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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
祝福された呪い子

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77、流れた水は元に戻らず






「………どうしたの? 食べないの?」


「それが、なんか………食欲がなくて………」


「大丈夫?」


 シーエさんからスープとパンを受け取り、それを見ても、食欲が全く湧いて来ない。

 パンを口の前まで持ってきても、口を開きたいとも思えない。

 まさか、衰弱が加速しているのだろうか。


「………どうする? 食べない?」


「スープくらいは………」


 そう口をつけようとしても、食べるという行為自体を身体が拒否する。

 もしかして、もう食べれすらしないのだろうか。


「………他の子にあげてください」


「でも、マレちゃんは………いや、分かった。無理して食べても、また吐くかもしれないしね」


「すみません」


「謝ることじゃないよー」


 スープとパンをシーエさんに返し、手持ち無沙汰になって女神像の前に座る。

 俺の体調は、もはや神頼みなのだろう。


『あれ? もう食べ終わったの?』


 横からそう話しかけられてそちらに振り向くと、スープとパンを持ったりゅか姉ちゃんが立っていた。

 アイレの方を見てみると、アイレはもう気にすることなくグループの会話に混ざっている。


『ちょっと、食欲がなくて………』


『え、大丈夫? でも、こういうときって無理やりでも食べた方がいいんじゃ………』


『それで吐いちゃったら、結局全部やり直しだから』


 むしろ、無駄に体力を消費しただけで終わるだろう。

 自分の身体がどうなっているか分からない以上、体力を消費するのは避けたい。

 結局は何も食べていないので、体力が回復することはないが。


『じゃあ、今日はもう寝た方がいいね。子守唄でも歌う?』


『い、いいよ、大丈夫。あ、でも………』


『でも?』


 自分で言いかけて、羞恥心で言葉を飲む。

 この身体でのトイレの仕方を知っておきたい、というのは別に変なことではないのだろうが、それを聞くのはさすがに憚れる。


『………えっと、何でもない』


『何でもなくはないでしょー。いいよ、なんでも言って? あんなことやこんなことも話してくれたし、もう今更って感じでしょ?』


 確かに、俺はもうこの世界に来てからのことを全て話している。

 その中には、混浴したことも含まれている。下の事情くらいはもう、笑うものでもないはず………だ。


『えっとじゃあ、聞くけど………』


『うんうん、なーに?』


『………女の身体でトイレって、どうしてるの?』


 俺がそう問うと、りゅか姉ちゃんは一瞬きょとんとした顔になり、それから真面目な顔になる。


『待って。まさか、人前でやったって言わないよね?』


『ちゃ、ちゃんと隠れてやったよ。でも、それで本当に当たってるか分からなくて………』


『分かった。んじゃ、食べ終わったら一緒に行こうか』


 そういえば、りゅか姉ちゃんはまだ食事中だった。

 そんなときにこんな話をするのは、嫌な気分になるだろう。

 失敗した。また、自分のことばかりで相手を考えられていなかった。


 幸い、りゅか姉ちゃんは気にしていないようで、スープとパンを手掴みでガツガツ食べている。

 皿を買い足す余裕はあるが、スプーンやフォークを買う余裕はなかったようだ。


『ってか、そんな急いで食べなくても………』


『じゃあ、一緒に入ってるとこ見られたいの?』


『………あ、そういうこと』


『そう。そういうこと』


 確かに、そういうことなら………いや、それでもりゅか姉ちゃんが無理して早く食べる方が良くない気がする。

 本人はもう決定事項と思っているようなので、言わないが。


『んん………ぷは、よし食べ終わった。じゃ、これ返してくるから、先トイレ行っといて』


『りょーかい』


 りゅか姉ちゃんの言う通りに、大広間を抜けて手洗い場に移動する。

 改めて見るトイレは、さすがにところどころヒビや小さい崩落があるものの、やはり現代的だ。

 見慣れた小便器が数個に、女子用と思われる個室トイレが二つ、一番奥に掃除用具入れがある。しかし、箒やバケツといった掃除用具は全て木製であり、モップすらない。変なところで、文化が異様に進んでいる。


「砂漠だから、水回りが一番に進んだ? いや、トイレは逆に水使うか。じゃあ、なんで………?」


 というより、よくよく見ればここは水殿の一部だ。

 つまり、今の文明より前にあった水殿がこの技術を持っていた、ということになる。

 古代文明あるあるの、現代と同じ、もしくはそれ以上の水準の技術。こういうのを研究している学者とかもいるのだろうか。


『ま~れ君! なんかあった?』


『ん? 別に何も』


『そう? じゃ、早速やってみよっか』


『え? あ、ちょっ』


 手を引っ張られ、個室に連れ込まれる。

 現代と同じと言っても広さはそうでもなく、子ども二人で肩が触れるほど狭い。


『んじゃあ………とりあえず、今までの通りやってみて』


『え、うん………』


 今までというか、一回しかしていない。

 とにかく、人前でズボンを下ろすという羞恥に耐えながら、あのとき路地裏でやったようにズボンを下げて………


『はいストップ』


『え、な、何?』


 急にりゅか姉ちゃんから待てがかかり、ズボンを半下ろしした状態で止まる。


『いや、うん、稀君はそうだよね。うん、ごめん』


『え、え? 何………?』


『まあ、とりあえずズボンは上げて………』


『あ、ちょっ、んっ………』


 りゅか姉ちゃんにズボンを掴まれ、グイッと上まで上げられる。

 そのとき、上げ過ぎて股にズボンが食い込んだが、りゅか姉ちゃんはそんなことを気にする余裕はないようだ。


『りゅか姉ちゃん? どうしたの?』


『いや………さ、稀君は前世の通り接してくれてるだけだよね。でもね、私はさ、もう女じゃなくて男の子なんだよ?』


『えっ………と、それが?』


『うん、自分を殴りたくなってくるわ………』


 確かに性別は二人とも反転しているが、それが今の状況にどう関係するのか………


『………もしかして』


 なぜか気恥ずかしそうにモジモジするりゅか姉ちゃんの股間を見ると、しわにしか見えないものの、ほんのりと膨らんでいた。


『今の稀君はとっても綺麗だし………その、仕草も完璧すぎて………』


『………綺麗? 仕草?』


 この世界は、俺が見た限りでは美形ばかりなので、自分の顔が綺麗だとか、そういう風には捉えられない。鏡を見たのがだいぶ前なことも影響しているのだろう。

 だが、仕草とはどういうことだろうか。力が弱くなったので、それをカバーするために姿勢を変えることはあるが、それ以外は前世と特に大差ないはずだ。


『え、マジ? 本当にそれ無意識でやってんの?』


『えっと、何を?』


『あいや、思い出してみると素質はあった気がするわ………』


 先ほどから、何について話しているのだろうか。

 というか、トイレの仕方を教わりに来ているだけなのだが、この時間は何だろうか。


『あ、うん、ごめんごめん、もう慣れた………と思う。えっとじゃあ………何だっけ………あ、そうそう、稀君のやり方でやってみて』


『わ、分かった』


 今度こそズボンを全て下ろし、便座の上でしゃがみこんで………


『はいストップ』


『え、また?』


 りゅか姉ちゃんの手が俺の身体を引き、便座の上から降ろされる。


『いや、今度はそういうのじゃなくて、なんで座らないの?』


『え? そりゃあ、地べたでやったから………』


『………そっか、それなら、そうなるか』


 りゅか姉ちゃんの理解を得て、再々度便器の上でしゃがみ込む。

 股間周辺に飛沫が付かないように、両手で股を広げて………


『ごめん、ストップ』


『えぇ、また………?』


 うんざりしながらもりゅか姉ちゃんの方を見ると、顔を真っ赤にして目を瞑っていた。

 普通、それをやるのは俺の方なのだが………


『いやぁ、前世が女だったから耐えれるかと思ったけど、思ったより刺激強かった。ごめん、私じゃ教えられそうにないわ』


 りゅか姉ちゃんの両手は、何かを押さえ込むようにして股間に伸びていた。そんなに強く掴んでは、かなり痛いはずだが。

 とりあえず、りゅか姉ちゃんが目を開けられないので、便器から降りてズボンを履く。


『履いた? あの、ごめんね、こんな性欲の塊みたいな奴で』


『え? いや、生理現象だから仕方ないんじゃない?』


『………こりゃ、そのうち襲われそうだな』


 俺の返答に、りゅか姉ちゃんは頭を抱える。

 別に誰彼構わずこんなことをするわけではない。りゅか姉ちゃんだからこそ、見られてもいいと思った。

 赤の他人ならおそらく、股間を蹴り上げた後に肘鉄くらいは喰らわせるだろう。そんな力が残っているかは別として。


『えっととりあえず、最初の方を見ただけだけど、ああやって広げるのは拭くものがないときだけにしてね? あんまりやると、多分痛めちゃうかも』


『分かった』


 確かに、トイレの度に目一杯広げていては、いつか必ず痛めることになるだろう。

 教えられないと言っていたはずだが、きちんとアドバイスをくれる。


『私から言えるのはこれくらいかな。ごめんね、私が耐えられなくて』


『ううん、大丈夫。それは仕方ないし、こっちがお願いしたし』


 こちらが教えを乞うた立場であるので、教える側の事情を飲むのは当然のことだ。

 しかし、それにしたってりゅか姉ちゃんは顔を赤くし過ぎていた。もしや、そっち方面に耐性がないのだろうか。


『………………よし、決めた』


『何を?』


『えっとぉ………ちょっとこっち来て?』


 突然、りゅか姉ちゃんが立ち位置を変え、俺は個室のドアに背中を預ける形で、便器前で爪先立ちするりゅか姉ちゃんと向かい合う。

 こうして見ると、りゅか姉ちゃんの身長は割と大きい。今の身体が男子だからだろうか。


『ふぅ………………よし』


 りゅか姉ちゃんは深呼吸を一つした後、真剣な表情で俺を見つめる。

 こんな状況で見つめ合うのはなんだかこそばゆく感じ、顔を背けようとした瞬間、


 バァン!!


 りゅか姉ちゃんの顔が変わった。

















「ひっ………」


 稀君の、いや、目の前の女の子が小さく声を漏らした。

 なんだか分からないけど少し怖い。そんな表情で、その女の子は私を、ボクを見る。

 ボクはドアに突いたじんじんする両手から力を抜いて、片手で女の子の首を撫でた。


「んっ、ちょっ、りゅか姉ちゃん………?」


 女の子はくすぐったそうに身を捩るけど、本気で逃げようとはしないでボクの反応を窺っている。

 もっとこの状況がヤバイって認識させるために、今度は華奢な首を絞めるように、手を輪にした。

 そこでようやく、女の子の表情が青ざめてきた。


「りゅ、りゅか姉ちゃん、これは………」


「ねぇ、ボクも男なんだよ? 一人ノコノコと密室に入って、まだ逃げないつもり?」


 危機感を煽るために、身体を密着させて女の子をドアと挟む。

 女の子の方が背が高いから、さすがに威圧感は薄まるんだろうけど、それでもここまで脅せば………


「………………………」


 待って。顔赤くして動かないけど、まさかOK出さないよね?

 いやいや、知り合いとはいえソウイウコトへの恐怖はさすがにあるはず。これでりゅか姉ちゃんならいいよとか言い出したら、理性保てるかどうか………


 そうわた………ボクが考えてるうちに、女の子の表情がいつの間にか変わっていた。

 恥ずかしさで赤らめたものじゃなくて、打算的で合理的な、自分の感情が一切加味されていない無の表情。

 幼い頃に一緒に遊んでいたとき、私が一番嫌いだった、あの顔。


「りゅか姉ちゃん、俺───」


「ごめんストップ。こっちからやっといてホントにごめんだけど、一回考えさせて」


「え? いや、いいけど………」


「はぁ………」


 身体を離して、便器に座る。

 稀君は私の行動を不思議そうに見て、様子を窺っている。


 そうだった。この子はこういう感じだった。

 毎回自分のことは二の次で、周りの人の意思を尊重する。たとえ、それで自分が不利益を被ると分かっていても。

 これは優しさとか臆病とかじゃなくて、自分に価値がないって思い込んでるだけ。


「まあ、あんなことがあったみたいだし、しょうがないのかな………?」


 誰だって親しいと思っていた人から否定されたら、自信を失くすのはしょうがないと思う。

 でも、だからって自分のことを安売りするのは間違ってる。

 この癖は昔からあったけど、より酷くなってる気がする。


「稀君、ちょっと聞いて」


「あ、えと、はい」


「今さっき、私ならいいって言いかけてたよね? 次言ったら許さないからね?」


「わ、分かりました」


「で、なんでこう言ったと思う?」


「え、えぇ………?」


 私の言葉に稀君は困ったように俯く。

 ここで悩むのは結構重症でしょ。即答できないってことは、それを考えたこともないってことだから。


「えっと………貞操のため?」


「んあー………正解っちゃ正解なんだけど、半分もない感じかなー。じゃ、正解発表ね」


 きょとんとしている稀君のほっぺたを両手で包み込んで、無理やり私の方に向かせる。

 稀君は目が合うことが恥ずかしいのか、顔を赤くしながら目をいっぱい泳がせている。

 こういうところが可愛くて、だからこそ危なっかしい。


「稀君、私は稀君を大切に思ってる。最近再会したばっかりだけだけどね」


「う、うん………」


 稀君の顔がもっと真っ赤になって肌がさらに黒くなるけど、私の目を見てくれるようになった。

 それに向けて、言葉を紡ぐ。


「だから、稀君は自分を大切にしてね? 今みたいに親しい人から、その………そういうことを誘われても、自分の身体を優先して。お願いだから自分を大切にして、ね?」


「………分かった」


 稀君はそう頷くけど、本当に分かっているのか怪しい。

 しかも、私の言い方だと、私のために大切にしてって捉えられてそう。

 他人のために、自分を大切にする。それがダメなことはないと思うけど、自分のために自分を大切にしてほしい。

 でも、他人想いの稀君なら、とりあえずはこれがベストかな?


「よし、分かったなら、もう戻ろっか。皆食べ終わってるだろうし」


「………あ、ごめん、普通にトイレしたい」


「おっけー。んじゃ、私は出とくね」


 狭い個室の中で立ち位置を変えて、私は外に出る。

 そしたら、ドアの目の前にいた女の子………確かアイレだっけ? そのアイレが目を大きくしてこっちを見ていた。


「あ、見ちゃった?」


『なん………で、ナルが一緒に………?』


 アイレは少しの間絶句してたけど、一瞬の後に我に返って私の腕を掴む。

 けど、すぐにその手を離した。


 なんで?と思ってアイレの視線を辿ると、ドアからひょっこり顔を出した稀君が目に入った。

 まだ少し顔を赤らめていて、もうズボンを下ろしてた稀君が。


『………そばにいてほしいって、そういう意味で言ったんじゃないんだけど』


『………? 何が?』


 アイレが何か言って、稀君が首を傾げる。

 それを見てアイレは怪訝な表情になるけど、稀君は本当に何も分かってないみたいできょとんとしている。

 まあ、私も二人の言葉分かんないんだけどさ。


『………その、程々にしてよ?』


『えっと、何が?』


『どこまでしらばっくれる気なのよ………』


 アイレはやれやれみたいに首を振った後、トイレから出ていった。


 ………なんでいたの? というか、私と稀君の会話聞いてた? いや、言葉違うから聞かれても大丈夫のはずなんだけどね。


「………ねぇ、アイレは何か言ってた?」


「えっと、なんか程々にしてって言われただけ」


「程々に………あ、そういうこと」


 密会してるって思われたみたい。

 でも、にしては怒らなかったねぇ。もう許容してるのかな。

 昨日は割と怒ってたのにねぇ………


「あ、それじゃ」


「う、うん」


 ドアを閉めて、トイレから出る。

 とりあえず、稀君はあんな痛めそうなことしなくなるだろうし、少しは自分の身体を大切にしてくれるはず。身体弱ってるみたいだし、トイレ出たらベッドに直行させた方がいいかも。


 にしても稀君、女の子してたねぇ。本人は無自覚っぽいし、もしかしたら前世のとき運動してないのかな?

 でも、それだけであんな可愛い仕草するかなぁ………?

 まあ、身体が変わったせいかもしんないし、私も気づかないうちに男の子してるのかな。あの………私も、棒が勝手に硬くなったし、心は変わってなくても身体は変わってるんだねぇ………


 そう考えながら廊下を歩いてると、食べ終わって庭に向かう子ども達とすれ違う。

 その中には、若いシスターが二人混じっていた。


「………あのお婆さん、どこ行ったんだろ」


 帰りが遅くなるなんて、私が来てから一度もなかったんだけどなぁ………





















「げ、これお腹の筋肉も弱くなってる? 大を出すだけで時間かかりそうだな………」






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