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黎明  作者: 明月 えま
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双玉

 きらびやかな夜会の始まり。


 美しい桃色がかった夕焼けを眺めながら、準備をする。何か変わったのかと聞かれたら、否だ。私は24歳になっていた。もう、令嬢としては充分な行き遅れだ。


 あの日。そう、涙が枯れるほどに泣いたあの日から。私は仕事の鬼となった。そして、一流の令嬢になるべく全力で自分を磨いた。

 仕事と美容、社交。成果はすぐに現れた。だが、私の望む結果は得られなかった。


 私が唯一望んだもの。あの人からの眼差しは、一度も私に向けられる事は無く。

 誰も知らない夜更けに、何度泣いた事だろう。


 レイローズ様は、私の想いを知って、私にグラート家の金の紋章が小さく入った花の髪飾りをくださった。紋章は、裏に刻印してあるので、一見すると、ただの髪飾りだ。

 そして。同じグラートの刻印が入った花の文様のカフスボタンをルークスタッド様に贈られた。


 ルークスタッド様が忠誠を誓われたレイローズ様からの贈り物。無碍にされることも無く、常に身につけられている。どう思われているのだろう。きっと、同じ花文様だとは気づかれているはずだ。だが、一言の言及も無い。


 尋ねることすらできない。苦しい想い。


 努力の甲斐あってか。私はまだ、嫁に行き遅れと言われる事も無く、高嶺の花だと社交界では言われている。それでも、何も変わらない。

 沢山舞い込んできていた縁談も、最近は諦めが入ったのか、めっきり減った。それでも、私に声をかける男性は後を絶たない。だが、あの人ではない。心はカケラも動かない。あの人じゃないと駄目なんだと、自分の想いを証明しているようで。


 それから、上手く男性をかわす方法も身につけ。作り笑いも上手になった。むなしいな。


 ふと、自嘲する。どうして、こんなに今日の夕焼けは桃色なのだろう。空は不思議だ。自然は不思議だ。時に厳しく。美しく。


 だが、美しい空と反比例するように、私の中は暗い。暗い澱が貯まっていく。

 今日は、会えるだろうか。一目、お会いするだけでいいのに。まるで、恋に恋する少女のような発想。こんな年になって。全く、笑っちゃうわ。


 夜会入りの準備を済ませて会場に向かう。


 豪華な宝石。美しく飾り立てられた花々。美しいテーブルクロス。キラキラと輝くシャンデリア。椅子カバーの豪奢な天鵞絨が会場で浮く事無く、品良くそこにある。


 思わず聞き惚れてしまう音楽。美しいドレスを纏った令嬢達。まるで、絵や本の中の出来事のようだ。まるで、私だけが場違いな場所に入り込んでしまったような違和感。


 作り笑いでいつも通り。つまらない。平常通り。


「あらあら。退屈そうね。」

 うふふとレイローズ様が笑う。

「色々と趣向を凝らしても。心に響かない時がありますの。」

 見抜かれてしまった事に内心苦笑して話す。そこに割り込むのは、空気の読めない伯爵令息。

「今晩は。イング令嬢。一曲、踊っていただけませんか?」

 一気に気分が落ちる。あなたではないの。私が待っているのは。ため息が出そうになるのを抑えて笑顔を作る。この令息、顔が良いと浮名を流しており、有名だ。私がなびくと思ったのだろうか。それとも、何か賭けの対象にでもされているのだろうか。

「うふふ。今日は私のお話相手なの。取り上げないでいただけます?宵待月のこの子の相手が誰なのか、話している所だったのよ。私のお気に入りなの。根無し草には任せられないわ。」

 私が話すより先に、レイローズ様がお答えになる。ああ。終わったな、この令息。


 あちらこちらで遊び歩いて。何人もの令嬢を泣かせて。それを情報通のレイローズ様がご存知ない筈が無い。

 私を守られたというより、多くの令嬢を泣かせた事に対するお返しなのだ。優しい、言葉だけのお返しは、さざ波のように広がるだろう。

 レイローズ様に苦言をもらうようでは、この社交界では上がっていけない。それだけ、影響がある方なのだ。

 同じ水属性の私が並んでいると、いつしか、双玉と呼ばれるようになった。

 宝玉に例えられるのは、まだ早い気がする。まだ、私は半貴石程度の煌めきしかないだろうに。それでも、私一人でいても蒼玉と呼ばれる。


 不思議なものだ。


 夜会中なのに、そう物思いにふけりながらレイローズ様と、伯爵令息のやり取りを見ていた時だった。


 何か、気配を感じて、無意識に立ち上がった。その瞬間、左腕に痛みが走る。

 自分の左腕に。細い短い矢が刺さっている。


 最悪だ。怪我で済むのだろうか。だが、私に当たって止まったため、多分、狙われたであろうレイローズ様にお怪我は無い。ああ。宰相様、激怒されるだろうなあ。これ。毒とか塗ってないだろうな。

 もし。そうだったら。


 本当に。


 最悪じゃないか。


 そう、思いながら、意識が遠のいていくのを感じる。


 倒れ行く私を、誰かが支えた。 


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