三善が訊きたいこと
「どうした?」
何だか今の三善は雰囲気がいつもと違う。まるでいつぞやの日曜日の、神社脇のベンチにいた時のような。
「昨日、訊きたいことがあるといったでしょ」
「ああ」
「今訊いていいかしら」
「ああ、何だよ」
前日は橘と茅上が来て訊かなかった、てことは二人には聞かれたくないことで、二人だけで話したいことってことか。
「別に聞かれたくないということではなかったのだけれどね、なんとなくよ」
これまで散々理智的に行動してきたやつが口にする「なんとなく」なんていう感覚的な理由での行動を疑義もなく耳を傾けろと言うのか。
「失礼ね。私だって、十五の女なのよ」
わかってる、冗談に決まってるだろ、こういう時こそ、会長モードで反論して来いよ。
「だから、そういう気分じゃないって言ってるでしょ」
「で、何だよ。訊きたいことって」
俺の催促に、三善が一瞬ためらったように見えた。が、彼女の口をついたのは、
「貢、あなた、生徒会に入ったこと後悔している?」
という短い質問だった。
「何だよ、藪から棒に」
「いいから、どうなの?」
「後悔している」
「そうなの……」
俺の即答に、三善は俺から視線を外し、俯いてしまった。
「嫌だという意味ではなくてな」
話を続けようとする俺に、三善は再び視線を向けて来た。
「……」
しかし、言葉にならないようだった。意味がわからないようだ。
「押し付けられて、面倒臭いなってとこから俺の業務は始まったからな。お前みたいに立候補じゃないってことだ。かといって自ら率先してこんなことをやろうとも、いまだに思わん。かといって娑婆に戻って、のほほんと学生生活を送れるとも思っていない」
「何それ、言ってることめちゃくちゃじゃない」
静かではあるが、いつもの三善の口調に戻りつつあった。
「ああ、そうだ。俺は繊細だからな。そんな葛藤がなく、副会長という職務に身を粉にして全うできればいいのかなと思うことが、認めたくないがある時があるのだ。だから、そこが俺の後悔だな。何でもそうだろ、やるんなら何のわだかまりもなくやった方が良いに決まっている」
「そう。私と仕事をしたことへの後悔でなくて?」
「あ? ンなことあるわけねえだろ」
「私と仕事をすることは大変でなくて?」
「大変に決まってんだろ」
「それなら……」
「大変だが、やりがいはある。俺がこの役職に向いているとはいまだに思わんが、もはや生徒会メンバーでいることが俺の日常になってしまったからな」
「そう……なんだ」
また俯いた。が、先程とは顔色が違って、明るかった。
「私は……」
三善は立ち上がりながら、言葉をつないでいった。
「私はあなたが副会長になってくれて、とても助かっているわ」
「は? 何だよ、唐突に」
「良く働いてくれる私の部下なんでしょ」
「お前、いやそうだけどよ」
「これからもよろしくね、貢」
その背中で太陽を隠したせいで、遮光で良くは見えなかったが、三善が何の屈託もなく笑っていた、ように思う。彼女はまるで絵画のようで、心臓が俺の意思を介在することなく、ドキンと一つ音を立てたのだった。それが何なのかはいまだにわからんがな。もしかしたら、どこかからあのメイドさんによってライフルで狙われているのを超知覚によってとらえたからかもしれない。
それから三善は時間が来たとか言って、去って行った。その足取りが軽やかであったのは、羨ましかった。なぜなら、体育祭の筋肉痛が解消されていなかったからである。