光
焦れ焦れですみません。片思いだから…。笑。意地っ張りの、頑張り屋さんの片思い。
目が覚めたら。ベッドの上だった。
身体が熱い。横になっているのに、霞む世界が回る。嘔気が酷い。喉が痛い。身体を動かしたいのに、指一本動かない。
どうして。
なぜ。
ああ。そうだった。私、矢を受けたのだった。
ということは、治癒師から治癒を受けたのだろう。これだけ気分が悪いということは、やはり毒矢だったか。
レイローズ様に当たらなくてよかった。あの方は薬剤に非常に弱い。腕の傷は消えるだろう。私が、数日、この治癒の反動に耐えればいいだけだ。
仕事…。休むしかないか。引継ぎ、できていないけれど。ああ。わかるかな…。
朦朧とした意識が浮上したり、沈んだり。
昼夜の区別もできない。
ふと、目を覚ましてみると、気だるい中、やっと身体が動くことに気が付いた。よかった。ゆっくり手を動かす。ああ。自分の手が重い。腰が痛い。寝すぎだ、きっと。
ゆっくりと体を横向きに変える。
ぼんやりとした視界の中で、誰かが座っているのがわかる。
「起きたか。」
声をかけられて。驚きで息が止まりそうになる。その声は…。その人は…。
驚きと、喉の渇きで、声など出ない。
どうして。あなたがいるの?
動揺して、何をしたらいいのかわからずに固まってしまう。じっとしていたら視界が鮮明になって、相手をとらえる。
ルークスタッド様。
どうして。どうして…。
「私は護衛だ。」
驚いた私の答えを先に言われる。
メイドを呼ぶベルが鳴らされ、メイドがやってくる。目を覚ました私を見て喜び、家族がかけつける。
皆が、順番に、私に声をかけ、私の世話を焼きたがる。皆の温かさの中に包まれながら、でも、彼の存在が気になってたまらない。
「ゆっくり休むのよ。」
一通り、話した後、皆が部屋を出る中、当然のように、部屋に残るルークスタッド様。
「一体、いつから…。」
「倒れた時から。」
すぐに返事が返される。
ずいぶん何度も目が覚めて、苦しくて。何日も経ったと思っていたのに、迅速な対応で治療をされたらしく、まだ1日しか経っていなかった?
としても。倒れた時から??
眩暈がしそうだ。これでも、未婚なんだけれど。なぜ、私の護衛の任に就かれたのは分からないが、部屋に男女で二人っきりなんて、どう考えてもおかしいだろう?一体、私はどうしたらいいの?何を話せばいいのかわからない。ずっと。恋焦がれていた人が、目の前にいるというのに。
沈黙が落ちる。
内心、心臓はバクバクしているし、手は震えそうなのを必死に抑えているし。
本当に、一体どうしたらいいのだろう。
「なぜ、そんなに緊張する?」
静かに問われる。そんな事、聞かれても…。
「よく、私を見ていただろう?あれは、なぜだ?」
バレていたの??いや。もう、そうかもしれないけれど。恥ずかしくて泣ける。
返事なんて、できるわけないじゃない。
「…まあ、悪意が無いのならば、構わないが。」
なんて、違う方向なんだろう。でも、この状態で、あなたが好きなんですなんて、言う勇気なんて、私には無いわ。しかも。寝衣じゃないの。もう、突っ込みどころがありすぎて、ため息も出ない。いや、でも、泣きそう。こんな弱ったみっともない姿を見られるなんて。
「疲れたのか?寝ておけ。私がいるから、安全だ。」
私にかけられた言葉。優しい、言葉。
でも、それは、仕事だからかけてもらえた言葉で…。
ふいに、涙が零れ落ちる。
ああ。やってしまった。布団を手繰り寄せ、泣き顔を見られないように、隠す。堰を切ったように溢れ出た涙は、もう止めることは出来なくて。止めようとすると、余計に抑えがきかなくて。
必死で嗚咽をこらえていると、ふいに、頭を撫でられる。
誰に?
ルークスタッド様?
「大丈夫だ。」
低い声で囁かれて、とうとう、わたしの我慢は脆くも崩れ落ちる。
もう。我慢ができない。しゃくりあげて泣く私を撫でて下さる、ルークスタッド様の手の温かさと。優しさと。そして。それが、私個人への感情でされているのではなく、任務なんだという悲しい現実を噛みしめながら泣いて。そして、いつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めたのは、翌日、昼だった。
身体は、だるい。重くて。そして、ルークスタッド様はもういなかった。
夢だったのではないだろうか。
でも、泣きはらした目が。確かに、昨日の事は現実だったのだと事実を伝える。
帰ってしまったルークスタッド様を想いながら、そして、少しほっとする自分がいた。こんなにみっともない姿を見られて。合わせる顔がない。せめて。落ち着く時間が欲しい。
それでも。なんて幸せな時間だったのだろう。
二人っきりの時間を共有するなんて、これ以上の幸せはない。私はとてもみっともなくて。残念だけれど。
そういえば。倒れた時から一緒にいると言われなかったか?
では。あの時、倒れた私を支えて下さったのは。ルークスタッド様だったのだろうか。
いつもの、我が家。イングの屋敷。馴染みのメイドに世話をしてもらいながら。あの人のことばかりを考えていた。
届かない想い。
声に出す事ができなかった想い。
ああ。それでも。それでも。
あなたのことが好きです。
明るい日差しの下で、美しい庭園も色あせてみえるほどに。あなたを見ていたい。
私の光。
子供の頃から。怖い夢を見ると、なぜか一本の光が私を救い上げた。
ずっと。ただの夢だと思っていた。でも、違う。私は、そうやって助け出されたのだ。あれは、紛れもなく現実に起きた事で。
決して目を離すことのできない私の光。それは、私に生を与えた、私の希望。