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てんてこ舞いが止まらない  作者: 金子ふみよ
第八章
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理事長室に呼び出されてみれば

 月曜日。通常授業再開。が、ヘタっているのは学生だけでなく、教師陣も同様なようで、それの理由は体育祭の疲労というよりも、どうやら酒らしい。どの先生からも抜けなかった酒の匂いがしていたからな。

 そんなダラッとした一日が過ぎ、放課後、すっかり整理整頓されている理事長室へ呼び出された。小野教諭もいた。授業中はかなり不機嫌なようだったが、今はすっかり酒が抜けたらしい。いい顔つきになっている。俺たちを絞めるためじゃないだろうな。

 机の前で横に並ぶ俺たちに

「生徒会諸君、ご苦労だった」

 理事長からの御言葉であった。何だよその上から目線。いや理事長だからいいのか。 

「初回にしては上々だ。これは俺からの褒美だ」

 渡されたのは……DVD。あそこまでやって何が上々だよ。

「貢には残念だが、エロではない。体育祭のDVDだ」

 そういう話は遠慮してくれ、こういう場合三善よりも橘のリアクションの方が俺の心をえぐるんだから。ほらすでにワナワナとした視線を俺に送っているじゃないか。

「いつ撮ったんだよ」

 教職員の中でデジタルビデオカメラ持っている人を、俺の記憶が間違いでなければ見てはないんだがな。

「んなもん、防犯カメラだろ、俺が新しく開発した鳥型の上空撮影のカメラだろ……」

「待て、それは盗撮というのではないか? てか、ドローンでいいだろ、せめて」

「いいじゃない。それくらい」

 それくらいじゃない。だが、三善たちの応援合戦を見られるというのを考えれば、これは素直にありがたいと思わざるを得ないだろう。が、一つ念押しをしておかなければならないこともある。

「それにしてもよ、あれは何だったんだよ。事前に一言くらいあってもよかっただろ」

 言わずもがな、突如やらかした、あのメカのことである。ロボット開発を個人であれだけやっちまった上に、アトラクション的な扱いでいいのかよ。

「言ってたら盛り上がんねえだろ、まさにライブ感覚ってやつだ。それにあれは開発途中の試作品だ」

 今引き出しあけそうになったのは見なかったことにしよう。それより、何作ろうとしてんだよ。いや、叔父がどんな仕事をしているかに関心はあまりない。ここれは学校的な話題に戻そう。

「それにしても、よくもまあ、あれだけ盛り上がったもんだな」

「他人事みてえなこと言ってんじゃねえよ、そうするために働いてたんだろう」

「そうだけどさ、俺と理事長の一戦なんて、皆にとっては参加してねえもん、面白くもねえと思ったんだけどな、記念式典の時みたいに景品があったら別だけどよ」

「勝ったら何かご褒美があるなんて、そんなもんはそれこそ余興でしかねえよ。それよりもよ、お前がアホみたいに駆け回ってることに連中は燃えたんだろ。そうじゃなきゃ、誰もお前を指名しねえよ」

 いや、ただ単に便利屋稼業ふくかいちょうに投げただけな気がするがな。それにそもそも指名したのは三善だ。ペナルティとかって言われたら逃れようがないだろ。

「ごちゃごちゃうるせえし、面倒臭せな、なら今日とっととそれ見てみな。お前のアホみたいな悶々なんざ一瞬で氷解だ」

 そんもんかね。ただな……

「副会長の話はどっちでもいい。それよりもだ。君らには早速次の仕事が待っている」

 どっちでもよくねえんだよ。俺の横に陣取っているメンバーたちは、あんたの意見に耳を傾け過ぎてる。素直というか初心というか、まさか変な機械使って洗脳してんじゃねえだろうな。いや、待て。今何つった。仕事?

「夏休みにオープンキャンパスをする。その段取りを決めておいてくれ。締め切りは今週末」

「早ぇだろ、いくらなんでも」

「来年は定員一杯を狙う。そのためのオープンキャンパスだ。体育祭もお披露目の一環でもあったんだ。おかげで早速問い合わせがった。体育祭が独創的だったとか、あのメカとかな」

「オープンキャンパスって、去年もやったんだろ。橘も参加したって。なら、それと同じことやればいいだろ。そん時、俺たちがいたわけじゃねえのに、出来てはいたんだろ」

「去年は去年だ。それに生徒たちが作るから意味があるんだ。お前らの方が年齢近けえだろ。連中がおもしれえと思うこと、どういう情報が欲しいかなんてことは、わかんだろ。他校の資料は用意してある。小野先生からもらえ」

「けど、今週内ってのは……」

「わかりました。生徒会で企画しておきます」

 俺の意見を遮るようにして会長は言い切ってしまった。知らねえぞ。出来なくても。

 会長に率いられて、扉の所で一礼して、部屋を出て行く俺たち。俺は思い出したかのように、また理事長に再び詰め寄り、耳打ちをした。

「なあ、天満さん。今から言う六個の番号でロト6買ってみてくれないか?」

 久米の戯言を信用しているというより、少々の悪戯くらいは仕掛けないと思ったのだ。

「気が向いたらな」

 理事長はすでに何かの資料に視線を送っており、用件が済んだならとっとと出ろと言わんばかりに、手を前後に振っていた。見えないように舌を出してから理事長室を出た。

「何を話していたの?」

 廊下で三善に聞かれたが、

「俺のささやかな抵抗だ」

「そう」

 内容をそれ以上聞かんでもいいのかとは思ったものの、聞かれたとて言うつもりはなかったがな。三善の笑顔を見たから運試しで宝くじ買うなんてことはな。

 それよりもだ、月末には期末テストがあり、その後にはスポーツ大会をするかなどとも案が出ている、それらもあるってのに、追加で仕事出しやがって。他のメンバーはどうか知らんが、俺の足取りは重かったね、筋肉痛もまだ抜けてなかったし。


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