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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第6章 乙女の告白
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バカと賭けと大喧嘩

 あれから数日。

 今日はエアリーとセーレとフィーアは新しい服を買うためにお出かけだ。

 レイズもついて行こうとしたが、なぜかセーレとフィーアについてくるなと言われダウナー。

 女の子同士なんだからいいと思うだけど、なんでだろうか?

 その後ネーベルに喧嘩中のSランク冒険者の間に放り込まれ泣き叫びながら終わらせてダウナー。

 もちろんある程度は回復しているので格闘戦で両方ともK.O.だ。

 なんか剣でぐさりと下腹部を刺されているように見えたけど……。

 さらにその後、蒼にいちゃつかれているスコールを見てダウナー。

 ハッキリ言って最後のがトドメの一撃になったのか、酒場の隅っこのテーブルに突っ伏している。

 隣にはクロードが座って背中を軽く叩きながら慰めているように見える。


「だからさー、そうやって凹むんなら言うだけ言って玉砕でもした方が楽だぞ?」

「玉砕って……そもそも『好き』のベクトルが傾き始めてるところにどうやって介入しろと……」

「いっそ殺すか?」

「……いいなそれ、やってやる」

「おいっ!? 今の冗談だけど!?」

「いやぁ、いいこと言ってくれたなクロード」

「いやおい待てよ!」


 なんだろうか、クロードが叫んでいるように見えるよ。

 なんかレイズがすごい笑顔で俺の方に向かってくるよ。

 爽やかとか可愛い通り越してなんか怖いよ!?


「アキト、ちょっとオレと一緒に来い」

「な、ななななにすすすするんで、でせうか……?」


 怖い。

 今日の、というか今のレイズはいつかの殺気放つ化け物状態より怖い!


「戦争だ」

「……は?」

「四大勢力セインツとして戦争を仕掛ける、お前んとこのやつらも貸せ」


 レイズに襟をぐいと持ち上げられて酒場の外へ向かって引きずられる。


「待てっつってんだろ、このバカ!」

「いづぅっ!?」


 クロードが白く長い髪を一思いに引っ張った。

 レイズが後ろに倒れ、俺ももろとも倒れる。

 ちょうど位置関係的に女の子の部分に、顔を思い切りインしてしまう形になるが、今日は鉄拳すら飛んでこなかった。


「なにしやがる!」

「ちゃんと考えろ! このクソ野郎! 分かってんのか? あいつに仕掛けたら白き乙女と魔狼フェンリルの全部隊、加えて白狼と商工会全部が敵に回るんだぞ!」

「んだと? このオレがそんな雑魚に負けるなんざ思ってんのか」

「ああ、思うね。今のテメェのその状態でどうやって戦おうって? 魔力がほとんどなくてそこらのSSクラスにすら勝てねえだろうが」

「だからなんだよ、それくらいやってみな――っ!?」


 パシンッ! と平手が振るわれた。


「それでやってから俺たちに火の粉が降りかかるようじゃ困るってんだよ! テメェはそれでいいかもしれねえ。でもな、テメェと一緒にいる俺まで巻き込まれるのは確実。そうなればフィーアたちまで巻き込むことになんだぞ、その辺分かってもの言ってんのか? それでいいってんなら俺はテメェをここで殺す。あいつらに無用な危険を降りかからせたくはねえんだよ。できるか?」

「…………」

「テメェにそれができるかって聞いてんだ。周りを巻き込まずにテメェだけでやってテメェが全部受け止めることができるかって!」


 ザザ ザ、 ザザァ

 妙なノイズが走る。

 クロードから伸びた糸のようなものが、レイズから伸びた糸のようなものが空中で絡まり合う。

 それはだんだんとクロード側が押していく。


「オレに……はいって、くるなぁ」

「あん時テメェは全部自分でやるために仲間全員を意識不明に陥らせただろ。そうまでしてやれるのになんで今はそんな考えがねえんだ! 誰かを好きになって周りに迷惑をかけるのはいいがそれにも程ってもんがあるだろ! えぇ!」


 俺はこれ以上巻き込まれたくないがために、レイズの女の子の部分から離れて、そっと床を這って酒場から逃げた。若干湿っているように感じられたのは感じなかったことにしよう。というか鉄錆臭い。これさっきの喧嘩でお腹をぐさりとやられたときのだ……。

 周りの客がかなり慌てていたがこればかりはどうしようもない。

 俺が仲裁に入ったところで消し飛ばされてエアリーを大泣きさせるのが落ちだ。

 そんなことになるくらいなら影響がないところまで逃げてやる。

 ……いや、逃げないけどな。

 どうせどこに逃げても世界ごと消し飛ばすとかいうチートが発動するだけだろう。

 なら間近で止めに入る方が生存率は上がるはずだ。……エアリーたちの。


 ……………………。

 …………。


 出来ることがないな。

 よし、まずは俺のやるべきことを終わらせよう。


 ---


 ・ギルドに行って勢力の更新手続き

 ・魔導士ギルドから昇級試験の催促

 ・雑貨の補充


 以上三項目がやるべきことだ。

 しかも上二つは今まで面倒だとかで蹴り続けてきたから何言われるか分からん。

 文句を言われるようなら昇級試験の方はパスだ。

 これはやらなくて困ることはない。

 階級は実力の証明に使えるのだが、霧の魔術師の弟子として俺のことは広まっている。

 そこらのパーティに声を掛ければ仕事はいくらでも、お金もいくらでも稼げるのだよ、ははっ。

 それにしてもどたばたでリュックを置いたまま出てきてしまったな。

 白金貨を数枚ポケットに放り込んでおいてよかった。

 それにしてもやけに兵士の数が多いな。


「配置完了! 表通りにはいません」

「各自、三人一組で裏通りを洗い出せ!」

「ハッ!」


 何をしているんだろうか。

 まさか余所から犯罪者が紛れ込んだのか?

 なんて思っていると。


「ぬはははははははははははぁっ! 捕まらんよっ!」


 俺のすぐ上、屋根から屋根へと豚が飛び移って行った。


 ……………………………………………………………………………………。

 …………………………………………。

 ……………………。


「うぉむぁうぇくぁあああっ!!」


 いかんいかん、声がおかしくなってしまった。


『全部隊へ通達、街に被害を出さないという条件で中級魔法の使用を許可する。繰り返す……』


 街全体へと魔法で広域放送が掛けられる。

 やってやろうじゃねえの。

 善意の第三者として協力しましたと言えばいくらでも言い訳は効く。

 効かせてみせる。

 足元に小規模な爆発を起こして跳躍。

 屋根の上まで飛び上がると同時に変態に狙いを合わせ、ファイアァァ!

 ピン球サイズに圧縮した追尾火炎弾が変態に向かって飛翔。

 そして変態が手を向けると消えさった。

 ああそうだった、あの変態には魔法が効かないんだった。


「くそっ」


 視界の範囲外に消えていく変態を目で追いかけながら着地。

 通りすがりの街人に変な視線を向けられるが気にしない。

 いちいち気にしていたら気が持たない。


 昼過ぎ。

 やっとギルドについた。

 道中兵士に魔法を使ったことについてあれやこれやと言われて逃げるのに結構手間取ってしまった。

 この街のギルドは石造りの二階建て。

 木製の大きな扉を押し開け、中に入る。

 さすがにこの時間だと依頼を受けに来るやつらもまばらだ。

 だが先日の剣士やシーフ、その他少数の代表者はいる。

 どこの勢力にも所属していない無所属フリーダム状態だと、いくらいいパーティに所属していても拉致られてしまえばなにもできない、言えないという状態になる。

 だから今は仮所属状態。

 これから手続きを済ませる……と言っても俺は初めてだ。

 最初のときはレイズが勝手にやってくれたが方法が分からない。

 とりあえずカウンターに向かう。


「あのー……」

「…………ご、ご用件は?」


 受付はいかついおっさんが来るかと思いきや……女の子だった。

 それもちっちゃい。

 ちっちゃすぎて一瞬、透明人かと思った。

 背の高さでちょっとアレなのか、少し引き気味である。

 ……いや待て、そのとんがった耳はエルフか。

 見た目に惑わされたらいけないな、恐らく俺より年上だ。

 身体的に成長速度は遅いが精神的にはいい年頃だろう。


「えっと、勢力クランの登録更新を……」

「ではこちらの紙に必要事項を記入してください」


 そう言われて渡された紙を取って近くのテーブルに腰掛ける。

 シャープペンシルはおろか鉛筆なんてものもない。

 あるのは尖った炭だ。


 ・所属勢力「エスペランサ」

 ・勢力長「アキト・キリサキ」


 郷に入っては郷に従うのが筋だ。

 最初の時はよくネーベルに注意されたものだ。


 ・勢力副長「ギルバート」


 あれ、ファミリーネームなんだっけ?

 まあいいか。


 ・ランク「F」


 なぜFかと思うだろう。

 日頃から飛龍倒したり魔物倒したりしているのに。

 答えは簡単だ。

 すべてネーベルがやったということにしているからだ。

 ……だって面倒だったんだもんっ!

 いいよ、怒るなら怒れよ!

 俺はこう見えても万年引き籠もりの称号を持つ元ニートだぜ?

 周りで見ているやつらも変な視線を投げかけてくるし……。


 ・階級「ニュービー」


 これまた変な視線を投げられる。

 魔法使いとしてか、物理職として、その他色々に階級はあるが俺は魔法使いだ。

 一応ね、一応。だって基本殴りだもん。


「あんだけ実力があってまだニュービーなのか?」

「……試験受けてないんだよ」


 いいさ、後で受けに行ってやる。

 どうせなら試験場の教官ふっ飛ばしてみるか……やらないけどな。

 そんな感じですべての項目を記入して提出。

 ついでに別の要件もダメもとで言ってみる。


「俺のランクを上げてもらえませんか?」

「…………」


 黙って差し出された紙。

 書いてあることを要約すればこうだ。

『各地域に本部または支部を置く勢力も長、もしくはギルドマスターと一対一で戦い、勝利せよ。なおSランク以上との戦闘になるので命の保証はできかねます』

 ……ランクアップと死を天秤にかけてみよう。

 どちらを取るかは明白。


「ちなみにここでしたら光の調和(ルクスコンコルディア)のラスターさんか、セインツのレイズさんになります」

「勝ち目がねえっ!」


 いや、あるか? どうせSランク以上って言ってもレイズには遠く及ばない。

 そしてレイズの魔法を防げた俺なら……。


「でしたら」

「いや、やります。ラスターの方をぶっ飛ばします」

「そうですか。でしたら、後ほど魔法試験場の方へお越しください」


 そこ、これから行こうと思ってたところです。


次回更新は7月6~8日の予定です。

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