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黎明  作者: 明月 えま
7/11

 焦れ焦れですみません。片思いだから…。笑。意地っ張りの、頑張り屋さんの片思い。

 目が覚めたら。ベッドの上だった。


 身体が熱い。横になっているのに、霞む世界が回る。嘔気が酷い。喉が痛い。身体を動かしたいのに、指一本動かない。


 どうして。


 なぜ。


 ああ。そうだった。私、矢を受けたのだった。


 ということは、治癒師から治癒を受けたのだろう。これだけ気分が悪いということは、やはり毒矢だったか。


 レイローズ様に当たらなくてよかった。あの方は薬剤に非常に弱い。腕の傷は消えるだろう。私が、数日、この治癒の反動に耐えればいいだけだ。


 仕事…。休むしかないか。引継ぎ、できていないけれど。ああ。わかるかな…。


 朦朧とした意識が浮上したり、沈んだり。


 昼夜の区別もできない。


 ふと、目を覚ましてみると、気だるい中、やっと身体が動くことに気が付いた。よかった。ゆっくり手を動かす。ああ。自分の手が重い。腰が痛い。寝すぎだ、きっと。


 ゆっくりと体を横向きに変える。


 ぼんやりとした視界の中で、誰かが座っているのがわかる。


「起きたか。」

 声をかけられて。驚きで息が止まりそうになる。その声は…。その人は…。


 驚きと、喉の渇きで、声など出ない。

 どうして。あなたがいるの?


 動揺して、何をしたらいいのかわからずに固まってしまう。じっとしていたら視界が鮮明になって、相手をとらえる。


 ルークスタッド様。


 どうして。どうして…。


「私は護衛だ。」

 驚いた私の答えを先に言われる。


 メイドを呼ぶベルが鳴らされ、メイドがやってくる。目を覚ました私を見て喜び、家族がかけつける。


 皆が、順番に、私に声をかけ、私の世話を焼きたがる。皆の温かさの中に包まれながら、でも、彼の存在が気になってたまらない。


「ゆっくり休むのよ。」

 一通り、話した後、皆が部屋を出る中、当然のように、部屋に残るルークスタッド様。


「一体、いつから…。」


「倒れた時から。」

 すぐに返事が返される。


 ずいぶん何度も目が覚めて、苦しくて。何日も経ったと思っていたのに、迅速な対応で治療をされたらしく、まだ1日しか経っていなかった?


 としても。倒れた時から??


 眩暈がしそうだ。これでも、未婚なんだけれど。なぜ、私の護衛の任に就かれたのは分からないが、部屋に男女で二人っきりなんて、どう考えてもおかしいだろう?一体、私はどうしたらいいの?何を話せばいいのかわからない。ずっと。恋焦がれていた人が、目の前にいるというのに。


 沈黙が落ちる。


 内心、心臓はバクバクしているし、手は震えそうなのを必死に抑えているし。


 本当に、一体どうしたらいいのだろう。


「なぜ、そんなに緊張する?」

 静かに問われる。そんな事、聞かれても…。


「よく、私を見ていただろう?あれは、なぜだ?」

 バレていたの??いや。もう、そうかもしれないけれど。恥ずかしくて泣ける。


 返事なんて、できるわけないじゃない。


「…まあ、悪意が無いのならば、構わないが。」

 なんて、違う方向なんだろう。でも、この状態で、あなたが好きなんですなんて、言う勇気なんて、私には無いわ。しかも。寝衣じゃないの。もう、突っ込みどころがありすぎて、ため息も出ない。いや、でも、泣きそう。こんな弱ったみっともない姿を見られるなんて。


「疲れたのか?寝ておけ。私がいるから、安全だ。」

 私にかけられた言葉。優しい、言葉。


 でも、それは、仕事だからかけてもらえた言葉で…。


 ふいに、涙が零れ落ちる。

 ああ。やってしまった。布団を手繰り寄せ、泣き顔を見られないように、隠す。堰を切ったように溢れ出た涙は、もう止めることは出来なくて。止めようとすると、余計に抑えがきかなくて。


 必死で嗚咽をこらえていると、ふいに、頭を撫でられる。

 誰に?

 ルークスタッド様?


「大丈夫だ。」

 低い声で囁かれて、とうとう、わたしの我慢は脆くも崩れ落ちる。


 もう。我慢ができない。しゃくりあげて泣く私を撫でて下さる、ルークスタッド様の手の温かさと。優しさと。そして。それが、私個人への感情でされているのではなく、任務なんだという悲しい現実を噛みしめながら泣いて。そして、いつの間にか眠ってしまっていた。



 目が覚めたのは、翌日、昼だった。


 身体は、だるい。重くて。そして、ルークスタッド様はもういなかった。

 夢だったのではないだろうか。


 でも、泣きはらした目が。確かに、昨日の事は現実だったのだと事実を伝える。


 帰ってしまったルークスタッド様を想いながら、そして、少しほっとする自分がいた。こんなにみっともない姿を見られて。合わせる顔がない。せめて。落ち着く時間が欲しい。


 それでも。なんて幸せな時間だったのだろう。

 二人っきりの時間を共有するなんて、これ以上の幸せはない。私はとてもみっともなくて。残念だけれど。


 そういえば。倒れた時から一緒にいると言われなかったか?

 では。あの時、倒れた私を支えて下さったのは。ルークスタッド様だったのだろうか。


 いつもの、我が家。イングの屋敷。馴染みのメイドに世話をしてもらいながら。あの人のことばかりを考えていた。


 届かない想い。

 声に出す事ができなかった想い。


 ああ。それでも。それでも。


 あなたのことが好きです。


 明るい日差しの下で、美しい庭園も色あせてみえるほどに。あなたを見ていたい。


 私の光。


 子供の頃から。怖い夢を見ると、なぜか一本の光が私を救い上げた。

 ずっと。ただの夢だと思っていた。でも、違う。私は、そうやって助け出されたのだ。あれは、紛れもなく現実に起きた事で。


 決して目を離すことのできない私の光。それは、私に生を与えた、私の希望。

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