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ちょとつ!@異世界にて  作者: 月蝕いくり
第二章~ルール無用のオヴェーション~
28/112

第10話 死亡回避のアンサンブル

2021/04/06追加

 絵画を切り裂いて作られた刃。

 カンバスの穴にはどんな色も乗せられない。


「エルさん――!」


 レオン嬢の悲鳴が聞こえる。

 自分を象る色彩に穴が空く。

 音もなく繊維が解かれ、その下にある柔肌を、その奥にある脈動を――。

 届く前に、世界が黄金に包まれた。


「止まっ、――れえ!」


 犠牲になるために身を晒したのではない。

 窮地に至って心の揺らぎが落ち着いた。

 撹乱の枷が弾けとび、固有魔法が発動する。

 絵画そのものがお嬢様と化せば、カンバスの穴を圧倒的な絵の具量で隠せる。

 停滞、魔力の空白地に無理やり体内魔力を循環させることで強制的に消す。

 渦を巻く黄金竜の顎が影狩り(シャドウ)を文字通り飲み込んだ。


「すご……っ!」


 あっけに取られた声が耳に届く。

 渦巻く黄金、固定魔法の規模が明らかに増している。

 空いた穴は瞬く間に塗り隠され、宝食獣の死骸は残るものの世界は絵画を取り戻す。

 とはいえ強引に体内魔力を巡らせ、撹乱効果を上回らせた負荷は大きい。


「はっ、はぁ……っ!」


 死。

 今更ながらその一文字が脳裏を過ぎり、お嬢様の全身から嫌な汗が吹き出した。

 座り込んだまま地に両腕をついて荒くなった息を整える。

 一気にトップギアまで入れた反動。

 急激な虚脱感と共に視界がぼやけ、すぐには動けそうにない。

 窮地は脱した一方、固定魔法がある限り外との連絡はできない。

 この魔法は世界との制約と契約で縛り付けている。

 ある程度のさじ加減は効くが完全に効果を停止させることはできない。

 過負荷をかけた体内回路を落ち着かせ、魔道具の撹乱許容内に抑え込む。


「……ハルトさん、無事、ですか。急いで戻って、状況を伝えないと。」


 体に張り付いてくる髪が邪魔だ。

 癖の少ない髪は檻になり、汗の滲んだ地面しか見せてくれない。

 何とかかき上げて視界の確保、上半身だけで振り返る。

 気だるさが残るが、できる限り状況を確認したい。

 地図を作っていたのはハルト氏だ、帰り道も把握している。

 突然魔物が現れた件は無視できない。


「……かはっ」


 後ろで尻もちをついていたハルト氏が、唐突に息を吐いて仰向けに倒れた。

 外傷は見当たらない。

 増援が来た様子もないし、魔力や他に空白が動いた様子もない。

 まともに動けるまであと少し、一体何が起きたのか視界を巡らせる。

 モルグ氏がすっと視線を逸らした。

 先を追っても、そこにあるのは宝食獣の死骸だけだ。


「モルグさん、何が――。」


「エルさん。隠そう。」


 レオン嬢から低い声が漏れる。

 隠す、何を――。

 と、視線を追って下に向かう。

 視界の焦点がようやく整った。

 そう言えば肌を切り裂く直前に無理やり魔法を発動させた。

 騎士礼服と言えど対魔物の装備ではない。

 多少の魔法ならば耐えるが魔物の一撃を受け止めるには心もとない。

 実際に見ていたではないか、あっさりと服が破かれる場面を。


「き……。」


 今度こそ、止められる者はいなかった。


「きゃああああ!!」


 肉体が魂を凌駕し、心の底から叫ばせた羞恥の悲鳴。

 急ぎ両腕で隠すが既に犠牲者は出てしまった。

 脅威と共に、緊張感も何処かへ吹っ飛んだ。


「ああ……ええと……。」


 この場に居ないはずの者の声が動揺に拍車をかける。

 お嬢様の表情が硬直し、視線がその先へ向かう。

 少しばかり逸らし気味の視線が雄弁に語っている。

 見ました、と。


「班員とはぐれてしまったんだけれど……ぐぉ!?」


「悲鳴を置き去りに!」


 羞恥が限界を突破した瞬間、お嬢様の肉体は過去最高速度を叩き出す。

 槍の扱いのため徹底的に鍛え込んだ下半身、立ち上がるだけなら一瞬だ。

 わずか一歩の踏み込みで距離を消す。

 涙目のまま右足で大地へ着地。

 速度と体と羞恥と乙女の尊厳と魂の嘆きと八つ当たりを乗せた右拳が綺麗にルゼイアの鳩尾に突き刺さる。

 折角落ち着かせたのにまた体内魔力が過負荷を起こす。

 何時ぞやのように、魔力を散らすだけの余裕はなかったらしい。


「はぁっ、はぁっ……!」


 崩れ落ちる犠牲者二人目を前にして、大きく肩で息をする。

 下手に突くと泣き出しそうでレオン嬢も声をかけることができない。

 犠牲者三人目、回復した分の力を使い果たして座り込んだのはすぐ後のこと。

 困憊状態で無理やり動けばそうなる。


 * * *


 改めての状況確認。

 ルゼイアは入って早々班員とはぐれたらしい。

 探す最中に宝食獣を狩り、帰り道が解らずうろついていた。

 そこで見知った魔力を確認したため、近づいてみたら鳩尾を抉られた。

 ちょっと申し訳無さそうにするお嬢様だが、そっぽを向いて視線は合わせない。

 耳の先まで真っ赤に染まっている。

 現在致命的な箇所はレオン嬢が簡易補修をしてくれた。

 お陰でお嬢様の慎ましい箇所の防衛に両腕を割かずにすんでいる。

 裁縫セットは庶民時代の嗜みとのこと、非常に助かった。

 ハルト氏は前後の記憶がやや曖昧になっている、こちらも助かった。

 いつも通りのやり取りは道中ですり減った精神を誤魔化してくれる。

 だから気持ちが麻痺してしまった。


「ルゼイア君の武器、変わってるね。剣の柄だけ?」


「ああ、これは魔道具で……、起動させると刀身ができるんだ。軽いし便利だよ。」


 現在は帰路に当たって最低限のミーティング。

 一度魔物が発生したのだ。

 この周辺ならばともかく、もっと奥は解らない。

 周囲に魔力が戻り次第、外へ連絡を取らねばならない。

 お嬢様の槍が失われたのも痛い。

 戦力として数えるためには固定魔法を使う必要がある。

 とは言え後は戻るだけ。

 現状では外部への連絡が最優先だ。


 ――現場を知らないのは、何も貴族科の学生だけではない。


 首筋に薄ら寒いものが走るのと、先程以上の恐怖が襲ってくるのは同時。

 想定外が起きた時点で止っている暇などなかった。

 鮮烈な魔力の輝きは世界を憎む者にとって潰す灯火。


 『墓荒らし(グレイヴン)


 何時だったかカリスト嬢の授業風景が頭に浮かぶ。

 最初に動けたのは斥候役を担ってくれたモルグ氏だった。


「――影狩り(シャドウ)は前触れか。手前が時間を稼ぐ。ハルト、レオン、先頭で駆けろ! エルエル、気にするな、全力で魔法を開放して逃げろ、ルゼイアは守れ!」


 裂帛の指示。

 有無を言わさぬ迫力に、強情なハルト氏が即座に従った。

 先程まで魔道具について聞いていたレオン嬢が青ざめた表情で駆け出す。

 道を作れるのは突破力のある二人が最適。


 『閉所における魔力の空白地に晒された存在が転じたもの。』


 遅れて撹乱魔道具を切り、固定魔法を展開したお嬢様。

 輝きは目立つが、もう隠してどうなる状況ではない。

 最後尾を守るようにルゼイア。

 モルグ氏は円盾と手槍を手にしたまま動かない。

 全員が即時切り替えられたのは騎士科で訓練してきた賜物。

 暗闇から世界を破る切っ先が現れる。

 一箇所二箇所どころではない。

 世界というカンバスにパレットナイフの切っ先が何十本も突き出した。

 全員がその正体と自分たちの状況を理解する。


 『特に墓所や廃坑の奥深くで生まれ、その後目立たぬように周囲の存在を殺して変質させ、加速的に増えてゆく。』


 ずず、と切断された宝食獣のパーツが動いた。

 それらはもう死骸ではない。

 拳で撃ち落とされた影潜りがきちきちと音を立てながら立ち上がった。

 それらは、もう死体ではない。

 一斉に肉の塊が襲いかかる。

 あのときの説明は、この状況下絶望となって締めくくられる。


 『それが居たなら、万に一つの可能性にかけて外を目指すしかないわ。』


「行かせん……!」


 うねる巨体を円盾で弾く、飛びかかってくる痩躯を手槍で叩き落とす。

 刃をかがんでかわし、穂先で貫く。

 だが、どれだけ腕が立っても所詮は二本。

 異常な切れ味のパレットナイフは無数に並んでいる。

 カンバスが、ずたずたに刻まれる。

 影狩り(シャドウ)の比にならない無秩序な速度。

 最後まで、後ろから悲鳴は上がらなかった。


「せぇ――らぁ!」


 この場所は既に彼ら(・・)の支配下。

 すぐ前方まで世界が破かれる、騎士団がどうして見落としたのか解らない。

 既に相当消耗しているはずだが、レオン嬢の拳は逆境でなお冴え渡る。

 前方を邪魔するように落ちてきた宝食獣だった塊を一打で退ける。


「くそが――!!」


 素の気合と共に加速するハルト氏。

 道を作るための一点突破の突撃は、騎槍で無いため貫通力が出しきれない。

 だが、空気を置き去りにした速度により衝撃波が物理的に影響する。

 倒してきた影潜みの死骸だったものだ、それだけで事足りる。

 それでもジリ貧、既に周囲を包囲されている。

 状況解析が見せた未来に駆ける足が竦み上がる。


 ――いやだ……。


 ズタズタに引き裂かれて殺されるのは嫌だ。

 後ろから飛んできた手槍をルゼイアが柄で弾き飛ばす。

 出口まで相当な距離が残っている、追いつかれる方が先だ。

 絶望の二文字に血の気が引き、意志の揺らぎが固定魔法の出力を薄める。

 奇跡を生み出すのは意志の強さ、迷いがあれば強く影響を受ける。

 自分が今まで、どれだけ安全な場所にいたのかを痛感した。


 ――こわい……!


 存在が書き換えられるなんて想像もしたくない。

 普通とは違えども、基本は十三歳の少女。

 二度の死を前に張っていた糸がぷつんと切れる。

 崩れてしまえば手持ちの仮面を被り直す事もできない。

 助けの手を伸ばす余裕が誰にも無いと解っていても、座り込んで泣き出したい。

 

 ――だから、たすけて、わたし……!


 魂に呼びかける。

 か弱い乙女に腑抜けてしまった決意(おてんば)を思い出さねばならない。

 あの日開いた魂の経験と、この世界で育まれた心は反発しない。

 怯えの残る視線をルゼイアに向けて、伸ばした手で袖口を掴んだ。

 庇って欲しいと縋らない、何とかしてとも願わない。


「……一緒に死んでくれますか。」


 欲しいのは自分を取り戻す時間。

 この場で頼めるとすれば、きっと彼だけだ。

 恐怖は覚悟で塗り替える。


「ああ、時間を稼げばいいんだね。」


 何の躊躇もなく快諾が帰ってくることは知っていた。

 体内魔力の総量が増えていたのは、魔法科の学生が撹乱道具を重しに使うのと同作用を果たしたお陰。

 できることは増えないが、やれることは増えている。

 つい先程の出来事で、魔物とはどういう存在なのか解析も終わっている。

 今なんとかしなければ後ろの二人や、まだ中にいるかも知れないカール氏の班も取り込まれる。

 自分なら止める一手を導き出せた。


「おい!」


「エルさん!?」


 二人の悲鳴を背にルゼイアと共に振り返った。

 恐怖心はまだあるし、逃げたい気持ちだって消えていない。

 目の前にはずたずたに引き裂かれていく絵画(せかい)と、学友だったものの残骸。

 体には無数の穴、腕がちぎれている、臓物が溢れている。

 空虚な眼窩は憎しみに染まっている。

 正視できない風景を前に瞼を落とした。

 逃げるためではない、我儘を貫くためだ。

 心と魂は決めた、ならば体を動かさずにはいられない。

 令嬢である前に騎士として、騎士である前にお嬢様(じぶん)として。

 世界は再び黄金色に染まる――絵の具の上塗りだけでは足りない。

 吸って、吐く。

 呼吸を幾度も繰り返し、焦る気持ちを凪へと導く。

 自分は何処までも広がり、世界は自分の中へと収まる。

 ばち、ばちと物質にまで影響を及ぼし始める高密度の体内魔力。

 ――それでも『最恐』と比べれば遥かに薄い。


「さて、それじゃあ――エルの準備が終わるまで時間を稼ごう。」


 ルゼイアは恐怖もなく前に出る。

 手にしていた魔道具の柄から黒と銀が入り混じる半透明の刀身が伸びた。


「えっ?」


 周囲の音にレオン嬢が違和感を覚えたのはその刹那。

 だが、状況が止まることを許さない。

 時間稼ぎに二人が残ってくれたのならば、死んでも逃げ切り報告する。

 それが感情を切り捨ててでも行わなければならない騎士の責務だ。


 ――どくり、とお嬢様の心音に応じて黄金竜が翼を広げる。


 基本的に魔力は物理空間に関係しない。

 閉所であろうと関係なく広がる。

 信じた少年が全ての害悪から守ってくれる。

 だから心を落ち着け、魂の記憶へ集中することができた。

 墓荒らし(グレイヴン)総体の意識がお嬢様一点へ向けられる。

 これは自分らに対する最大の障害だ、すぐに破らねば世界を壊せない。


「僕としてはもう少し可愛らしいお願いが良かったな、今後に期待しようか。」


 だと言うのに邪魔が入る、何故邪魔をする。

 断絶の一閃が空白の刃と拮抗し、通さない。

 この断絶も物理空間に関係なく張られる。

 ルゼイアが剣を振るうのは物理的な干渉を弾く以外に意味はない。

 既に無数の断絶が二人を中心に結界のように張られている。

 どれほど空白の刃を重ねても否定され、そのくせ内側からの塗り替えは許容する。

 その度に断絶の繭が大きく張り直される。


 ――どくり、黄金竜が顎を開き、四肢をつく。


 周囲の黄金が一点へと収束を始める。

 全てを一挙に飲み込むため、必要なのは竜という概念が持つ最大の一撃。

 集まってゆく黄金が触れるたび、断絶ごと穴が塞がれる。

 負けじと墓荒らし(グレイヴン)は憎しみのままパレットナイフを振り回す。

 ――これでも『最強』に比べれば小さな竜だ。


「ルゼイア。」


 心と魂が歩調を合わせた。

 重心は低めに腰を落とす。

 開いた黄金の瞳に、もう恐怖の色は宿らない。

 中心に据えるのはモルグ氏だったもの。

 不気味な容姿に反して、度々クラスメイトのフォローに回る苦労人だった。

 今回だって彼はブレることなく最も生存確率の高い手を選んだ。

 彼が留まってくれなければ、ここに至る前に全滅していた。


「何時でも。」


 声をかければ即座にお嬢様の射線を確保。

 お嬢様の魔法は、自らの体に焼き付けた癖と理想(・・)を再現する奇跡。

 華奢な輪郭を包む虚像は自らを砲台とした巨大な火砲。

 弾は既に込められた。


「すぅ――。」


 この世界では知られていない技術を知っている。

 距離は要らない、速度も要らない、力すら要らない。

 練気は終わった、打拳に乗せて魔力(たま)を放つ。

 二つの要素は衝突しない、ただ在るがままに。


「――!」


 咆哮の指向性が一致し、同時に一切を逃さぬ断絶の結界の中に魔物が囚われる。

 群体であった彼らの全固体は、障害を排するため集まっていた。

 竜の息(ドラゴンブレス)には断絶の繭も、壁も、地面も、天井も関係ない。

 百歩、千歩の先まで世界が真新しい黄金のカンバスそのものに置き換わる。

 尽きた命が戻ることはない。

 ならばせめてこの世界の理に頼ろう。

 閉鎖空間で開放された魔力によって、巨大な魔力溜まりが出来上がる。

 ――最強でも最恐でもないのなら、『最適』を選ぶまでだ。


 * * *


「あいつはフォールンベルト家の血筋だ、この程度でどうにかなるわけがない!」


 先頭で邪魔をしてくる墓荒らし(グレイヴン)の欠片を払いながら鼓舞するハルト氏。

 地図を作っていたのは彼だ、ルートは当然覚えている。

 早くこの坑道を抜け出して、教師に連絡して、騎士団を動かしてもらって――。

 きっと過保護な近衛騎士団長が即座に駆けつけてくれる。

 それまで残った二人が耐えてくれる。

 盲信しなければ足が前に進んでくれない。


「……。」


 駆け抜け、反射で戦いながらレオン嬢は思考する。

 世界そのものを自己とするあの輝きは、世界を憎む魔物にとって無視できない。

 十三の少女が、自分を餌にすることを選んだのだ。


 ――魔道具とは刻印による魔法の俗称。


 小さいものであれば体内魔力に触れるだけで動作する。

 それこそお嬢様の眼鏡や扇子、学生証などもその一種だ。

 一方で規模が明確に外へと向かうのならば、世界の魔力を利用する。

 携帯用の通信機、簡易防壁などを張る補助具、刃を生み出す柄。

 彼はあの黄金の空間で、体内魔力(・・・・)の中で、何故魔道具を発動できた?


「音はしなかった、魔力の音。エルさんの鼓動しかしなかった……。」


 考察が口をついて溢れる。

 無音、それはセラと同じように聴覚で魔力を感じ取るための表現。

 大いなる魔力が根こそぎ置き換えられた場所で外に影響する魔法は発動しない。

 体内魔力は個の塊だ、それを奪う術は編めない。


「……レオン?」


 ハルト氏が怪訝そうな声をあげた。

 出口の明かりはまだ見えない。

 墓荒らしからは逃げ切るためには外に出なくてはならない。

 足を止めている暇はない。

 無音を使うのは魔物。

 けれど魔物には憎しみ以外の感情を宿さない。

 違う、一つだけ例外がいる。

 授業で言及すらされず、詳細な資料も存在しないのに誰もが知っている例外が。

 その例外を鍵にレオン嬢は解錠を始めてしまった。


 ――迷ったのなら、何故魔道具で助けを呼ばなかった?


 かちり。


 ――彼の班員である騎士科の生徒達は、どこの誰で、どんな顔をしていた?


 かちり。


 ――レフス帝国からの留学生なんて情報網に入れたことがない。


 かちり。


 ――自分たちは最初は七人で、後から三人が編入してくるギリギリ人数のクラスだ。


 かちり。


 ――ルゼイアと名乗る少年を知っていると、何時から錯覚を始めた?


 かちん、と容易く錠が開く。

 中に入っていたのは真実と言う宝ではない。


「――あっ……。」


 昏く青い瞳に見られている。

 仕掛けられた罠を踏み抜んでいた。

 墓荒らし(グレイヴン)に囲まれても耐えた獅人の心が、かしゃんと砕かれる。


「おい! くそ、貸しだぞ……!」


 瞳から光を失い崩れ落ちたレオン嬢を引っ張るためにハルト氏が手を伸ばす。

 全滅は避けなければならない、それでもこれ以上犠牲をだしたくなかった。

 魔物の欠片とは言え、それは充分な隙だ。

 飛んでくる無音の鎌が二人に届く寸前、世界が黄金に塗り替えられた。

死地で気を抜いてはならない……。

良いやつほど先に逝く、世界の理……。

次話で第二章は終わりです。





それはそれとして、ドラゴンブレス(突き)

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