10.全ての物事は、『食』が源です!
トムじいにまた来週っと挨拶をし、アイリは小屋をでた。
時刻はまだ14時。
照りつける様な日差しに、目を細める。
雲一つない晴天。
折角なので、アイリは周辺を散歩をしながらかえることにした。
小屋の後ろ側は、平原が広がっており、そのままずっと奥に進めば、アイリの暮らす自宅へとつながっている。どのみち今日も予定はない。
何時もさっと通り過ぎる平原をじっくりと眺めてみる。
夏らしい色鮮やかな花々が咲いていた。
白いモンシロチョウやアゲハチョウも優雅にフワリフワリと飛んでいる。
人工的ではない、どこかほっとするような景色。
さわやかな風が吹くと、さざ波のように花と草がザワザワと揺れる。夏草が香り立った。
自然と涙がこぼれ落ちた。
数日前までは、景色が美しい、美しくない等考えられる次元にいなかった。
日々を生きるのに精いっぱい。
頭の中は、常に如何に空腹を満たすのかそんな事ばかり考えていた。
空腹状態では、素晴らしい景色を見てもちっとも感動しなかった。もちろんお腹も満たされなかった。
けれど、三食食べれるようになってからは、心の余裕が生まれた。
お腹が満たされるだけで、180度違う見方ができるとは思いもよらなかった。
やはり、『食』は大事で偉大。
この世界にもし食の神様が祀られていたら、その際は全身全霊で崇め奉ろうと密かに誓うアイリがいた。
そんな熱い思いで平原を見回していると、ひときわ大きい向日葵が目に留まった。
草をかき分けて、近寄ってみる。
近くで見ると、少し離れたところから見るよりすごく大きく、アイリの背丈を軽々超え、大人一人分くらいある高さの向日葵だった。
花の直径も、おそらくサッカーボールは優に超えていただろうと思われた。
今は枯れ果て、首を垂らし、地面に倒れるのを待つだけという姿。
きっと、満開時は見事な花を咲かせていたのだろうと、その立派な佇まいから想像できた。
アイリはダメ元で背を伸ばし、枯れた向日葵の花を触ろうとするが、全然手が届かない。
諦めきれず、向日葵のそばに佇む。
はたから見ると、銀髪の幼女が向日葵の残骸をみて悲しそうに佇んでいる姿。
何とも幻想的な哀愁漂う光景の様に見える。
だが、実情は違う。
「あ、これ多分食べれるやつだ!リスとかハムスターとか食べてたし、たぶんいけるはず。味はナッツ系かな?この大きな花タネぎっしり。想像しただけでもでも、食べ応えありそう。問題はタネに手が届かないことよね・・・枯れてるし茎、引っこ抜けないかな?」
単に食欲に忠実な幼女がそこにいるだけだった。
アイリは、半袖のくせに、腕をまくり上げるふりをして気合を入れた。
左右の手に太い向日葵の茎を握りしめる。
向日葵の茎はざらざらして痛いがそんなの無視だ。
大股で足を踏ん張り、向日葵と格闘を開始し始める。
うんとこしょ、どっこいしょ、それでも向日葵は抜けません。
昔懐かしのあの童話を思いながら、緩急つけてひっぱるも、抜けない。
ぬこくとをあきらめたアイリは、その場から少し離れた。
そして、勢いをつけて、空高く飛び上がり茎の根元に向かって着地する。
必死に抵抗していた茎も、ジャンプのパワーには勝てず、クタっと曲がって遂に地面に倒れ落ちた。
戦闘に打ち勝ったアイリは、こうして大量の向日葵のタネをゲットすることができた。
彼女の去った場所は、荒れ地と化していたがそんなもの食糧ゲットの前では些細なことだ。
さっきのあの涙を流した景観を、あっけなく荒らした事に突っ込む人は、幸いなことに誰一人として、いなかった。
アイリは無意識に鼻歌をうたっていた。
小屋を出てからすぐに、新たな食材が確保できた。
今日はなんだかツイてる気がする。
そんな直観に基き、第二の食材を求め、左右をきょろきょろ、地面きょろきょろ見ながら平原を進んでいく。
その努力が講じ、今度はペパーミントを発見する事ができた。
ミントの葉をもんでみると、爽やかな香りが沸き立つ。
付近に視線を落とすと、そこらかしこに、ワサワサと生えていた。
その中に、カモミールも生えていた。
食べ放題に来ている気分にアイリはなった。
盛れるだけ盛る、ではなく取れるだけ取る。
そう決心したアイリは、ズタ袋をいったん置き両手でブチブチと摘んでいく。
摘み終わると、可愛らしい花束が出来上がっていた。
熱心に取っていたため、立ち上がる頃には、空はすでに橙色に染まっていた。
アイリは右手にズタ袋、左手にハーブの花束を持ち、今度こそ帰路を急いだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
家に帰ると、ドアの前に母が立っていた。
それも号泣しながら・・・。
訳が分からず、とりあえず声をかけると、むぎゅっと力いっぱい抱きしめてきた。
(ちょ・・・くるしい・・・)
あまりの力強さに、手に持ってたズタ袋の荷物をズドンと落としたところで、
母の力強すぎる抱擁から解放された。
家の中に入り、母を座らせ事情を聴いてみる。
すると、夕刻トムじいの所へ迎えに行ったがおらず、トムじいに聞くとお昼過ぎには帰ったときかされた。
家に帰ると、アイリが居なくて心配で周辺を探し回っていたとの事だった。
たまたま、家にもどってきてないか確認をしに来たらアイリがおり、安心して号泣してしまったと・・・。
アイリは、心の底から反省した。
確かに幼女が夕刻まで帰ってなかったら、心配する。
あの涙もアイリの事を思ってくれてだし、本当に申し訳ないと思った。
「心配かけてごめんなさい・・・」
素直に謝るが、そうは問屋が卸さない。
「アイリはママが心配するなんておもってないのね。ママの事すきじゃないんだわ」
「え?!そんな事思ってないよ」
「え、そこはすぐに『ママの事好きだよ』って言ってくれるところじゃないの?やっぱり、私のことなんて何とも思ってないんだわ!」
「・・・・ママ好きだよ」
「今間があったわ!嘘なんでしょ、今のは本心がこもってなかった」
「・・・・こもってたよ」
「ひどい、ひどいわ、ママはこんなにアイリちゃんのこと好きなのに!」
再度号泣する母。
完全にめんどくさい。
今日つかれているし、お腹も空いてる。
このやり取りを終わらせてい一心で、ある物を献上することにした。
「ママ本当に大好きだよ。私あの平原にいたんだ。いつも大切にしてくれている大好きなママに、花束をプレゼントしたいなって思ったの。それで、夢中になってしまって、こんな時間になっちゃったんだよ。ほら、これ私の気持ち」
アイリは不自然なほどには『大好きな』の言葉を入れまくってから、カモミール&ミントの花束を差し出した。
「え!やだ、これ私に」
母が嬉しそうに頬を染める。
「うん、大好きなママにあげたいと思ったんだ」
上目遣いで念押しする。
「私もアイリの事が大好きよ!」
盛大なハグをされて、ようやくこのやり取りからアイリは解放された。
そのあとは、バタバタとトマトの水やりを行い、入浴、夕食を経てベットにダイブ。
その時ふっと何か忘れているような感覚に襲われるも、眠気に負けてしまいアイリは夢の中に旅立ってしまっていた。
着実に食卓で使える食材増やしていってます。
食糧集まってきたので、調理のシーンも増やしていきたいです。。