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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第5章 転移者たちの戦い
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光の魔術師

 なぜだろうか。

 一般人程度に負けないはずの俺は流れで説教され、宿の修理費を返済するまで住み込みで働くこととなってしまった。

 もちろんネーベルと、フィーアの話しを聞かなかった俺が悪いのだが本物のアキトもだ。

 レイズはレイズで、女ならそんな粗野な言葉遣いと男物の服は着るもんじゃない、と説教くらっていた。

 まあ、あれに性別なんてないだろう、精霊みたいなものだし。


「エアリー、立てるか?」

「は、はい……その、すみません」


 謝ることは無いだろうに、アレはスコールと同格らしき規格外の化け物だ。

 脱げていた帽子を被せてやり、立たせるとすぐに俺の後ろに回った。

 何事かと見てみればエアリーを心配そうに見つめるアキトだ。

 これはあれだろう、久し振りにあったからどう声をかけていいのか分からないというやつだろう。


「エアリー……」

「いやです、来ないでください!」


 明確な拒絶を示しながらぎゅっと、細い指で俺の腕を掴んでくる。

 かすかな震えは怯えか……。

 ん? ちょっと待てよ、エアリーにはこのアキトがドッペルではないとまだ言ってなかった。

 そうか、ドッペルと思ったままか。


「アキ……」


 言いかけて詰まる。

 これはダメだ、もう見るからに燃え尽きて真っ白になった灰のようなものになっている。

 ショックが大きすぎるようだ。

 今は何を言っても無駄な状態だ。

 俺が知る限りではエアリーを世話してきたのはアキトだ。

 妹分みたいに思っていたのだろう。

 そんなエアリーに拒絶されたらショックの大きさは計り知れない。

 俺とてこういうことはあったもんでそれなりに分かりはする。


「…………」


 どうしたもんかな。

 端のほうじゃネーベルに締め上げられてるレイズとセーレがいることだし、助けはどこにも求められない。

 どうやらセーレは今までにも何度か金をせびっていたらしく、アレは自業自得以外の何ものでもない。

 殺さないとの言質もあることだし、助ける理由がなくなった。

 むしろ助けたくはない、流れで保護者の俺に借金とかやめてほしいからな。

 そんでもって、そもそもなぜレイズがあそこまで無抵抗で締め上げられているのか、ここから謎だ。

 すべての魔法、魔術を扱えるくせになぜ抵抗していないのか。

 いや、できないのか。

 あいつもスコールと同じで規格外の化け物だったな。

 ……南無。


「クロード」

「うん?」


 フィーアがもう片方の腕にすがりつきながら誘うような目で見上げてくる。


「部屋は取ったから、いこ」

「そうだな。エアリーの傷も治さないといけないし」


 今はそっちの気分じゃないから、そっち方向の話しには乗らない。

 なんかぷくーっとむくれているが無視だ。

 同じ部屋にエアリーがいるという状態ではな……さすがに見られながらやる趣味はない。


「行こうか」

「うん」

「はい」


 そしてアキトの横を通り過ぎる際に、エアリーがさらなる追撃を行った。

 アキトから顔をぷいっ、と背けたのだ。

 当然ながら燃え尽きた灰は音もなく崩れた。

 放っておけば心が折れるのもそう遠くは……今折れた?


「行きましょう、クロードさん」

「あ、ああ……」


 部屋に向かいながら振り返ると…………。


「…………」


 見なかったことにしよう。

 そこには何もいなかった。

 それでよし、こいつの無様な姿は風に消えていた。そういうことで。

 両手に花――というよりかは青いバラかな。ほら、どっちも青い髪で下手すればトゲがぐさぐさだから――を引っ付かせたそこらの連中に背中を狙われてもおかしくはない状態で部屋に向かった。

 前に泊まっていた宿よりもランクが二つほど高い。

 少々寒いこの土地ならではの配慮が行き届いている。

 大きな掛布団に魔法的な暖炉。

 なぜかデカいベッドと掛布団がワンセットというとこが気になるところだが、今までも四人一緒に寝てきたからどうということはない。

 ……あ、これはあれか、特別サービスの欄に書いてあったあれか。

 昨晩はお楽しみでしたねとか言われるあれか。

 そういうことか。

 ということはアレがあるな。


「おっきぃーい」


 バフンッとベッドにダイブするフィーア。

 エアリーは丁寧に昨日買ったばかりですでに無残な姿の帽子とマントを掛けてからちょこんと座る。

 どことなく悲しそうな顔ではある。

 さっさとドッペルではなく本物だと教えてやるか。


「なあエア」

「クロード、壊して」


 …………。

 まあいい、先にこっちを済ませるとしよう。


「位置は」

「テーブルの下と」


 さっと手を伸ばして掴んだ触りなれたもの。

 そう、盗聴魔法。

 バキッと握りつぶす。


「暖房器の裏と」


 カサカサと動きまわる自走式盗撮魔法に魔術分解のスキルをぶつける。

 ああそうさ、そういう行為をしてもいいですよと言うからには当然それを見ようとする輩はいるもんだ。


「天井全体」

「はっ?」


 ”もう一つの眼”で見れば、板張りの天井が空間魔法の銀色に見えた。

 プラネタリウムみたいだな……なんてのはさておいて、容赦なくぶち壊してやった。

 常駐型というだけでもかなりのお値段がする魔法だが、まあしったこっちゃない。

 魔法の理が変わってからというもの、魔法を売り買いするアホが増えてるからな。


「これで全部か?」

「うーん……ドアに一発」

「オーケー」


 向き直って拳くらいの魔力塊を撃つ。

 魔術の練習がてら魔力だけで攻撃するという方法は最近のうちにできるようになった。

 そして、


「うわたっ!?」


 …………。

 ドアに何もなかった。

 だからそのまま通り抜けて誰かに直撃したようだ。

 ドカンッと乱暴にドアが蹴り開けられた。

 まったくマナーのなってないだ。


「いきなり攻撃とはいい度胸してんなぁ!」

「いつかと同じセリフをありがとう」


 言いながらレイズを重力操作で部屋の外に飛ばしてドアを閉めた。


「なにやってんだレイズ」

「お前もオレが相手だと途端に態度変えんのな」

「知るか、スコールと情報交換するたびにお前の愚痴を聞かされる身にもなってみろ」

「……お前らいつ会ってんだよ。オレ、ここ最近ずっとスコールと一緒にいるんだけど」

「へー、これはいよいよハーレムの主がスコールにすり替わるときかな」


 廊下から話し声が聞こえてくるが気にせずに部屋の点検を行う。

 フィーアのサーチは確実だが念には念を。

 ここに来る前の世界ではよくあったからな。

 剣も魔法もない世界で日夜軍属としての軍事行動。

 ビジネスホテルに泊まるよりもそこらの街角にあるそれ系のホテルのほうが安かったもんでよく泊まっていた。

 まあ、女性隊員とのときはよかったが、男性隊員のときの店員の白い目ときたら……おえっ。

 思い出したらダメだな。

 バコンッ。


「という訳でオレもこの部屋に泊まる」

「どういう訳だよ!?」


 いきなり入ってきやがって。


「それよりもネーベルが呼んでたぞ」

「…………」


 もういいよ、こいつには敵わないよ。

 酒場のほうに出てみればせっせと魔法で壁や床、天井を修復しているネーベルの姿があった。

 これで修理代の方は消えるが迷惑料の方が残っている。

 明日あたり大きな依頼でも受けてさっさと返済してしまおう。


「何の用だ」

「ほらー、そう殺気立たない」


 とは言われても一応負けた手前気分はよくない。

 逆だったらそれもまた然り。


「…………」

「あー、はいはい、君もスコールと同じだね、さっさと用件だけ言えってタイプか」

「分かってんなら早く言え」

「元の世界に帰りたい、そしてメティサーナとの関係を断ち切りたい。そうだよね?」

「だったらなんだ」

「いい方法があるよ。メティサーナ……あのダメ天使の強制契約は、現状レイズを通して君につながっている」


 だからどうした。

 あの堕天使が死んだとかいうのは知っている。

 だが天使は肉体とかは関係がない。

 幽霊などと同じで憑依することでも存在を確立できる。


「それでどうしろと? 憑依体ごと刺してもすぐに逃げられるだろう」

「うん、そういう方向じゃないよ。駄天使の”関係”は魔力だからね、レイズから流れ出る魔力を封じてしまえばいいのさ」


 なんか今、発音が違ったような……。

 いやいや、あってるな。

 堕ちた天使じゃない、駄目な天使だからあってるよ。


「具体的には?」

「魔力は全身を駆け巡っている。その流れにちょこっと干渉すればいいんだよ。方法は――」


 その内容はとても言えない猟奇的なものだった。

 簡潔に言うのなら、魔力を宿したもので特定の箇所を次々と刺せとかねえ……。

 まあやるんだけど。人の生首くらいなら戦利品として運んだことはあるから、大抵のことはできる。

 ……なんか俺、人間としてどんどんダメな方向に行ってない?


「という方法だよ。大丈夫、レイズなら活火山の火口に蹴り落としても帰ってくるから」

「その例えはどうにかならんのか」


 俺も帰ってこれるけど。

 こう、自分の周りに斥力を全方向に展開して溶岩を退ければいける。


「そうだね、じゃあこんなのは? 第三層のさらに下、冥王ヘルの支配していた死者の国に放り込んでも平気で帰ってくる」

「……していたってことはまさか」

「ああ、レイズが冥王を封殺した」

「一体どこまで手えだしてんだよ……」

「さあね? 実家以外はもうほとんどじゃないかな」

「うわぁ……」

「まあそういうことだ、頑張りたまえ」


 とんっ、と俺の肩を叩いて部屋へと戻って行った。

 ちょっとばかり不安だ。

 男の俺が評価しても爽やかなイケメン、そこらの女の子ならコロッと落とされそうなくらいの。

 ……大丈夫だよな、フィーアとかエアリーとか大丈夫だよな?

 ……本当に大丈夫だよね?


「…………」


 いや、気にしても仕方がない。

 部屋に戻ろう。


「脱がすなお前ら!」


 何やっているんだろうか。

 俺はドアの前に立ち尽くしたまま少し固まっていた。


「んだからやめって! こらフィーア! ズボン引っ張んな!」

「いやぁ~ずいぶんとお胸のほうも成長したようで」

「揉むなセーレ!」

「しかしノーブラですかぁ~」


 なにやら大変なことになっているようで。

 あの程度なら楽に振りほどけるだろうに、なんでされるがままなんだろうか。

 静かにドアを開けて覗き込むと、涙目で助けを請うレイズと目があった。

 ああいうこと自体されることがないんだろうな。

 だがまあ、俺としてもヤるつもりではあったから、脱がされているともなればなおのこと。


「おい? クロードお前まさか……」


 まあヤるとなれば、そういうことで、パーカーは脱ぐしシャツも脱ぐ。

 着たまましてもいいが、汚れると替えの服がないから洗濯の間はまっぱだ。


「…………」

「拒否しないあたり、ヤってもいいんだな?」


 言うとふんっ、と顔を逸らした。

 白くて長い髪に……白いぺったんこのまな板。

 これはどうでもいいが。

 いくら成長したとはいえまだまだAだ。


「俺としてもあとでうじうじ言われるのは嫌だ。本当にいいんだな?」

「…………………………オレも長い付き合いとはいえこのままの関係でいいとは思っちゃいない」

「で?」

「…………やれよ」


 やや強引な合意を得たところでやりますか。

 ベルトに手をかけ……その裏に隠した二本のナイフを取り出す。

 片方は長年愛用してきた黒く艶消しされたコンバットナイフ。

 片方はレイアに投げ渡された白く輝く地に青い文字の刻まれたナイフ。

 レイズの上に跨る。

 殺ると決めたからには殺る。

 魔力を込めたものでいいのならば使い慣れたナイフがいい。

 しかも刺しやすいしね。


「…………」


 レイズの顔にやっぱやめよう? と書かれているが合意は得た。

 今更やめる道理はない、無理が通れば自然と道理は引っ込む。

 まずは心臓、次に動脈に沿って……。


「やっぱやめないか? 血まみれのシーツとかどうやって説明するんだよ、いやむしろ殺人現場そのものをどうやって説明する気だ?」

「さあ?」


 という訳で振り下ろした。


 ヒュンッ、タッ――


「待て、待てよ、いくらなんでもやっぱり痛いのは御免だ!」

「そういうなって。どうせ死なないんだからいいだろ、というかお前がメティの関係をすべて引き受けてくれれば俺は強制契約の影響を受けなくて済むんだ」

「もろに自分のことしか考えてねえな!」


 白刃取りならぬ黒刃取りで俺の一撃を刺し込まれる寸前で防ぐレイズ。

 なに、どうせ初めてじゃないだろうに。

 横で見ている姦し三人娘もさすがに静かだ。

 フィーアとセーレはこういうことに慣れているいるのか平然としているが、エアリーは止めるべきかどうかでおろおろしている。

 邪魔が入らない、さっさと貫通させてしまおう。

 この刃渡りなら追加で魔力刃を付ければいける!


「ちょいやめよう? この前はスコールにやられてる途中で割りとマジで死にかけたから」

「死んでもどうせ生き返るんだからいいだろ?」


 ぐいぐい力を込めるが、細腕で押し返してくる。

 自己強化魔法を使わないのはなぜだ?


「お前魔法は?」

「……………………全部取られた」

「……さいですか、尚更都合がいい、このままやってやる!」

「っ! 誰か助けてぇぇぇぇーーーー!!」


 純粋無垢な少女の叫びそのものを上げた。

 演技の上手さは百点満点――


 バタンッ!


 瞬間でナイフを隠す。


「あんたなにやってんだい!」


 宿屋の主だ。

 片手には料理中だったのだろうか陽炎揺らめくフライパンが……。

 レイズがさっと俺を押し倒して宿屋の主へとすがりついた。


「ひぐっ、こ、この人が無理やり私を……」


 この野郎、泣き真似と演技はプロか。

 しかし不味いな。

 事情を知らない人から見たら、これはそのまんま強姦の現場だ。


「そうかい、それはさぞ怖かったろうにね」


 エプロンをさっと裸体に被せて俺の方へと……不味いよこれ、俺は一応ながら一般人はむやみにふっ飛ばさないと決めている。

 だからこそ負ける……。


「覚悟はできてるんだろうね」

「えっ、いや待てよ、俺は……」

「チェストォォォォォーーーー!!」


 カァーーーーーンッ、ジュシュゥゥゥゥ……

 その後、俺は悶絶しながらも治癒魔術を必死こいて組み上げて、焼けただれた頭皮を治した。

 フライパン恐るべし。

 今ならわかる、あいつらが軍の料理担当には逆らうなと言っていた意味の本当の怖さが。

 下手に逆らえばまず今のようなことになる、そして次の日から飯抜きという形で軍事行動中の唯一の楽しみが未来永劫に消え失せる。

 味気ない紙粘土みたいなレーションばっかりはもう嫌だ。


「けけっ、ざまあみろ」

「……趣向を変えてマジで犯してやろうか?」

「一応言っておくが、すでにシャルに手を出しているお前がオレにも手をだしたらうちのハーレムが殺しに来るぞ」

「…………具体的には?」

「白き乙女の主力部隊すべてとフェンリルの全部隊」

「勝ち目がねえな……」


 そういう訳で死にたくない俺は服装を正して就寝体勢に入った。

 大きなベッドに大きな掛布団。

 レイズ、セーレ、フィーア、俺、エアリー。

 いつもの順番で並んで寝る。

 女性率75%、80ではない。

 もう同じ過ちは繰り返すまい、さすがに次やったらビヘッドかハラキリが妥当なラインまで上げられるだろう。

 しっかりとフィーアの方に身体を傾けた。


 オサワリ、ダメ、ゼッタイ。


 ---


 翌朝、ベッドの上で目が覚めた。

 相も変わらず朝の気温は低い。

 身体が自然と熱を求め前と後ろから抱き付かれていた。

 もちろん俺も抱き付く形だった。

 視界に映るのは青い髪。

 鼻孔をくすぐるのは濃密な女の子の甘い香り。

 指先に感じられるのは若干湿った…………ズボンの生地?

 まて、これはフィーアのじゃない。

 レイズのカーゴパンツの生地だ。


 …………………………………………………………………………。


 嫌な汗がどっと噴き出した。

 ぎちぎちと音がしそうなくらいにカクカクした動きで視線を落とせば……。


「ク、クロードさ、んん……これ、んっ、いじょうはぁ……」


 ……やってしまったな。

 女の子の大事なところを指で大変なことにしてしまった。

 

「エアリー」

「は、はぁい?」


 俺はするりと抱き付きから抜け出して、床で土下座。


「斬首でも腹切りでもなんでもお好きなものを」


 すでに覚悟は決まっている。

 これだけのことをすれば、確実にアジア全般の法律なら一発ムショ行き社会的抹殺は確実だ。

 ならば罪は償おう。



次回更新は6月9日の予定です。

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