第2話 絶妙格差のキャットファイト
2021/04/11大規模修正&追加
セラに娘が居たことに驚かせられた。
だが外見年齢を考えれば家庭を持っていても何らおかしくない。
出立前に築かれてきたセラへのイメージが壊されたが、さておいて。
認識阻害に加えて寮内が静まる時間帯だ。
夜更しして翌日の訓練や授業に影響を与えることを許す従者は少ない。
それでも寮内は全く人の目がないと言い切れない。
何せ大本の墓荒らしは壁の外から内側へ手を伸ばせるのだから。
「まあ、こっから出ることになるわな、オジョーサマ。お転婆だってぇ話は聞いてるが、三階から飛び降りたことは?」
「……流石にないです。」
ただしカーテンを結んでロープ代わりに降りたことはある。
現在は寮の室内、お嬢様に充てがわれていた部屋の大窓近く。
下を見れば石畳、その向こうに覗き防止の植林という構造だ。
幸いにも明かりのついている部屋はない。
「そんじゃ、オレが先に降りてやるぜ。妹弟子が下手な着地してもきちんと抱きとめてやるよ。」
妹弟子を特に強調するフォクシ嬢。
兄弟姉妹にどれだけ憧れているのだろう。
横に並ぶと案外背が高い、お嬢様より頭半分ほどある。
お嬢様が小柄なこともあり、確かに妹扱いされても仕方はない。
ともあれお世話になるのだから迷惑は掛けられない。
セラの身内ということならなおさらだ。
「行ってきます。後は任せました、セラ。」
「お帰りを、いつまでもお待ちしております。」
澄まし顔を崩すこと無く礼をしてくる専属侍女。
その横でひらりと躊躇なく飛び降りるフォクシ嬢。
ふわんと難なく全身で衝撃を受け流す。
着物裾が広がる様は非常に艶やかだ。
さてお嬢様を受け止めてやるかと振り返った彼女の視界に入ってきたのは――。
「……と、案外行けるものなのですね。」
五点着地を決めるお嬢様だった。
とつ、と軽く両足を地面に触れさせ衝撃を吸収。
さらにすね、もも、お尻、肩と衝撃を分散する受け身。
手を上げると、すとんと事前に投げておいた手槍が収まる。
多少髪が汚れるが、洗髪特化のブラシ型魔道具は鞄の中に入っている。
その鞄はカイゼルが咥えて滑空してきた。
「……行くか。」
ちょっと姉弟子の背中が煤けてしまう。
出だしから迷惑をかけるわけにはいかない。
自力で降りられると伝えようとはしたのだ。
声を掛ける前に飛び降りられただけで。
「……きゅう。」
「その、試してみたかった気持ちが無かったとはいいません。」
カイゼルからも呆れ声を向けられた。
思わず言い訳してしまう。
初手からやらかした感はあるが学園からの脱走が始まった。
グラウンド家の者と落ち合う場所は入り口門のすぐ脇。
壁に沿って建物が入り組んでおり、まるであつらえたような裏路地がある。
間違いなく狙って作られた場所だろう。
だからこそ、レオン嬢は外周近くに皆を案内することはなかった。
今回はそこを利用させてもらう。
時刻は日が変わって半刻ほど、丁度当直の警備兵が変わる時間。
「……。」
爛々と光る金色の目が、フォクシ嬢とお嬢様を出迎えた。
藍を基調とした侍女服は想像以上に闇に溶ける。
首から下げているペンダントは獅子の横顔が浮かんでいる。
それがグラウンド家の家紋だ。
レオン嬢の部屋には見舞いのために訪れていたが、初めて会う。
暗闇に浮かぶ目は猫人の特徴。
雰囲気からレオン嬢と同年代か少し若い。
お嬢様よりは少しだけ年上だろうか。
「ええと……、初めまして。レオンさんから伺っているかも知れませんが、エルエルと申します。」
「ミリィ。ミリィ・レオルド。」
お嬢様、相方、一緒にいる姉弟子を確認後に一礼。
獅人と間違われることの多い猫人だが、暗闇の中では目に差異が表れる。
彼女らは非常に気難しく、従者には最も向いていない。
と、考えていたら予想を付けられたのだろう。
瞳が不服そうな形に歪んだところから、好んでここに居るわけではないらしい。
「難儀だねぇ。ま、オレらは門の外に出れさえすりゃいい。方法は?」
「これ。」
足音無く近づくと、札を三枚差し出される。
お嬢様、カイゼル、フォクシ嬢が一枚ずつ受け取ると満足げに頷いた。
どうやら魔道具の一種だ――が、お嬢様もこんな滅茶苦茶な式は見たこともない。
何せあちらこちらで方程式が飛んでいる、抜けている。
経路だってあちこち途切れている。
徹頭徹尾完璧に組み上げられるお母様の術式に比べてあまりにもいい加減だ。
にもかかわらず何故か成立している。
「なん、でしょうこれ……。」
解析を試みても途中で行き止まりに突き当たる。
仕方無しに逆算すれば全く違う式にたどり着く。
まるで迷路だ、攻略を試みるには時間がない。
だがその疑問を、ミリィ嬢はどんな魔道具なのか問われたと思ったらしい。
「姿隠し、音隠し、匂い隠し、魔力隠しと結界すり抜け。目立って人の目につきさえしなければ歩いて抜けられる。使い捨て。」
「へぇ、そいつぁ便利だ。」
「これ一枚だけでそんなにも……。」
わずか札一枚に込められた効果量に絶句した。
そんなもの、ヴィオニカ連邦国でも開発されていない。
お母様ならあるいは似たようなものを徹底的に圧縮して作り上げるだろう。
だがどうしても消費する魔力の規模が大きくなる。
一方これは一般的な魔道具と同じ程度の体内魔力しか要求されない。
セラといい、レオン嬢といい。
どうしてこのタイミングで謎を増やしてくるのだろう。
大丈夫、お互いに生きていればまた会える。
詳しく話をするのはその時でいい。
「式は勝手に消えるから抜けた後は捨てればいい。」
やるべきことは終わったとお嬢様たちを追い抜いて、向かうのは寮の方向だ。
レオン嬢の従者は別に居た。
状態をみて追加の従者を呼んだのだろうか。
門の中での整合性が取れなくなれば問題になりそうだが。
「――腑抜けてる姐御の横っ面だけひっぱたいてくるだけ。すぐ出る。」
後ろ姿を追えば、疑問に答えてから手をひらひらと振られる。
さっさと行けと急かされた。
この場所には、未練はあるが用はない。
物騒な宣言をするミリィ嬢へ頭を下げてから、三人は揃って門をくぐる。
彼女の説明通り、人目に警戒せずとも見張りの兵は気づかない。
門に張られた結界の検査すらくぐり抜け、石畳の大通りに出る。
動作を観察してみたが、あちこちの式と経路の抜けが上手く噛み合って動いていた。
都度形を変えて秒以下の速度で効果を切り替え続ける。
ちょっとこういう回路は閃けそうにない。
「ほれ、ぼっとしてるんじゃねーぞ。まだ出ただけだ。」
「……はい。」
少し声が震えていた。
無意識に後ろを振り返っていたらしい。
学園での出来事は、全てが嫌なことだったわけではないのだ。
手元の魔道具のお陰でまだ気づかれていないが、猶予はない。
「きゅ。」
カイゼルから心配の声があがる。
大丈夫、残した未練に後ろ髪を引かれただけ。
だからいつか断ちに戻ってこなければならない。
具体的には楽しい日々を壊してくれた本体の墓荒らしへの仕返しだ。
ふう、と深呼吸して意識を切り替える。
「さあ、夜が明ける前に取っといた宿までいくぞ。結構距離あるんだ、はぐれんなよ。」
「お願いします。」
軽やかに先陣を切るフォクシ嬢が闇へと消える。
急いでフリルを翻し、続くお嬢様とカイゼル。
一般人には厳しい疾走速度、言葉通り距離があるらしい。
学園街と変わらない町並みだが、二周りほど路地は広いし、建物は大きい。
おまけに学園街に比べて路地を外れた際の闇が濃い。
体内魔力を糸のように伸ばしてくれているお陰で見失うことはない。
表通りはあちこちは明かりがついており、酒場などの賑わいが聞こえる。
酔っ払いの笑い声を通り過ぎ、吟遊詩人の歌を耳に挟む。
どれも学園では拾えなかった音だ。
駆けること一刻。
裏路地に入ったところの小さな宿でフォクシ嬢は足を止めた。
王都の壁を超えるのは明日、開門の時間を過ぎてから。
「明日にゃ出るから、朝まで世話になんぜ。」
「……金はもらってる、一々言わんでいい。」
フォクシ嬢と共に無愛想な店主の横を抜け、部屋へ移動。
五点着地で汚れていた髪を整えてから硬いベッドで横になる。
きちんと三人部屋を取っていてくれたことには感謝しなくてはならない。
寮では随分な応酬が繰り広げられたが、依頼は全うしてくれるようだ。
それにしても入浴も着替えもなしに眠るだなんて。
屋敷時代から考えたこともなかった。
とっくに効果の切れた札は鞄にねじ込んでおく。
まだ捨てたくなかった。
* * *
慣れないベッドだったせいもあり、若干体が痛い。
気づかない間にもふもふたてがみのカイゼルを抱き枕にしていた。
もうお互いにそんな状況には慣れたものだ。
ストレッチして伸ばしている所でフォクシ嬢が起床。
そのまま今後の移動経路の説明を受け、宿を立つ。
王都の朝市は学生街と同じくらいに賑わっている。
あちらは呼び込みの声が大きかったが、こちらはパフォーマンスも呼び込み手段。
多種多様な品と風景が並んでいた。
「まずは東門を抜ける。目的地はクリムゾンクレイ、名前は聞いたことあんだろ?」
朝食変わりのリンゴを投げてよこしてくれた。
キャッチして、少し瞼を落と思案。
その間にカイゼルがしゃくしゃくかじっている。
当てられないって良いですよね!
記憶を探れば案外浅いところにその名前が浮かび上がる。
「確か、東交易路の中継点で、ヴィオニカ連邦国との緩衝地帯にもなっている街ですよね。」
「一応オレの拠点だからな。本格移動するなら地元で準備を整えてぇ。」
「……あと東門の外は、かなり起伏がありましたよね。」
「多少暴れても問題ないくらいのな。」
赤い目が細くなる。
そうすればセラそっくりだ。
試してやる、姉弟子はそう言っていた。
お嬢様としてもフォクシ嬢の動き方は知っておきたい。
騎士科で学んだことだ。
複数人での行動の際、各々の動きを知っておく必要がある。
即席で面子を組むことが多い冒険者であれば、その判断基準も覚えておきたい。
この華奢な体ではギルドに入った途端に笑いものにされる自信がある。
フォクシ嬢の腕の見立てはミズール嬢やハルト氏よりやや上。
ルゼイアと比べるとどうだろうと言った所。
だがこれは上部だけを見た場合だ。
「……わかりました。すみません、串焼き一本頂いても?」
きゅう、と可愛らしくお腹が鳴った。
どうやら果実一個だけで足りないらしい。
丁度タレの焼けるいい匂いが鼻孔をくすぐる。
背中に呆れた視線が刺さるが、流石に自分で購入するつもりだ。
お嬢様は細い外見に見合わず健啖家なのだ。
体を動かすのであれば、しっかり食事を取っておきたい。
「あいよ、なんだい相方さんは育ち盛りかね! なんならあと一本買ってくれりゃそっちの姉さんの分もおまけしようか!」
「ね、姉さんかぁ……。」
露店の親父さんは相方用と思ったらしい。
当然認識阻害の魔道具は出力最大だし、魔力撹乱だって出力最大。
こんなお膝元でバレるようなことはしたくない。
……が、背に腹は代えられない、まだ育つはずなのだから。
今朝の朝食は、リンゴ一つと肉串一本。
残り一本はカイゼルに持っていかれた、荷物を持ってくれているし仕方がない。
支払いはテンションが高くなったフォクシ嬢がしてくれた。
* * *
東門を出るまでに時間は取られなかった。
入ってくる積荷のチェックは行われるが、出る方には検問が行われない。
というより恐らく数日の間はそんな指令を下す暇もないだろう。
シルヴィ嬢の動きにしばらくが意識を割かれる。
城壁の外は一気に建物が見当たらなくなる。
目に入る人工物と言えば足元の固められた道と、点々と存在する小さな街灯と井戸くらい。
後は緑の大地、緑の丘、緑の木々、青い空と白い雲。
今のうちに王城から距離を取らねばならない。
「……ま、この辺なら見つからね―だろ。」
念の為整備された街道を途中から逸れて進むこと二刻。
姉弟子の洗礼を受ける場所に到着した。
周囲の丘は最早風景と化しているが、実はその殆どが人工物だ。
このあたりはかつてのヴィオニカ連邦国との防衛線。
丘の影に入れば、人の手が入った場所が見て取れる。
資材さえ隠しておけば即時砦が建てられる。
地盤は頑丈、資材は置いていないので広さも充分。
「そんじゃあ妹の腕前拝見といこうかね。」
弟子の二文字が消えている。
露店でのやりとりのせいだろうか。
セラ、今でもフォクシさんは妹を欲しがっています……。
念じた所で届くわけはない。
既に手合わせ前、フォクシ嬢の構えはセラを思わせる自然体。
帯に佩いた太刀を肘置き代わりにしている。
「カイゼル、これを預かっておいて下さい。」
認識阻害の魔道具は模擬戦の際も常に外していた。
壊したくないし、何よりこれが原因で怪我もしたくない。
目の前でひくっと喉が鳴る。
そう言えば、日の下で素顔を見せるのは初めてだったかも知れない。
結わえてもいない金髪に、腕試しということできゅっと引き締まった眼尻。
スイッチは少女から戦士へ切り替わり、碧瞳が赤瞳を射抜く。
貴族の娘として、見た目の良さは折紙つきだ。
フォクシ嬢が片手で顔を覆った。
「……本当に、お嬢様だったんだなあ。」
「よろしく、おねがいします。」
気を散らせてしまったようなので、声に力を乗せる。
左前構え、右手が穂先の位置を決める。
短めの手槍だが、持ち方は何時もと変わらない。
どちらも長物だ、言ってしまえばリーチの差でしかない。
「……傷物にしないよう気を付けてやるよ。」
言うが早いか、ふっと視界からフォクシ嬢の姿が消える。
知っている、セラと同じ脱力からの超加速だ。
だからこそ魔力撹乱の効果を一気に五割まで減らす。
強制的に世界が黄金に染められる。
槍は素人でも扱いやすい武器、ならば懐に入れば事足りる。
だからセラはそれをお嬢様に教え込んだのだろう。
その判断がフォクシ嬢の失敗だ。
既にフォクシ嬢は太刀の間合い内。
親指と人差し指だけで柄を挟み、逆手で鞘引きを行っている。
抜ききるには手の内と腰の連動が肝要。
その一瞬はお嬢様にとって充分な時間だ。
「――お気遣いなく。」
カツン。
抜き放たれ、手の内で周り、上段から肩を狙う振り下ろし。
対するのは側面へ回り込んだ。
脇を締めておけば槍は勝手についてくる。
太刀打ちで、文字通り太刀を横からの殴りつけた。
振りが正確であればあるほど、横からの衝撃に弱い。
打ち込んだ時には穂先ではなく石突がフォクシ嬢の首元まで伸びている。
姉弟子が気遣ってくれたのなら妹弟子だって気を遣う。
勝負においてそれがどういう意味を持つか知ってもらうために。
「てめ……情けかけやがったな!」
わずか一手で終わった。
油断していた者と油断しなかった者の差だ。
槍を引いては再び距離を取る。
フォクシ嬢は太刀を抜いたままだ。
腕試しから戦いに変わる。
「セラから教わりました、槍の動きは手練手管に千差万別。」
ひぅん、と右手を中心に手槍が回る。
風を切る風車は肩をくぐって左手へ移動し、頭上を通って元の位置に収まった。
ただのパフォーマンスだが、槍の扱いに慣れているという証にはなる。
「状況に応じて最適に動けと。」
ひたり、と穂先はフォクシ嬢の心臓へ。
試験を通して覚悟の据わったお嬢様は、スイッチが入れば遠慮がない。
碧から金へ変わる瞳、薄く顕現する黄金の竜。
「ぎゅあ。」
大人げない、という突っ込みは聞き入れられない。
ちゃんと腕を見てもらい、腕を見ることがこの戦いの目的だ。
足手まといにはなりたくない。
一瞬激高しかかったフォクシ嬢だが流石姉弟子、そのまま突っ込む愚を犯さない。
ふっと表情が消え、目が細められる。
空気が変わった、セラが本気で追い込んで来る時に近い。
トッ、と足音を置き去りに距離が消える。
外側から右足狙い、穂先を下へ突いて防ぐ。
高い金属音が鳴り響く。
即時身を捻って左脇腹を横薙ぎに。
それなら右足を軸に左足を回し、柄の中央ではたき落とし。
そこで留まらず、刃を巻き込むようにぐるんと回して首を打ちに。
身をかがめ回避する。
地を蹴り、体の浮きを利用した顎をかち割り。
槍の回転角度を縦に変え、左足で地を蹴って少しだけ後退。
穂先はフォクシ嬢に向いている。
体をひねって腕を伸ばし、投げるように間合いを延長。
すっぽぬけないよう石突を手に引っ掛け、胴を突く。
切り払いに転じることで穂先とぶつかり、再びの金属音。
軽い突きのため弾かれた柄をくるんと回して、石突をフォクシ嬢へ。
好機と判断して踏み込んでいたら眉間を割る。
ここまでが一呼吸。
向かってこないのならばひぅんと手槍を回し、穂先を向け直した。
どちらの武器も刃を潰していない。
当たれば大怪我は免れない攻防だが、先に力を抜いたのはフォクシ嬢のほう。
「――わーったわーった! 合格だこんちきしょう!」
「……ありがとうございました。」
合格点を貰えた。
残心として互いに構えは残したまま。
このあたりは両者ともにセラに教え込まれた者同士。
最後の最後に気を緩めたほうが負ける。
そのため納刀と石突を地面につけるのもほぼ同時。
「お袋もとんだ化け物に仕込みやがって……。あーあー、可愛い妹がほしい!」
フォクシ嬢の方が常に攻勢に出ていたが、お嬢様は全てに合わせて防ぎきる。
それどころか毎回カウンターを挟んでいた。
手槍のほうが射程は長い、これで攻勢に回られたら。
あるいは周囲の目を気にせず、撹乱魔道具を切っていれば。
だが、フォクシ嬢も最初の目測よりも高い技量の持ち主だ。
お嬢様は護衛依頼の対象。
やる気は出してくれたが、終ぞ本気の打ち込みは来なかった。
にもかかわらず、最後は後退させられた。
いや、近衛騎士団の部隊長や最上級冒険者と比べることがおかしい。
そう考えれば、模擬戦相手だったルゼイアも学生にしては過剰な腕前。
彼はどのような身の振りをするのだろう。
「ご、ごめんなさい?」
妹に対する夢を壊してしまったようだ。
とは言え勝負は勝負。
そこで手を抜かれてはお嬢様としても譲れない矜持がある。
まずは魔力撹乱を再び最大に。
黄金の竜はかき消え、世界は本来の色彩を取り戻す。
落とし所が難しいと眉をハの字にしたところで、またフォクシ嬢が顔を覆った。
「……とりあえず、眼鏡かけてくれ眼鏡。」
「え、はい。」
そう言えば。
手合わせも終わったので戦士のスイッチは切っている。
表に出てくるのは年相応の面だ。
「きゅ。」
「……カーイーゼール。」
お嬢様の外見は可愛くないとは表現できない。
その上礼儀作法や貴族科との一件のおかげで表情すら武器になる。
そんな年下の困り顔を見て、妹に焦がれるフォクシ嬢が折れた。
狙ってやっているのかと聞いてくるカイゼルは小突いておいた。
個人的なイメージです。
刃物だとひゅん、って感じの効果音が合いますけど、
槍とかだとひぅん、って空気を叩き割る感じにしています。




