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第三十三話

 玄関で初めましての挨拶を一通り済ませた俺たちは、イザベラ嬢の部屋に戻るのではなく、屋敷の大広間に向かって移動する。

 流石にこの人数だと、イザベラ嬢の部屋の中に集まると狭くなってしまう。なので、大広間での作戦会議に変更となった。

 大広間に移動すると、そこにはアンナ公爵夫人の姿があった。

 アンナ公爵夫人の姿を見たジャンとマークたちは、すぐさま挨拶しに向かう。

 俺は軽く周囲を見渡す。カノッサ公爵やイザベル嬢のお兄さん方は、この場にはいないようだ。皆さんお忙しい方々だから、俺たち学生のように決まった休日があまりないのも当然か。

 それに、今回は婚約者が決まっている男性だからというのもあるのかもしれない。

 それぞれが席に着き、まずはジャンとマークたちの気持ちを落ち着かせるために、最初は軽く世間話から始める。最初は緊張からぎこちなかった会話も、アンナ公爵夫人の恐ろしいまでの会話術によって、五分も経てば自然と会話が出来るようになっていた。

 四人の気持ちが落ち着いたと判断したアンナ公爵夫人は、意識を切り替えて真剣な表情と雰囲気になる。それを見たこの場の全員が、同じく意識を切り替え、真剣な表情と雰囲気に変わる。

 そして、アルベルト殿下と側近たちから、マルグリット嬢とナタリー嬢を守るための作戦会議が始まった。


「改めて聞くけれど、マリーさんもソレーヌさんも、私たちに協力をしてくれるという事でいいのね?」


 最初に口を開いたのはイザベラ嬢。

 その言葉には、公爵令嬢として四人の覚悟を問う重みが感じられる。

 それに対して、マリー嬢とソレーヌ嬢も覚悟を決めた者の強さを感じさせながら答える。


「はい、協力いたします。アルベルト殿下たちの言動は、日に日に酷くなっていく一方です。なかにはどう考えても無理があるような事まで、マルグリット様が行った事だと高らかに仰っています。……王家の方々には申し訳ないのですが、個人的に次の王が()()()()()で大丈夫なのかと思ってしまうほどです」

「マリー様が仰った事については、私も同じ意見です。殿下や側近の方々の言動には目に余るものがありますし、聞いたり見たりしたもののなかには、非常に不愉快な言動もありました。私も個人的に、あの方々が次代の王政を担っていくと思うと、現段階では不安しかありません」


 マリー嬢とソレーヌ嬢の、不敬だと言われる事間違いなしの心からの厳しい意見に、アンナ公爵夫人が険しい表情になっている。

 アンナ公爵夫人が思っていたよりも酷い状況である事に、表情を変えてしまうほどに怒りが抑えられないのだろう。


「……ジャンさんやマークさんも、私たちに協力してくれると思っても?」


 ジャンとマークは気を引き締め直し、マリー嬢とソレーヌ嬢と同じく、覚悟を決めた者の強さを感じさせながら答える。


「マリーと共に死ぬ覚悟です」

「ジャンと同じく、ソレーヌと共に死ぬ覚悟です」


 ジャンもマークも、一切動じる事なくイザベラ嬢に答えを返す。

 その覚悟を決めた姿に、イザベラ嬢たちだけではなく、アンナ公爵夫人も感心している。

 どうやら、マリー嬢やソレーヌ嬢だけでなくジャンとマークの本気度を知るために、アンナ公爵夫人がイザベラ嬢に頼んで質問したようだ。

 そして、アンナ公爵夫人が感心しているという事は、四人全員が合格と考えていいだろう。

 メイドさんたちが空気が緩んだ瞬間を読み、テキパキと手際よく動き、人数分の紅茶とお菓子をそれぞれの前に並べていく。

 最初に、アンナ公爵夫人が紅茶を一口飲む。

 それを見て空気が変わったと察したのか、皆も紅茶やお菓子に手を付けていく。


「美味しいわ。相変わらずいい腕ね」


 アンナ公爵夫人が柔らかい笑顔でそう言うと、大広間に張り詰めていた緊張感がスーッと消えてなくなり、和やかな雰囲気に変わっていく。

 子供たちが気負い過ぎている事を察して、アンナ公爵夫人自らが率先して動いてくれた。流石は、公爵家という力ある家を長年守ってきた女傑。

 アンナ公爵夫人の見事な手腕のお蔭で、和やかな雰囲気のまま子供たちの作戦会議が行われていった。

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