後編
三年後、私は王都の城にいた。
第一王子レンフォードが呪いを受けて寝たきりになっているのだという。
それで私に浄化任務が下ったのだ。
私は城の廊下を駆け足で進む。
ところがレンフォードの部屋に辿り着く直前、立ちはだかる兵士に止められてしまった。
「どいてください!」
「これより先の立ち入りは許可されていない」
「レンフォード様の治療に来たのです!」
「報告は受けていない。帰れ」
兵士は頑なに行く手を阻んでくる。
任務で来たというのにどういうことなのだろう。
明らかに私の来訪が通達されていない様子だった。
(まさか誰かが妨害している……?)
私はその可能性を訝しむ。
同時に背後から怒鳴り声が発せられた。
「一体何の騒ぎだ!」
やってきたのは第二王子クリスだった。
三年前より背が伸びて逞しくなっているが、意地悪そうな表情は当時のままである。
兵士はクリスに報告をする。
「この者がレンフォード様の治療に来たと言っているのですが……」
「ほう」
クリスが私をじろじろと観察してくる。
その目つきに嫌なものを感じた。
彼は下卑た欲を隠さず私に提案する。
「聖女にしておくには勿体ないな。俺の愛人になるか」
「…………」
この三年で私は大幅に痩せた。
過酷な鍛錬を乗り越えて、聖力を使いこなせるようになり、贅肉が付かなくなったのだ。
それがクリスの好みだったらしい。
嫌悪感を覚えながら、私は無言でクリスに詰め寄る。
クリスは感心した様子で微笑んだ。
「ふむ、素直だな。いいだろう、特別に――」
次の瞬間、私は渾身の力でクリスをぶん殴った。
クリスは鼻血を噴き出しながら吹っ飛んで壁に頭を打つ。
私は驚愕する兵士を押し退けると、そのままレンフォードの部屋へと突入する。
レンフォードはベッドで静かに横たわっていた。
意識はなく、ただ苦しそうに呼吸を繰り返している。
私はすぐさま駆け寄って浄化を開始した。
レンフォードの顔に手を添えて聖力を注ぎ込むと、彼の表情が次第に良くなっていく。
やがて彼は目を開けて私を見つめた。
安堵した私は優しく声をかける。
「レンフォード様、あなたは……」
刹那、レンフォードが私を抱きしめた。
彼は振り絞るような声で言う。
「ありがとう。君のおかげで目覚められた」
「聖女として当然のことをしただけです」
「そんなことはない。君は見違えた。初めて会ったあの時から途方もない努力を積んだのだろう。単なる外見ではない……内面の成長を感じる」
彼の言葉に私は驚く。
「あの時と別人なのに……私だと分かったのですね」
「間違えるものか。今も昔も君は美しい」
部屋の扉が乱暴に開かれた。
顔面蒼白のクリスがふらつきながら室内に入ってくる。
彼は憎々しげにこちらを睨んでいた。
「ぐぅっ、貴様……呪いを……!」
「呪詛返し……犯人は貴方だったようですね」
私は冷淡に指摘する。
浄化の際、私は呪いの発生源を辿った。
それによってクリスの企みであることが分かったのだ。
彼は懐に呪物を隠し持っていた。
ベッドから起き上がったレンフォードは悲しげに問いかける。
「クリス……なぜ私を……」
「貴様を殺せば、俺が王になる……! せっかくの計画が、すべて台無しだッ!」
そう叫んだクリスは吐血して倒れた。
逆流した呪いで苦しむ彼は、ぎろりと私を見て命じる。
「おいお前っ! 俺の呪いを、早く浄化しろ!」
「お断りします」
「な、なぜだ!?」
激昂するクリスに対し、私は静かに言い返した。
「白豚聖女と蔑んだのは貴方でしょうに」




