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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第6章 乙女の告白
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募る思い

 セベージュに着いてから丸一日経った。

 ネーベルの提案で先に帰還したのだが、おいて行かれたクロードたちは大層ご立腹だった。

 その程は全力で魔力障壁を展開した俺が天高くにホームランされ、フリーフォールでクレーターを作るほどだ。

 直接的なダメージはないものの、やはり慣性によりダメージはしっかりと内臓に響く。

 一緒にいたスコールはまったく止めてくれなかったが、フィーアやレイズ、蒼が止めてくれたおかげで俺は死なずに済んでいる。

 フリーフォール後の追撃が恐ろしかった。

 クロードの周りに白い光球が浮かんだと思ったら、ズバァッッ!! と白い光が噴出した。

 初撃はなんとか躱したのだが、着弾地点を見れば地面がドロドロに溶けていた。

 まだまだあのチート組の底は見えない。

 本気でやりあうことになれば俺は今のままでは絶対に勝つことができない。

 そういう訳で、エアリーの目の前で俺は無様に土下座をして頭を踏まれるというオマケが付いた。


「…………なんでだ、なんで俺は強くないんだ!? やっぱり俺は脇役なのか!?」

「何を訳の分からないことを言ってるんだい君は。ここにいる中で君は一番若いんだから、経験の差で負けるのは当たり前だよ?」

「……はい? えっ、あいつらって何歳な訳?」

「レイズとスコールは身体的には17くらい。精神的には数えられないくらいだね。クロードは見た目は若いけど実年齢は20前半くらいかな」

「…………」


 もういいさ。

 チート二人には敵わないとして、クロードとの年齢的な差は小さい。

 今の俺とて姿は変わらないが恐らく22だ。

 この世界に来てから見かけ上の年は取らなくなっているからな。

 だがなぜだ。

 なぜあれほどまでの差がある。

 人間としての基本スペックの問題か?

 強くて周りはピンクで大抵のやつには勝てるクロード。

 俺は雑魚には勝てるが肝心なところで連敗、周りの女の子たちを守れずに攫われる。

 そんなところか……。


「違うぞ、たぶん30くらいだ。数えてないから分からないけど」


 カウンターで飲み物を受け取ったクロードが横を通る際にさらっと言った。


「えっ、そうなのかい?」

「世界4で結構長い間凍結されて、二年くらい戦って、そのあと世界5でドンパチやらかして数年……だからな」


 なんだ、中身は結構いい年したお兄さんじゃないか。

 そのまま通り過ぎて隅っこの方、フィーアがいる場所に座った。


「なあ、俺が戦って勝てる奴っているの?」

「うーん…………魔狼フェンリルの隊長以外の誰かと一対一とか、アカモート騎士団の下級騎士と一対一ならいけるんじゃないかな?」

「そういうの以外で、ネーベルたちみたいなのは?」

「…………」


 黙るってことはそう言う事なのか。

 いないってことなのか。


「あ、キニアスくらいなら勝てるんじゃないかな。狙撃される前に砲撃で片を付けるとかすれば」

「誰それ? しかもそういうんじゃなくて真っ向から激突することになった場合とかで」


 キニアス……? 

 あれ? どっかで聞いたような。

 まあいい、思い出せないなら大事なことじゃないだろう。


「真っ向勝負か……ヴァンならいけるかな? あいつも基本は力押しだし」

「ヴァンってラグナロクのリーダーの?」

「そうだよ。名前からして思うかもだけど、神族とは関係ないからね」

「はぁ……」


 話に一段落、というところで叫び声が響いた。


「いやあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 酒場の奥、宿泊用の部屋があるほうからだ。

 確かあっちには俺の部屋にエアリーとセーレが、そのお隣の部屋にスコールとレイズがいるはずだ。

 叫び声はレイズのもので、傷の治療中だったとなれば……。


「スコール、レイズに対してだけは本当に情けがないからね……。多分ものすごく沁みる消毒薬を使ったんだろうよ」

「ひでぇ……」


 ---


 ときは少し遡る。


 オレは久しぶりに全力を出して力を使い果たした。

 本気を出したところでメティには敵わない。

 そんなことは分かりきっていたはずなのに、スコールがいるからもしかしたら……なんて思った結果がこれだ。

 体中に打撲と擦り傷、切り傷に刺し傷だ。

 幸い頑丈すぎるオレの体は骨折や四肢の断裂などということにはならなくて済んだ。

 その後はずっとスコールに背負われてセベージュまで運ばれて宿のベッドに寝かされるという流れ。

 いくら壊れないといってもしっかりと痛みは感じ、身体も思うように動かせないほどの悲鳴を上げる。

 まあ痛覚を遮断してしまえば別に困ることは無いのだが。

 

 カチャと小さなもの音を聞いて目を開く。

 薬の調合が終わったのだろうか。

 スコールは物理職相手の戦闘以外では本当に頼りになる。

 何と言っても、完璧とは言えないがなんでもこなせるからだ。

 野営のときでもスコールがいれば飯が変わる、夜襲の頻度が格段に下がり安全性が飛躍的に向上する。

 とにかくいてくれたらそれだけで安心できる。

 ストレスの要因が少し増えて、そして大幅に減少する。


「塗るぞ」


 調合した塗り薬……妙に赤いのはなぜだろう?


「少し沁みるが我慢しろ」


 スコールの手がオレの肌に触れる。

 すでにオレは全裸。まあみられてどうこう思うことは無いが。

 触られている場所がピリピリして、妙な緊張が体を走り抜ける。

 クロードに触られても体内の魔力がちょっとした乖離反応を示すだけでなんともない。

 アキトのエロい事故も、あれはあれで仕方ない、少し気分が悪くなるなと思うくらいでしかない。

 だがスコールの場合は妙な感じだ。

 まるで生存本能が近づくな、危険だと言っているかのような。

 いや、実際に危険ではある。

 二人で密室に閉じ込められたら確実に身の危険があると言える。

 初めて出会ったときは少し偏った知識を持ちすぎた学生だったくせに、しばらく行動を共にするうちに本性を現しやがった。

 性格は根元から腐った奴で、いるだけで不幸を呼び寄せる。

 作戦目標のためならば味方ですら焼き払い、敵にはほぼ確実な破滅を送り届ける疾風だ。

 だが本当に信頼できる関係にまでなればとても頼りになる。

 オレの場合はちとそれが……。

 うん、オレ自身が頑丈すぎるからなのかときたまやってはいけないことをされる。

 それがナニかと言えばナニだ。

 非人道的な人体実験はもちろんのこと、言えないようなこともたくさんだ。


「レイズは大丈夫なの?」


 蒼月が入ってきた。

 背負われてる途中は、スコールに憑依しているとは思わなくてまったく存在に気付かなかった。


「大丈夫だろ。今用意できる回復魔法は使っても効果がないから、魔法薬で地道に治す」

「そうなんだ、よかった」


 とか言いながら蒼月がスコールの後ろから手を回してしなだれかかる。

 なんだろうな、見ていると、こう、なんというか言葉で表せないもやもやした感情が湧いてくるのだが。

 これはなんだ、妬みか? いや、むしろなんか一発くらい全力で殴ってやりたい。

 ああ、なんだろうか、一度思い始めると無性に殴りたくなってきた。

 日頃の仕返しも兼て殴ってやりたい。

 というかオレの前で蒼月といちゃついてる時点で説明できない感情が爆発寸前まで膨らんでいるんだけど。

 なんだろうか、盗られたくないという感情かな? これは。

 とりあえずこの変な感情を晴らしてしまいたい。

 うん、殴ろう。

 いつの間にか痛みが引いている。

 手を握り、開き、動くのを確認する。

 起き上り思い切りグーパンチ!


「あれっ?」

「予兆の感知はかなりいい精度だからな」


 顔面を狙ったグーの一撃はパーで受け止められた。


「しかしまあ、回復が早いな」

「そりゃお前の調合した薬だからだろ。そこらで売ればかなりいい値が付くぞ」

「んなことしねえよ。めんどくせえ」


 ギリギリと拳に力を込めるが、魔力のないこの状態。

 自己強化ができないオレの力では押し返される。


「な、なんだよ?」


 スコールの顔が妙に笑っているように見える。

 これはいつもの良からぬ考えを巡らせているときのだ。


「ちょうど余ったしな……」

「なにが?」

「これだ」


 スコールが蒼月を抱き寄せながらドアに近づき、投擲したのはシード。

 魔法を圧縮して、媒体なしで保管できる形にしたもの。

 色は緑色……ということは……。


「せいぜい楽しめ、地獄を」

「待てスコォォォォォォルゥ!!」


 床に落ちたシードはぶわぁっ! と広がり、気色悪い触手を生み出す。

 そして先ほどの塗り薬から激痛が走る。

 これはそうか、スコールお得意のノンリーサルウェポン。

 唐辛子の粉末を使ったアレか。遅行性なわけだ……。

 不味い……体が動かない。

 これだけは苦手だ!


「いやあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 誰も助けに来ないんだよな、もう……。



次回更新7月2~3日の予定です。

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