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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第五章~ロープ際の攻防~
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第3話 オフステージから再び

2021/05/29大規模修正

 若干の気まずい空気も一日すれば切り替わる。

 明日どうなるかも解らない冒険者や傭兵であれば身についている意識だ。

 早朝の鍛錬を終え、朝食のタイミングでベイル村の生存者が目を覚ました。


「……ここは?」


 開かれた青い瞳に感情はなく、問いかける声質も随分と空虚。

 体内魔力すらも透明に近いため、今にも消えそうな印象を与える青年だ。

 あんな地獄の中で耐えていたのだ、正気でいること自体が奇跡と言える。


「ベーラ領、ベイル村から北に進んだとこだ。まあ何だ、ちょいとこの辺を通りがかったもんでな。」


 フォクシ嬢が複数箇所のギルドへ向けての魔道貨物を準備しながら答える。

 お嬢様は朝食をもうひとり分準備開始。

 昨晩残ったあんを白米に乗せた簡単なものだ。

 配膳はルゼイアも手伝ってくれている。

 ゼルド氏が意識を取り戻しているので、カイゼルは本体に戻っている。


「ベイル村、北……。」


「君の事はフロワ領シアンフローの騎士団に保護してもらうつもりだ。そこまでは送り届ける。」


 フォクシ嬢の言葉を反芻する様子にゼルド氏が言葉を添える。

 状況が解らなければ不安であろう。

 今はまだこの先の身の振りも考える余裕はないだろう。

 とは言え先延ばしにはできない。

 お嬢様達はシアンフローのその先、ヴィオニカ連邦国に移動しなければならない。


「……そうですか。」


「とりあえず食事ができましたので、どうぞ。私はエルシィと申します。よければ名前を伺いましても?」


 ルゼイアと共に一同へ椀を配り終える。

 予備の食器があってよかった。

 相方を思わせる青い瞳がお嬢様へ向き、配膳を行う相方へ向く。

 最後に手元のお椀へ視線を落とした。


「……ありがとうございます。僕はバレッタといいます。」


 受け答えはできる、意識の混濁もなさそうだ。

 体内魔力は見えづらいが異常もない。

 茫然自失状態が続いているだけだろう。

 彼が居た場所についての言及は、全員意図して避けている。

 今思い出させるべきではないし、聞かれた時に必要なぶんだけ答えればいい。

 下手に踏み込む事は被害者の心を悪戯にかきむしるだけだ。


「ん、よし。そんじゃあ飯食ったら先に進むか。ゼルド、お前はバレッタの守り。オレらが道の安全の確認だ。」


 各国へ送る魔道貨物が出来たらしい、術式を起動して飛ばしていく。

 時間がかかったのは送る場所が多かったためだ。

 何より壊れた魔道具の回収依頼を出しておく必要がある。

 信頼できるギルド支部、かつこの周辺で行動力のある場所へ複数作成した。

 機能を完全停止したとしても、あれらを放置しておくわけにはいかない。

 領土の無断貸し出しを表沙汰にするいい証拠でもある。

 墓荒らし側もそれくらいは百も承知、素早く行動をしなければ隠蔽される。

 そうなれば、また別の所で同じ様な実験が行われかねない。


「……それにしても、腹立たしいです。」


 お嬢様の呟きを拾ったフォクシ嬢が首肯する。

 西からベーラ領へ入った時の道は蒸し暑さで散々な目にあった。

 休憩所が無いため水もろくに使えない。

 一方、ベイル村から離れて国境町へ向かう北の街道に出れば一転。

 道は整備されているし、休憩所も設置されている。

 何なら人工の水路まで引かれていた。

 自分たちが使う道はしっかり整えているわけだ。

 お陰で魔獣と遭遇することはほとんどなく進んでこれた。


「昨日の食事も変わっていたが、これはこれで……。」


「エルの手料理には感謝しないとね。」


 なおゼルド氏はその辺りを気にせず、朝食を堪能している。

 相方は元より墓荒らしの行動など知ったものという風だ。

 バレッタ氏は特に何も言わず、何も聞かず、黙々と朝食を口に運び始める。

 本日も熱波は酷そうだが、木陰に入りながらであればさほど苦もなく進めそうだ。


 * * *


 朝食が終われば早速行動開始。

 本日昼前までにはシアンフローへ到着するだろう。

 上空から目立つ一撃を叩き込んだのだ。

 急ぎ足で立ち寄り、最低限の買い物の後に国境を超えるつもりだ。

 シアンフロー北部には大河が流れており、峡谷へ落ちる巨大な滝がある。

 また、谷から吹き上がる風も中々強い。

 その流れを利用した製粉業が広く知られている。

 そろそろ小麦粉を補充しておきたいし、パンも追加購入しておきたい。

 レフス帝国産のソバなども欲しい。

 暑い時期はつるりと飲み込める物が恋しくなる。

 国境から先はフォクシ嬢の依頼外。

 心構えだってしなければならない頃合い。


「……それにしても、ここから壁があるんですね。」


 領主邸へぶちかましを行った後、上空から見た景色。

 峡谷に伸びた高い壁は、現在お嬢様達の歩く街道東側まで達している。

 流石に地上からは見えないが、一体どこまで伸びているのだろう。


「連邦国とはいざこざがあったからな。北から南の端まで伸びてるぜ。つっても橋があるのはシアンフローだけだ。」


 王国と連邦国の友好の証としてかけられた巨橋。

 それは大規模な刻印魔法だ。

 魔法の回路体系は王国側からの提供。

 連邦国で取れる素材を合わせて双方の職人が技術交流も兼ねて作り上げた。

 規模があまりにも大きいため、複数かけるには現実的ではない。

 何せ対岸距離にして五十キロはある。

 異世界における有名な大規模峡谷の幅は、およそ三十キロだったはずだ。

 かつて存在した巨人達は、これすら苦にしなかったのだから恐ろしい。


「そのいざこざの続きに巻き込まれるのは勘弁してほしいよ。」


「違いねぇ。」


 北部の道は整備されているが、往来の気配は全く無い。

 今頃領主邸では部下に当たり散らしているか、逃げ出す準備をしているかだろう。

 墓荒らし(グレイヴン)にそんな場所へ手を差し伸べる仲間意識は存在しない。

 結局の所、彼らは呪いによって意識を扇動された意志弱き者達だ。

 とは言え国内で確かな地位を持っていることは違いない。

 迂闊な行動は罪状を更に捏造させ、伸ばす手を陰湿にするだけだ。

 だからこそたちが悪い。


「……む、ここからでも滝の音は聞こえるのだな。」


 襲撃もなければ魔獣の気配もぱったりと無くなった。

 順調な行軍であれば、村人を連れていたとしてもかなりの速度で進める。

 程なくしてゼルド氏の言うように、水が落ちる音が聞こえてきた。

 まだ周囲は木々に囲まれていると言うのに相当な規模らしい。


「やっと向こうへ渡れるんですね……。」


「あー、仕事の終わりが見えてきた。全く随分と滅茶苦茶な日々の連続だったぜ。」


 姉弟子の依頼は、お嬢様をヴィオニカ連邦国まで逃がすこと。

 つまり橋を渡れば依頼は完了だ。

 振り返ってみれば随分と迷惑をかけていたり、ドタバタに巻き込んでしまった。


「俺は向こうの国までついていくつもりだ。」


「おい馬鹿、手綱どうするんだ馬鹿。先にその辺考えやがれ馬鹿。エルの迷惑になるだけだ。」


 姉弟子の辛辣な言葉の刃がゼルド氏に突き刺さる。

 現在彼のガントレットを操ることができるのはフォクシ嬢だけだ。

 いくら魔力で出来ているとは言え魔道具、手綱の長さは有限だ。

 お嬢様は外へ影響する魔道具を打ち消すし、相方は扱う力の種類が違う。


「ぐう……。だがしかし、どうしたものか……。」


「気持ちはありがたいけれど、僕としてもあまりエルの側に男を置いておきたくはないかな。」


「ルゼイア!?」


 相方の熱烈発言、思わずお嬢様が声を上げて咎めた。

 ガントレットを扱える者が居ないため、こう言っておけば悪者は相方になる。

 ゼルド氏の状況を考えれば、まだこの国内で息を潜めていたほうが長く生きられる。

 何せ聖獣憑きの扱いに関して、知識があるのはフォクシ嬢なのだから。

 セラを頼れば彼の状況もなんとかしてくれることだろう。

 それにしても言い方がある、不意打ちに耳の先が熱くなった。


「おっ、そんならオレはエルシィから見りゃ、ルゼイアを惑わす女なわけだ?」


「フォクシさんも、ルゼイアの調子に乗らないでください!」


 そんなやり取りをバレッタ氏が不思議そうな顔をして眺めていた。

 食後からここまで、ほとんど喋ることもなく周囲を伺うこともなかった。

 ここまで来ると感情欠損を起こしているのではなかろうかと不安になる。


「……感謝する。」


 相方のフォローの仕方はあっさり見破られたようだ。

 ゼルド氏には真意が伝わっている。

 滝の音が益々響く中、相方がわざとらしく嫌な顔をしてみせた。


「僕の嫉妬心だ、感謝されるようなことじゃない。」


「……皆さん、仲が、よいのですね。」


 消えそうなほど透明な声が朝方ぶりに放たれた。

 相変わらず空虚で透明で、危うい印象を受ける。

 気にしていなければ全員が聞き逃していた。

 ようやく森から抜けられるその手前といったところ。

 眼前には開けた草原と、木と煉瓦で組まれた町が見えてきた。

 大きな風車と見張り櫓が立ち並ぶ様は現在の平穏さと、かつての戦乱を思わせる。


「ま、そこそこの日数だが一緒に居るからな。この馬鹿以外は。」


「……昨日から随分と俺に対する当たりが強いが、矢張り何か致命的なことを――。」


「してねえよ! してねえからそれ以上考えんな馬鹿!」


 姉弟子が墓穴を堀り、慌てて考え込むことを妨げる。

 釈然としないゼルド氏だが、これに関してはお嬢様も相方も口を開かない。

 何か言おうものなら矛先がこちらへ向く。


「なるほど、そういうものですか。」


 軽い会話はすれど、結局バレッタ氏には聞かれたことに対する返答のみ。

 彼とはこの町で別れるし、心に負った傷を抉り直す趣味はない。

 何事もなく新しい生活を手に入れられることを願うばかり。


「そういや、見張り櫓は今も使われてるんだったか。鷹人らしいからな、オレたちのことも見えてるんじゃ――。」


 フォクシ嬢が話を逸らすためにシアンフローの話題を出す。

 お嬢様が次の一歩を踏み出し、相方が続き、ゼルド氏が首を捻る最中の出来事。

 空虚で透明な声が妙に近くで聞こえた。


「――魔物のくせに。」


「え?」


 振り向いたお嬢様の視界に入ってきたのは、いつの間にか接近していたバレッタ氏。

 そしてその手に握られていた短槍で、心臓位置を後ろから貫かれた相方の姿。

 過去がフラッシュバックする。

 思い出したくない過去が最悪の形で思い返される。

 じわりと着崩したシャツに赤い染みが広がり始めた。


「な……。」


 誰が最初に声を上げたのかは解らない、関係がない。

 きゅ、とお嬢様の瞳孔が縦に伸びる。

 世界が金に染まり、一方お嬢様の視界は白く色褪せて止まる。

 息ができない。

 鼓動が聞こえない。

 意味がわからない。

 彼の部分だけぽっかりと透明で、黄金に染まりきらない。

 どうして世界が彼に味方をするのだ。


「――っ!」


 弾かれたようにお嬢様の身体が動いた。

 相方を傷つける敵(・)へ過去最速の一打を叩き込む。

 膨大な黄金は、透明な障壁と衝突を起こして阻まれた。

 周囲へ風が吹き荒れ、勢いで相方を貫いた短槍が抜けて赤い飛沫が散る。


 見たくない、見たくない、見たくない、認めない、認めない、認めない!


「い や あ あぁぁ――!!」


 澄んだ甘い声が悲鳴の形で吐き出される。

 同時に思考が完全に固定化された。

 早くこの敵を倒さなければ。

 元凶を潰せば、時間が戻ってくれる。

 滅茶苦茶な理論の元、お嬢様は暴走を始めた。

ちょっと短めが続きます。

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