打ち上げがあるので待ち合わせ場所へ行ってみれば
夕方からは打ち上げがあった。他のメンバーもクラス単位で打ち上げをするとのことだった。俺のクラスは、カラオケルームで打ち上げするらしく、生徒会の仕事を終えて、いったん帰宅して着替えてから、待ち合わせ場所へ向かった。
「ちと早かったかな」
どうやら集合時間にはまだ時間があったようだ。誰も来ていなかった。ボケッと突っ立っているのも何なので、近くの河川敷まで歩いて、空いているベンチに腰を下ろした。
「貢」
その声の主を見る。さっきまで生徒会室で会っていた、我が校の生徒会長である。
「散歩か?」
「そんなわけないでしょ。隣り良い?」
「どうぞ」
三善も着替えたらしい。あの時間に学校から出ても着替えに帰る時間はなかったろうに。どうやって着替えたのかは、考えないでおこう。きっとお嬢様ならではのなんらかの方法があったのだろう。この近くにはデパートもある。庶民的なものと高級なものと、どちらにせよ、そこで買って着替えたとしても、おかしくはない。そういえば、三善と行ったビルもあるな。
「これから打ち上げなのよ」
「そうかい。俺もだ」
「私、こういうのは初めてなの」
「なんだ? 緊張してんのか? お嬢様はそんなこと知らねえか」
「……」
「冗談だよ。てか、お前の御付の者は今日はいねえよな。こうしてお前といると、用具室の一件の印象で、どっかで俺狙われていたりしねえか?」
「してほしいなら、連絡するけど」
「してほしくない」
「ねえ、貢、あれ」
三善は河口の方を指さしていた。そこには見覚えのあるビルディングが斜陽に照らされていた。ガラスがキラキラと反射し、まるで自己顕示しているようにも見えた。
「ああ、コンベンションセンターね」
入学式の翌日にあそこで開校記念式典があり、初めてこいつと話をしたんだっけ。そして、俺がこの高校に入って初の被害を受けたわけだ。そう言えば、
「お前、久米に俺が橘を助けたって言ったらしいじゃないか。なんでわかったんだ?」
いまさら思い出すことではないのかもしれんが、不意に思い出したことは気になって仕方なくなるからな。
「最初からわかってたわよ。何かおかしいって。ボードとステージの背の間も狭かったし。それで理事長に訊いてみたの、『あれで大丈夫なんですか』って。そしたら、『ああ、あれでOK! すっげえことが起こるから俺の甥に注目してな』って言われたから、ずっと、貢を見ていたのよ。そしたら……貢?」
全部、あのヤロウが仕掛けたことか。でも、俺が気づくか、気づかないかなんて賭けてる場合じゃなかっただろ、あれは。下手したら橘は……ん? なんかおかしいぞ。理事長がくだらないことをして、俺がボヤキ交じりにツッコむことはほぼ間違いないことだから、俺が気づかないわけがなく、そもそも橘がマジックで選ばれたのは、あの変な装置がランダムに選んだ数字……まさか、あれは意図的に選ばれた……? いや、待てよ、そもそも橘がクラス代表になるなんてことは予めわかってはいないから、ンなことできる訳もないし……
「いいじゃない。そういうことも含めて懐かしくない? まだ二カ月だというのに」
三善の言葉は何だかこんがらがった俺の頭にそれ以上の詮索は無用だと告げていた。だから、「今」どう思っているかの話をする。
「そういやそうかもな。あの日から俺の高校生活は七転八倒だ」
「……」
が、今度は三善の様子が一変した。急に黙り込んだのだ。