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黎明  作者: 明月 えま
11/11

私の大事な宝物

後日談です

「いやああああああ。嘘よ。嘘よ。起きて。ひいおばあ様、起きてってば!」

 泣きじゃくる私を抱きしめてくれたのは、リノ兄さまと妹のナターリアだった。お父様と、お母様が、頭を撫でてくれていたが、私はどうでもよかった。


 どれくらいそうして、家族を困らせただろう。わかってる。わかってるの。棺に入れないといけないとか、ヒソヒソと使用人が話しているのが聞こえるの。いつも優しかった執事でさえ、嫌な雰囲気なの。でも、嫌なの。嘘でしょう?おばあ様。起きて。お願い。起きて。

 私を、置いていかないで。


 ひいおばあ様のベッドの横を離れない私に、お母様が言った。

「ひいおばあ様から、あなたにと、預かっているものがあります。」

 そう言われて、少し驚いて、顔を上げてお母様を見た。


「受け取りたかったら、来なさい。」

 静かに、でも、凛として言われたその言葉に、なぜだか、私は、ヨロヨロと立ちあがった。


 リノ兄さまと、お父様が支えてくれた。


 引きずられるように、隣室へ連れて行かれる。


 ひいおばあ様の書斎。

 お母様は、一つの引き出しから、所どころ、汚れているが美しい花の文様が入った白地の箱と、美しい木目のいかにも、真新しい箱をとりだし、順番に机の上に並べた。

「白いこちらの箱は、ひいおばあ様からです。そして、こちらの木箱は、お父様、私、リノ、ナターリアからです。ひいおばあ様からの箱に、手紙が入っていると聞いています。お読みなさい。」

 お母様の言葉に、白い箱の蓋を開ける。手が、震える。




大切なひ孫、ティアへ。


 この手紙をあなたが読んでいるということは、私は無事に旅立ったのでしょう。ティア。あなたは、私がひいおじい様をなくした時のように、泣いたのかしら。あなたのお父様や、お母様、リノやナターリアを、泣いて困らせてはいないかしら?

 知っているかもしれないけれど。私は、隣国ホバルで生まれて、先だっての宰相リオン様、その奥様レイローズ様、そして、あなたのひいおじい様になられるルークスタッド様に助けられて、この国に来たの。そして、イング家の養子になった。実子ではないという思いで、家族に溶け込めず、ひいおじい様のところに転がり込んで過ごしていたわ。

 ねえ、ティア。私たち、そっくりね。

 でも、おじい様が亡くなって気が付いたの。私が壁を作っていただけで、家族は、みんな私の事を心配してくれていたの。ティア。もう、わかっていると思うけれど。あなたも、そうよ。皆が、ティアを心配している。

 イング家では、最も相応しいと思う人に、自分が使っていた筆を託すのよ。私は、稀代の鬼の文官と呼ばれたひいおじい様から無骨な筆を譲り受けたわ。だから私は、私の筆をあなたに託すわ。本当は、もう、イング家ではないのだけれどね。

 あなたは、あなたらしく生きるのよ。

 あなたは、私よりずっと賢いわ。大丈夫。私が去っても、あなたには、あなたを思ってくれているたくさんの人がいるの。家族も、使用人も。

 顔をあげなさい。

 私は、何日も泣きっぱなしだったから、ひいおじい様の葬儀の記憶が無いのだけれど。

 ティアは凛として立って。私に葬送の花を手向けてくれないかしら?


 愛しているわ。大切なティア。

 心配する事なんて、何も無いわ。あなたは、ひとりじゃないから。

 あなたの幸せを願っている。ずっと。ずっと。


                 大切な孫娘へ。ひいおばあ様より。メイア・イング・ベゼル






 涙があふれて止まらない。イングのしきたりによって送られた形見。

 病床で書かれた文字は、所々、手に力が入らなかったのか、少し弱弱しく歪んでいる所もあったが、生き方を垣間見るような気がするほどに、美しかった。涙で手紙を濡らさないように、震える手でテーブルの上に手紙を置き、俯いて泣いた。家族が代わる代わる私を抱きしめてくれた。ひいおばあ様の言う通りだ。私はとても愛されている。わかっていたの。今まで素直になれなくてごめんなさい。

 そうして、使い古されたひいおばあ様の木箱は、生涯、私の宝物となった。






「凄いな。さすが、メイア様のひ孫。」

 ヒソヒソと囁かれる声に、口角が緩む。ダメダメ。気を引き締めて。真面目な顔よ。メイアひいおばあ様は、伝説の一等書記官だ。その美貌だけではなく、仕事上でも数々の語り継がれるエピソードを持つ。青の文官と呼ばれているが、仕事の厳しさに於いては氷水だと言われている。そんなひいおばあ様の血を引く者として、恥じないように生きていく。


 王城公文書館を出て、誰も来ない裏の連絡通路に来た。自然と頰が緩む。

 お日様を見上げて、手を広げて、伸びをして。小さな声で、「やった~」って言った。やったよ。ひいおばあ様。一等書記官に20歳最短合格!


「なんだ君、そんな顔もできるのか?そうやってると、ふつうの女の子だな。」

 ギョッとして振り返ると。現、イング家嫡男がいた。2つ年上で、昨年の一等書記官合格者だ。

 よりによって。なんで。なんでこの人がいるんだ。明日から、一緒の職場で働くのに。先輩ですよ。あああ。恥ずかしい。

「頑張れよ。」

 笑顔で、爽やかに去っていく彼。



 ねえ。まさか。2年後に彼と結婚するなんて、思いもしなかったですよ?

 爽やかそうなのに、実は結構策略家で。それがイング家だなんて。ひいおばあ様?教えてくれててもよかったんじゃないの~???

 上手に転がされて、結婚しましたよ。はい。やった〜を見た時から、嫁にすると決めてたんですって。

 え?いや。不満なんてないです。旦那様大好きです。恥ずかしいので、これ以上は…。



 ひいおばあ様。私、とっても幸せです!


 今なら大きな声でも言えるよ。

「やったーーーー!!!!」って!


これにて、完結とさせて頂きます。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] メイアとルークの物語が完結、メイアの曾孫ティアは策略家のイング家の嫡男に見初められて結婚しました。いろいろとつながってますね。
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