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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第三章~リングアウトの間奏曲~
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第9話 絶好機会のレストタイム2

2021/04/24大規模修正&追加

 ギルドでの騒動はさておき、フォクシ嬢の目的が果たせなかったのは心残りだ。

 夕方までに採取なりの依頼が入ってくれればありがたい。

 とは言えそういった仕事は二ツ葉までの収入源。

 下手に出張って荒らしては同業者からの風評が悪くなる。


「……ま、妹弟子の護衛って依頼をしてるっちゃしてるんだ。気にすんな。」


 優先されるのは先に受けた仕事。

 そう言ってくれたが、お荷物と言われているようで肩が落ちる。

 近場の討伐依頼があれば、お嬢様達が戦力になることをフォクシ嬢は知っている。

 だが王都近くとなれば当然周辺領地の動きも活発だ。

 あるいは小規模なら道中の護衛が対応するため、持ち込まれる望みは薄い。

 つまり墓荒らし(グレイヴン)にとってはまだ手を伸ばしやすい場所なのだ。

 早く立つためにも物資の購入は手早く行う必要がある。


「先に彼氏の荷物だな、鞄は背負うほうがいいか?」


「そうだね、手が空く方が助かるかな。」


「……あの、自分の鞄くらい私、自分で持ちますからね?」


 右から左へ聞き流された。

 ルゼイアはお嬢様の鞄持ちを買って出ていた。

 お嬢様が持つにはいささかサイズが大きいという主張だ。

 あまり背の高さは変わらないはずなのに。

 流石に荷物が増えれば自分で持つつもりなのだが、ルゼイアは譲ってくれない。


「そんじゃあまず――と、出店も立ち始めたし、朝飯食いながらにするか。親父ー、串焼き六本ー。」


「あいよ、毎度!」


 明るくなれば眠っていた商人や護衛達が動き出す。

 大きな街道に沿って広がる街にとって、この道は金の落ちる道だ。

 露店設営が手早く行われ、小型魔道具による簡単な調理も始まった。

 匂いが勝負の決め手となる。

 今回は真っ先に香辛料の焼ける香りを漂わせた串屋で購入。

 肉、野菜を刺して塩をかけて焼いただけの簡単なもの。

 だからこそ他を差し置いて客が入り、回転に合わせて最初から大目に作る。

 奥まったところにタレ壺もあることから、時間差でそちらも焼いていくのだろう。

 中々具材が大きい、お嬢様が思い切りかぶりつこうとしても一口では無理だ。

 それが各々二本ずつ、お腹の具合は初日で把握されたようでありがたい。


「おっと、この時間から雑貨並べるとこは珍しいな、行商かぁ。」


 食べ歩きながら携帯雑貨の商店へと向かう矢先。

 ふとフォクシ嬢が設営された露店を見て立ち止まった。

 売れ行きで考えれば、この時間帯は飲食物の方が稼ぎになる。

 宿や酒場ではそういった兼業ができるが、居を構えていない行商となると話は別だ。

 街から街へ、仕入れて捌いてを繰り返す商人に腐るものは扱えない。

 調理したてを出せる露店と張り合っては利益が出ない。


「雑貨の露店ですか、もう一段落してからのほうが売れ行きも良さそうですけど……。」


 ただ、この時間で出した所で大抵の客は食事に流れる。

 商人の記憶はないお嬢様でもそう思うのだ。

 少しでも多く売りたいにしても、少々早い。

 一体どんな行商人だろうか――、と露店をみたお嬢様の表情が固まる。


「あれ。仮証書ってことは学園の商業科?」


 ルゼイアがお嬢様の内心を代弁してくれた。

 簡素な荷馬車に突っ立て棒を立て、幌を被せた露店。

 その突っ立て棒には商業組合の()組合証書がかけられていた。

 地域外展開を行う商人のほとんどは商業組合に所属する。

 国をまたいで通貨や物価をまとめる組合は、冒険者ギルドと同じく規模が大きい。

 その恩恵を受けていることを示すのが組合証書。

 これはその店の品質を組合が保証する、というものだ。

 だが、品質の見極めとして一定期間の研修及び目利きの試験がある。

 発行されるということは組合の信用を預けているということだ。

 証書には冒険者証と同じように、登録者の体内魔力が組み込まれる。

 学園では仮免許を配布し、商売の成果で本免許へ昇格する制度がある。

 貴族科における社交場の成功、騎士科における実地研修の成功。

 これらと並ぶ商業科の最難関。

 となれば学園関係者、商業科なら墓荒らし(グレイヴン)と癒着している者が非常に多い。


「固まる必要はなさそうだぜ。お前さんらの学友だろ、あれ。」


 体に走る緊張を察したフォクシ嬢が更に観察を済ませてくれた。

 追われる可能性があるのはお嬢様だけ。

 二人の影に隠れようとしたところで改めて露店を開設している商人を見る。

 身長がお嬢様より低く、忙しなく品を確かめている中性的な容姿の鼠人。

 ちょろちょろとした動きに合わせ、灰色のショートカットがふわふわ動いている。

 大きめの白い半袖服に焦げ茶のサルエルパンツ。

 最後に見たときより少しだけ日に焼けて、快活な印象が増していた。


「……ラッティさん?」


「あれ、エルエルさんにルゼイアさん。こんな所で会うなんて珍しいですね。ご卒業されたのですか?」


 名を呼ばれると、丸い耳がひくりと動き茶色の瞳がこちらを向いた。

 学園から外に出る場合、様々な手続きが必要だ。

 基本的には実家への帰省、外に向かう試験以外では認められない。

 既に機能していないが、これは学園街が独立性を保つためだ。

 蒸し暑くなる夏に帰省する者は少ない。

 試験であれば大人数の馬車移動。

 となれば、卒業処理を終わらせて外の世界に踏み出したと考えるのが妥当だろう。

 勿論その言葉にお嬢様が目を細める。


「ラッティさんは知ってるはずですよね?」


 何せ夜会での告発の際、資金の流れから情報を持ってきたのはラディ商会だ。

 お嬢様に協力した者の一人が卒業したかどうか聞いてくるわけがない。

 ラッティ氏も其処に思い至ったのか、ああ、と手を打って誤解を解く。


「いえ、ボクは独身をご卒業かと思いまして。」


 お嬢様とルゼイアを見て言った。

 ぶふっと静観していたフォクシ嬢が吹き出す。

 状況は全て知っているはずなのに馬鹿なことを言ってくれる。


「ええっと……それは……。」


 ルゼイアが判断に困る表情と声を上げるが、お嬢様は速攻だった。

 手槍を左肩に移動させ、右手を握拳。

 状況的にちょっとそれは笑えない。


「殴ります。」


「ごめんなさい冗談です! ただの商人に手を上げたら騒ぎになっちゃいますよ!」


 ただの商人とはどの口が言う。

 腰後ろにぶら下げている二本の短剣に気づかないとでも思ったのだろうか。

 ラッティ・ラディ氏、学園街で商業科に所属しているが、騎士科の卒業資格持ちだ。

 レオン嬢に割引券を取られる一方、ミズール嬢の剛剣を短剣二本で凌ぐ腕前。

 とは言え騒ぎを起こしたくないのは事実だ。

 深いため息と共に開手。


「おっ、面白い鞄売ってるじゃねーか。へぇ、中々雑貨もいい。」


「お目が高い、こちら氷変化系列の魔法を身に着けた魔獣の革をなめしたものでして! 魔道具には及びませんが、多少の保冷効果が望めます! お値段も魔道具ほど高くはなく大変便利です!」


「……魔獣の回路を上手く残してるのですね……。あ。」


 物色し始めるフォクシ嬢に対し、速攻学友との交流から商人へ意識を切り替える。

 ここまで見事な切り替えをされると継続して怒る気にもなれない。

 ふと思い出したお嬢様は鞄から取り外してきた小物入れを探る。


「日用雑貨も、ちと揃えてぇ。一人何も持たずに来たのがいるんでな。」


「でしたら、セット購入で少々割り引かせていただきますよ! そろそろ次の街に向かいます、在庫を掃いておきたいので!」


「正直だねぇ。いや、商機と見たのかい。」


「ふふふ、ついでに六ツ葉冒険者さんの覚えも良くなれば言うこと無しですから。」


 ごそごそと探っている様子をルゼイアが覗いてくる。

 こちらではなくフォクシ嬢の方へ意識を裂くよう小突いておいた。

 何せ購入するのはルゼイアの旅道具なのだ。

 気にしながらも商談に加わりにいった。


「お勧めは先程の鞄にランタン、燃料油、寝袋、食器、日用ナイフにスキレット、ロープに水筒は浄水機能のものを一つにするか、通常のものを三つですね!」


「あまりかさばるのも厄介だし、多少は僕もお金は持ってる、浄水機能付きのほうをお願いしようかな。」


「ま、どの道お袋に請求するからあまり気にしなくて良いんだけどな?」


 随分奥の方に潜り込んでいた。

 ようやく取り出したのは、学園から出る時に使った札。

 術式の解析を試みた際、そのデタラメ具合に目を取られすぎていて見落としかけた。


「肌着のほうは流石に置いていませんので、別途購入されると良いかと。この街にラディ商会の支店は出ていませんが、良い店を紹介できますよー。」


「それじゃ、そっちも頼むかね。ちなみにセットの割引きと、オレ(・・)との縁込みでどれだけ値を引ける?」


「ぐう……! 別途持ち出されるとは流石『万能』のご息女!」


「ネズミ相手は慣れてるものでね。ちゃあんと覚えといてやるさ。」


 商談はまとまりそうだ。

 ならば突きつけるのは値段を決定してからでいいだろう。


「……総額となると大金貨6枚ですが……、良いでしょう、思い切って大金貨5枚で!」


 お嬢様の身につけている認識阻害の魔道具は三割引きの優待券込みで大金貨14枚。

 それを考えればどれだけ高級な魔道具であるのかは想像に難くない。

 相当な儲けを出せたわけなのだから、もう少し還元してもらってもいいだろう。


「では、こちらの優待券も使わせてもらいますね。三割引きでしたから、大金貨3枚と金貨5枚でしょうか。」


 笑顔で札を差し出すお嬢様。

 グラウンド家が魔道具の素体として使っていたのは、ラディ商会の優待券だった。

 ラッティ氏の表情が凍りついた。 

 つう、と頬を伝う汗を手の甲で拭った。

 恐ろしいものを見る顔でお嬢様へ視線を向ける。


「あの頃よりますます冴え渡っていますね……。と言いますか何時の間にそんなもの手に入れたんですか!」


「レオンさんのところの従者さんに頂きました。」


「居ないのにやってくれますねえ!?」


「まあ安いほうがお袋から小言もらわなくて済むけどよ……。そういやラッティだっけ、次は何処に向かうんだい。」


 懐から大金貨3枚と金貨5枚を支払い、フォクシ嬢が問いかけた。

 値段を先んじて開示したのはラッティ氏。

 ここで割り引いたので優待券は効かないと言ってしまえば心象が悪くなる。

 大人しく黒い背負い鞄に購入セットを詰め込み、ラッティ氏は思考を切り替える。


「もう少し東へ、クリムゾンヴェールを目指すつもりです。王都の嗜好品はヴィオニカ連邦国の行商人によく売れますので。」


「へぇ、東……東か、そいつぁ都合がいいな。」


 姉弟子の目が光った気がする。

 恐らくお嬢様が考えていることと同じだ。

 この街の冒険者ギルドに持ち込まれる主な仕事は護衛。

 ラッティ氏はこれでも騎士科卒業の資格を有している。

 単独である程度の魔獣にも対応できるだろう。

 だから護衛を雇う必要はなかったのかも知れないが――。


「それじゃあうちの妹弟子が酷い値切りをした後だ。オレに護衛の指名依頼出しときな。報酬は鉄貨1枚でいいさ。」


「あの私最初に凄く散在させられたのでその意趣返しをしただけで……。」


「これは思わぬ所で返ってきました!」


 きらんと茶色の目が光る。

 銅貨どころか鉄貨で六ツ葉級の冒険者を雇える機会はまずない。

 護衛自体はただの建前、縁を長く繋げば今後の贔屓にもなってもらえる。

 それは商業科の試験にとって充分過ぎるほどの『成果』だ。


「では、後ほど依頼を出しておきますね。ボクも商売と準備がありますので、明日またこの場所で! そうそう、肌着の類はこの通りを左手側に進んだところのイーロ商店がおすすめです。帝国の物も並んでいますから!」


「……私、悪くないですよね?」


「カールには助けの手を出していたから、この場合どうなんだろう。」


「ルゼイアまで!」


 一緒に踊った仲だというのに手酷い裏切りにあった気分だ。

 確かにあの夜会では合格の手伝いにちょっとした声かけやら発破をかけたりもした。

 一方今回は確かにラッティ氏の成果を邪魔するような行動だ。

 しかしそれは彼の身から出た錆ではなかろうか。


「むくれない、むくれない。」


 頭に手が乗せられた。

 あやすように撫でられる、子供扱いされているようで唇を尖らせる。

 だが実際に撫でられているとへんにゃり耳から力が抜け、怒気も何処かへ散ってしまう。

 折り合いはつけた、羞恥に染まることはない。


「……あ、指輪の算段でしたら是非うちで!」


「殴りますね。」


 それとこれとはまた別だ。

 再び拳を握りしめる。


「暴力的になってませんか!?」


 等とやっている間に、ルゼイアは背負い袋を受け取っている。

 次は肌着の類、とフォクシ嬢に首根っこを掴まれて露店から離れることになった。

 フォクシ嬢は自らの信念を曲げず、ラッティ氏は商業科として卒業資格に近づく。

 互いにとって中々良い取り引きだったようだ。


 * * *


「……そういえば。」


 思い出したようにお嬢様が口を開く。

 結局ルゼイアがイーロ商店で購入したのは大きさの違うタオルを数枚。

 あとは替えの衣装を二着程度。

 無理やり寝間着も一着追加で買わせた、肌をきちんと隠すことは大事だ。

 ついでにお嬢様が調理用にベージュのエプロンを二着、あと目の粗い布を一枚。

 あっという間に買い物が済んでしまったため、昼まで時間ができた。


「フォクシさん、魔法貨物(シェイプレター)って何ですか?」


 冒険者ギルドに入って早々、アンカーがどうとかやり取りをしていた。

 お嬢様が槍で牽制したり、まさかの再会があったりして聞きそびれていた。

 尋ねるなら行動合間の今が好機。

 お嬢様にとって術式の解析はパズル趣味のようなもの、気になっていたのだ。


「そういや教えるって言っといたな、妹弟子は知りたがりだ。」


 フードに隠れた認識阻害の奥では碧瞳が好奇心に輝いている。

 視線はずらされても内心を読むことに長けている狐人、表情くらいは見なくても解る。


「名前から察するに、手紙か何かの亜種だっていうのは解るんだけど。」


 ルゼイアも興味を引かれているらしい。

 背負鞄は丁度彼の背中で隠れるくらいのサイズ。

 中身はそこそこ詰まっているが、衣類が少ないのでかさばるほどではない。

 そういえば魔法科にも在籍していたのだった。

 今更ながら学園から出てきたということは騎士科の卒業処理を済ませたのだろう。

 こいつら似た者か、という視線がフォクシ嬢から注がれた。


「……ま、そんなもんだな。冒険者証にゃ体内魔力が通ってる。これを支部の魔道具で読んでもらって、自分のいる場所にアンカーを打つ。」


 冒険者証の基本的な構造は学生証と同じだ。

 血を媒体として内部回路へ体内魔力を通し、外付けされた自らの一部とする魔道具。

 その特性を利用し、受付にあった四角い魔道具に読み込ませることで位置を提示。

 体内魔力を知らせるアンカー頼りに支部へ荷物を運ぶ魔道具らしい。

 届ける際に姿を鳥などに変質させるところから魔法貨物(シェイプレター)


「便利……そうで少し融通が効きませんね。」


 流石に質量圧縮といった奇跡は望めない。

 過度がすぎれば世界を壊す空白が生まれかねないからだ。

 つまり荷物の質量分、魔法貨物は大きくなる。

 目立てばそれだけ奪われる危険性もある、内密のやり取りには使えない。

 だからお母様はお嬢様専用に連絡魔道具を作ってくれたのだろう。


「そればっかりはしかたねぇ。入れ違いになったら、別の場所で受け取るだけだ。冒険者証がありゃ魔法貨物はギルドで買える。お袋との連絡もこれで充分さ。」


 おまけに、基本的に冒険者はあちこち移動する。

 アンカーを打っても、届いた頃には既に支部を立った後ということもザラにある。

 その場合は支部に荷物が残るため、次のアンカーが打たれるまで保管されるそうだ。

 魔力の流れは物理空間によって減衰しない。

 どれだけ離れた場所であっても送受信は行われる。

 受け取り手であるセラのアンカー位置は、フォールンベルトの屋敷らしい。

 ……お嬢様のような周りの魔力を吸収したりしない限りは。

 固定魔法停止の専用魔道具を作ってもらえて本当に良かった。


「オレの場合は王都で一回打っといた、そこからなら半日もありゃ支部に届く。」


「ちなみに何を受け取るつもりだったのか伺ってもいいですか?」


「新聞とお袋からの情報。流石に三日も立ちゃ動きがあるころだ。」


 王都のものを月間購読しておいたらしい。

 経費の銀貨2枚は経費とのこと。

 新聞から得られる情報と、セラから送られる王都内の状況。

 二つを照らし合わせて状況を掴むことが目的だ。

 目指しているのはヴィオニカ連邦国だが、場合によっては変更も考えられる。


「確かに学園でも裏で色々していたようだし、警戒しないとね。」


 壁の外となれば、より狡猾な手を使ってくる可能性が高い。

 新聞から表面上の動きを、セラたちから水面下の動きを伝えてもらう。

 あとは現場で判断しろ、ということだ。

 流石のセラ達も目の届く範囲には限界がある。


「……迷惑をかけてすみません。」


「あん? 悪ぃのは泥引っ掛けてくる無粋な奴らだろ。」


 被害者ではなく加害者に咎がある。

 なのでお嬢様が気にする意味はない。

 セラから無理やり依頼を受けさせられたというのにあっさりと切って捨てる。

 フォクシ嬢も自分の中で切り替えのスイッチを持っているようだ、流石姉弟子。


「さーて、改めて時間ができたことだし、軽く昼飯とってから荷物確認いくかー。」


「準備に手間取らせてしまってごめん、ありがとうフォクシさん。」


「……なあに、最低限の荷も持たせず放り出されたんだろ? 気にするこたねえよ。」


 ルゼイアの言葉に対する反応、若干だが間があった。

 調理している時も二人でお嬢様の見極めをしていた。

 いつの間に仲良くなったのだろう。

 男子一人に女子二人、バランス的にうっかりすれば取り残されるのでは。

 そんな危惧をしていた所でお嬢様の長耳にフォクシ嬢の呟きが入ってきた。


「……弟、弟もいいよなあ。」


 絶対に聞こえないほどの小さな声だったが、屋外のせいで風が運んでくれた。

 ルゼイアの歳は、冒険者証から見るにお嬢様と同じ。 

 竜人は総じて背が伸びにくいことはミズール嬢や自分たちを見ても明らかだ。

 ただしハルト氏は例外とする。

 三人の中で一番背が高いのがフォクシ嬢、ルゼイアとは僅差だ。

 脱走や力比べの時に、結構夢を壊してしたと思っていたが問題なかった。

 彼女に取っては弟と妹が同時にできたようなもの。

 早熟な狐人だが家族に対する憧れは人一倍のようだ。

 そう言えばセラもお嬢様に対しては毒舌ながら大分甘い。

 ……授業や鍛錬の時を除いて。

 と、思い出していたらルゼイアに肩を叩かれた。


「うん?」


「……。」


 見上げたら首を振られた。

 それ以上考えてはならない。

 狐人は人の心を読むのが得意だ。

 理想に浸っている間に思考を中断し、察せられてはならない。

 考えを読まれたら多分、というか間違いなく拳骨が降ってくる。


「……。」


 こくり、と一つ頷いて同意。

 それにしてもルゼイアにも伝わるほど顔に出ていただろうか。

 学園で身につけたことは忘れていないし捨ててもいない。

 ある程度表情は隠せるはずなのだが。

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