壁ダッシュ! ……はい、落ちました。
「いいかクロード、今日からここがお前の家であり、こいつらが家族だ」
夢、か……。
なんで今更こんな昔のことを……。
夢は記憶の整理であり、経験を元に演算と起こり得ることのシミュレートをすることのはずだ。
だとすれば既に終わったことを……死んだ奴らのことを整理する必要もシミュレートする必要もないだろ。
はぁ、それにしても、スコール中尉は最初っからむちゃくちゃだったな。
あ、レイズに勝ったスコールとは別人のスコールね。
「よろしくな、お坊ちゃん」
リンドウか、こいつとは結構喧嘩したな。
外見と性格が不一致な命令違反の常習犯。
「…………」
シルフィエッタ。
すましたやつで、部隊内最年少……のくせして在籍年数は上のほう。
青い髪で、小柄で、ライフル使って……ん?
レイアに似てないか?
あいつも青い髪で小柄でライフル使って……。
それを出すと現在俺の隣にいるはずのエアリーも青い髪で小柄で、さらにあいつらに何かされた可能性大有り。
なーんかいろんなところで、分かりそうで分からない形でつながってんな。
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翌日。
例の切り立った崖に到達した。
本来ならばちゃんとしたインストラクターとクライミングの道具がほしいところだがそんな贅沢は言えない。
ないものはないのだ。
「どうやってのぼろ……」
「私は魔法で飛べるけど……」
俺のほうをちらっと見てくる。
…………。
いや、どうしようもねえって。
俺は飛行魔法は使えないの。
でもなー、某鉄の人間みたい魔法で手足からジェット噴射で飛べないかな?
いやいやいや、あれはあの硬さだからこそであって、生身でやれば手足がモザイク必須の状態に早変わりだな。
うん、やめよう。
「俺を抱えて」
「無理」
即答。
そりゃそうですよね。
か弱い女の子に男一人持てってのはねぇ。
まあ、こうなったらよじ登ってやる。
見上げてみろ、そんなにたか……いな。
パッと見、五十メートルくらいあるんじゃないか?
「私、飛行系の術は得意じゃないの」
「……それ、お前も危なくない?」
「…………」
黙るってことはそういうことだな。
さてこの高さ、下手に上れば転落死。しかも軽く岩肌を掴めばぼろぼろと崩れるし。
「じゃ、私は先に行くから……風よ、我が身を運べ」
詠唱と同時に空間がぐにゃりと歪んだ。
それと同時に体がふわりと浮かび上がってそのまま飛んで行ってしまった。
あっれぇ? 得意じゃないってさっき言ってたよね?
…………。
しゃあない。俺はこの超不安定な岩壁を素手クライミングするか。
つか、せめてグローブがほしい。素手は痛いよ。絶対ケガするよ。
かくして俺は魔力で手の平に膜を張り、つま先にニードルを付けて登り始めた。
案外よゆー。そしていい感じで三分の一ほど登ったころ、びゅおーっと風が吹いて、つい下を見てしまった。
「……っ! た、高い」
よし、見ないようにしよう。見ないように。
「下を見たらだめだ」
自分に言い聞かせる。
自己暗示、簡単なプラシーボはこういうときに効果的なはずだ。
「早く来なさいよー」
上ではすでに登り切って、着地したフライアが俺を見下ろしていた。
くそう、このままのんびり登って後でねちねち言われるのは嫌だぞ。
もうあのころのようなことは嫌なんだ。
「壁ダッシュ……できないかな?」
と、いうわけで思いついたのがこれ。
だってさー、そこらの主人公ってたいていやってるよ? 壁ダッシュ。
だったら最近チートに覚醒してきた俺だってできるでしょ? ね?
手の平からアンカーを打ち出して、上半身を手を基点に固定。
そして腕の力で下半身を持ち上げてしっかりと足裏を岩壁につける。
さあ、やってみよう。人生初の壁ダッシュ。
落ちた時はまあそんときだな。
「すぅ……はぁ……」
よし、行くぞ!
足裏に意識を集中する。いつもよりちょいと威力を増した爆発を。かといって反動で足がやられない程度には抑えて。
せぇーっの!
右足を踏み出して半身を蹴り上げ爆発の外に、そして起爆!
いつもより三割増し(当社比)の爆音が轟いて壁面を走った。というか走れた。
おかしいよね? ベクトルで考えてみ?
垂直面を蹴るってことは斜め方向の反動があるということであり、一歩目で壁面から離れるだろ?
…………。矛盾点は無視だ。
そして三分の二ほどまでに来たとき。
「あぇ……えぇっ?」
ふいにぐらりと揺れた。そして壁が俺のほうに倒れてきた。
そりゃそうだ。岩盤は一枚じゃない。長い間雨風で風化した脆い表面とまだまだ健在な内面がある。
その外側に強烈な衝撃を叩きこみゃ剥離くらいはするさ。
でもなぁ……。
「うっそぉぉーーーーー!」
だってそんなことないと思ってたもん! 予定外だよ!
だが俺の魔力障壁は固いはずだ。このまま落ちたところでスプラッタはないだろうな。
だからと言って生き埋めはごめん。なわけで、絶賛俺のほうに向かって倒壊中の壁に向かって火炎弾を撃つ。
バゴォォン!
粉々に砕け散った。なんかかなり鋭利な破片に……。
「ちょっ! マジでそれはやべっ―――」
圧力は接触面が小さくて速度が速ければ……。
つまり刺さる可能性がある! 人が振るう刀は防げても尖った落石は無理かもしれん!
俺は死を覚悟して、背面フリーフォールした。
フライアが叫んでいるように見える。ああ、ごめんな、俺はここまで――――!?
突如真下から水が噴きあがって岩を蹴散らした。
そして固い地面に叩き付けられるものと思っていたが、意に反して弾力のあるものにぶち当たった。
バッチャア! とすごい音がする、水だろうな。それでも痛いものは痛い。直接当たらなくても痛い。
「いっつぅ……なんだこれ?」
ゼリー状の……ってスゥか。んん? こんなでかかったっけ?
なんて思ってたらすぐに元の大きさに戻って俺の頭にぴょこんと乗ってきた。
「ありがとさん」
上からぱらぱらと振ってきた小石を払って立ち上がる。
ケガはない。どこも折れてはいないだろうし、無傷だ。
さて、もう一回行こうか。今ので崩れやすいところは大方崩れたはずだ。
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「危ないわね」
「…………」
「あれ、死んでたんじゃないの?」
「そうですね」
「もうあんなことはしないでよ」
「はい」
その後もねちねち言われながら歩いた。結局言われたがこれは自業自得。俺が悪いからな。
しかしだ、ねちねち言いながらもしっかり俺に腕をからませてきてる。
正直言って初日はよかった。でもな、歩きにくいねん。めっさ肩こるねん。
「はぁ……」
「どうしたの?」
「なんでもない」
なんでもないとはいえな、胸が当たる点は健全な青少年としてはね!
分かるよね! ムラムラが溜まるのよ!
しかもこの格好。白い修道服を腰のあたりでびりびり裂いてミニスカ状態ですらりと伸びた健康的な素足が覗く。そしてミニスカ内はちらちら見えるし短パンだし!
赤い髪で赤い瞳で整った顔立ちの美少女!
二、三、五、七、十一、十三、十七、十九、二十三、二十九、三十一、三十七、四十一、四十三、四十七、五十三、五十九、六十一。よし落ち着いた。
こういうときは素数を数えるもんだ。別のことに集中して無理やり思考を逸らすんだ。
「ねえ、あれ」
歩いていると前方にどこかで見たことのあるおっさんがいた。
大きなバックパック背負ってとぼとぼ歩いている。
どこで見たっけなぁ……。
「あのー」
声をかけるとそのおっさんはすぐに振り返った。
そして思い出した、ヨトゥンヘイムの万屋の店主だ。
「おやおや、久方ぶりだね」
「どうも」
なんでこんなところにいるのやら。
「そうだ、何か買っていくかね?」
「いや要るもんはないんで」
「そうかい? だったら、ちょっとおつかいを頼まれてくれないかな」
おっちゃんはバックパックから白い長そでシャツとカーゴパンツを取り出した。
レイズの普段着だな。
そしてもう一つ取り出した。
修道服。本来黒いはずだがこれは白、縁は赤い刺繍がされている。
「これをレイズ君に届けてくれないか」
「でも……」
現状、敵対している状態だし。
「わかっている。今は無理でもいつか渡してくれればいいんだ」
受け取れと俺のほうに差し出してくる。
俺はそれを受け取った。
「それじゃあ頼んだよ」
そう言うとおっちゃんはバックパックから、明らかに入る大きさじゃないドアを取り出した。
なんの変哲もない木製のドアだ。
「それ、なんです?」
「なにって、ど○で○ドアさ」
「えぇっ!?」
「だから○こ○もドアだよ。これで好きなところにすぐにいけるだよ。まあ、ピンポイントでどこかに向かうのは無理だけどね」
ガチャっとドアを開けると、その向こうは南国のビーチのように綺麗な海が……。
「では、またどこかで会おうか」
おっちゃんはドアをくぐり、閉めた。すると、一瞬でドアが消えてしまった。
「えっ…………」
「あんなものがほんとにあったのね……」
いやまさか、ということは青い狸もいるのか?
だったらタイムマシーンを奪い取って俺のニートライフ時代まで戻って……。
いや、これは無理か。タイムパラドクスだ。俺が変えたところで俺は変わらないからな。
こうして歩き続け、俺たちは無事に街についた。
次回更新、4月14日の予定です。




