残の魔術師 I'm left behind! Between death and dead
「なあクロード、一つ聞いていい?」
「なんだ」
「お前の周りはピンク一色か!?」
サキュバス、レイズ、名前も知らないお姉さんがた、敵対していた蒼月、フィーア、エクル、その他。
今も目の前ではエクルとかいう猫耳の女の子がクロードにべったりだ。
まるでじゃれつく子猫のようだ。
もうあいつはハーレムを形成しているのではないだろうか?
「ピンク一色かと言われれば……エクル、シルフィ、リンドウに……」
片手の指が全部上がって、もう片方の指も全部上がった。
そして下り始めた。やがてそれはすべての指に伝わり……なんとまた上がり始めたよ!
「あれ? 今になって考えてみれば男より女のほうが知り合いが多いな」
「お、おま……」
その見た目からしてもまだまだお兄さんとバリバリ呼べる年齢のはずなのに……。
なんでそんなハーレムを……!
「と、そんなことは後だ」
ボフンッとくぐもった爆音が響き、空から何かが落ちてきた。
舞い上がった砂埃が晴れると白熊がいた。
いや、白熊というのはおかしいな。
だって頭に光輪があって背中に天使のような翼があるんだもの。
「エクル、フィーア! 全弾ぶち込んでやれ!」
クロードが指示を出しながら両手にナイフを握って駆けだす。
二人がそれぞれ銃を構える。
「やー」
フィーアのAMライフルが、エクルのPDWが弾丸を吐き出す。
クロードに当たることなど全く考えていないし、命中コースになった場合はクロードが確認もせずに動いて回避している。
強力なライフル弾が熊天使の体を削り、PDWの弾丸はストッピングパワーがやけに高いらしく、その巨体をよろめかせる。
弾丸の嵐がリロードで止んだ瞬間、クロードが熊天使の首元に転がり込んだ。
「はっ!」
首に、動脈にナイフを突き刺して離脱。
一瞬遅れて熊天使の爪が振り下ろされる。
振り終えた状態で硬直している熊天使、その脳天にクロードのかかと落としが叩き込まれ、ゴグシャッ! と嫌な音が響く。
続けて放たれたフィーアのライフル弾が頭部を破裂させた。
クロードがバックステップで距離を取る。
その数秒後、体中に穴を開けられ、頭のなくなった熊天使は、細かな光の粒子になって跡形もなく消えた。
「ごめん、ごめん。加減を間違った」
どこからともなくネーベルが現れた。
あちらこちらに小さな傷がある。
「他はみんな逃がしたから、後は君たちだけだ。集まって」
「センパイ、この人は?」
「大丈夫だ。今のところは敵じゃない」
全員がネーベルの周りに集まる。
纏めて転移魔法で脱出するつもりだろう。
「アンカーは?」
「それはもう解除した」
ネーベルが血で汚れた杖をこつんと打ち鳴らす。
足元に大きな魔法陣が展開され、身体に妙な浮遊感が与えられる。
と、その瞬間、
「逃がすな仕留めろぉぉ!!」
「ぬははははっ!」
聞きたくもない声が聞こえた。
路地の向こうから全裸のシルクハットの豚が走ってくる。
その後ろには槍を持った天使たち。
そのうちの一人が光弾を放ち、全裸の豚は華麗に避けた。
「ちょっ、うわっ!」
しかもその光弾が俺にまっすぐ向かってくる。
魔力障壁を展開する、が――バギンッ!
「ごふっ……!」
貫通して直撃、転移の瞬間に魔法陣の外にたたき出された。
正夢になりやがったよ。
「この変態がぁぁぁぁ!!」
「おや? 久しぶりですな」
「仲間がいたぞ、殺せぇぇぇ!!」
「なんで天使ってそんなに怖い人たちばかりなの!?」
天使の周りに光弾が作りだされていくのを見ながら俺は全力で走った。
この道はしばらくは一本道だ。
当然隣には全裸の変態が……。
「ぬははは! 全裸の運動は気持ちい」
「黙ってろ変態!」
靴裏に爆発プラスジェット噴射のような感じでかなり加速しているのだが、お隣の豚はしっかりついて来ている。
恐ろしい脚力、そして回避能力。
後方からの攻撃はいまのところすべて変態を狙ったものだが、明らかにレーザーのような回避不能であるはずのものまで避けている。
ああくそっ、どこかに四層への転移陣があるはず。
それを見つけてさっさと帰ろう。
「信仰の崩壊」
俺たちがその壁の前を通り過ぎた瞬間、建物ごと天使が消し飛んだ。
振り返ればさっきまでの脅威は完全になくなっていた。
代わりにいるのはスコールだ。
「無駄な手間を掛けさせやがって」
「助けてくれたのか?」
「それ以外になにがある。それに――光輝の剣」
突然スコールが剣を作り出し、空に向かって投げ放つ。
回転しながら空を舞った剣は、ちょうど飛んできた竜人に突き刺さった。
胸元に赤い大きな染みを広げながら落ちてくる。
「ローラントの王族を皆殺しにしろとお願いされたからな」
足元で呻いている竜人を一瞥すると立ち去って行った。
気づけばあの変態もいなくなっている。
逃げ足だけは一級品か。
「あ……ぁぁ」
「お、おい大丈夫か?」
近づいて治癒魔法をかける。
ついさっき死ねと言われた記憶があるが、これでもレナの母親だろ? 見殺しにしたら後味が悪い。
「あぁ……なん、で最期があなたな、ん、でしょうか」
いくら治癒の力を強めても霧散してしまう。
いつかのレイズの時と同じだ。
「最期って……諦めんなよ」
「あなたに、託すの、は、癪ですが、むす、めを頼み、ますよ」
「なんでだ、なんで道具のように扱ってたのに」
「わから、ない、で、しょう。でも、いつかわか、りますよ」
ごふっ、と血を吐き出すと身体から力が抜けたのが分かった。
「わたくしの、まほ、う。つかいなさ、い」
その言葉を最後に、身体が光始めて消えだした。
治癒魔法をかけるのをやめる。これはもう、ダメだ。
一際強く光ると、ぱぁーっと光の粒子になって消え去った。
後に残ったのは赤の珠、青の珠、紫の珠だ。
それが俺の体に吸い込まれる。
いつかぶりにあの声が響く。
『火属性魔法Lv.25の登録が完了しました
風属性魔法Lv.21の登録が完了しました』
いつの間にか魔法のレベルも上がってたんだな。
ここに来てからというものレベルや属性なんて意識していなかったから、なにか新鮮な感覚だ。
レベル20を超えたならアーククラスだな。
一段落したら昇級試験でも受けるかな。
そしてなぜか吸収されず、俺の手の中にある青の珠。
水属性なのだが……。
本人も使えって言ったし、これはスゥのために使わせてもらおう。
次回更新は6月25~26日の予定です。




