プロローグ
主人公が還暦のおばさんの小説を書きたくて書いてみました。楽しんで読んでいただければ、幸いです。
第1章 プロローグ
路地を通り抜けると、商店街がありました。
気のせいか、電信柱の数も電線の数も少ないようです。
異世界って、中世のヨーロッパみたいなもんやと思とったけど、ここって、ぶっちゃけ、日本や。しかも、昔の日本。昭和や。しょうもない。
やっぱ、騙されたんやろか。
それに、普通、異世界転移って、転移した人が聖女になって魔法を使えるようになったり、勇者になって剣の達人になったりしてチートになるのに……。そんな気配もないし……。
だいたい、あの胡散臭いネコの胡散臭い転移って、どうよ。
普通、魔法陣とかが現れたり、車に轢かれるとかして死んで転移するものなのに……。単に、この道をまっすぐ進めって、無茶苦茶あやしいわ。
道を歩いている人たちの服装が野暮ったく、何となくモコモコした感じなのは、冬だからでしょう。空がどんよりした灰色で、今にも雪が降ってきそうです。
みんなコートやジャケットを着ています。公子さんも同じような恰好ですので、周囲に簡単に溶け込めました。
知らない土地で必要以上に目立ちたくありません。そういう意味では、ラッキーでした。あんまり目立つと、それこそ生贄にされたりするんじゃないかと、公子さんは本気で心配だったからです。
町だけじゃなく、道行く人たちが何となく地味に見えるのは、髪の色のせいでした。
公子さんの元の世界――平成の大阪では、人々が集まると、黒だけじゃなく、ライトブラウンからダークブラウン、時には金色、赤、それに緑、果てはピンクや紫まで、様々な色に染めた髪が自己主張していました。
でも、ここでは、禿げ上がった人を除けば黒か白かごま塩だけで、無彩色なのです。
でも、いくら見た目が地味でも、歩いている人の数が元の世界と比較にならないくらい多いので、商店街は賑やかなものでした。
お店の人たちも客を呼びこもうと、威勢の良い声で客引きをしています。
「へい、らっしゃいらっしゃい。今日のおすすめは、天然もののブリ!脂がのって美味いよ!養殖とは味が違う!」
「良いホウレンソウが入ってるよ!おしたしには、これが一番!
きれいな白菜と太くて甘いネギ、ついでにエノキや大根もどうだ!今夜は鍋!鍋にしよう!奥さん、勉強しとくよ!」
「今日は、豚の大安売りだよ!生姜焼きにトンカツ!今晩のおかずは、トンで決まりだ!」
ものすごい賑わいです。元の世界では、阪神タイガーズが優勝したときのバーゲンでもなければ、これほどの活気はありません。
ただ、どう見ても、昭和の商店街。しかも、田舎の商店街なのです。
そういえば、昔の商店街って、こんな感じやった。
公子さんは、実家がある田舎の商店街を思い出しました。
子供の頃賑やかだった商店街も、最近は見る影もありません。共働きが普通になって、昼間町を歩く人がいないせいです。町の人々は、週に一度か二度ロードサイドの大型スーパーへ出かけてまとめ買いします。
田舎では、車は必需品です。公共交通機関があまり便利じゃないからです。バスの便が一時間に一本か二本しかなかったら、仕事に行くにも、お医者へ行くにも、子供を保育所に送迎するのも車がないと不便で仕方がありません。いちいちタクシーを使うのも不経済ですし、バスを一本逃すと一時間待たなきゃならないなんて、時間がいくらあっても足りないからです。
勢い田舎での生活は、どこへ行くにも車を使うことになって、買い物も、商店街より駐車場を完備した大型スーパーの方が便利だということになります。
結局、町の中心部の商店街を利用する人がどんどん減り、そのせいで店が潰れるという悪循環になるのです。
でも、この町の商店街は元気でした。シャッターが下りている店なんかありません。後に、公子さんは、この世界にはシャッターそのものが少ないことを知るのですが、いずれにしても、潰れたまま放置されている店なんかありません。どの店もたくさんの商品を並べて威勢よく客を呼び込んでいます。
これが、異世界……でしょうか。
やっぱり、騙された……のでしょうか。




