第一話 春風の旅人
久しぶりに投稿
王都へ続く街道は、春の陽気に包まれていた。
道端には名も知らない花が咲き、柔らかな風が草を揺らしている。
遠くで鳥が鳴いた。
その声に混じって、荷馬車の車輪が軋む音が聞こえる。
リーヴェ村の朝だった。
大きな街ではない。
立派な城もなければ、有名な名所もない。
それでも旅人はよく訪れる。
王都と辺境を結ぶ街道の途中にある、小さな宿場村だからだ。
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「よっと……。」
雑貨屋の前で木箱を持ち上げたガルドは、小さく息を吐いた。
心なしか、腰が重い。
別に痛いわけではない。
ただ、若い頃のようにはいかない。
そんな年齢になっただけだ。
「ガルドさん、あんたまた腰かい?!」
斜め向かいのパン屋から声が飛んでくる。
顔を上げると、パン屋のおばちゃんが豪快に笑っていた。
「人聞きが悪いな。ちょっと重かっただけだ。」
「去年も同じこと言ってたよ!」
「そうだったか?」
「その前の年も!」
「…覚えてないな。」
おばちゃんは変わらず豪快に笑う。
ガルドもつられて笑う。
こういうやり取りは嫌いではない。
多分、向こうもそうだろう。
店の扉を開けようとしたところで、後ろから軽やかな足音が聞こえた。
「おはようございます!」
振り返ると、リナがいた。
宿屋の娘だ。
栗色の髪を後ろで束ね、朝から忙しそうにしている。
「おう、おはよう。」
「今日は早いですね!」
「お前が遅いんだ。」
「失礼ですね!」
口を尖らせる。
その顔を見て、ガルドは薄く笑った。
「朝飯は?」
「食べました!」
「嘘だな。」
リナはフイっと目を逸らした。
適当に言ったが、どうやら当たっていたらしい。
ガルドは店の中から、自分の朝食用に用意していたパンとカップに入ったスープも持ってくる。
「ほら。」
「……ありがとうございます。」
顔をほんのり赤らめながらも、素直に受け取るあたり、恥ずかしさもあるのだろう。
ガルドは自分の分のパンとカップスープを新たに用意し、リナと一緒に店先の長椅子に腰掛けた。
リナはパンを小さくちぎって口へ運ぶ。
ガルドはカップスープを啜る。
特に会話はない。
それでも気まずさはなかった。
村人たちが行き交う。
誰かが挨拶をして、誰かが手を振る。
穏やかな朝だった。
そんないつもの朝の風景、朝の習慣。
特別ではない、けど確かに心地良い。
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だが、その日はいつもと少しだけ違った。
食事を終えたリナが宿屋に戻ってすぐ、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
荷馬車ではないらしい。
車輪の音が混じっていない。
ガルドは何となく顔を上げる。
街道の向こうから、一人の若者がやって来る。
遠目からの見た目は、二十歳前後。
遠くからでもわかる端正な顔立ち。
それに旅装束。
背中には立派な剣…か?よく見えない。
冒険者だろうか。
少し距離が縮まる。
やはり冒険者のようだ、背中の剣もかなり立派なように見える。
だが、それより気になったのは彼の表情だった。
疲れている…いや、やつれていると言っても過言ではない。
怪我をしている風ではなく、痩せているわけでもない。
それなのに、どこか張り詰めており、彼自身の危うさを感じる。
肩には無駄な力が入り、周囲を警戒するように目を動かしている。
まるで、休み方を忘れてしまった人間のようだった。
彼の視線がこちらを向く。
ほんの一瞬だけ目が合った。
ガルドは片手を上げる。
「よう」
彼は少しだけ驚いた顔をした。
ガルドは笑う。
「ちょっと店、寄ってかないか?」
春風が吹いた。
彼は数秒ほど黙り込んだあと、ゆっくりと、ほんの少しだけ、けれど確かに、首を縦に振った。




