植物の脅威
「各組散開、索敵しろ」
その言葉で臙脂色の軍服たちが散らばっていく。
ああ、俺生きてる。銃弾の雨の下で生き抜いたよ……。
だいたい、俺って一応仲間だよね?
フレンドリーファイアを一切考えてないよな、あいつら!?
「分かったか? あれが変態だ」
「まず俺の心配をしろぉぉ!!」
「? どこも怪我してないし、しても治せるだろ?」
「あ、つまりするだけ無駄だからしないと」
頷きやがったよ。
この野郎、今からでも氷の砲弾を顔面に突き刺してやろうか。
静かに頭の中でイメージを……。
「…………」
無言の圧力が!!
なんでこう、この世界の人たちは俺の思考が読めるの!?
そんなスキルないよね!?
解析をば。
【ウィリス】
種族:人間
職業:魔剣士
【スキル】
解析Lv.2
魔力吸収Lv.1
ドレインLv.1
未来予知Lv.3
【召喚獣】
【魔法】
時属性Lv.7
破壊力:――
速度:――
射程:――
持続力:――
精密動作:――
魔力総量:D
成長性:F
それっぽいのがあったぁぁぁ!
『未来予知』ってねえ。それはねえよ!
反則だよ!!
「あの、ウィリスさん?」
無言でエナジーソード向けないでくれません!?
しかもさっきまではしてなかったブォォォンって音鳴らしながら、バチバチ火花が散ってるよ!!
しかもしかも、索敵にいったはずのやつらまでライフル構えて俺を囲んでるよ!!
「HAHAHA、さっきのは冗談ですよ」
「へぇ、冗談」
「や、やりませんよ」
この日、俺は日が暮れるまで背中に突き刺すような視線を浴びながら変態を捜索した。
---
日が暮れて、空には満天の星空。
まわりには臙脂色の軍服たちがいる。
「整列、バディ確認」
朝は90人もいた軍服たちが20人しかいない。
まさか……。
「報告! トマト狩り班、バナナ狩り班は規定の量を採取、帰還。リナ捜索班は対象を保護、護衛も兼ね帰還しました」
ああ、そういう。
やられたんじゃないのね。
ん? でも待てよ、それだと10人数が合わないぞ。
あ、1人走ってきた。傷だらけだ。
「ほ、報告! アルクノアの部隊と交戦! 9名が重傷です」
「敵の数は!?」
「私が確認した限りでは30です」
「種別は?」
「召還兵です」
それを聞いた途端にウィリスが消えた。
え? なにが……。
「お前! すぐに副長を追いかけろ!」
「え? でも」
「早く! 副長は仲間を絶対に助ける。そのためならかなりの無茶をする!」
昼間の足を掛けられたときのことを思い出いした。
俺1人であれだけやるなら9人助けるためにどんだけ無茶をすることやら……。
俺は例の爆発ダッシュで一気にユグドラシルの枝を駆けて洞から中に入った。
夜だというのに物の輪郭を見分けられる程度に明るい。光源は上にある水?のようなものだ。
昼間と同じように入ってすぐの、繁みのないあたりは斬痕のある魔物の死骸を頼りに進んでいく。
昼間は虫やら鳥やらの鳴き声が聞こえていたが今は不気味なまでに静かだ。
俺が走る爆音だけが辺りに響いている。
「くそ、どこにいるんだよ」
それに、アルクノアって言ってたよな。
レイズに関係があるのか?
ついでにまたあの布で覆われたやつがいたりして……。
まあいい、今は気にせ……もろにいたよ!!
死体だけど……。
ストンッ、ドサッ!
近くの茂みから音が聞こえた。
誰だ? ウィリスか?
「あーもう、やってらんねーよ。変な穴に吸い込まれたと思ったらいきなりジャングルだぞ! ナイフだけで頑張った俺を褒めてほしいね!!」
そいつの足元には20を超える死体とサキュバスとよく見慣れた恐怖が転がっていた。
ついでに紐で縛り上げられている。
いやねえ、ちょっと待とう。
あれに勝てるやつって、化け物クラスの実力者だよな?
解析でも――
意識を向けた瞬間、足元にトスッと音を立てて何かが突き刺さった。
「誰だ」
そいつが近づいてくる。
薄暗い中で黒尽くめ、まるで死神だな。
「答えろ、それとここはどこだ?」
「ちょっと待った!! 俺の首からナイフ除けよう!? な!?」
青く光る文字が刻まれた妙に切れ味のよさそうな超物騒なものが突き付けられてんですよ!!
「さっさと答えろ」
「いや、俺もここに飛ばされてからあんま経ってないし!!」
「なんだよ……お前もか。いつ頃飛ばされた?」
「上の部屋で銃声が聞こえた日だからまだ数日しか経ってな」
「あ!」
「どした?」
「…………」
黒いやつは俺から離れて茂みの傍に座りこんでぶつぶつ言い始めた。
「俺は悪くないぞ、あれは事故だ、事故だったんだ、だから仕方のないことであって………」
なんのことだよ……なんかトラウマでもあるのか。
いや、そんなことよりも恐怖……もといフェネが猿轡噛まされ、目隠しされて綺麗に拘束されてるなぁ。
隣のサキュバスに関しては……蓑虫?
よし放っておこう。
ここで解放すると俺が破壊される。
「おーい」
「…………」
返事がない、ただの屍のようだ。
という冗談はさておいて、解析をば。
【クロード・クライス】
種族:おそらく人間
職業:死神&重力使い
【スキル】
未来予知Lv.3
重力制御Lv.MASTER
魔術分解レイア式
【召喚獣】
【魔法】
破壊力:――
速度:――
射程:――
持続力:――
精密動作:――
魔力総量:――
成長性:――
なんだろうね。
突っ込みどころ満載だね。
まず種族!
なんだい、”おそらく”人間て。
まあ、職業が死神だから分からんでもないけどさ。……でもなんで職業2つ?
それにこいつも未来予知のスキルを持ってるし。
そしてその下の重力制御のレベル!
マスターってこれまた初めて見たよ。
レイズのレベル1000でもマスターじゃないってことはそれ以上……こいつも絶 対に相手にしたくない人リストに書いとかないとな。
魔法と召喚獣がないけどチートレベルのスキルがあるだけで危険!!
さらに魔術分解ときた。
魔法使いの天敵登場か!?
「~~~~~~っ!!」
えーとそれから……。
「~~~っ!! ~~~っ!!!!」
フェネが起きました。怖いです。俺はこのまま逃げようと思います。
ウィリス、俺は自分の命が最優先なんだ。なんとか生きてくれ。
そしてその場から逃走しようとした。
「おい、レイズはどこにいる?」
「さあ? 俺は知らないよ」
今度こそ、この場から逃走……。
「ちょっと待て」
「なんだよ!」
「お前がこの世界に来てから数日ってのは本当か?」
「たぶん」
「お前が飛ばされたのが6月頃、俺が飛ばされたのが12月、………時間の流れに差があるか」
「知らん! それじゃ、さよう――」
「まあ、そんな慌てるな」
「ねぇ、いい加減俺を開放して。あれが怖いんだよ」
フェネのほうを見る。
あれ? 紐が切れかかってね?
やばくね?
「それ」
クロードが腕を振るうとフェネとサキュバスが浮かび上がった。
「さて、どうしようか」
「なるたけ遠ぉぉぉぉぉくにお願いします」
「オーケー」
もう一度腕を振るうと遥か天空に吹っ飛んで行った。
ここの空って水みたいな発光源だよな? どうなんの?
「おー、よく飛ぶなー」
「……お前の能力はチートですか?」
「まあそうだな。簡単に言えば――」
曰く、空間を操れる。時間を操れる。物を軽くして吹き飛ばす。重くして潰す。重力の影響を変えて好き勝手に飛び回れる。魔力の流れを重力で断ち切ることで魔法を無力化できる。エトセトラ、エトセトラ。
まんま、チートでした。
空属性の魔法が一応使えるけどこりゃ、対抗できないな……。
「てかさ、ほんとここってどこ?」
「ああ、ここは――――」
さっきの説明が長かったので俺が知りうる限りの範囲で懇切丁寧かつめんどくさいので超省略して説明してやった。
「えーと、つまりは剣と魔法があって銃まであるごちゃ混ぜファンタジーな世界。ということであってるか?」
「多分……」
「ガッテム!! 俺が前にいたところとなんら変わりがねえ! もう帰ってやる!!」
乱暴に腕を突き出すと真っ黒な穴が出現した。
ブラックホール? なわけないか。ブラックホールは膨大な質量を圧縮してってやつのはずだ。
だったら俺も周りの物も引きずり込まれるはずだからゲートだろう。
「じゃあな! ……!?」
うん、俺と同じだねぇ。
磁石が反発するみたく弾かれたねぇ。
つまりは誰かに強制転移させられたってわけか。
「なんでだよ……」
俺はそっとクロードの肩に手を置いた。
「諦めろ、今日からお前も仲間だ」
「…………」
「人生の終着点へようこそ、同志よ!!」
「……呑気だな」
「呑気だよ」
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あの後、色々と話しをした。
なんでもレイズと戦ってよくわからないけど勝利して、
拉致されて気づいたら例の堕天使の下僕にされて、
いろいろあって異世界GOってなったらしい。
しかも色んな異世界を旅して来たんだとさ。
そしてレイズに勝利したって時点でこの人は俺のリストの中では絶対に戦ってはいけないランキング2位に入ったわけだ。
ちなみに1位は堕天使、3位レイズ、4位ベイン、5位……という感じになっておりまする。
話しながら多分ウィリスがいるであろう方向へ向かっているが魔物の死骸以外は目立ったものがない。
虫の鳴き声すらも聞こえずに相変わらず不気味だ。
「どこに向かっている」
「ウィリスっていう仲間のところだ」
「へぇ、にしちゃあ……死骸ばっかだな。静かすぎる」
確かに静かだよな。
ふつうは夜でも虫の鳴き声とか、何かの遠吠えとか聞こえてきそうなんだけど。
「ここの生態系はわかってるのか?」
「俺が見た限りじゃ植物が人を襲うとか、でかい狼が出るとかってとこかな」
「植物ね、例えばああいうのか?」
「どこ?」
「あそこ……」
かなり抑えられた警戒心最大の声で言われた。
「あれ? あそこって今俺たちが通ったよな?」
「ああ」
見れば確かに俺たちの真後ろ、さっき通った場所に太い枝を大量に生やした見事な巨木があった。
「今、通ったばかりだけどさ。木なんてなかったよな?」
「ああ、なかったさ」
不気味なほどに静かな場所で、風すら吹いていないのに木が揺れた。
「来るぞ!」
クロードが叫んで飛び上がった瞬間、枝が鞭のようにものすごい速さで迫ってきた。
咄嗟に頭の上のハーピーを庇い、背中を向ける。
「ぐふぉあ!?」
俺は避けきれずにもろに食らってしまい、吹き飛ばされた。
さらに真下の地面から槍みたいに尖った鋭い根っこが突き出して俺の脇腹を抉って空中に打ち上げられる。
「ぐぁ……」
鞭のような攻撃で服ごと皮膚が避けて、槍のような攻撃で脇腹に穴が開いた。
くそ、動く木は某魔法学校の柳だけで十分だ!
「動けるか」
「だぃ、じょぶだ」
地面に叩き付けられる。
治癒だ。急げ、俺。傷は治せても失った血液は戻らねえんだから。
治癒するためのイメージを始めた瞬間、さらに太い枝が振り下ろされる。
「お、おおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
せめてハーピーだけでも守るぞ。体の下にハーピーを庇う。
動く木の幹が弾け飛ぶの見ながら、枝が叩き付けられ、俺の意識は刈り取られた。
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「この野郎!」
クロードは木の幹に重力を向け、圧縮、解放を一瞬で行い幹を破裂させるもすぐに再生されてしまう。
がむしゃらに狙いを付けずに振るわれる枝は、クロードの未来予知ではすべて識別しきれない。
さらに直前の戦闘による消耗で能力も満足に使えない。
「くそ! トレントならコアは胴体か……」
ちらりと手に握るナイフをみる。
片方は青い文字の刻まれたナイフ。
もう片方も大事なもの。
どちらもいつものように使うわけにはいかない。
「常に振り回されるか……パターンは読めた。行くぞ!」
身を屈め手を後ろに、足の力だけで突撃する。
トレントが攻撃を仕掛けてくる。
かなりの速度ではあるがパターンを読めてさえいれば、クロードにとっては避けるのは難しいことではない。
根のほうに関しては確実に狙って突き出してくるため予兆を感知するや、局所的に重力を増大させ突き出させない。
攻撃を掻い潜り幹まで接近する。
「コアは……そこか!」
洞の隙間の中に琥珀色の丸い球体があった。
クロードは容赦なく重力場を纏わせた拳を叩き込んだ。
みしっと軋む音を立て、表皮を抉り、完全にコアを露出させる。
「止めだ!」
拳を引いて、再び叩き込む。
琥珀色の球体にヒビが入り、急速にトレントが枯れてぼろぼろと崩れ、土に還った。
「終わったか……ん?」
その場に伏せた瞬間、さっきまで自分の首があった場所を青白いブレードが走った。
ナイフを逆手に構え、振り返りざまに斬りつける。
「くっ……はやいな」
「お互い様だろ?」
言いながら相手を観察する。
今の攻撃はギリギリで避けられた、ならば何度かやれば相手がこの速さになれてしまう。
だったらそうなる前に片を付ける。
青白い刃と青い文字の刻まれたナイフがぶつかり、火花を散らす。
そして片方が吹き飛び、意識を失った。




