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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第5章 転移者たちの戦い
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空の魔術師 Into the sky

 転移した瞬間、身体に妙な浮遊感。

 下を見れば、


「ホワッツ!? なにこれ、えっ、なにこれえ!!」


 なぜだろうか。俺は確かに転移陣をみんなと一緒に踏んだはずだ。

 だというのに俺だけが空中に転移したらしい。

 ほかのメンツの姿は見えない。

 このまま落ちたら確実にスプラッタ確定だよ!


「うわわああああああっ!?」


 未だに飛行魔法が使えない俺。

 そりゃ壁ダッシュは練習したけどさぁ、さすがに空を飛ぶ必要ないよね? ということで練習しなかった。

 うん、ここに来てまさかのフリーフォール……。

 眼下に広がる石造りの街並みは昔懐かしい騎士の時代を……なんて思ってる場合じゃねえ!


「うっそぉぉぉおおおおっ!」


 じたばた無駄な抵抗をしながら落ちていると、ゴツンッ! と、とても固い何かに頭をぶつけた。

 そしてそれに抱えられた。

 紅く大きな龍の翼、風に揺れる赤い髪。

 見上げれば、約四年ぶりともなる竜人の女。


「あら、妙なところで会いますね」

「……なぜにローラントのお偉いさんが?」


 それにしてもなぁ……怖いな、襟を掴まれたまま空中浮遊とか。


「元はと言えばあなたがわたくしの娘を連れて行ったのが原因ですよ。娘を返しなさい、いったいどこにいるのですか」

「娘って……レナのことか?」

「ええそうですよ、いくら汚れたからと言ってまだ道具としては価値がありますからね」

「道具……? ふざけんなよ」

「人族が私たちのことに首を突っ込まないで欲しいものですね。あなたのせいでローラントはめちゃくちゃですよ」

「へぇ、そりゃあんたらがレナを道具扱いした罰だろ」


 挑発した瞬間、投げられた。

 再び落ちる。


「あ、ちょっ、たんま! 今のなし!」

「そのまま落ちて死になさい!」


 恐ろしく冷たい眼差しで見送られて地上まっしぐら。

 幸いにしてまだ距離は十分にある。


 ヒュオォォンッ!


 ってやっぱり怖い!

 いま目の前をものすごく速い飛翔物体が通り過ぎたけど、あれ当たったら死ぬって!

 …………うん? いや待て、今の飛翔物体、白くなかったか?

 目線で追いかけるとレイズだった。

 なぜか背中に六枚の翼を生やして上半身裸のレイズだった。

 それが大きく旋回して俺のほうに向かってくる。


「よお、飛行練習か?」

「そう見えるならテメエは眼下に行って来い! いや、むしろ精神科に行った方がいいかもな!」

「ああそう。じゃあこのまま放っておいてもいいな」


 そのままUター――――


「待ってねえ、待って! 俺まだ死にたくないの!」

「すなおに助けてくれと言えばいいものを……」


 ベリィッ、と襟を掴まれた瞬間に嫌な音がした。

 この服は自動修復機能付きのハイスペック品ですが壊れたらどうなるんだ?


「とりあえず背中から掴まってろ」


 ぐるんと遠心力で真上に投げ上げられ、自由落下でレイズに掴まる。

 そして手がぷにっとした柔らかいけど残念な――バゴッ!


「わざとならグングニルで地面に突き刺すぞ」

「ず、ずみ゛ま゛ぜん゛でじだ」


 殴られた痛みでずるっと滑って下へ下へ。

 カーキ色のズボンの双丘。なんだろう、嫌な予感がするけど柔らか――ズゴッ!


「やっぱ落とした方がいいか」

「マジでごめん! 今のは事故です!」

「ああもういい! 首から手を回して掴まってろ」


 さすがにもう事故を起こしてデッドエンドへのフラグを立てたくない。

 素直に首から腕を回してしっかりと掴まる。

 しかしこれはこれで、長くて白い髪のいい匂いが――――


「…………」

「わかったわかったオーケーオーケー……落とさないで?」

「……しっかり掴まってろ、落ちたら回収はしないつもりだから」


 バサァッと翼が動く。見れば肩甲骨のあたりから左右三対、計六枚の翼が伸びている。

 これが有翼人種の……ん? レイズに翼ってあったか?

 とまあ、そんなことはどうでもいいか。

 それよりも聞いておくべきことがある。


「なあ、レナたちはどこにいるんだ?」

「知らん」

「……はい?」

「世界を繋ぐユグドラシルがどういうふうに再生したのか、どういうふうに成長したのかを見てないからどこに何が再配置されたのか知らん。よってレナたちの居場所も変動しているだろうから知らん」

「はいい!?」


 こいつぅ……! 攫っておいてどこにいるか分かりませんと来たか。


「この世界はユグドラシルに支えられた世界だ。昔は……オレが……まあ介入する前はラグナロクを待つだけの世界だったわけだが、今となっちゃ本来のラグナロクは起こらず世界の理も変わったんだ。ユグドラシルの成長である程度は世界の配置が分かると言っても、上層二つが消し飛んで急速再生したとなればもう予想できないわけで、知らん」

「無責任!」

「元を言えばお前がこの世界に……って不可抗力か」

「今になってそれ言う!? もう四年以上経ってるのに!」

「はぁ……なんでこうも……しっかり掴まってろ、敵が来た」


 上空から羽ばたく音が聞こえる。

 見上げれば青い鎧の天使たちだ。

 武器は人型は槍で統一されているが、熊のような天使やどう見ても化け物な天使までいる。


「ルシフェェェェル!! 今日こそはその命貰い受ける!」

「だっっれがルシフェルだ!」


 レイズが天使に高速接近、すれ違い様に殴った。

 殴っただけなのに固いものが砕け散る音が響く。

 振り向いてみれば上半身がなくなった死体が、鮮血を散らしながら落ちていっていた。


「ここは『九つの世界』だ。お前ら天使が入って来ていい場所じゃねえ!」

「すでに壊れた世界にそんな制約などない」

「あっそう、確かにそうだが時空を超えた同族の敵討ちとか嫌んなるわぁ……」


 とか言いつつバレルロールを決めながら華麗に回転しながら飛んでくる光弾を避ける。

 飛んでいる本人はどうもないのだろうが、必死で掴まっている俺としては本当に怖い!

 強烈なGと右へ左への振り落とされそうなくらいの急旋回で冷や冷やしている。


「ああ……なんで生身でドッグファイトをやるんだか……。こういうのは戦闘機でやるもんじゃないのか?」

「んな呑気に言いながら戦ってるあんたが怖いよ!」


 レイズの周囲には白い魔法陣がいくつも展開され、そこからガトリング砲のように無数の光弾を吐き出している。

 敵の天使も天使で回避不可能なほどの弾幕をくぐり抜けて接近するもんだから、もっとレイズの回避軌道が酷くなる。


「しつこい……しつこい、しつこい!」


 そのばでくるっと回転。振り落とされそうになるが耐える。

 急に減速したことで後ろに食いついていた天使たちは前に通り過ぎ、反転するが、


「サリエルの力をここに」


 レイズが一言発した途端に翼と光輪が消え、地に落ちて行った。

 この高さからなら……スプラッタだな。


「見たか、これが堕天の力だ」


 胸張って誰に言ってるのやら。

 それに上半身裸で恥ずかしくないのかね。

 そして再び翼を羽ばたかせ、空を舞い始めた瞬間、右側に堕天使が下りてきた。

 いきなり現れてピタリと真横につけてくる。


「あーら、私から逃げられる、なんて思ったりしたのかしらぁ」

「…………!?」


 急にレイズの肌から汗が噴き出した。


「アキト! 逃げるから離すなよ!」


 左に急旋回。

 強烈な加重がかかる中、首を回して後ろを見る。

 錫杖を持った上下ダボダボジャージの堕天使が食いつきに来た。


「後ろ来てるぞ!」

「分かってる」


 翼を大きく広げ、急減速しながらターン。

 しかし堕天使のほうもしっかりとついて来ている。距離もだんだんと縮まる。

 急降下して堕天使がついてきたところで翼の角度を変える。

 インメルマンターンだ。

 レイズが限界までしなやかな身体を逸らせて回転しながら綺麗なループを描く。

 堕天使は無理についてこなかった。

 真っ直ぐに通り過ぎて大きく旋回している。


「スコール! 撃てぇ!」


 キュポンッと気の抜けるような音が響いて地上から何かが飛んできた。

 円筒形の……なんかゲームで見たな、迫撃砲の砲弾か?

 それが俺たちと堕天使の中間あたりで炸裂し、大穴を開けた。

 空間にだ。

 真っ黒なブラックホールのような穴に引き寄せられる。

 これゲートなら俺は弾かれるんですが。


「じゃあなアキト」

「ちょ、まっ――――!」


 かっ! と視界が光に包まれ、白と赤の炎が俺を包み込んだ。

 不思議と熱くはない。優しく綿で包まれるような感覚だ。


「っと」


 視界がクリアになると、まず見えたのは石畳。

 どうやら地上に転移させてくれたらしい。

 空を見上げればちょうど消えるゲートがあった。


 ---


 しばらく歩いているとスコールに遭遇してしまった。

 そりゃついさっき地上から支援砲火したのだから近場にはいるだろうさ。

 でもこの迷路みたいな街で鉢合わせって……どんだけ俺の運が悪いんだよ!


「動くな」


 スコールのベルトにはポーチが複数ぶら下がっていて、そのうちの一つから拳銃を抜いて向けてきた。

 正直に言おう、魔力障壁で銃弾は弾けます。ここ大事。


「そんなもん効かねえよ」

「本当にそう言えるか?」


 スコールが引き金を引いた。

 撃鉄が動く音もなければ、雷管が炸裂する音もない。当然弾丸は撃ち出されなかった。

 レーザーや荷電粒子、そんなものが撃ち出されたわけでもない。

 なのに俺の手の甲に銃弾が掠ったような傷ができていて血が流れる。


「えっ?」

「さすが、レイアの調整したMOPDは性能が違う」

「なんだよそれ……」


 まるで剃刀で切った直後のように、血は出ているが痛みがない。


「いい加減に思い出せ、二刀流の魔狼」


 再び引き金が引かれる。


「がっ、あぐっ!」


 同時に、一瞬だけ鋭い痛みが頭に走った。


「てめ、何しやがった……?」

「お前の頭に埋め込まれているものは何だ? それは誰が手を加えた? それは何のためにそこにある?」

「なん……あ、待て、なんで」


 頭の中で何かが壊れるような感覚がした。

 これは……そう、封印系の魔法だ。


「その銃、魔法演算代理装置とかいうやつか。確か桜都のPMCに配備されたとかいう」

「ようやくか。まあこれはレイアのオリジナルだから性能は段違いなんだが……それより、お前を消そうかと思っていたが他からの要望によりやめることにした。以後、敵対を行動を取らない限りは……ということだ」

「はい?」

「だから殺しはしない、ということだ。このまま行けば――――!」


 バッ、とスコールが振り返る。

 そこには小さな女の子がいた。

 無邪気そうな女の子だが……。


「おにいちゃん、みーつけた」

「くそっ! アイリ、いい加減についてくるな!」


 スコールが壁に向けて引き金を引く。

 射線上が一瞬黒くなると、そこにあったすべてが消え去った。


「えー、いーじゃん久しぶりにお外に出られたんだ・か・らぁ!」

「また封印してやるからそれまで大人しくしてろ!」

「いやだもーん」


 空いた穴にスコールが駆け込み、アイリと呼ばれた女の子もそれに続く。

 スコールって……妹いたんだ。


 それからしばらく歩いていると銃声が響いてきた。

 それもかなり大口径のものと思えるほどの大きさだ。

 音がしてきたほうに走って行き、角を曲がったところで俺は信じられないものを見た。


「お、おい、なにやってんだよ」


 頭から血を流して石畳に倒れ、動かないクロード。

 これについては死んでいそうで死んでいないという落ちだろうから放っておく。

 そしてフィーアと黒猫耳の女の子、軍服を着た男女が銃を突きつけ合っていた。

 珍しい、黒髪だ。


「アキト、この人たちがクロードを撃ったの」

「おい霧崎! 知り合いなら説明しろ」


 軍服の男の方が話しかけてくるが、俺にそいつの記憶は無い。

 知らない人だ。


「えと……どちらさん?」

「……ああ、あれからかなり経ったもんな。分からないか? 俺だよ、108の狼谷かみたに影秋かげあきだ」

「お久しぶりです、雨宮シオンです」


 二人が自己紹介するが、なにも思い出せない。

 まず会った記憶すらない。

 引き籠もりになる前、学校の知り合いだってんなら俺は一切覚えていない。

 寮生だったとしても一切部屋から出なかった俺に、知り合いはあの子以外にはいない。

 だから、


「あの、人違いじゃないですか? 俺、如月寮の引き籠もりですよ?」

「だったら間違いない。……もしかして、お前も記憶喪失なのか?」

「”も”ってことは……」

「ああ、俺もクロードも記憶喪失者。揃いも揃って記憶喪失の男ばっかりが異世界転移だとさ。笑えるな」

「准尉、私のことをお忘れではないでしょうか」

「おっと悪い。まあそういうことだ」


 などと気楽な会話をしつつも眼前では銃を突きつけ合い、互いに引き金に指を掛けた状態だ。

 軍服姿、狼谷(拳銃)と雨宮(大口径の拳銃)。

 少女、フィーア(AMライフル)と黒猫耳(PDW)。

 銃をないものとして、形だけ見れば少女のほうが不利に見えるが、俺はフィーアの恐ろしさを知っている。

 どちらが不利かと言えば軍服の方だな。


「な、なあとりあえず、両方ともその物騒なものを下ろさないか?」

「センパイを殺した人ですよ! 許せません!」

「横に同じ」


 と、少女二人は言い、


「銃を突き付けられた状況で下ろせませんよ」

「早いところ終わらせたいが……本当にレイアじゃないんだよな?」


 という感じで軍服二人も下ろさない。


「だーかーらー、わたしはレイアの模倣体で違うんだってば」

「模倣体? クローニングか」

「魔法による複製召喚」

「魔法? 日本じゃそんな……いや、桜都国でのことか」


 どうやって物騒な危険物を下ろさせるか。

 それを考えているとクロードが起き上った。

 ほら、やっぱり死んでない。


「狼谷”中尉”、雨宮少尉、エクルヴィス准尉、賞金首第一位フィーア」


 クロードが順番に名前を呼んでいく。

 なんか最後のが聞き捨てならない内容だったが。


「全員銃を下ろせ、従わない場合は実力行使だ」


 言うと同時に全員がさっと下ろした。

 どうやらクロードの知り合いでもあるらしい。

 そういう事ならば怖さを知っていて当然か。


「セ、センパイ? 死んで……ない?」

「あのなぁエクル。前にも言ったけど俺は早々死ぬ気はないからな」


 ぽんぽんと黒猫耳の少女、エクルの頭を撫でた。

 なんだろうか、兄妹のような雰囲気だな。


「クロード准尉」

「なんだ? それともう軍属じゃない」

「そうか。それで、ここから帰るにはどうしたらいいんだ? こっちはまだ作戦行動中なんだ」

「ほら、これで帰れ」


 クロードが無造作に腕を突き出すと、真っ黒な穴が空間に開いた。

 まるですべてを飲み込むブラックホールのように真っ黒だ。

 

「ああ……それと、記憶のほうはどうだ?」

「どうと言われてもな……混じってるし欠落してるし、あれきり変化なしだ」

「そうか。俺の方もある程度は戻ったがそれきりだ。やっぱり、頭の中のチップが原因か?」

「さあな? 影秋のはASベースでレイアが改造したもの。俺のはクライスインダストリーのとレイアのと正体不明のもの。こいつ(アキト)のもASベースで改造されたものとレイアのだ」

「だったら原因はレイア繋がりか」

「それもだが、俺は外部からの干渉を弾くために封鎖したようなものだ。影秋は神経攻撃を受けて脳にダメージ、アキトは恐らくは魔法による記憶封鎖だ。一概にレイアとは言えないだろ」

「……そうだな。まあ、こっちはこっちで調べる。また会おう」

「それでは失礼します」


 二人がゲートに消えていく。

 そのとき影秋が振り向いた。


「霧崎、またいつか、仮想世界ネットでな」


 そしてひらひらと手を振りながら帰って行った。


次回更新は6月23~24日の予定です。

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