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公爵令嬢⑥〜幸せな日々〜

 リイナは学園に入る日を待ち望んでいた。

学園は貴族子女や裕福な平民が通う場所で、リイナも十五歳になり学園に通うことになった。


「いいですかリイナ様。本来聖女様は学園に通うことはできないのです。あなたは公爵令嬢であるから特別に学園に通うことを許されました。それでも聖女であることは変わりないのです。良いですね?」

 神官長は重々しい雰囲気でリイナに語り聞かせた。

「それに学園に入る以上、成績も優秀でなければなりません。もし成績が振るわなければ、聖女が愚かであると思われてしまいます。学ぶのならしっかりと学び、聖女の存在を人々に知らしめなければなりません」

 リイナは、そう語る神官長の目が厳しいことに気がついていた。

聖なる力を宿したと言われながら、未だなんの力も得られていないことで、リイナの立場は教会でもあまり良いものではなかった。


 神官長の刺すような視線にもリイナは変わらぬ微笑みを向けた。

「わかっております。聖女の名を汚さぬよう、きちんと勤めてまいります」

 厳しい家庭教師、令嬢教育、王妃教育を受けていたとしても、学園で上位の成績を収めるのは厳しいであろう。

 学園での生活が、今まで以上に己を追い込むことになると、リイナは覚悟していた。


 しかし――

「これから毎日、ヘラルド様にお会いできるのね……」

 一つ年上のヘラルドは、すでに学園へと通っている。


 今までたまにしか顔を合わせることができなかったヘラルドに、これから毎日会えるかもしれないと思うと、完璧と言われる表情が僅かに綻ぶ。リイナは喜びで満ち溢れていた。

 どれだけ辛くても、ヘラルドがいれば頑張れる。今まで以上に時間に追われることになったとしても、ヘラルドと共にいられるのなら耐え抜けると思った。


 いざ学園に入学してみると、思ったよりもヘラルドと会える時間は多くはなかった。

そもそも学年が違うと棟が違うため、顔を合わせることすら難しいのだ。


 入学最初の頃は、よくヘラルドに会いに行っていたが、上級生から良い顔をされず、女性から殿型に会いに行くという行為がメイドから両親に伝わり叱責を受けたことで、ヘラルドに会いに行くことは必要最低限控えるようにした。


 それでも今までよりも遥かに顔を合わせる機会がある。

学年関係なく行われる学園のイベントがまさにそれであった。


 学園主催の入学記念のダンスパーティーで、ヘラルドとリイナはダンスを二度連続で踊った。

社交場では形式通り一度踊るだけであったのだが、学園のダンスパーティーは寛容で、婚約者は連続で踊ることを許されていた。

「こうやってゆっくり踊るのは初めてだね。リイナ」


 学園祭では生徒会に所属するヘラルドが、忙しいにも拘らず時間を作ってくれて、共に過ごすことができた。

「学園に入ればお会いする時間も増えるかと思いましたが、なかなかそうはいかないものですね……」

「ヘラルド様……こうやって少しでも一緒にいてくださる時間を作っていただけるなら、私はそれだけで十分ですわ」

 いずれ、夫婦になれば、ヘラルドとずっと一緒にいられるのだから。

「リイナ……」

 瞳が交わる瞬間、リイナはヘラルドと出会った時と同じような胸の高鳴りを感じた。

「ヘラルド様……」

 

 今の苦しさも、辛さも、全てヘラルドと結婚できるからと思って耐えてこれた。

そしてこれからも、きっと耐えていけるのだろう。




 一年の終わりを告げるダンスパーティーで、ヘラルドとリイナはまた以前のように二度のダンスを踊った。


 本来ここで離れるべきだったのかもしれない。

けれど、名残惜しくて繋いだままだったヘラルドの手を、どうしても離すことができなかった。


 結局、リイナとヘラルドは三度踊った。

三度目のダンスは、ヘラルドと触れ合う部分が、熱を持ったように熱くて、自然と頬まで紅潮した。

 彼に触れらるこの身が、何よりも尊いもののような気がした。


「こうやって三度も踊るなんて、まるで夫婦みたいだね」

 そうはにかむヘラルドが、切ないくらい愛おしかった。


 気恥ずかしくて、リイナはほとんど何も話せなかったけれど、目が合えばお互いに微笑みあった。

ドキドキと高鳴る鼓動が、耳の奥で聞こえるような気がした。


「この瞬間が、永遠に続けばいいのに……」

 そう囁いたリイナの言葉に、ヘラルドは照れたように微笑み「私もそう思う」と告げた。


 リイナは、幸せだった。

辛かった日々も、この時のために耐えてきたのだと思った。

 この人を愛している。ヘラルドと共にいられれば、どんな苦難も苦境も乗り越えていける。


 生涯ヘラルドとこの国のために、命を捧げる覚悟を、リイナは持った。




――――そうして、運命の春がくる。


「ほら、猫ちゃん。怖くないからいらっしゃい」

 その朗らかな声は、学園の裏庭に響いた。


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