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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第四章~ギミックだらけの遠征試合~
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第2話 心機一転ローディング

2021/05/04大規模修正

 ギルドの扉を荒々しく閉じて、ぜぇはぁと肩で息をするフォクシ嬢。

 相方の手を握り、落ち着かせるという名目のもと自己主張しておくお嬢様。

 扉の向こうの混沌は、ギルドの者に任せておくべきだ。


「まさかお前、一言だけであれだけ場を乱すとは思わなかったわ。」


「私もびっくりです……。」


「冒険者って、暇な人が多いんだね。」


 相方の言葉には少し棘がある。

 一方、お嬢様としても同意してしまう部分があった。

 あんな絡み方は予想外だ。

 二人の感想は否定できない。

 フォクシ嬢が引きつった笑顔を浮かべた。

 色々と振り回されている彼女は少ないほうの冒険者だろう。


「朝っぱらからきつかった……。あとは軽い買い出しして、今日は拠点で休もうぜ。」


 混乱の中しっかりと仕事もこなし、銀貨数枚を受け取っているフォクシ嬢。

 元手は補充した、この街は彼女のホームだ。

 どこに何があるか、何が必要となるかは彼女の裁量に頼る。


「夕方の荷物取りはオレだけでいい、二人は休んどけ。……模擬戦やら訓練したいのなら、地下使え。ただし壊さないこと。」


 お転婆なのは既に姉弟子も知る所。

 だが問題はない。

 本日一日時間があるというのなら、料理係として仕込みをしておきたい。

 ただそういう空間があることは覚えておこう。

 実戦経験を積んで生き残り、力を伸ばす基本であるこの世界の基本スタンス。

 ならばまず自分に何ができて、何ができないのか確認しておくことが大切だ。

 いきなり周りを壊すような模擬戦や訓練なんて――。


「王都から出た初日、地面陥没させたの誰だ。」


「わ、私です。」


 していた。

 思いだしたお嬢様は目をそらして自白する。

 指摘されなかったら無自覚にあちこち凹ませていたかもしれない。

 幸いにもそれ以上の追求はなかった。

 というかギルドの騒ぎが大きすぎた、時間が惜しい。


「さて、次は買い物だな。もうちっと薄くて動きやすいものも揃えとけ。」


 此処から更に東へ向かうに従いヴィオニカ連邦国に近くなる。

 昨今国境付近に温泉が湧いたらしく、熱気が酷い。

 熱とあの日の同時攻撃など目も当てられない。

 先日終わったばかりとは言え、始まってからでは遅すぎる。

 お母様の業務が終わる夜中あたりに相談しておくべきだろう。


「僕は最悪上を脱げばなんとか。あまりお金を掛ける必要は――。」


「ルゼイアのぶんも、きちんと買いましょうね!」


 元々が空帝竜だったためかこの魔王、肌露出の威力を解っていない。

 お風呂から必死に逃げようとする相方との攻防は棚の上においていた。

 肌露出の威力は知っているからこそ、相方からのちょっとした仕返し。

 残念なことにお嬢様は気づいていない。


「まあちょいと勘違いしてるかも知れねーけど。」


 先を歩くフォクシ嬢。

 目的の店に着いたと立ち止まる。

 反物屋だと思って店内を覗き、お嬢様は硬直した。

 最早下着と言えるほど、非常に面積の狭い衣類の数々。

 確かにこれはイーロ商会には置いていなかった、お嬢様の荷物にもない。


「水着だぜ?」


 主に遊泳は避暑を込みとした趣味である。

 一方冒険者にとって水着は別の意味合いを持つ。

 男女混成パーティーで野外の水浴びに必須の湯着なのだ。

 二人ならば交代で見張れば問題ない。

 だが三人以上となれば一人が見張り、複数が水浴びとしたほうが早い。

 ローテーションも変わることを考えれば持っていて損はない。

 理屈は解った、理由も解った。


「……でもここ、男女混合です、よね?」


「試着室はきちんとわかれてんだろ。」


 異世界基準で考えてはいけない。

 今お嬢様のいる世界が現実世界だ。

 そしてこの現実世界では、男女の区切りが大雑把な所がある。

 大まかに分けてあれば問題がない、というのが基本だ。


「あ、これなんてエルに似合いそう。」


「へえ、彼氏のほうは案外いい目利きしてんな。色白だし、深い青は好んで着てるしな。上下分かれてるのは趣味かい?」


「そこ! 早速選び始めないでください!」


 若干目眩のするお嬢様を無視してあれこれ早速相談している。

 こんな時、魂の記憶がなければよかったと思ってしまう。

 そうすればあちらの世界の常識に引っ張られる事無く選べた。

 仕方ないのでお嬢様とて応戦する。


「じゃあルゼイアにはこれで!」


「……こっちの目利きは絶望的だな。」


「エル、それ絶対動きにくいし、着替えにくいと思う。」


 全身を覆うタイプ、明らかに遊泳のみが目的だ。

 今回必要なのは冒険者として手軽に着用でき、手軽に着替えられるもの。

 当然のようにノーを突きつけられる。


「むぐ、ぐ……。」


「ほれ、さっさと試着してこい。サイズ見ねーと。ルゼイアはこっちな。」


 手早く似たような色のズボン代わりにも使えそうな膝上丈。

 まるで妹弟に水着を見立てる姉のような流れ。

 一体フォクシ嬢、どれだけのシチュエーションを想定してきたのだろう。


「行ってきます!」


 と、考えたら凄く際どいデザインのものを手に取られたので試着室に逃げ込む。

 すごく低いところまで見せ、上下どころか左右に別れていた。

 狐人の前で迂闊なことを考えられない。

 財布と命綱を握られているのならなおさらだ。

 軽いサイズ調整の後、二人に一着ずつ購入した。


 * * *


 さて、買い物も終えて昼間は三人とも休憩時間だ。

 フォクシ嬢は次の遠出に向け、宿に相談に行っている。

 自由時間を使ってお嬢様はキッチンで仕込みだ。

 当然エプロン着用、髪もまとめて落ちてこないようにしてある。

 素材準備に専念するため、昼食は外で買ってきた。

 相変わらずの串焼きだ。

 手軽な値段で食べ歩きができ、店によって食材とタレが違うので飽きない。

 お嬢様の料理は最初こそ調理の時に、出される時にと警戒されていた。

 今となっては完全に丸投げされている上、平然と口に運ばれる。

 人は慣れるものなのだな、と感じさせられる。


「……ええとエル、そのじゃがいも、どれだけ刻むのかな?」


 だからといって変わった事をしていれば奇異な視線が向けられる。

 何を作ろうとしているのか伝えることもできるが、今は絆を使わない。

 お嬢様の手元には見るも無残に刻み尽くされたじゃがいだったモノたち。


「水着、そんなに嫌だった?」


「抵抗はあります。」


 が、別に八つ当たりでやっているのではない。

 先だって買っておいた粗目の布へ徹底的に刻み、じゃがいもを入れる。

 別途深めの鍋に水を入れ、中へ浸けて数度押し付ける。

 こちらはあとは待つだけだ。

 ご機嫌取りモードのスイッチが入った相方はさておき、今度は玉ねぎだ。

 大玉三つを薄切り、フライパンに油を引いて軽く火を入れ始める。


「……別に、怒ってるわけじゃないんですよ?」


 相方は絆を通した返事が無いことを気にしているらしい。

 さっきからずっとそわそわしている。

 狼狽え具合が酷いため、声をかけておく。

 少しばかり心の準備をしているだけだ。

 そのためには、じっと鍛錬するよりも手を動かしていたほうがいい。

 お嬢様の体はまだ出来上がっていない、本格的に動くには早すぎる。

 軽く塩を振り、こびりつかないように木べらで底から玉ねぎをひっくり返す。

 相方が忙しなく後ろを歩いてくるので、タイミングを合わせて頭を押し付けた。

 止まった所で見上げる仕草。


「怒ってませんから。恥ずかしいだーけーでーすー。」


「う、ん。」


 拗ねた口調になってしまった。

 認識阻害の魔道具は未着用、不本意ながらお嬢様の表情はそのまま武器になる。

 ……絆を、通して、叩きつけられる想いが熱い!

 だがここまでしないと後ろを動き回られて準備ができない。

 結果的に熱量の確認もできてしまったし、良しとしよう。


「ルゼイア、じゃがいもを入れておいた布、絞ってください。……破かずにです。」


 これ以上想いを叩きつけられる前に指示を出しておく。

 すぐ横でぎゅううと粗目の布を絞り、取り出してもらう。

 そちらはまた暫く放置、玉ねぎに意識を向ける。

 少し水を加えて底からひっくり返し、色づくまで待つ。

 それにしても流石元八ツ葉冒険者の持ち家、キッチンまで凝っている。

 魔道具のコンロが四機、オーブンもあれば水道には相当高価な浄水効果の魔道具。

 換気扇はないので窓を開けている。

 これらはあくまで仕込みでしかない、食欲をそそる香りとは少し違う。

 飴色になってきた所で、バターを加えるまでは。


「うわっ、お腹が空いてくる匂い。」


 バターと玉ねぎの組み合わせは凶悪だ。

 一方、じゃがいもから抽出した液体の上澄みを捨て、改めて水を足してまた放置。

 フライパンを返し、数度全体へ均一に風味をなじませ、こちらは完成。

 調味料入れに用意しておいた空き瓶の中へ入れ、粗熱を取る。

 後で密閉蓋を起動すれば完了だ。


「すぐに使ったりしませんから、串焼きで我慢です。」


「ぐう……。」


 ちょっと弟みたいな面影が出てきた。

 だが今更そう見ることができないと、お嬢様自身も解っている。

 大体拗れに拗らせたのは自分から、区切りをつける必要があった。

 じゃがいもの漬け汁は、下の方にしっかり白い沈殿物ができている。

 水をあらかた捨てて、窓際に置いて後は乾燥させるだけ。

 フォクシ嬢はまだ帰ってこない。

 宿の交渉の後、ギルドや雑貨屋を回っている可能性が非常に高い。

 休みにする、と言いながら出立に備えて準備をしてくれているのだ。

 こちらも終わらさなければならない。

 手を動かすことが無くなった、心の準備はもう少し欲しかったが――。

 深呼吸してから魔力阻害の魔道具と意識を同調。

 ゆっくりと出力を落としながら、取り込んだ魔力は自分の中へ押し止める。


「ん……ぅ。」


 刻印がむず痒い。

 本格的な覚醒までには至らない。

 せいぜい小さな翼が現れて、角が伸びたくらい。

 お腹のあたりを抑えて、ふう、と息を吐いた。

 思ったとおり、上手くすれば固定魔法を抑え込んだまま覚醒に至れそうだ。

 こうなったら最後まで走り抜けるしかない、助走のための覚醒だ。


「エル、訓練は地下で――。」


 覚醒を行えば引きずられるように相方も停滞が魔力のように収束する。

 同じように、舌がむず痒かったりするのだろうか。


「話があります。」


 改めて相方に向き直る。

 彼の姿もあまり変わっていない、刺々しい角が伸びた程度。

 言葉を乗せればもう止まれない。

 黄金に染まった瞳が、青いままの瞳を真っ直ぐ射抜いた。

 根源へと近づけば、想いはより直接的なものになる。

 悩み続けることは苦手なのだ。


ルゼイア(カイゼル)。』


 やっと絆を介して意識を向ける。

 込められた意志の強さや覚悟の重みを受け、相方が体を固くした。

 手を動かすことで意識を落ち着け、覚醒を用いて伝える事は唯一つ。

 唇は動かさない、話さずとも心を伝えられるのならば不要だ。


『好きです。』


 告白の返事(・・)

 馬車に揺られている最中ぶつけられた想いの塊。

 それに対する返事を、今の今まで保留にしてきた。

 国を超えるのに想いを残していきたくない。

 後悔を残すのは墓荒らし(グレイヴン)の一件だけで充分。

 明確にこの意志を伝えるのは初めてだ。

 照れくさい以上に、自分の想いが自分を満たす。


『私は相方(あなた)から離れたくない――。』


『――ずっと一緒に、この先千年も。』


 わずか十三歳の告白にしては非常に重い。

 けれど熱量は共に同等だ、重さだって同等のはず。

 自由を奪われたくない、誰かに侍ることだって願い下げ。

 望むとするなら、一緒に歩んでくれる相手。

 視界が相方で遮られ、今回は求めて唇が触れあう。


「ん、っ……。」


 言葉途中で奪われると確信していたため絆を通した。

 腰に回された腕が逃げ道を奪うが、お嬢様からも踏み込んだ。

 一度、二度、少し間を置いて三度、四度まで。

 互いの体から漏れた体内魔力が、求めあうように絡み付く。

 触れるだけの交わりを終え、は、とどちらともなく吐息が漏れる。


「……嬉しいけど、何でキッチン?」


 ここから肉声に切り替わる。

 お嬢様が覚醒を解いたため相方も応じて元の状態へ戻る。

 中途半端な状態で止めておいて良かった。

 相方としてはムードとかをもう少し大切にして欲しかったらしい。

 だがお嬢様にだって言い分はある。


「ここ以外だとどうなるか、解ったものじゃないでしょう。」


目の前に調理途中のものがあれば、暴走せずにすむ。

 キスから先は禁止だ。

 目下逃亡生活中、浮ついてはいけない。

 充実感を得るには、軽い身体的接触と魔力の触れ合いで事足りる。

 ぐりっと胸板に頭を押し付けると、了解したと撫でられた。


 * * * 


 流石に夕食は作成する。

 焦がし玉ねぎは取っておいたが、抽出した片栗粉は少しだけ使った。

 豚肉と焼きそば風パスタを作った際の野菜のキレ、あとは砂糖と醤油。

 茹でたパスタを高温に熱した油に潜らせ素揚げ。

 その上に八宝菜的な何かをかけたあんかけパスタ。

 魔法貨物を受け取ってきたフォクシ嬢は怪訝な顔をしていたが、好評だった。

 こういう食感は好きらしい。


「魔法団長サン達にそろそろ連絡入れとけよ。二人の仲の進展について。」


「げほっ!! ふ、フォクシさん、な、なに、なんで!?」


「ほらエル、だからすぐバレるって。」


 食後の剛速球がみぞおちに突き刺さる。

 お茶を飲んでいたお嬢様が盛大にむせた。

 距離が近い、躊躇いが無くなっている、妙に視線を合わせる。

 これだけ条件があれば狐人でなくとも察しはついた。

 変に禍根を残さないのは引率する身としてありがたい。

 はいはいと軽く流され、それでも念の為釘はさしておく。


「同室は却下するからな。オレの部屋は一階だが、何かあったら起きる。」


「解ってます!」


 それはもう、何かあったら真っ先に起きて対応してくれるので嫌というほど。

 夜番をしていない時でも、少し動きがあれば目を覚ますのだ。

 冒険者だからなのか、六ツ葉だからなのか、はたまたフォクシ嬢だからなのか。

 呼吸を整え、意識のスイッチ。

 切り替えが行えるのは助かるが、悶えるのを後回しにしただけとも言う。


「……それでは、起動しますね。」


 通信を行うのならば全員から状況を聞ける今がいい。

 そのため鞄横から連絡機は外してきている。

 機能をオンにして待つこと暫し。

 長方形の薄い板から上部に画面が現れた。

 見慣れたフォールンベルト家の屋敷、お母様の部屋だ。


『エーーーールーーーー!!』


 すごい勢いで画面の向こうからお母様が抱きつきポーズで通り過ぎる。

 そのギリギリ直後にセラがお母様の首根っこをひっつかんで引き戻した。

 いきなり目眩がした。


『奥様、映像です。お忘れなく。』


『でもエルなのよ!?』


『ええ。お嬢様、久方ぶりです。フォクシは役に立てておりますか? 妹と弟ができたとはしゃぎすぎておりませんか?』


 普段は大変冷静で、落ち着いたできる女性なのだ、お母様は。

 お嬢様が関わったときだけこのテンションに陥る。

 ……ところでセラ、フォクシ嬢が居ると解っていて言いましたね?


「お母様、セラ、久方ぶりです。フォクシさんには度々お世話になってます、良い案内人をありがとうございます。」


「フォクシさん、腕まくりやめて。映像だから、映像だから。」


 後ろでは相方が姉弟子をなだめてくれている。

 ちょっと目眩が頭痛に変わる、報告とかできるのだろうか。

 懐かしさもあるが同時に不安感が満載だ。


「ええと、お母様、とりあえず報告はフォクシさんからあらかた受けていると思いますけど……。」


『ふふっ、任せて。実はお母さん情報収集も得意なの。今東に向かっている斥候は二組ね。そう仕向けた(・・・・)もの。場所は特定されるでしょうけど、問題ないわ。』


 実はも何も、それ関係の取りまとめをしていることはフォクシ嬢から聞いている。

 だが、ここは言わぬが吉だろう。

 お母様が仕向けたのならば、その斥候二組は何らかの関係者か事情持ち。

 遭遇後の沙汰がどの様な結果であれ、全て想定しているだろう。

 騒動が収まり始めた矢先、まだ領兵は大きく動かせない。

 そんな状態で他の方角にも数組の斥候隊を送らせ、密度を薄くしている。


『連絡が杜撰になるようにわたくし共が工作を行っております。ところでお嬢様。』


 セラまで積極的に行動して居るというのなら、このまま国境越えは叶いそうだ。

 となれば次の問題はその先。

 如何にして力を蓄え、どのタイミングで仕返し(・・・)に戻るかだ。

 やられっぱなし逃げっぱなしで終わるつもりは毛頭ない。


「何か気になることがありましたか、セラ。」


『見慣れぬ料理が映っております。フォクシの手持ちレシピにそのようなものはなかったはずですが。』


「挑戦してみました、私だって無駄に厨房に入り浸っていません。」


 嘘である。

 厨房へつまみ食いに入っていたのは単にお腹が空いたからだ。

 料理をするようになったことと直接的な関係はない。

 弾かれたように反応したのはお母様。


『エルの手料理!? 想定外……ふふ、これは想定外ね……!』


『奥様、近いです。奥さ……駄目ですねこれは。』


 お母様が画面に張り付いた。

 そして引き剥がそうとしたセラが匙を投げる。

 子持ちとは信じられない小柄な体のどこからそんな力が出てくるのだろう。

 お嬢様と同じ碧瞳がきらきらと……いや、ぎらぎらと輝いている。

 通信を終わろうかなと一瞬思ってしまった。


『解ったわ。お母さんに任せておいて。』


『……素材の調達準備に取り掛かります。』


「えっと、お母様?」


「……お袋もなんか悪ノリしてねえ?」


「フリグさん、たまに色々すっ飛ばしちゃうからなあ……。」


 何かわからないが解ったらしい。

 宥められたフォクシ嬢の呆れ声も入り込む。

 相方も幼い頃からお母様を見てきている、諦めきった顔つきだ。

 セラはお母様の内心を察せるが、こちらとしてはそうも行かない。


『カイゼルに贈った剣の調理道具版。全世界に存在する道具を再現できるように組み上げておくわ! 帰ってきたらお母さんたちにも振る舞ってね!』


 帰ってくることは確定事項。

 面倒事(しかえし)の他にやることが増えた。

 こういう楽しいやり残しなら大歓迎。

 思わず頬が緩み、満面の笑みが浮かんだ。


「厨房の方々には負けますが、楽しみにしていてください。」


『あと孫の顔は戻ってきてからね、映像越しなんてお母さん許しません! あ、痛み止めと症状緩和の薬と魔道具はもうそろそろ届くと思うわ。』


「お母様!?」


 そう思っていたら抉るような珠が飛んでくる。

 報告するまでもなく、相方との関係は看破された。

 狐人でなくとも解るような位置と雰囲気だ。

 情報を扱うお母様だって画面越しでも安易に推測できたのだろう。


『エルから通信が入ったと聞いて! え、孫? エルをたぶらかすのは何処の誰だ!!』


『旦那様。事前に数度説明させていただきましたが、お嬢様の相方です。』


 画面外からお父様まで乱入だ、場は更に混迷を極める。

 お母様と同じく普段はしっかり……いや、していない、結構突っ走る。

 お嬢様の突進傾向はお父様から引き継がれたものであることは確かだ。

 セラの突っ込みが容赦ない。

 あとごくごく自然に交際相手を暴露される。


『カイゼル、いつの間にそんな……! エルー! お父さんは認、め、フリグ何その力! 俺が動かせないだと!?』


『ほらスフォル、あなたが馬鹿なことをしているからエルが呆れているじゃない。』


『見えないから、俺から見えないから! 独占はよくないぞ!』


 フォクシ嬢がよくやるように、お嬢様は現在顔を覆っていた。

 関係暴露についてではない、主に混沌具合に対してだ。

 最低でも、二日に一度は連絡をすべきだった。


「親馬鹿と聞いちゃいたが、ちょっと此処までってぇのは予想外だったわ……。」


『フォクシ。お嬢様の作られた料理に関するレポートを送りなさい。微に入り細を穿って。追加で報酬は出します。』


「セラ!?」


「まさかセラさんまで!?」


「お袋も駄目になってる!」


 最も頼りになるはずだった『万能』ですらブレーキ役として働いていない。

 告白返しをした当日。

 お嬢様がなにかしたとき、大抵初日で騒動が起きることを思い出した。

 あちらとこちらの三者三様、大変大賑わいな一晩だ。

お嬢様大好きトリオによる混沌でした。

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