閑話 魔狼の戦闘員たち
「そっちに逃げたぞ!」
荒野を軽装の者たちが駆け抜ける。
追われているのは白い人間。
すでにぼろぼろであちらこちらにケガを負っている。
追っているのは魔狼。
少人数の精鋭ぞろい。
複数のパーティが集まってできた傭兵の溜まりだ。
「ステップトリーダーを前面に、ストリーマは先回りして道を塞げ」
「了解、スコールはどうすんだ」
「引き続き中継界の通過を準備する」
「そうかよ」
腕の力を抜き、足の力だけで疾駆する。
まるで狼のような低い姿勢で、風を追い越して。
圧倒的速度で”獲物”に接近し、
「しつけぇ!」
突如反転した”獲物”が地面を蹴り上げた。
散弾並みの速さで蹴られた石が体を削り取る。
瞬く間に追跡者の数名が瀕死の重傷を負う。
しかし、スコールが術札を持った手を向けると、たちまち傷が癒える。
そして何事もなかったかのように再び走りだす。
「さーすがっ大将!」
「事前に言っていたはずだ、追い込むだけで近づくな、と」
「はっ、そうだったな。間抜けな奴らだ」
スコールは両手に術札を持ちながら駆けている。
刀は持っておらず、代わりに術札で一杯のレッグポーチを二つつけている。
「あぁめんどくせぇ。レイズもいい加減に諦めりゃいいのに……」
レイズは単身逃げ続ける。
持久戦に持ち込まれたならば確実に勝ち目がない。
スコールはどれだけやれても六キロも走れば体力が切れる。
対してレイズは三日以上連続して走り続けることができる。
以前もそうして龍から逃げ回っていたことがあるらしい。
「ようやくきたか」
後ろからさらに仲間が追いつく。
「ステッペンウルフ、アイゼンヴォルフ、左右に広がって道を塞げ。このまままっすぐ行けばストリーマの奴らが封鎖線を広げている」
「了解しやした」
「共に戦線に立てて光栄です」
「無駄口はいらん」
「了解」
その後も続々と援軍が到着し、レイズを中心に総勢100名ほどの集団ができた。
魔狼のメンバーのほぼ半分だ。
だがたったこれだけの人数では焼け石に水。
近づけば冗談抜きで蒸発させられる。
そしてそのまま走ること二キロ。
レイズがいきなり反転して向かってきた。
進行方向をみればもうすぐ魔族領にさしかかるところだ。
魔族領側からは見慣れたサキュバスが飛んでくるところだった。
ある意味で、今のレイズにとっては一番厄介なやつ。
スコールにとっても厄介なやつ。
「……最初っからこの手段使ってりゃよかったんか」
レイズが前面に展開していたステップトリーダーたちを蹴散らしてスコールの前に来た。
「降参だ!」
「やっとか……総員てっ――」
しゅう、という前に皆、散り散りになって逃げ始めていた。
サキュバスの恐ろしさはよく知っている。
掴まれば精根果てるまで搾り取られて枯れ果てる。
「……それでも魔狼かお前ら」
「大将! いくらなんでもサキュバス相手に男の俺たちゃ分が悪いっすよ!」
「男衆がこれじゃあ……女衆、やるぞ!」
「インキュバスも来てる!」
「どうしようもねえな……」
予想外のことが起こったが、とりあえずレイズを捕獲? できたので三々五々、蜘蛛の子を散らすようにパーティごとに逃げ散っていった。
世界各地で行動する彼らにとって一番大事なのは己が自由。
掴まる可能性があれば一目散に撤退するのだ。
……………。
次回更新4月12日の予定です。




