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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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大舞踏会での断罪 5

 大庭園から外を見ていた貴族達の間を、開けた道を歩いていく。

 会場内の玉座へと至る階下。数段上がったところでオーリムの身体を借りた王鳥は足を止め、群衆を振り返る。


 どうやら各地に散っていた貴族達も、お茶会をしたご令嬢を含め、この騒動で会場内へと戻ってきたらしい。堂々とした佇まいの代行人と、それに付き従う王太子殿下を、何事かと皆注視している。


 王鳥はそんな貴族達を醒めた目で見渡し、すっと目を細めると言い放った。


()が高いぞ、人間共よ。余を誰だと思うておる?」


 大鳥達へのお披露目の時に聞いた、脳内に直接響く不思議な声だ。おそらく会場中に……いや、王城に居る者全てに届いているであろう感情を感じないその声は、だが聞いた途端、全員をその場で(ひざまず)かせるだけの威厳が込められていた。


 魔法ではないのだろう。人間如きでは太刀打ち出来ない圧倒的な王者の、神の言葉だ。ソフィアリアも王鳥の腕に抱えられながら、思わず頭を下げていた。


 チラリと見えたリスス・アモール公爵と側にいたプリモアは、オーリムと間違えた王鳥の真の姿に真っ青になっている。オーリムも代行人としての任を果たす時、それなりに威厳を放つようにはしているらしいのだが、所詮(しょせん)は人間が行う真似事であり、格が圧倒的に違う。その事をこの瞬間、まざまざと思い知らされているのだろう。


「さて、人間共よ。最近、余が選んだ代行人の偽物が社交界に出現しておったそうだな?」


 偽物、という言葉に会場内に動揺が走る。プリモアと一緒に社交をしていたらしいので、代行人の偽物であるアウィスという人間を見た事がある人も居たのだろう。もしかしたら代行人が社交界に出てきた事で、何とか渡りをつけようとした人もいたのかもしれない。

 だがそれは偽物だったのだ。偽物と繋がった事で王鳥の不興を買ったかもしれないと、顔を青褪めさせていた。


 そんな貴族達の様子を見渡しながら、王鳥は言葉を続ける。


「何を吹き込まれたのかは知らぬし、今回ばかりは見逃してやろう。が、それを余の代行人に求める事は許さぬ。責は全て、己が被れ」


 そう冷たく突き放すと、会場内の空気が冷える。王鳥の無言の圧力を前に、誰も異を唱える事など出来るはずがなかった。


 プリモアとの婚約を筆頭に、何かしらの交渉や関係を結んでいたとしても、責任は問わない代わりにオーリムにその話を持ち込むなと釘を刺したのだ。これで婚約もなかった事になる。……なかった事になると言っても建前の話で、偽物の代行人と婚約を結んだ事も、進んで紹介した事もなくなる訳ではないので、今後リスス・アモール公爵家は汚名を着せられる事に変わりはないのだが。


 ソフィアリア達ではこれ以上はどうする事も出来ないので、フィーギス殿下が上手くフォローを入れてくれる事を期待するしかない。本人は死を以て償うつもりだったらしいが、散々利用してきた彼らに対して、自分が居なくなった後もフォローくらいは何か用意しているだろう。そういう人だと信用していた。


「さて、次代の王よ」


「……はっ」


 フィーギス殿下は王鳥の側に寄り、胸に手を当て、(ひざまず)く。今は対等な友人ではなく、王と王が認めた臣下だ。


「余はそなたの言う通り、散々待ってやったぞ? だが、いくら人間間の(いさか)いであっても、そなたは時間をかけ過ぎた。今までは見逃してやったが、さすがに我慢ならぬのでな。アウィスとかいう偽物は既に処分してしもうた。加減を間違えて炭も残らんかったが、当然構わぬな?」


 どうやらそういう事にして、この偽物騒動を治めるつもりらしい。先程フィーギス殿下を突いていた事も、人間だけで事件を解決へと導けなかったからという事にするようだ。

 少々強引だが、王鳥に反論し、咎められる人はいない。おそらくこれが、一番平和に解決できる方法だったのだろう。


「お手を(わずら)わせて申し訳ございません。罰なら私めに、如何様(いかよう)にもお与えください」


後程(のちほど)な。偽物の闊歩(かっぽ)を見過ごす事など二度目はない。心得よ」


「御意」


 王鳥はフィーギス殿下の態度に、満足そうに頷いた。


 ソフィアリアの視界の端でふらりと倒れそうになるプリモアと、その肩を支える公爵の姿が映った。

 婚約をして、仲睦まじく過ごしていたのだ。たとえ相手が偽物でも過ごした時間は本物で、そんな相手の凄惨な末路を聞いて、さすがにショックを受けたのだろう。カタカタ震えつつ、でもこの場で意識を手放すという醜態は避けるのだから素晴らしくよく出来たご令嬢だと思う。今後まともな縁談は難しいかもしれないが、なんとか幸せになってほしいと願うしかなかった。


「ああ、そうだ。忘れておった。リスス・アモール公爵はおるか?」


「はっ、ここに」


 公爵は娘の事を気にしつつ、こちらに歩み寄ろうとしたのだが、王鳥は手で制する。公爵はその場でフィーギス殿下と同じく胸に手を当て、深く、地面に頭を擦り付けそうな勢いで頭を下げた。


此度(こたび)は難儀であったな。余が許そう。一切を気にするでないぞ」


「……ありがたき幸せに御座います」


「余と代行人を間違えた事は、一度目は許そう。だが二度はないと思え。……が、娘の為に命を張って余に反発した気概は良し。余の(ちょう)を与えよう。代行人はやれぬが、何か望みはあるか?」


 そう言う王鳥は、気に入ったのも本当なのだろうが、どこか試すような視線を送っていた。過分なものを望めばあっさりと興味をなくしそうだ。


「可能であれば、我が娘の事はお許しいただきたく」


「先程余は許すと言うた筈だが? (ちょう)は授けるが二度は言わせるな。他に望みは?」


 だが公爵は首を振り、より頭を下げる。


「そのお言葉だけでも充分に御座いますれば。王鳥様からいただいたお言葉は、末代まで語り継がせていただきましょう」


「無欲よのぅ。だが、よい。ますます気に入った。ならばリスス・アモールの名は余の世代を超えて、永劫に覚えておこう」


「大変、光栄にございます」


 さらりと交わされた言葉は、だがその実とんでもない事だ。


 歴代の王鳥は、今まで人間に関心を持った事はない。そういう約束だからこの島のついでに護っているだけで、あまり人間に関与してこなかった。

 そんな王鳥がここにきて歴代で初めて、王族以外の貴族の家名を後生覚えているという。王鳥の覚えがめでたい貴族など、着せられた汚名を返上して余りある名誉な事だ。おそらく最低限、今代の王鳥の世の間に落ちぶれる事はもうないと思う。


 フィーギス殿下に彼らのフォローを期待していたが、王鳥が自分であっさりと解決してしまった。その手腕に舌を巻くしかない。


 ――これでアウィスという偽物の話は片がついた。皆の前で自ら消したと言って痕跡を断ち、事の発端は何だったのかという真相は迷宮入りとなるだろう。そのアウィスを演じていた人物の事は何も知らないが、きっと、それでいい筈だ。

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