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第一部 最終話 推しと見る未来へと

 部屋の中に朝日が入ってきたのか、閉じている瞼に優しい光が刺激される。


 昨日は最高の体験ができた。ゆっくりと意識が覚醒する中で、昨日の出来事がはっきりと目に浮かぶ。


 ユイカちゃんと会ってご飯を食べたり買い物をしたり、最高の体験ができた。


 目を開けたくない。

 もしかしたら夢や幻だったかもしれないから。本当の俺はアークなんかに召喚されていなくて、『エレクトロン・アカデミー』の打ち切りの絶望し、泣き疲れて寝落ちしているのかもしれない。そう思うと怖くて仕方がない。だって普通ならあり得ない体験をしてのだから。


 ふっと鼻をくすぐる匂い。目をパッチと開いた。


「おはようございます、夢叶君」


 カーテンの隙間から漏れる朝日に照らされた頬っぺたが、うっすら赤くなっている。部屋着姿の最高にかわいい微笑みの推しが、確かに存在している。夢でも幻でもなかった。


「おはよう! ユイカちゃん!」


 今日もまた、奇跡の1日が始まる。




 昨日と変わらない日差しの強い晴天の下。生暖かい風が頬を撫でる。強烈な日差しだけど、一緒に買った帽子のおかげでそこまで熱くは感じず心地よく過ごせている。


 俺たちは今、隠匿魔法のかけられた森の中の道を歩いている。

 これにより魔法陣の外でもディアブロや魔物に発見されることを防いでいるらしい。便利だ。


 バルバロスとの激闘で興奮冷めやらぬ中、シュヴァリエさんとベネットさん、そして住民総出に見送られて、異世界で初めて訪れた街ガイアカグラから旅立った。

 魔王ルシファーにこの刃を突き付けるために、聖剣を探すために。


 凄く寂しいけど、この先にどんな未来が待っているか楽しみで仕方がない。


(あぁ……風がこんなにも、気持ちがいいものだったなんて知らなかった)


 達成感とこれからの旅路にワクワクして胸が躍りして、人生で初めての感覚である大自然の一部となれているような爽快な気分包まれている。自然と顔がほころぶ。


 それだけではない。


 1メートル離れた隣を歩く、想い人がいてくれる。


「ねぇ夢叶君」


 視線が重なる。ユイカちゃんの綻んだ顔に木漏れ日が照らされ、どこか儚げで優美な雰囲気を醸し出していて、心臓がドキッと跳ね上がった。綺麗だ。


「どうしたの?」


「ちょっと聞きたいことがありまして」


 どこか緊張した面持ちへと変わる。


「私は、夢叶君が思っているよりもずっと面倒で厄介な性格をしているんですよ。例えば、態度だけではなく言葉にも表わしてくれないと満足できなかったり……」


 そこまで言うと言葉を止め、目を閉じて、緊張を解すかのように深呼吸を始めた。


 風と葉が擦れる音、小鳥のさえずりに混じって小さな呼吸音だけが聞こえる。音は聞こえているのに静寂のような感覚。でも気まずくなく、むしろ癒される。


 数秒後、ゆっくり目を開き、視線が重なった。ライトグリーンの瞳は覚悟が決まったような力強さはあるものの、俺の心境とは裏腹にどことなく不安そうに揺らいだ。


「夢叶君……この1日で何か心境に変化はありましたか?つまり、その、言葉を濁さなければ……実際に私と会って時間を過ごして、何か心変わりはありましたか?」


「……っ~!!!」


 少し不安にそうにしていた理由はこれだったんだ、と理解した瞬間に、一気に鼓動が加速して、顔が熱くなった。だって、俺も同じことに不安を感じてしまっていたから。


 出会った時からずっと俺に対して好意的に接してくれて、壁も作らずに距離も3メートルよりも近づいてくれていた。そして表情も豊かで、ころころと変化していた。照れて、笑って、怒って、得意顔も見せてくれて。


 でも不安は付きまとっていた。


 接していくうちにがっかりさせてしまうのではないかと、怖くて。


 同じような事に不安を感じていたとは思わなかったけど、でもその事を知れて嬉しい。同じことに不安を感じていたんだから、今までの不安は杞憂に終わったという事の何よりの証明となるから。


 1ミリも視線を逸らすことなくライトグリーンの瞳と合わせる。胸が高鳴り、鼓動が鼓膜を刺激する。心が和んで自然と笑顔になれる。


(あぁ……これが人を好きになるってこと、なんだね)


 自分の気持ちと向き合いながら、言葉を紡ぐ。



「もっと──好きになったよ」

 


 こんなにも短い言葉だけど何度も声が震えそうになるのを必死に抑えて、最後まで言い切れた。


 その言葉が届いた瞬間、不安で揺らいでいたライトグリーンの瞳は大きく見開かれ、そして安堵の表情へと変わった。気恥ずかしそうにしながら前髪を触り、伏目になり、安心したように頬を緩ませた。不安は消え去ったようだ。


「新しい一面と、知っていた一面を間近で見れてもっと好きになった。態度と言葉が合わさっていないと不安を感じちゃうのは、面倒でも厄介でもないよ。その不安をしまい込まずに言葉に出してくれるのも、何にも負けない覚悟をもって夢に向かって進み続ける姿も、少し恥ずかしそうにしながらも甘いものに目を輝かせて食べて心の底から幸せそうにしている笑顔も、褒められて時に素っ気ない言葉で返すけどそれとは裏腹に得意顔になって嬉しそうにしている所も、寄り添いながら大丈夫、何も心配いらないと言い切って安心させようとしてくれる所も、照れて頬っぺたを赤くして嬉しそうに最高の笑顔をしてくれるのも……可愛らしくてカッコよくて魅力的で尊敬できて、もっともっと好きになりました!」


 言い終わる頃には鼓動が激しく脈を打ち、体の中に太陽があるかのように全身が熱くなっていた。特に顔が熱いし、足は震えそう。でも心は雲一つない快晴の様に晴れ晴れとしていて爽やかな気分だ。


 一方、ユイカちゃんは─。


「………フフフン」


 頬をほんのりと赤く染めて前髪を触って恥ずかしそうにしているものの、ご満悦のようで胸を張って口角をあげ、得意顔に近いような満面の笑みを浮かべている。かわいい!!


 とにかく嬉しそうにしてくれていて安心した。その表情につられて気が付いたら俺も弾けんばかりの笑顔になっていて、気が付いたら互いに照れくさそうに笑いあっていた。


 やっぱり好きな人と一緒に入れるのは最高だ。何でもできてしまうと思うほどに絶対的な自信が溢れる。元の世界では味わうことがなかったけど、きっとこれが『甘酸っぱい青春』なのだろう。


 まだこの先の言葉は紡ぐことができないけれど、いつの日にか言えると信じて、今はこの『特別な言葉』を胸の奥にしまうとしよう。


「では私も……勇気を出しましょう」


「はい?」


「夢叶君だけに押し付けてしまうのは私の信義に反しますので……」


 そう言って一度深く息を吸い、意を決したように一歩踏み込んだ。その距離は1メートルから縮まり、約50センチ。互いの小さな息遣いがはっきりと聞こえてしまうほどに近い。


(はわぁぁぁああああ……ち、近い!!!)


 1メートルというテリトリーよりもさらに近づいてくれる破格の距離にどぎまぎして、声にならない叫び声を心の中で絶叫してしまった。落ち着いてきていた鼓動は再加速し、轟音のような鼓動が耳をつんざくように鳴り響く。血の流れが激しさを増し、全身が熱い。緊張して額から汗が垂れてきて頬を伝って落ちていく。


 この近さで留まり続けているのは初。心臓がバクバクと音を立てるのも無理はない。 


 帽子から覗く艶のある水色髪のベリーショート。まっすぐ向けられたライトグリーンの瞳とそれを縁取る長いまつ毛。健康的で光を薄く反射している滑らかできめ細かな肌は、少し赤く染まっている。その全てがいつもよりも鮮明に、それでいて輝いて見える。


 ほんの一歩、されど一歩。


 この近づいた距離は、決して小さなものではない。


「この距離を縮めようと思ったのは、夢叶君だからです。素直すぎるくらいに素直に想いを伝えてきて、その想いを持ってどこまでも誠実で笑顔にさせたいと思ってくれて。実直に夢を叶えるために全力を尽くしていく姿も、わがままも悲しみも喜びも共に分かち合い、ありのままの私も全部受け入れてくれるその心も……。だから近づくことができました。これからもこの距離を縮めていければいいと思っています。だから変わらずに、そのままでいてください。これからもよろしくお願いします──夢叶君」


 微笑みながらまっすぐ見つめられたライトグリーンの瞳は冬の星空のようにどこまでも透き通り、純粋で優しく煌めいて暖かく包み込んでくれた。


 美しくて綺麗でどんな言葉ではその全ての魅力と、その美しさを言い表すことのできはしないが、これだけは言える。この最高の笑顔を見られて、この想いを受けられたことは人生の宝であり、誇りであり、最高に幸せだ。一生忘れる事はない。


「勿論! 俺は変わらないから安心して。たまに素直すぎちゃうこともあるけど、このまま変わることはないよ。約束する! これからもよろしくお願いします──ユイカちゃん」


 最高の笑顔で嬉しそうに小さく頷いて返してくれた。間違いなく今が人生で一番幸せな時だ。


 この幸せがずっと続いてほしい、ずっと側にいたいと叶う事のない夢を、わがままながら願わずにはいられなかった。これからの戦いがどうなるのかはわからないけど、大好きな人と一緒ならどんな困難も乗り越えることができる。


 最後は離れ離れになるとわかっていても必ず勝って、彼女を元の世界に帰す。

 考えただけで寂しくて泣きそうになるけど、その決意は揺らぐことはない。それまでに、この限られた時間を余すことなく生きる。


 奇跡に満ちた俺たちの戦いは、始まったばかりだ。


 人生最悪な日に、人生最高の出会いをした。


 全ての行動に意味があるという人がいるが俺の場合は──『これまでの人生はこの最高の出会いと時間のためにあった』。


 今はまだ序章に過ぎない。


 でもそんなことは関係ない。


 不安に思うことなどない。


 好き人が──ユイカちゃんが一緒にいてくれれば、どんなことでも乗り越えていける。


 さぁ……夢を叶えにいこう。



ここまで、ご一読いただきありがとうございました!

一旦ここで物語を締めますが、これもいつか続きを書いていこうかと思います。その時はぜひ読んでいただけたら幸いです。

1000PVも突破し、多くの人に読んでいただけて嬉しかったです。


改めてありがとうございました!

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