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遥か異界で  作者: 伏桜 アルト
第2章 冒険
25/94

遭遇戦 変態は突然に

「各自、バディ確認。脱落者はいるか?」


 ウィリスの指示でテキパキと臙脂色のやつらが行動していく。

 まるで軍隊だな。いや軍服みたいなの着てるからそうなんだろうけど。


「総員90名、脱落者、負傷者なし」

「よし。少々予定外のハプニングがあったが、これより作戦行動を開始する。1から10組はバナナ狩り、11から20組はトマト狩り、21から30組はリナの捜索、残りはやつをひっ捕らえるぞ!!」

「「「「了解」」」」

「解散! 集合は日没まで中層のキャンプ、任務が終わったら集合せずに帰還してもいいからな」


 言い終わると同時に銀色の光が強く輝く。

 光が収まるとウィリス以外はいなくなっていた。

 空間魔法で転移したな。


「おっし! そんじゃあ、お前は俺と一緒に来い」

「その前に1ついいか?」

「なんだ」

「バナナ狩りとトマト狩りってのは?」

「キラーバナナとキラートマトを食いたいってやつらからの依頼だ」

「それってさっきのトマトみたいなのを食うっていうことかよ……」

「そうだな、正直俺はあんなものを食いたいとは全く思わん」


 そう言って歩き始めた。このまま枝の上を歩いていけば木の側面にあいている大きな洞から中に入ることになる。


「そういえば、”やつ”ってのは?」

「これだ」


 紙切れを出してきた。なになに……。


=========================

ランクS【捕獲】

・内容:指名手配犯の逮捕

・報酬:金貨50枚

・場所:ユグドラシル

・期間:無し

・依頼主:ミズガルド警備隊

・備考:最悪殺してしまっても報酬は出します。もはや我々ではやつを止めることができません。ミズガルドの風紀を保つためどうかお願いします。やつの特徴はシルクハットを被った変態です。

=========================


 最後の一文を読んで、なんだこれ? と思った。

 金貨50枚がどれほどの価値なのか知らないけど、ノン装備でこんな危険な場所(キルゾーン)に逃げ込むってどれほどの実力者だよ!?


「これって……」

「侮るなよ、あのレイズの攻撃から逃げ切った変態だからな」

「マジですか!?」

「ああ、マジだ。俺もレイズが『降り注ぐ星々の光(ミーティアライン)』っていう超広域掃射魔法を使ったのにやつが生きていたのを見たことがある」

「ちなみにどこで?」

「アスガルドの空が、今まさに魔王が復活しました! って感じのところがあるだろ? あそこだよ」

「oh………」


 それ以外に言えねえよ。



---



 ユグドラシルの洞から中に入ると意外に明るかった。

 上を見れば青い空が見える。いや……あれは空じゃなくて水?

 この木はどうなってんだよ!

 しかも中に入るなり俺の背より高えキノコがわんさか生えてんだぜ。

 ここの生態系はさぞかし盛大なんで……。


「グルゥゥゥゥ………」


 さっそく来たよ!!

 いつかどこかで見たフェンリスだよ!


「ウィリス! どうすんの!?」

「こうする」


 ウィリスは赤色の剣の柄のようなものを手に取って軽く振り下ろす。

 するとその柄から青白い刃が飛び出した。エナジーソードだな。

 そして、すとん、とフェンリスの首が落ちた。


「え?」


 今何があった?

 青白い刃が出た瞬間にフェンリスの首が落ちたよな?


「おいなに固まってんだ。さっさと行くぞ」

「あ、ああ」


 その後も敵が出てくる度に首がストン、ストン。

 いつしか俺たちが移動した経路に沿って赤色と魔物の死体が続いていた。

 ほんとになにが起こってんの?

 もしかしてこれがウィリスの魔法か?

 絶対に相手にしたくないやつリストに入れておく必要があるな。


「グギャアア!!」


 そしてまた、襲ってきた魔物。

 キラートマトの頭部がべちゃっと落ちた。

 こいつに関してだけは飛び散るのが血じゃなくてトマト。

 トマト臭い。トマトが嫌いになりそうだ。

 ウィリスの顔色も悪い。


「うっぷ……気持ち悪い……」

「吐くなよアキト。吐いたら臭いでもっと寄ってくるぞ」

「は、吐かないぞ。まだリバースしないぞ」


 と、決意した後。6匹のトマトを氷塊でペーストにしてリバースした。

 なにも食べていなかったせいで胃液がダイレクトにドロップして喉が……そして。


「吐くなつったろぉぉぉ!!」

「すまーーーん!!」


 ウィリスの顔色がさらに悪くなって、いろんな方向から足音が聞こえ始めた。

 そしてさっきまで見なかった魔物……というか恐竜が……ティラノサウルス的なのがあああ!!!


「このバカ! アホ!!」

「罵ってないでさっきみたいに首落とせぇぇぇ!!」

「…………」

「なんで黙る!?」

「ガス欠寸前」

「さいですか……のわぁ!?」

「グッド・ラック!」


 さっと俺の足を引っ掛け、親指を立てて走りさる。

 なにがグッドラックだ、バッドラックだろこれ。

 あとで1発、氷の砲弾をお見舞いしてやろうか。


 と、まずは後ろの恐竜を焼くか……。

 恐怖が度を過ぎると一気に冷静になるんだよなぁ……。


「ファイヤァァァァアア!!」


 口で言いつつやることは体内を直に加熱して焼き殺す、地味な方法だ。

 まあ、仕方ないさ。なんか周りに植物があるから火炎放射とかしたら大火事になりそうだったんで……。


「グガァァァァアア!」


 ティラノサウルスのようなものが断末魔の叫びを上げ、地に伏した。


「……呆気ないなおい」



 死骸を余所目にウィリスの後を追う。

 ぬかるんだ地面にはしっかり足跡が残っているし、斬撃を受けた死骸がごろごろ転がっている。

 ガス欠寸前ね。

 あれが魔法なんだろうけど、たった数十回で魔力切れか。

 俺の魔力総量はどんだけんだろうね。

 結構連発しても全然平気なんだけど。


 だんだん茂みが多くなってきた。

 死骸と足跡を頼りに探すより血の臭いを頼りに探すか……。

 少し走ればすぐにウィリスは見つかった。

 魔物の死骸の山にもたれかかっている。

 その顔はいまにも死にかけの表情だった。


「おい、ウィリス!」

「は、ははは。いやー無茶するもんじゃねえな」

「無茶って、お前まさか!?」


 ウィリスが俺を転ばせた理由。

 それは群れに襲われて2人一緒に負傷するなら、確実に仕留められる敵で俺を足止めして自分で群れを一掃するためだった。

 なんだろうな、俺ってもうちょっと考えないと周りを危険に晒すなぁ。


「ちょっと貰うぞ」

「何を?」


 ウィリスの手が俺の肩に触れる。

 次の瞬間、その手がボウッと光り始めた。

 驚いて身を引くと、手が張り付いているかのような感覚がした。


「何やってんだよ」

「魔力のドレインだ……ゲホッ」


 唐突に体から何かが抜けていき始めた。

 体から光の粒子が出て行って宙を舞う。

 視界が霞む。怠い、立っているのがつらい……。

 これが魔力を失う感覚?

 宙を舞う光の粒子、多分魔力は別のボウッとした光の引っ張られてウィリスに入っていく。


 だんだんど俺の体が怠くなって、ウィリスの顔色がよくなっていく。

 てか、どんだけ吸い取るんだよ。いい加減俺もきついぞ。


「いつまで吸い続けんだよ。ヒルか、お前は!?」

「もうちょい……」


 ガサガサ。

 まったくよお……ん?

 今なんか、後ろの茂みの中に毛深い肌色が見えたような……。

 ようなじゃない。なんかいる!!


「ウィリス! あそこなんかいるぞ!!」


 ズパァァン!!

 俺が叫ぶと同時、地面ごと茂みが斬り裂かれた。


「おやぁ? どうしました? このようところで……」

「まずは前を隠せぇぇぇぇ!!!!」


 全裸のブタがいた。あ、間違えた。全裸のふとっちょおっさんがいた。

 シルクハットを頭にのせて口にチョビ髭のある毛深いブタ……じゃなくておっさんだ。

 変態だ!! HENTAIだぁぁぁ!!

 変態がいるぞぉぉーーー!! おまわりさぁぁぁっーーーーん!! ここに変態がぁぁーーー!!


 ピィィィィィィィイイイイイイ!!

 ウィリスが笛を吹き鳴らす。

 あたり一帯に木霊して、音があちこちから返ってくる。


「アキト、援護しろ!!」


 瞬間、ウィリスが消えておっさんの上からエナジーソードを振り下ろそうとしていた。

 だがそれは。


「危ないですなー」

「よけるな! 変質者!!」

「当たったら怪我をするではあーりませんかー」


 手首から先がブレて、見えない速さの斬撃を難なく躱しつつ挑発。

 おっさん、ただものじゃねえな。

 て、感心してる場合じゃないな、ウィリスを援護しなければ。


 変態の足元の草に魔法をかける。

 でかくなれ、絡み付け、締め上げて拘束しろ。

 緑色、生属性の燐光が舞って植物が一気に成長を始める。


「変なことをしないでほしいですなぁ」

「「お前が言うか!?」」


 俺とウィリスは同時に言い放った。

 なんだこの変態は!!

 俺のかわいい触手ちゃんをぶちぶちと引き千切って平気で動き回りやがる。

 ちょっと頭に来たぞ。


「焼き尽くせぇぇ!!」


 追尾式の火炎弾を3発撃ち出す。やっぱり俺じゃレイズの太陽は再現できないか。


「はっはっはー。そんな子供が火遊びしちゃあ、い・け・ま・せ・ん」


 変態の手が火炎弾に向けられると同時に火炎弾が消失した。


「なにぃ!?」

「魔法剣を使え、そいつには間接魔法は一切通用しねえ!」

「魔法剣ってなに!?」

「ちっ、お前もう下がってろ」


 ウィリスの姿が消える。

 次の瞬間、変態の首筋にエナジーソードが走ろうとしていた。


「ほっ」


 だが変態はリンボーダンサーもびっくりの体勢で、体を後ろに倒して回避する。

 そしてまたウィリスが消える。

 今度は真後ろ。死角から足を刈り取る攻撃だ。


「はっ」


 ジャンプ、またも変態は避ける。


「サイドスラッシュ!」


 金色の光を棚引かせながらウィリスが変態の真横からエナジーソードを振るう。


「ほいっ」


 避けられる。


「バックスラッシュ!」


 真後ろから振り下ろし避けられる。


「ストリームスラッシュ!」


 空中でウィリスが横薙ぎに振るう。

 金色の流れが放たれ。


「ちょ!?」


 地面ごと俺までも吹き飛ばされた。

 頭皮が悲鳴を上げる。

 正直、吹き飛ばされて打ち付けられるよりも、頭の上のものがしがみついているほうが痛い。

 とくにハーピーと言えど、その足は鉤爪なわけですからね。


 前に目を向けると他の連中も集まってきて2重の包囲網が完成していた。

 これならあの変態も無事に豚箱行きだろう。

 ブタが豚箱に……。

 うん、わかってる。寒い。


「では、私はこれにて」


 変態が包囲網をすり抜けた。

 手が届くやつは手を伸ばし、それ以外は魔法を放ったが全部躱して変態は走った。

 って俺の方に来たよ!!

 さりげなく足を横に出す。


「それ」

「おっと、そんなことを……おや?」


 変態が俺の頭を見た。正確には生まれたままの姿のハーピーを。


「君、その子のためにも今は魔法は使わないほうがいい。さらばだ!!」


 意味不明なことを言って変態はアスリートのフォームで走りさる。そして。


「斉射体勢、弾頭確認!」


 ウィリスが叫ぶと同時に、アサルトライフルを持っている奴が横一列になって膝撃ちの姿勢になる。

 一斉にマガジンを外して。


「「「弾頭確認」」」


 そしてマガジンを戻して、スライドを引いた。


「斉射開始!!」

「ちょ!! 待って!!」


 地面にめり込む勢いで俺は伏せた。

 変態が逃げた方向は俺の後ろ側。

 それはつまり射線上に俺が入ってるわけで……。

 ズドドドドドドドドドドッッッッッ!!!!!


「もういやぁぁぁああ!!」

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