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あなたのお助けキャラは断固拒否します!  作者: 朝比奈 呈
◆本編32話の裏側で起きていたこと(カッソ編)
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1話・最低最悪な客がやってきた



「あんたじゃ話にならないわ。ちょっと、店主を出しなさいよ!」



 店の奥で仕入れて来た宝石を、カッソがお抱えのジュエリーデザイナーと打ち合わせをしていた時のこと。店頭からキンキンとした声が響いた。何かトラブルがあったようだ。従業員の必死に謝る声が聞こえてくるが、相手の女性はそれだけでは腹の内がおさまらないというように怒鳴っている。


 カッソは何事かと顔を上げた。この店は御贔屓筋が貴族や、特権階級者の方々ばかりなので、このように声を荒げるお客さまは滅多にいない。何が起きたのだろう? と、思いつつ椅子から立ち上がり店内に向かうと、後からデザイナーのミルダも付いて来た。


「もう。だからあんたじゃ話にならないって言っているでしょう!」


 出入り口付近のショーケースを前にして、ある中年女性が新人従業員を前にまくし立てていた。他の従業員は来客の対応中。誰も手が空いていなかった。だからその女性は手の空いていた新人従業員に目を付けたのだろう。その場を収めることが出来そうなベテラン従業員も、御贔屓筋のお客さまに、新作のジュエリーをご案内中で対応が遅れたようだ。


  御贔屓筋のお客さまに断りを入れて動こうとした、ベテラン従業員と目が合い目で制す。こういった厄介なお客は、同性相手には引こうとしない場合がある。そればかりか従業員が新人からベテランに変わったところで、自分が思った通りにいかないとその不満をぶちまけて、言葉の刃を平気でぶつけてくるのだ。下手に従業員の気持ちを傷つけられるだけならば、相手の望み通り店主が出て対応した方が遥かに良いと考えるカッソは、穏やかな笑みを浮かべながら女性に近づいた。


「お客さま。わたくしが店主のカッソでございます。何かございましたか?」


「へぇ。あんたが店主なの?」


 責任者であるカッソがこの場に姿を見せたことで、相手の女性は上から下まで品定めするように見てきた。女性は桃色の髪に空色の瞳をしていた。見た目は悪くない。着ているドレスは派手で明らかにお金がかかった物には見える。しかし、この不躾な視線と言い、言動と言い、貴族らしい品というものには欠ける。平民なのだろう。恐らく娼婦かどこかの貴族の囲っている愛妾ではないかと思っていると、相手が名乗ってきた。


「あたしはパルミラ。サロモネ男爵夫人よ」

「失礼いたしました。サロモネ男爵夫人でしたか」


 サロモネ男爵夫人と聞き、カッソは驚いた。お得意様の貴族の奥さま方から最近、よく聞く名前だったからだ。この女性が──?と、思わず見つめてしまった。


  サロモネ男爵夫人は平民出身でありながら、男爵の後妻になった女性だ。貴族と平民。普通ならば身分違いの二人が婚姻することはあり得ない。いくら前妻を亡くし、意気消沈していた男爵を、平民女性が慰めて恋に落ちたとしても。

 大概は身分差という壁に阻まれて、精々平民女性は愛人として囲われるのが関の山。それなのにサロモネ男爵はいくら親戚に反対されようが、彼女と結婚する気は変わらず、彼女の連れ子も一緒に男爵家に引き取ったと言う。その話題の女性が目の前にいる。



「なによ。あんた。じっと見たりして」

「ああ。すいません。あまりにもお綺麗なので見つめてしまいました」

「あら。そう? あんた見る目があるわね」



 カッソの見え透いたお世辞に、サロモネ男爵夫人は機嫌が良くなった。ある高貴な貴族夫人は彼女のことを『猿真似夫人』と、称していたが、その気持ちが分かるような気がした。育ちの事もあるだろうが、いくら外見ばかり貴族夫人を真似ても、中身が伴っていない。これでは評判があまり良くないのも当然だ。


 サロモネ男爵夫人は、ドレスの脇のポケットに突っ込んでいた物を荒々しく取り出した。包んだハンカチのようだ。それを掌で広げると押し付けるように差し出してきた。


「これにね、文字を掘って欲しいのよ」

「文字ですか?」


 ハンカチに包まれていたのは、一つのルビーの指輪だった。ルビーの中では小さなバラが咲いているように存在していた。見事な物だった。ルビーの中に花が咲いているように掘られた彫刻なのだろう。この店の商品でないのは明らかだった。


「リングのところでいいのよ。dear・Rと、入れて欲しいの。だけどね、この店員にはこれがこの店の商品じゃないから駄目だって断られたのよ」


 気が利かないったらないわ。と男爵夫人は新人従業員を見た。その態度で察した。新人従業員は店の決まりを守ってお断りしようとしたのだろう。それで男爵夫人は機嫌を損ねたに違いない。

 当店で購入した商品ならば、文字を入れるサービスを行っているが、他店の商品の持ち込みは断っている。カッソも断ろうとした。その時、デザイナーのミルダが言った。


「畏まりました。でも、今回のみだけとさせてください」


「そう? じゃあ、頼むわよ。これだけあれば足りるでしょう? 明後日には受け取りに来るわ。それまでに用意しておいて頂戴」


 サロモネ男爵夫人は小袋を差し出した。出て行く前に、絡んでいた新人女性従業員をねめつけ、吐き捨てるように言い放った。


「やっぱり出来るじゃない。何が出来ませんよ」


 何か言わないと気が済まない性格のようだ。男爵夫人の睨みに新人従業員は怖気づいた。周囲からざわめきが起こる。サロモネ男爵夫人とのやり取りがいつの間にか、皆の注目を集めていたようだ。ミルダは青ざめた就業員を連れて店の奥に引っ込み、カッソは他のお客様方の前で頭を下げた。


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