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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第4章 敵対者の離岸 
73/94

0x45 = E nd

「らあああああああああっ!!」


 カァァァンッ――

 火花が散る。

 真っ向から振り下ろされる槍を、こちらもまたハルベルトを使って力技で弾き返すウィリス。

 力と力のぶつかり合いは当然竜人側に軍配が上がる。


「あー結局こうなるんすねぇー」


 隣ではステッペンウルフの”一人”がのんびりと戦局を観察している。


「結局つうか、真正面からほんとに行くって馬鹿なのか?」

「あれが隊長のやりかたっすからね」


 バカとしか言いようがない。

 万単位の敵がいる場所目掛けてたった一人で斬りこんでいくとか。


「トカゲ野郎! 地上に降りやがれ!」

「ぬはははっ!」


 足場のない空中戦。

 空を飛ぶ竜人族と、魔法で空気を停めてそれを足場に戦うウィリス。

 やはり自由に動き回れる竜人族に翻弄されている。

 一人狙えば別の誰かが邪魔に入る。

 そうして攻撃を躱され続けているのだ。


「こん、クソ野郎どもが!」


 遠くで打ち合っているはずなのに、その怒鳴り声も剣激の音も耳によく響く。

 単独で戦っているあの様子は、例えるならアリにたかられた虫のようだ。

 いくらたかられても振り落とすが、いくらでも襲い来るアリに体力を削ぎ落とされている。

 力では竜人が勝つがほぼ互角。

 だが空中の機動力は負ける、いちいち足場を魔法で形成してから移動しなければならない。

 そのせいで動きを読まれて囲まれつつある。


「翼無の人間如き!」

「んな単調な攻撃なんべんも喰らうと思うなぁ!」


 槍をハルベルトで払い、他の竜人を蹴って空中を駆けまわる。

 恐ろしいほどの槍の攻撃。

 まるで針鼠を裏返して押し込めたようなそれを躱し続ける。

 恐らくはあの未来予知の効果なんだろう。


「なあ、俺ってなにもしなくていいのか?」

「”今”はまだ見てるだけっすよ」

「今はって……」


 俺たち”二人”は少し離れた位置からずっと戦況を眺めている。

 ウィリスが単身斬りこんで敵を引き付け、その間にステッペンウルフが忍び込んでレナたちの位置を探りあてる。

 当然そのままでは助けることなんてできないので一度戻ってくる。

 そして巻き込まないようにウィリスがなにかやるらしいが……。


「そろそろ限界っすよねー」

「だよな」


 敵方の制空権を掻き乱しているからこその侵入。

 ウィリスが敗れたときは、制空権が元通りになって侵入している数名が戻ってこられなくなる。

 そうなると、残りの数人が呼びに行った追加の援軍とやらが到着するまでは防御戦をすることになるだろう。


「別のやつらが来るぞ!」


 敵の基地とは逆方向から駆け戻ってきた味方が叫ぶ。


「チッ、どこの部隊だ!」

「女王の近衛騎士団だよ! 数三十、全員だ!」

「クソがっ」


 慌てる二人の後ろ、鈍色の空にいくつかの影がちらほら見え出した。

 だんだんと増えるそれを数えると数は”五十”。


「多くないか……」


 そして眺めているうちに、頭上を爆音が通り抜けた。

 金属がぶつかり合う甲高い轟音が鳴り響く。

 衝撃波で砂嵐が巻き起こる。

 音速の域……生身でそれほど出せる、さすが竜人族。


『前衛両翼反転、残りは下の雑魚を散らせ!』


 老け気味の男の声が響いたかと思えば上から竜人が落ちてきた。


「どわあああっ!」


 槍が地面に亀裂を入れる。

 貫かれれば一撃で終わりだ。


「魔術士か」

「お、俺だってやれる!」


 侮蔑の瞳で俺を見てきた兵に杖を向ける。

 もちろん魔力障壁は展開済み。

 あれくらい防げる……と思いたい。


「さて、”耳”どうやってこれを凌ぐ?」

「無茶言わんでくだせえ、あんたは”目”で俺ら偵察特化でしょうが」


 冷汗を流しながらも俺の後ろに二人が背中合わせで構える。

 耳とか目とかなんだろうか?


「投降せよ、さすれば命まではとらない」


 敵はぐるりと五人で俺たちを囲んでいる。

 下手に動けば俺は大丈夫でも後ろの二人がやられるだろう。

 別に信用できない味方だから死んでもらってもいいんだが、それをすると後々の救出で何かあったら困る。


「何か手はないのか?」

「あるわけねえっすよ」

「俺このまま捕まるとか絶対嫌だよ」

「……いや、一つ手があったすよ」


 後ろの二人がなにやら相談し始めた。

 今の会話も小声だったので、相手側は降参についての話し合いでもしていると思っていてくれている。

 そして気づけば俺たちを包囲する人数は八人。

 増えていた、いずれもが鎧を着ていて揺らめいて……?


「アキトさんよ」

「なんだ?」

「水をまき散らしたらバラバラに走る、いいな?」


 さっと視界の範囲内を確認する。

 俺の正面方向には二人、これならいけるだろう。


「水は俺が?」

「頼んます」


 そして無詠唱からのブリザードボム温度上昇バージョン。

 簡単に言えば水弾爆発させただけ。

 ドップァアアア、と水がまき散らされる。


「行けぇ!」


 俺たちはバラバラに走り出した。

 敵はいきなりのことで慌てるかと思いきや、水に触れる前に一気に距離を取った。

 水が苦手なのだろうか?

 ともかく走った。

 そして途中でバシュゥーーッと水が蒸発音が炸裂する。

 振り向けば逃げ遅れたやつが蒸気に呑まれて倒れていた。

 なぜだ、なぜこうなった?

 いや、考えてみれば簡単じゃないか。

 音速飛行の代償は空気摩擦による加熱。

 そこに水なんてかけたらそりゃあ……。


「うおあああぁぁぁぁっ!!」


 叫ぶ敵を無視して俺は逃げた。

 無数の影が周囲を飛び回るが、どれもこれも降りてこようとはしない。

 ゆっくり大きく旋回して冷ますつもりだ。


「くそっ、このまま逃げ――――おわっ!」


 いきなり目の前に竜人が落ちてきた。

 反射的に杖を向けたが、それはヘモグロビンをまき散らすだけのモノだった。

 鋭利な刃物で斬られたかのような綺麗な切断面。

 上を見上げれば全身鎧のごつい連中と、独特の服装の竜人たちが激しい空戦機動マニューバで戦っていた。

 追いかけられるのは鎧。

 追いかけるのは軽装の女たち。

 追尾式の火炎弾をミサイル如く放ち、鎧のほうは天使の羽のように輝く火炎フレアをまき散らす。


「逝ねやあああーー!」

「っ!」


 呆けてみていると、突然一人が突っ込んでくる。

 俺は即座に杖の延長に氷の柱を作り、フルスイング。

 ゴグァッキィーンッ!

 鎧をひしゃげさせながら彼方へとホームラン。

 やりすぎた感がありすぎるが無視無視。


「おお、よく飛んだ……って」


 ドサリドサリと、空から続々と死体や赤い滴が降ってくる。

 数人が撃墜された時点で連携が取れなくなり、瞬く間に空を飛び回る鎧のほうはいなくなった。

 彼女たちは俺を一瞥するとウィリスのほうへと飛ぶ。

 こちらもまた、街頭にたかる蛾を追い払うかのようにやすやすと切り崩して全滅させてしまった。

 格好が一様に体の前だけを隠す赤系統の布と、動きやすそうなズボン。

 手にはハルベルトや長弓。

 レナと同じ服装だ。


「間に合ってよかった」

「えっ?」


 後ろを振り向けばいつぞや俺が吹き飛ばした戦士と盗賊がいた。

 さらにその後にも大勢いる。

 さっと数えて五十。さっきの竜人族の女たちも味方だとすれば二十。

 だがまだまだ、八十ちょいの数で万に当たるのは無理があるだろう。

 例えそれぞれが一騎当千だったとして、各個撃破されればそれまでだ。


 しばらくしてウィリスが戻ってきた。

 侵入した連中と竜族を連れて。


「よぉーし、全員整列!」


 まんま軍隊そのものの動きで八列横隊が出来上がる。

 俺は首根っこをウィリスに掴まれて隣に立たされる。


「えーと……ステッペンウルフにステップトリーダー、それに紅龍隊か。ミズガルド所属だから遠慮なく投入できるな」

「え、これ紅龍隊? さっき近衛をさくっとやっちゃってたけど、えぇっ!?」


 いやいや、正規の軍であり近衛でもあるやつらをあっというまに片づけるっておい。

 あちらさんは軍、こちらさんは勢力。

 そのへんよくわからないけど、軍が負けるってのはいけないと思う。


「なに驚いてんだ、紅龍隊は竜人族の中でも血の濃ゆい者たちの集まりだ。そこらの雑種みたいなのに負けるわけはない」

「おい、雑種って、犬じゃないんだから……」

「ああそうか、トカゲだったな」


 俺たちの三流コントで苦笑があちこちから漏れていた。

 ただそれは俺たちのことを笑うよりも、馬鹿にされた敵のほうを嘲笑っているものだ。


「とりあえずレナとリナの居場所はわかった、地下だ。これから俺が最後の”魔術”を使って地上を焼き払う。そのあとは俺とアキトで乗り込む、お前らは地上の退路を守っておけ、いいな!」

「「了解ヤー!」」


 狼たちはヤる気のこもった声を返し、紅龍隊は一斉に獲物を空に突き上げた。

 赤いオーラが大気を切り裂いている。


「ま、というわけでだ。思い切り砲撃をやるぞ」

「へっ?」


 こうして俺はずるずると引きずられていった。

 橋のすぐ前まで。

 当然向こう岸から煌めく殺意の嵐が……。


 ---


「固定術式解除、術式解放・破滅を齎す枝(レーヴァテイン)


 殺意があと少しで届くとき、ウィリスが早口でなにやら口走った。

 瞬間、ヒュォォォオオン、と何とも言えない音と共に若干赤みを帯びた光の柱が降ってくる。

 それは空中で幾多にも枝分かれし、地上に落ちた。

 破壊の音はなかった。

 叫び声すらも焼き尽くし、地上を廃墟に変える。

 それは今までにみた魔法とは違っていた。

 説明のしようがない現象がおまけで付随している。


 そうそう燃えるわけがない岩や地面が燃えている。


 現に、目の前を光が横切ったあとはじわじわと灰に変わっている。

 まるで紙に火をつけたように灰になる。


「ヒュゥ」


 ウィリスがその惨状を眺めながら呑気に口笛を吹く。

 やがて付近一帯を炎の海に沈め終わると、腕を横に払った。

 それだけでその炎は消え去る。


「最後の切り札だったが……ま、いいか」


 呑気に言っているが、これは確か初めて会ったときにレイズに振り下ろしていたような……。

 そしてそれを素手で殴り壊したレイズも……。


「なあ、それって……」

「使用禁止”魔術”、世界そのものを壊せる炎だ」

「なんで、んなもん使えるんだよ」

「レイズに賭けで勝って三回だけ使えるようにしてもらった。ま、これでおしまいだがな」


 なんでもないことのように言われ、灰の上をあるく。

 思ったよりもふわふわだった。



 道中、骨もなければ遺品となり得る鎧や槍もなかった。

 すべてを焼き尽くしたようだ。

 しばらく歩くと地下への階段から翼のない竜人が這い出てきた。

 どこにもケガはなく、どうやら恐怖で立てなくなっているようだ。

 そんな竜人にもウィリスは容赦しなかった。

 背中にハルベルトを突き立てる。


「ギャッ!」

「答えろ、ここに俺の知り合いが二人いる、どの部屋だ」


 目は完全に、答えたら楽にしてやる。そんな目だ。


「は、ははっ、今頃犯さ――」


 首が落ちた。

 ビクンと大きく身体を痙攣させて、動かなくなった。

 死んだ。

 そこまでやる必要があるのか?


「行くぞ、もしあいつらに手出しされていたらここのゴミをすべて焼き払う」


 ゴミ、すでに敵として見ていない。

 そして純粋に怖い。

 頭の奥の、緊張の糸がチリチリと切れかけている。


「ボサっとするな」


 呼ばれて慌てて階段を駆け下りた。

 壁に松明が掛けてあるためか、そんなに暗いとは思わない通路。

 ところどころに部屋への入り口があるが、開けばもぬけの殻。

 恐らくは地上で俺たちを迎撃するために出て行ったからだろう。


 迷路のような地下を進む。

 時折り武装した兵士が向かってはくる。

 来るだけで終わるのだ。

 ウィリスが視界に収めた途端にポロリだ。

 音もなく、一瞬で終わらせている。


「な、なあウィリス」

「ん?」


 振り向いた、平然とした顔で。

 これだけやって何も思ってない。


「気絶でもいいんじゃ……」

「一撃で気絶させられる技量は持ち合わせてない」

「で、でも一撃で首を落とせるなら、気絶だってできるだろ?」

「無理だ、今使える魔法は時間の停止だ。体感時間を停めての一撃が一番コストが低いんだよ」

「だったら」

「これ以上無駄話をする暇はない」


 すたすたと、いや、音もなく歩いてゆく。

 俺の感性がおかしいのだろうか?

 銃も剣もない、殺人なんてニュースで見る程度、いつも安全。

 転移前はそんな世界で生きていたからなのか?

 こっちだとそういうのはあって当たり前なのだろうか。


 やがて血の臭いのかおる一角に来た。

 壁際で一人の男が肩に包帯を巻いた状態で座っている。


「言え」


 首にハルベルトの斧の部分を首に突き付けて言った。

 それだけ相手側も理解したらしい。


「あ、あああんたらのなかまなら、おおおおおくにいる」

「そのケガは」

「姫さんにやられたんだよ、縛りあ――ぎゃあああああっ!」


 躊躇なくハルベルトを首に食い込ませた。


「おい!」

「生かしておく必要性がない。いいか? 敵は残しておくと後で痛いめを見るぞ」


 そして一歩を踏み出そうとしたところで――


「地震?」


 小さな揺れを感じた。


「地上でやりや――!」


 轟音、そういうしかない異常な鳴動が通路に響いた。


「障壁張れ!」


 その瞬間、大きく揺れ始めた地下通路全体が轟音に呑まれた。

 立っていられないほどに強い縦揺れ。

 天井に一瞬にして大きな亀裂が走った。


「走るぞ!」

「ああ!」


 傘のように魔力障壁を展開しながら走った。

 つま先だけの全力疾走。

 振り返らなくても分かる、後ろは生き埋めの片道切符が自動的に切られる危険地帯が迫ってきている。


 ---


「はぁっ……はっ……」

「ああぶなかったぁ、ぁ」


 振り返れば埋もれた通路、上を見れば地上。

 いい感じにスロープが出来上がっているので帰りは楽そうだ。

 ……もし埋まっていたら帰らぬ人になっているよね?


「さて……あそこが一番奥の部屋みたいだな。リナたちが埋まっていないことを祈ろう」

「そうだな」


 さっきの死の恐怖と全力疾走で殺伐とした感情が薄れたようだ。

 変な精神状態をリセットするには役に立った。

 脇に別の入り口などはない。

 まっすぐに最奥を目指して歩いた。


「リナかレナがいたらすぐに俺が動く、お前は煙幕なり張って敵の目を誤魔化せよ」

「わかった」


 煙幕か……水弾を一気に水蒸気にすればいける。

 部屋に踏み込む。

 そこは以外に、いや地下にあるとは思えないほどに広かった。

 松明があるが、それでもぼんやりとしか見えないほどに広い空間だ。

 そしてへんな格好の竜人たちが下卑た笑みを浮かべながらこっちを見ていた。

 その足元には血だまりに沈む――


「リナァァ!」


 首を斬られて、もうピクリとも動かないリナが倒れていた。

 それを見たウィリスの手が一気に真っ白になった。

 怒りで握りしめられた拳から血が滴る。


「少し遅かったな、時使い」

「てめえ!」


 金色の燐光が見えたかと思った瞬間、敵方の一人が身をずらした。

 そこにはレナがいた。

 ほとんど裸に近い状態で、その身体を、両手足を青色の鎖でつながれ天井から吊り下げられている。

 その首筋には凶悪な刃物が押し付けられていた。


「動くんじゃねえぞ、こちらにもテンパスはいるんだ」


 ウィリスの構えが解かれた。

 下手な攻撃で更なる犠牲を増やすつもりはないようだ。

 しかし、これはこれで困った。

 どうやってレナを助ける?

 暗くて顔がよく見えないが、光を反射する筋が見えるということは涙を流しているのだろう。


「おい」


 小声でウィリスが話しかけてくる。


「空間魔法でレナを運べ」

「レベル1だからできねえよ」

「チッ、だったら空間切断で鎖とあのクズの腕を斬ってやれ」

「そのあとは?」

「俺が全力でこのゴミを細切れにしてやるだけだ」


 恐ろしいことをさらっと言った。

 ウィリスならやりかねん。

 小声の話し合いを終えると、一人が近づいてきた。


「さてさてぇ」


 大袈裟な仕草で手を広げ、そこらの悪役のような顔だ。

 もちろん負けるほうの悪。


「君たちには二つの選択肢がある」


 威圧感なんてまったくない、むしろ嫌悪感が湧き出る。

 偏屈の頭でっかちな野郎、そんなクソ野郎だ。


「ここで我々に殺されるかぁー? それとも我々の仲間になるか、だ。もちろん外れを引けば、アレの命もないがな」


 レナのことをまるでモノのように指さしながら笑う。

 薄笑いを浮かべたその顔は狂気そのもの。

 俺たちにとってどちらの回答も外れだ。

 答えはすでに決まっている。


「やるぞ」

「ああ」


 頭の中でイメージを組み上げる。

 鎖が空間的につながっていない形、刃物を持つ男が凍結して砕け散る未来。


「さあ、どっちだね?」

「答えは……お前ら全員の地獄行きだ!」


 魔法を放った。

 確かに放った。

 無詠唱、回避は不可能な攻撃。

 なのに――


「っ! やっちまえ!」


 刃物を持った男は避けやがった。

 一瞬なぜ? と思考を止めてしまったが、さっきテンパスがいると言っていた。

 ウィリスと同じ時属性の使い手なら攻撃された瞬間に躱すなんてこともできるのだろう。

 だが刃物ごと腕は砕いた、これでやれる。

 一瞬の硬直から立ち直れば、すでにウィリスが偏屈頭を斬り伏せて、ほかのやつらもほんとに細切れにした後だった。

 残るは一人。


「ラグナロク所属、レベル7の時属性テンパス

「ノーウィング所属、レベル6」

「久しぶりの同属性だ……一撃で死ぬなんてぬるいことにはなるなよ」

「そちらこそ」


 二十メートルほどの間合いから、金色の尾を引いて両者が激突した。

 金色の燐光を軌跡に残しながら。

 一瞬前までは俺から見て右のほうにいたはずなのに、一瞬後には遥か左の方で剣戟の音が鳴り響く。

 時間の停止、体感時間の停止とウィリスは言っていたはず。

 ああやって斬り合っているとこを見るに、空間ごと体感時間を遅らせているのか止めているのか。

 時間を本当に止めたのなら空気や光まで止まる、そうすると自分まで動けなくなるからな。


 ギィィンッ! カァァンッ! バギィンッ!


「伏せろ!」


 理解できず、戦いに驚いていたために動けず、何かが飛んできた。

 見えたそれは剣の先端。

 軌道の先は頭だ。


「えっ!?」


 そして――ザクッと突き刺さった。

 避けられなかった。


「…………あ…………ぇ?」


 目の前で空中に静止する剣先、よく見ればギリギリの距離で魔力障壁を突き抜けずにすんでいる。

 突然のことに思考がついていっていなかった。

 だが現実の光景を見ればわかる。

 ハルベルトで相手を斬り伏せたウィリスと物言わぬ死体となった敵。

 足元に転がる、金色の珠を拾い上げてウィリスが近づいてくる。


「なにぼさっとしてんだ……早く外しに行け」


 随分と冷めた声で言われた。

 その視線の行く先は……。


「…………」


 動かないリナに近寄っていくウィリスを余所目に、俺はレナの方へと駆け寄った。

 身体を拘束する鎖を魔法で取っ払う。

 なんとも痛々しい……、よほど強く締め付けられていたらしく痣になっている。

 ほかにも強く叩かれようなあとがあちこちに残っている。

 リュックの中の旅道具一式からローブを取り出して着せる。


「ァ、アキト……」


 嗚咽混じりの声で俺の名を呼ぶとそのまま抱き付いてきた。

 大きな翼まで、包むように抱き付かせて来る。

 正直ぐるじい……。


「うぅっ……」


 肩を震わせ、ぼろぼろと泣き出してしまった。

 ほぼ裸体も同然、その状況下で下卑た男どもに囲まれたら……。


 ズゴォォォォ…………


 重苦しい音が響く。

 パラパラと天井から砂埃が落ちる。

 まずいな。


「レナ、ここを出よう、崩れる」

「…………」


 無言でコクッと頷いて立ち上がる。

 ウィリスのほうを見れば妙な顔だった。

 苦しさと安堵が混じったような……気が狂ったか?


「ウィリス!」

「こんなところで死んでやるきはないから安心しろ!」


 リナを抱え上げて出口へと急ぐ。

 真っ暗な空間の反対側はすでに壊れ始めてしまっている。


「その……リナは……」

「まだ生きてる!」

「なら!」

「ああ、頼む!」


 走りながら治癒魔法をかけた。

 みるみるうちに首の裂傷が塞がってゆく。

 顔色は酷いが、ゆっくりと上下する胸を見れば結果は分かる。


「リナ! リナ!」

「……ぅ、う……ん」


 朧げながら目を開いて反応を示した。

 生きていた。

 本当に良かった。

 そして俺たちはこのまま走り抜けて地上に出た。


次回更新は5月19日の予定です。



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