第五十七話
再び生み出された騒がしい混沌の戦場での戦いは、正しく激闘であったと言えるだろう。
分厚い脂肪という、天然の防具を持つオークたちは非常に防御力が高い。そして、なによりも非常にタフである。
何度切りつけようと、何度貫こうと、一撃二撃程度では地に倒れる事はない。
それこそ、一撃で倒したいのなら心臓を一突きで貫くか、首を一撃で切り落とすしかないのだ。
オークはその高い防御力とタフさから、魔物の中でも上位にあたるほど厄介であり、上を目指す者たちにとって一つの登竜門となっている。
そんな登竜門であるオーク十体を連携力で圧倒し、大きな怪我をする事なく倒せた。
「ウォルター、落ちてる素材の中に睾丸とか貴重なものはあったか?」
ジャンにそう聞かれるが、今の所そういったレアな素材は見かけていない。
俺はジャンに向かって首を横に振り、一つも見ていないと答える。
「いや、今の所一つも見てない。基本的には肉ばっかりだ。ダンジョンだから、それもしょうがないけどな」
「まあ、そうだな」
ダンジョン外でオークを倒していたら、一体分丸ごと素材が取れた。
しかし、ダンジョンで魔物を倒した場合は違う。
ドロップアイテムはその魔物に関連したものであり、且つドロップするアイテムの数も質もランダムだ。
ダンジョンでオークを倒すと、基本的には肉しか落とさないのは、この世界の常識と言っていい。
オークは一体倒すだけで、肉を始めとした様々な素材を得る事が出来る魔物。
その中でも特に価値が高いのが、オークの睾丸だ。
オークの睾丸を使って作る精力剤は効能が高く、貴族御用達と言ってもよいほどに高く売れる。
そのため、地上やダンジョンでオークを見かけたら、積極的に倒した方が良いとまで言われているのだ。
(一つだけでもいいから、レアドロップがあるといいんだけどな)
そんな淡い希望を抱きながら、せっせとドロップアイテム回収していると、大きな歓声が聞こえてきた。
「ウォルター!!睾丸が出たみたいだぞ!!」
様子を見に行ったジャンが、喜びの笑みを浮かべながらそう言った。
「流石は階層主。一体からは出してくれたか」
一体分だけとはいえ、睾丸がドロップした事を皆で喜び合う。
「今回は運が良かったな。肉だけでもいいんだが、やっぱり睾丸が出ると大分違うからな」
俺がそう言うと、マークが確かになと答える。
「知り合いの冒険者にも、オークを大量に倒して結構な額を稼いだって人もいたよ」
そんな会話をしながらもせっせと手を動かし、ドロップアイテムを全て拾い終えた俺たちは、安全地帯となった階層主の部屋で身体を休める事になった。
基本的に、階層主を倒した後の部屋に魔物が出現する事はない。なので、部屋で一休みしてから次の階層へ降りていくのが一般的だ。
階層主の部屋でゆっくりと身体を休め、ジャンやマークと談笑していると、ジャンが唐突に一つの話題を振ってきた。
「そういやウォルター、もうすぐマルグリット嬢の誕生日だが、贈り物はちゃんと用意してあるよな?」
「…………え?」
ジャンの言葉を脳が理解出来ず、かなりの間を開けてから一言を絞り出す。
すると、話題を振ってきたジャンだけでなくマークまで、おいおい嘘だろうという表情になる。
そして、マークが恐る恐る俺に聞いてきた。
「……まさかとは思うが、知らなかったのか?」
「…………全く」
イザベラ嬢からもクララ嬢からも、そういった話は聞いていない。
呆然としてしまう俺を見て、ジャンとマークが仕方ないとフォローしてくれる。
「まあ、俺もマリーからの情報でその事を知ったから、ウォルターにそこまで何か言える立場じゃないけどな」
「俺もそうだ。ソレーヌから教えられて、マルグリット嬢の誕生日が近い事を知ったんだ」
「イザベル嬢やクララ嬢から、誕生日についてなにか聞かされていなかったのか?」
ジャンの問いかけに、今までの休日の事を頭の中で振り返っていく。
しかし、俺が記憶している限りでは、マルグリット嬢の誕生日についてなにか言われた事はない。
なので、一つ考えられるとしたら……
「多分だが、次の休日に知らせるつもりだったのかもしれん。……誕生日までまだ日はあるのか?」
俺がそう聞くと、マークが時間はあると頷いて答える。
「ああ、まだ日はある。かと言って、そんなに遠くでもないぞ」
ジャンとマークが、マルグリット嬢の誕生日がいつなのかを教えてくれる。
確かに直近でもないが、遠い日でもなかった。次の休日に教わっても、贈り物を選ぶ時間は充分なくらいには余裕がある。
だが、家族以外の女性への贈り物を考えるのは、今世では初めての事。
うちの家族の女性陣には、毎年魔境に実っている果実を贈り物としていた。その果実を女性陣はもの凄く喜んでいたので、毎年なにも考える事なくその果実を贈るだけでよかった。
しかし、今回は同年代のマルグリット嬢への贈り物。
うちの家族の女性陣には高評価な贈り物が、マルグリット嬢にも喜ばれる贈り物とは限らない。
その辺の事を、次の休日にイザベラ嬢たちと会った時に相談してみよう。
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