触感すら惑うように、紗凪の肌を撫でる蔦。首筋に落とされたキスの合間に、耳元でささやく低音が甘く響いた。
「歩けなくなっても、私のせいじゃありませんよ?」
——その予告は、容赦なく現実になった。
翌朝、柔らかな陽の光に目を覚ました紗凪は、体に鉛のような疲労を感じて顔をしかめた。
起き上がろうとしても、力が入らず⋯⋯。
「む、無理⋯⋯今日、無理⋯⋯」
「おはようございます、紗凪さん」
ロゼリオは上機嫌に朝の薬草茶を差し出しながら、にこりと微笑んだ。
その瞳の奥で、ほんのりと愉しげな緑が揺れている。
「⋯⋯ほら、歩けませんよね?」
「むり⋯⋯絶対ムリ⋯⋯」
「では今日一日は、外出禁止で決まりですね」
ロゼリオの腕に支えられながら、紗凪は毛布にくるまったまま悶えた。
「絶対⋯⋯嫉妬が原因だよね⋯⋯?!」
「ええ、可愛い貴女が悪いんです」
その言葉とともに額に落とされたキスは、昨夜の熱を思い出させるように甘く⋯⋯紗凪は枕に顔をうずめて、ぷるぷると抗議の声を封じたのだった。




