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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第四章~ギミックだらけの遠征試合~
46/112

第3話 戦闘開始リプレイ

2021/05/05大規模修正

 騒々しい夜を超えて、朝を迎える。

 当然だが、お嬢様と相方の間に何かあったりはしない。

 休日二日目、フォクシ嬢は昨晩持ち帰った新聞を広げていた。

 なおお嬢様は目を通さない。

 どうせ魔性とか魔女とか色々面白おかしく書き立てられる。

 当事者としては、面白いものではない。

 仕返し対象をわざわざ増やすつもりはなかった。


「……結構広まってんなあ。行方知れずのため、各方面注意だと。」


「のんびりしていても大丈夫なのでしょうか。あ、朝食できました。」


 なので食事係の仕事に専念する。

 本日は拠点であるので特に食材に縛りもない。

 トーストに葉物野菜とトマトに刻んで炒めたカリカリベーコンのサラダ。

 それにチーズを混ぜ込んだとろとろのスクランブルエッグ。

 当然これだけでは足りない。

 余っていた肉の切れを細かく刻み、小さなハンバーグも添えてある。

 焦がし玉ねぎはまだ使っていない、まずはこの味の反応を見てからだ。


「こっちも配膳終わったよ。」


 当然のように相方は手伝ってくれている。

 パン以外は大皿に乗せて、各自取るスタイルにしてある。

 こうすればちょっと多めに食べていてもあまり目立たない。


「では持っていきますね。」


「買っておいた素材腐らせちまうよか、きちんと消費したほうがいいよな。」


「いま私、そこはかとなく牽制されました?」


 浅はかな内心など、姉弟子には簡単に見破られている。

 解りやすいという視線を横からも注がれていた。

 さておき、本日の朝食も中々好評だ。


「妹弟子の言うことも最もだ。昨日聞いたことによりゃ、随分あちらも余裕が出てきたらしい。」


「……僕にはセラさんの暴走しか印象に残らなかったよ。」


 サラダのおかわりをしながらフォクシ嬢。

 相槌をうつ相方はスクランブルエッグのほうをおかわり。

 お嬢様はトーストをもう一枚、その上にスクランブルエッグを乗せたりする。


「場所を特定されることは前提、ということはある程度それぞれの方向を絞って来られてますよね。」


 ああいう状態になるお母様は毎日見てきた。

 セラがブレーキ役を放棄するところは流石に初めてみたが。

 脱線する前に思考を戻そう。

 告白返ししたばかりとは言え、思考能力が恋愛一色に染まるわけでもない。

 聞いた話から要所らしい部分はある程度掴んでいる。


「おう、あれにゃオレもビビったが……、エルシィのほうはよく聞いてんな。」


 偽名で呼ぶのは、それを自分の名前と早く認識できるようにするためだ。

 お嬢様が褒められると、並び立つ相方は先の行動を予想する。

 見つかるのは時間の問題。

 再編成で時間が更にかかるとは言え、先んじて国境へ検問を設けられては厄介だ。

 それだけならば連絡の一つで事足りる。

 時間稼ぎにも限界はあるし、何よりお母様達は相当動きを制限されている。

 フェルベラント王国は陸の孤島、峡谷を超えるには大橋を通るのが手っ取り早い。


「念の為出発を早めるってことかな。」


「ルゼイアのほうも頑張ったな。あと二日休みにするつもりだったが切り上げだ。昼前には立つぞ。」


 結局休日に当てられたのは一日のみ。

 気持ち程度の問題だが、ぎりぎりまで見つからないのが一番だ。

 お母様が特定されると名言した以上、どうしたって見つかる。

 あとはセラの情報工作による時間稼ぎが何処まで持つか。

 休みにすると言っておきながら、フォクシ嬢は動きっぱなしだ。


「あ、変な気ぃ使うなよ。オレが受けた仕事なんだ、最後まできっちりやるさ。」


「……お世話になります。」


「ええと……ありがとう。」


 二人して感謝の意を伝えると、大変満足そうに目を細めていた。

 妹弟子と弟弟子ができて張り切っているのは事実らしい。

 食後の片付けの後、各々が出立準備を整える時間にあてる。


 * * *


 下手にギルドに寄ろうものなら無駄に時間が食われてしまう。

 初日の騒動から三人の意見は一致した。

 宿の人に拠点の維持を頼むついでにギルドへ出立の言伝をお願いする。

 お嬢様と相方は多少荷物は増えたが、来た時と変わらない。

 一方フォクシ嬢は荒事想定で装備が少し増えている。

 着物の上に革のハーネスを締め、大袖がくくりつけられている。

 今まで特に戦闘もなかったが、流石に荒事ともなると補助防具だけでは心もとない。

 お嬢様はそもそも長物で接近は想定外。

 文言による魔法が使えないことは相手も承知だろう。

 相方に関しては存在自体知られていない。

 そもそも基本は鱗で覆われた空帝竜、人の姿であれその強度は変わらない。

 結局戦いとなれば最前線に出るのは護衛依頼を受けている姉弟子だ。

 わかりはするのだが。


「……むう。」


 着物をぐっと引き絞るように着用されていると、どうしても膨らみの差が。

 特に衣装に緩急がついたからこそよく目立つ。

 思わず自分の胸元に手を添えて不満げな声を漏らしてしまう。


「ほれ、さっさと行くぞ。」


 つついた所で良いものが出てくることはない。

 先を急ぐと決めた矢先だ。

 お嬢様の内心を察した所で気にせず行軍は開始される。

 クリムゾンクレイは、砦としては広くても街としては広くない。

 東門を抜けるのもフォクシ嬢の顔パスだ。

 出て暫くはクリムゾンヴェールの敷地内。

 人混みに紛れるよう進んでいけば次第に建物密度が薄くなる。

 連邦国へ向かう荷馬車、王都へ向かう行商とすれ違いながら街道を歩む。


「暫くは風景に味気もねぇから気をつけろ。」


 背の低い草が生い茂る草原地帯。

 真っ直ぐ伸びる街道遠くにぽつりぽつりと緑の山が見えるくらい。

 奇襲を受けることは少ないだろうが、逆に隠れることも難しい。

 そして王都から離れれば離れるほど魔獣や魔物の存在が驚異となる。

 魔獣ならばある程度の腕があれば村人でも対処ができる。

 実際カリスト嬢の領地では領民が普通に対応しているとか。

 一方魔物に関しては話が別だ。

 その日暮らしが精いっぱいな村々では魔力を散らす余裕が無い。

 気付かない間に大きな魔物が生まれていることもある。

 まだこの辺りならば問題無いが、街道から離れ過ぎればどうなるか解らない。

 本来それを防ぐのが領主の采配だ。

 どれほど人が少ない場所であれ、土地の管理者は定められている。


「……『貴族の怠惰』に『庶民の怠惰』、ですね。」


 何事もなく歩いていると、色々と思い出す。

 口にしたのは座学の際、ふと聞いた一節だ。

 小さな村で魔物が発生するのは、管理を怠った貴族の責任だと主張する民。

 一方、魔力の停滞の報告や、対処を怠った民の責任だと主張する貴族。

 なんともままならない関係だ。


「折り合いの付け所なんてぇのは人それぞれ。オレから言わせりゃ、どっちも目の前の危険から目を背けてるだけだ。」


 姉弟子は手厳しい。

 地位あるもの(ノブレス)は(・)責務を負う(オブリージュ)、ミズール嬢の考えは理想ではあるが難しい。

 良い関係を築いているカリスト嬢とて、民との距離が近いと馬鹿にされた。

 ――さて、最近解ったのだが、お嬢様にはまとわりつくジンクスがある。

 当然予感はしていたし警戒もしていた。

 そのため真っ先に気づいたのはお嬢様だ。


「何か近づいてくる感じがします。」


「騎馬だな。そこそこ金属の音も混じってやがる。……いや、早すぎねえか? 張ってたのか?」


「ぎ、ギルドで騒ぎを起こしてしまいましたし……。」


「動く初日に限って、何か起きるよね。」


 自覚はしている。

 ただの見回りならそれでいい。

 だが早速追手と遭遇したとなれば出発を早めた意味がない。

 フォクシ嬢が渋面になるのも頷ける。

 会話混じりにでも足は止めていない。

 既にクリムゾンヴェールの建物がずいぶん小さくなっている。

 三人が似たような速度を出せるため、慣らされた道なら相当な速度が出せる。


「ま、最初はオレが話してみるさ。エルシィ、きちんとフードも被っとけ。ルゼイアは念の為他方向の伏兵に注意だ。」


「――お願いします。」


「任せて。」


 フードを被るお嬢様と、自然体のままの二人。

 わざわざ待っている必要はない、進みながらだ。

 それでも徒歩と馬では速度の差は埋められない。

 近づくに従って足音が遅くなる、矢張り目的はお嬢様達だ。

 並走から前へ回られた所で、フォクシ嬢が先制を切った。


「よお、兄さん方。そんなに飛ばさなくても、野営はさみゃいいだろうに。馬がへばるぜ。」


 認識阻害の眼鏡越しに覗くのは純人の男三人組。

 いずれも随分汚れた板金鎧、髭も髪も随分と伸びている。

 携帯しているのはそれぞれ大剣、盾二枚と剣、それに槍。

 冒険者にしては重装すぎ、騎士にしては汚れすぎている。

 その一方、兜の代わりに同じ様なサークレットを嵌めていた。

 魔道具――であることまでは解るのだが、その効果が遮断されていて読めない。

 つまりお嬢様対策だ、こつ、と小さく石突で道を叩く。

 護衛対象が警戒したとなれば、相手は敵と考えて動くのが護衛時の心得。


「冒険者か。なに、俺達はお前等に用があってな。正確にはそっちの……細い娘にな。」


 応対したのは大剣を下げた男。

 恐らくはリーダー格なのだろう。

 話しかけたフォクシ嬢の体つきを確かめた後、視線がお嬢様に向く。

 体中に絡みついてくるような嫌な視線。

 あの日夜会で受けた、愛玩動物を見るものだ。


「へえ、無名の駆け出し冒険者に傭兵サマが用事とは物騒だねえ。」


 観察に割り込まれ、あからさまな舌打ちが聞こえた。

 見下すような視線なのは馬上にいるからというわけではないだろう。

 再び意識がフォクシ嬢に向いた隙をついて、相方が視線の間に立ってくれる。


「その娘、魔物を従え、国の乱そうとする魔女だぞ? 素直にこちらへ引き渡せ、相応の金はくれてやる。」


 必ず無傷で捕らえろ、という指令は健在だ。

 戦いを生業とする傭兵に捕縛の依頼とは、随分と畑違いだ。

 ――そうお嬢様は思ったのだが、フォクシ嬢は違う答えを出した。


「ああ、それでお前さんらがよこされたのか。『捕虜狩り』が生業みてーだな?」


 男たちの体が一瞬だけ固まった。

 傭兵の主依頼は戦場での兵士役だ。

 だが、果たして雇い主からの報酬だけで全員が満足するのだろうか。

 もっと富をと望むのならば副業が必要だ。

 傭兵業をしながら行えればもっといい。

 結果行われるのが略奪だ。

 金品だけならまだ可愛い、中には人そのものを他国へ売りさばく。

 働き手を求める者もいれば、それこそ愛玩動物(・・・・)を求める者もいる。

 この世界であっても、無為な捕虜の売買は褒められた行為ではない。


「随分と侮蔑してくれるな、冒険者風情が。……依頼されているのは一人だけだ、ならあとはこちらの裁量で良いだろう。」


 馬から降りると同時に大剣が引き抜かれる。

 それに合わせ、盾と剣を持った男が、槍を持った男が降りる。


「だが、あまり事を荒立てるとまた叩き落されるぞ。」


「バレなきゃいいんだよ、臆病モンが。片方は傷物にしても良いんだよな?」


 盾持ちは三人の中でも慎重派のようだ。

 大剣使いと槍使いは聞く様子がない。

 こんな目立つ場所で罪状読み上げに戦いともなれば見咎めるものも現れる。

 ――はずなのだが、こちらを気にしてくる様子はない。

 大規模な認識阻害を相方へ頼んでおいた。

 魔力を食ってしまう固定魔法を展開する際の最終手段。

 停滞を行使した疑似魔法ならばどんな空間であれ使用できる。

 フォクシ嬢は即座に合点が行き、男三人はそもそも獲物を前に周囲を気にしない。


「黙って差し出せば、金も尊厳も失わずに済んだものを。その体つきなら高く売れるだろうよ!」


 赤い瞳が細められる。

 大剣男の口上は非常に長い。

 撹乱魔道具との同調は済んでいる。

 ざ、と周囲の世界が金色に包まれた。

 だが男たちの周りのみ、吸い込みが遮断される。

 サークレットの魔道具が自動的に動作したらしい。

 なるほど、ヴィオニカ連邦国と技術提携をしていたのは墓荒らし(グレイヴン)の方が先だ。

 魔力の遮断効果は確かにお嬢様に対して有効だ。


「矢張り合っていたな! あの娘は無傷で捕縛だ、後の二人は多少欠けても構わん!」


 その言葉を文言に魔法が成立する。

 魔力を直接外に出せばたちまちお嬢様の竜が食らう。

 だからこそ、遮断した内部で物質を生み出す。

 土の棘、体内魔力を通した蔓、氷の棘。

 こちらが魔法を使えない状況にあることを絶対的な優位と判断したらしい。

 大剣使いは土の棘とともにフォクシ嬢へ。

 盾と剣を持つ男は蔓とともにお嬢様へ。

 槍使いは氷の棘とともに相方へ。

 だが、そもそも魔法という奇跡に頼り続けるような面子ではない。


「――遅ぇよ。」


 フォクシ嬢の相手は大剣の男。

 既に対処は終わっていた。

 かちん、と納刀の音が響く。

 他にはふうわりと高い位置に結わえた白銀の髪が揺れる程度。

 飛んできた土の棘は全て粉砕され、手にした大剣は綺麗に四等分された。

 そんな手心を加えられるほど、口上も行動も無駄すぎる。

 『万能』の教えは甘くない。


「――ふっ!」


 お嬢様の相手は剣と盾を持つ慎重派。

 踏み出し、手の内で槍を穿つ。

 足を伝って腰を通り、腕を流れて穂先で渦を成す。

 長物はその射程が強み、剣の射程に入らせない。

 守りに出した剣の中央へ穂先がぶつかり破壊、余波が蔓を引きちぎる。

 ばさりと踏み込みの衝撃でフードがなびき、金の髪を晒す。


「もう少し女性の扱いを学んだほうがいいんじゃないかな、二人共激怒してるよ。」


 相方の相手は槍使いだが。最早意識すらされていない。

 困ったような落ち着き払った声。

 無手から即時剣を右手へ、刀身作成から礫を切り、左手へ、切り、右手へ。

 そのおまけ程度に槍を短く切り捨てる。

 最後はお嬢様にフードを被し直す余裕まであった。


「――は、あ?」


「お前さんらは、格下で慣れすぎだ。」


 フォクシ嬢から止めの一言。

 捕虜にされるのは、大抵何の武芸も身につけていない住民だ。

 牙剥くような相手を買う者は居ない。

 必然的に彼らが戦うのは自分たちよりも弱い相手が基本となる。

 この場に居るのは実戦に身を置く冒険者と、騎士訓練を受けたお嬢様にその同格。

 村人を相手にするのとはわけが違う。

 戦いにすらならなかった。


「……ここは引くべきだ。場所を伝えるだけでもいいと言われている。」


 即時剣を捨ててもう一枚の盾を蔓で引き寄せる慎重派。

 だが大剣男は頭に血が昇っているのか、目を釣り上げる。


「この女ァ! 徹底的に教育してから売り捌――。」


「警告(・・)はしたぜ。」


 力量の差は始めの武器破壊で知らせている、銀の狐が本気で動いた。

 お嬢様すら踏み込みの一歩しか確認できなかった。

 フォクシ嬢の体が霞んだかと思えば既に大剣男の背後。

 心の隙間を縫い、動きと距離を化かす。

 最初の頃より防具が増えているはずなのに速度が増している。

 ひゅ、と大きく太刀を振った後、かつんと手首で叩いて納刀。

 草原に赤い雫が落ち、ぼとりと男の右手が落ちた。


「ぐがあ!? 手、手ぇ!」


「だから言ったというのに!」


 遅れた痛みと突撃しようとした勢いで転がった。

 槍を持っていた男が即時近寄り、落ちた手首を回収して回復用の魔道具を取り出す。

 これも隙だらけだ、何故堂々と敵の前で回復なんてしているのだろう。

 盾を持った男が割り込もうとするが、姉弟子もいい加減呆れ果てたらしい。

 一息する間もなく、滑り込むように戻ってきた。


「これ以上の追撃は、そこの穏健派一名が許さねーだろうからな? さっさと行っちまえ。」


 勿論、許されなくとも意識の隙間に入って斬ることはできる。

 斬ることすら意味がないと断じた。

 真剣勝負の中、手心の上に慈悲を与えるのは最大級の侮辱を意味する。

 これ以上言葉を交わすつもりもないフォクシ嬢に変わり、お嬢様が声をかける。


「……魔災を起こそうとする王室に従う道理はありません。去ってください。」


 それ以上の言及はしない。

 場所と進行方向は割れた。

 追手の編成が組まれ、国境超えが難しくなる。

 二人を守るために立ったままの男を放置し、背を向けた。

 黄金は薄れ、世界は元の色を取り戻す。

 力量の差を見せつけられたばかりだ、逆上して襲ってくることも難しい。

 その上、少し離れた時点で相方が認識阻害の結界を解除した。


「うわ! なんだ、怪我人か!?」


「いつから居たんだあんたら?」


「おいおい大丈夫か?」


 意識が向けば突然現れた負傷者に意識が集まる。

 下手に此処から動こうものなら腕の治療に酷い影響を及ぼす。

 現在王室に対する不信感は高まりつつある。

 そんな中、捕虜を不当に増やす傭兵を使ったと知られるわけにはいかない。

 情報共有するにも魔法団長の目を誤魔化さなければ、流石に攻勢に出られる。

 あるいはお嬢様達が全滅させてしまえば、位置はバレない。

 流石に人混みの多い時間だ、その手は使えない。

 セラとお母様の手腕に甘えることにしよう。


「……フォクシさん、模擬戦の時と全然動きが違うんですけど。」


「模擬戦と実戦は違うんだよ。こう……意識がふーっと?」


 非常に感覚的な説明だった。

 これが訓練と実戦の違いなのだろう。

 あの速度なら、首を打たれて終わっていた。

 フォクシ嬢、場面によってはシルヴィ嬢と渡り合えるのではなかろうか。

 いや、そもそも殺意のこもった牙を受け止めてくれていたのだった。

 以外だったのはもう一点。


「そう言えば私、あまり動揺しませんでした。」


 実地試験の時も凄惨な姿は見た。

 だがあの時は薄闇の中で相手は魔物だ。

 今回は真昼間から人の手首が落ち、断面図が見え、血が吹き出した。

 にもかかわらず物怖じしていない、当たり前だとまで思っている。

 実際躊躇などしていられる身分ではない。

 これで割り切ったのが魂だったら解る。

 未熟な娘の心まで平然と切り捨てていた。


「一時的に意識が逸れているだけだと思うよ。」


 宥めるような声と共に、フードの上に手が置かれた。

 これはちょっと残念だ、撫でてくれるなら直接が良い。

 絆を通して強請ってみたが、相方は困ったような表情を浮かべるだけ。

 きっと覚悟が決まっただけだ。


「実戦としては学園の試験含めて、お前まだ三回目だろ。夜鎮静作用のある茶入れてやる。ルゼイア、こいつ寝付くまで起きてやってくれ。その後の夜番はオレがやっとく。」


 試験で一回、これは魔獣相手。

 王都から出た所でシルヴィ嬢と一回。

 手加減されてしまった、ちょっと腹立たしい。

 そして先程の鎧袖一触の一回。

 確かに実戦経験は少ないし、直接誰かを傷つけたことはない。


「……それは、過保護ではないでしょうか。」


「お前がそう言う不満漏らす時点でおかしいんだよ。」


 思わず不満を口にしたら姉弟子から指摘された。

 納得がいかないまま、夕刻頃。

 街道から少し離れたところにある小さな林で野営することになった。

 作ったのは今朝のハンバーグに続き、ミートボールを使ったトマトソースのパスタ。

 翌日には余ったトマトソースをパンに塗って、チーズをまぶして焼く予定だ。

 ありきたりではあるが食べごたえはある。

 ただ、少しだけ塩を入れすぎていた。

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