4回表(3)
これまで何回か見た未来の夢では、最初の引退試合を見るまで接点が無かったのを除くと、トモカズの方からウチに告白してくるパターンばかりやった。トモカズが小学校の頃からうちに惚れてたつぅのは何度も本人の口から聞いている。夢の中でやけど。
だが今回はウチの方から、つきあってみぃへん、と言ってみた。その方が手っ取り早いからな。トモカズが固まってるのを見るんは面白かったなあ。
『でも条件があるんよ』
『えっ、条件?』
固まった顔が解凍されて、一瞬喜んだ顔をしてくれたけど、また警戒し始めた。
『そう、うちは寂しがりやから彼氏にも同じ高校に来て欲しいねん』
それを聞くとそれまで二転三転していたトモカズの表情が一気に暗くなった。
『俺は逆立ちしたって北高はムリや。それにやっぱり野球の強いところに行きたい』
トモカズが1年の時から複数の高校から声がかかっているのをうちは知っている。
『いやうちは北高は受けへんで』
北高やと甲子園優勝は無理なんはわかってんねん。うちは下調べした学校の話をする。
『府立川添高校、硬式軟式どちらの野球部も無いから、うちらが野球部創立一期生つぅことになるんよ。1年からレギュラー確実やで』
トモカズの顔は晴れない。
『そんなんで甲子園無理やろ? 大阪は私学強すぎるやん』
当然のようにそんな話になったので、うちはメンバーを集める話をした。
『そんな上手くいくかあ?』
当然の疑問やな。
『上手くいかせる。遅くとも3年の春には甲子園に出る。もちろんトモカズは彼女のうちを手伝ってくれるやんな?』
うちはじぃっとトモカズを見た。夢の中で夫婦やった経験が活きている。当たり前やけど先に目を逸らしたのはトモカズや。
『わかりました』
『なんで敬語やねん。言うとくけど、トモカズとやったら人生楽しく過ごせるやろな、ってめっちゃ先のことまで考えてから付き合うことにしたんやで? 無理やり川添に引っ張るためちゃうから勘違いはせんといてや』
『わかりました』
言葉はさっきと変わらへんけど、顔がニタついてる。まあええか。
そんな感じでうちは最初に自分自身をエサとしてぶら下げてトモカズを巻き込んだ。後はまあ必要な人材を集めた感じやね。
数日後、外井君からOKの返事が来たから、早速野手への転向を勧めた。怒鳴られたけど、まあ1か月あれば説得できると思う。
このようにうちは甲子園に行って勝つための準備に日々を費やした。結局いろいろ考えた末、その後も何人かに声をかけたものの正直うちも熱心では無かったと思う。魅力的な選手は既に行く高校が決まっている選手が多いし、他にも兄貴が行った学校に自分も行きたいという、うちでは覆せなさそうな思いがある。まだ進路が決まってない選手はこれまでスカウトした選手に見劣りするしなあ。
それがやっぱりあかんかったんかもしれん。いやちゃう、これが限界やったやと思う。外井君が中学生、ボーイズのうちに野手に転向してくれたのは良かった。でも転向して数ヶ月で活躍し始めたので、勉強の方がおろそかになった。それに肝心のトモカズも頑張っているんやけど、成績はなかなかあがらん。
他の連中もこのふたり程ではないけど野球好きな奴らばかりで勉強時間が短すぎる。3年になってもしょっちゅうケツを叩いて回らないといけない。いや野球が根っから好きな奴らを選んで声かけたのはうちなんやけど……
中学卒業間近の3月の頭、うちは川添高校の校長に改めて挨拶し、野球部の件の念押しをしておいた。グランドと顧問は絶対に必要やからね。一方校長からは、うちが主席やから入学式の代表挨拶を頼まれた。それはまあしゃあない。
それともうひとつうちは校長にお願いをした。新生野球部が活動する入学式より前にグランド整備をしたいと。校長はそれも許してくれた。だがさすがにケガした時の部活保険などの問題があるので、入学前にグランドを使った練習をすることはさすがに許してくれなかった。
3日後うちは野球部に入る連中を川添高校の正門前に集めた。もちろんグランド整備のためや。草も刈るし、小石も取るし、土もならす。それになんと言ってもマウンドを作らなあかん。うちひとりでやってたら絶対嫌になるに決まっているし、そもそも入学式までに終わらへんやろ。
とりあえずうちが最初に声をかけた9人は集まったからいいか。まあどこの学校に行っても1年からベンチ入りは確実な選手が10人いたら、後は数合わせの補欠がいればなんとかなるわ。
もっともそれはケガ人が出ない前提やから、そのあたりはうちがちゃんとケアせなあかん。1番の問題はうちがキャッチャーになりそうなところやね。鷲尾君はちゃんと捕手ができるけど、インサイドワークとか考えるとうちの方が良いキャッチャーやねん。でもこの時代、コリジョンルールがまだないんよね。ぜったい体当たりしてくるやん。
「今日からグラセン(グラウンド整備)やるよ。みんなちゃんと道具も持ってきてるね?」
もちろん猫車(手押し車)とか、草刈り鎌、トンボなど、廃部になったラグビー部の遺産は学校で貸してくれるように手配しているけど、軍手とか帽子はそれぞれ必要だし、数が足りない物もある。
「いきなりあんたが仕切るのかよ」
これは外井君。
「あれだけうちに入試の勉強を手伝わせておいて、よく監督にそんな大きな口を叩けるんやな」
うちは外井君、もう呼び捨てでええか、を睨みつけた。
「えっ、こいつが監督で決まりなん?」
「あんたも監督の実績がないとあかんて言うてたやろ? うち以外に監督経験のある人は挙手!」
当然誰の手も上がらなかった。じゃあ決定やな。まあキャプテンは別に決めてもええかもね。
「じゃあ行くよ」
何人か納得のいかなさそうな顔の奴もいたけど、これから3年間使うグランドを作るのが楽しみなのか、みんなどんどん早足になって、最後はうちも含め全員が駆け足になって用具室へと向かった。




