公爵令嬢⑤〜聖女の資質〜
リイナがデビュタントを迎える頃には、公爵家が望むような令嬢になれない罰は厳しくなり、失敗すれば叱責だけではすまなくなった。
食事を抜かれたり、掌を鞭で叩かれたりすることもしばしばあった。
時折、リイナは何のために頑張っているか、わからなくなることがあった。
ただでさえ眠る時間が短いのに、不安でなかなか寝付けない毎日。
「お父様、お母様、私、ヘラルド様にもっとお会いしたいです。お茶会の時間を増やすことはできませんか?」
リイナの心の拠り所は王太子ヘラルドだけであった。
しかし、王太子と会えるのはほとんど式典ばかり。
誕生日は人が大勢いて話をすることもできない。
唯一許されたお茶会も、半年に一度では、リイナは緊張して何も話せないまま終わってしまう。
せめてヘラルドと会える時間が増えれば、少しはありのままの自分を出していけるのではないかと、そう思ったのだが、両親が許してくれることはなかった。
「リイナ、我儘を言うんじゃない。王太子殿下もお忙しい身だ。それにお前も王妃教育で忙しいではないか」
「そうよリイナ。聖女の慰問も滞ることが増えているのに、王太子殿下とお茶の時間を増やすことなんて出来るわけないでしょう」
「それに聖女であるお前が王太子に会いたいなどという必要はない。必要であれば向こうからやってくるべきだ。何故ならお前が聖女だからだ」
「殿方に会いたいだなんて、そんなはしたないことを言っていたら、立派な聖女になれませんよ?」
「…………はい。お父様、お母様。申し訳ございません」
ヘラルドと会いたいと願うことすら、許されなかった。
この時は我儘を言った罰として食事を抜かれた。
公爵家ではリイナは完璧な令嬢には程遠い娘というレッテルが貼られていた。
リイナがどれほど足掻き、勉学に励み、貴族令嬢として完璧に務めあげても、聖なる力を発現しない以上、完璧な娘とは認められなかった。
年齢を重ねるごとに王妃教育も厳しくなる。
それと同時に、力を発現することができないリイナを、聖女として王太子妃にすることへの疑問の声も大々的に上がり始めた。
しかし、批判するものはパルテド公爵がひっそりと弾圧し、粛清していく。
その頃になると、リイナも父親の所業に気づくようになっていた。
「お父様、これ以上人を陥れるようなことはおやめください」
そう直接父親に訴えたこともあった。
しかし帰ってきた言葉は、リイナの不出来さを責める言葉だった。
リイナが優秀で、誰からも認められる聖女になれば、不満を持たれることもなく、要らぬ争いなど生まれないのだと、公爵はリイナを責め立てた。
その時は、怒りに任せるように、鞭で打たれた。
「お前が聖女の力を使えるようになれば、全て解決するのだ」
冷たい公爵の視線に、リイナは静かに目を伏せた。
自分が無能なせいで、人々が苦しめられていると思うと、何も言えなかった。
それから、公爵家の管理は徹底するようになり、寝室まで毎日メイドが付き添い、表情の全てを管理されるようになった。
王妃教育がどんなに辛くても、周りから齎される侮蔑や嘲笑がどれだけ辛くても、己の父親が罪なき令嬢をどれだけ陥れていたとしても、リイナには嘆くことも、泣き言すらも許されなかった。
リイナは争いや嫉妬、恨みの視線に晒され続けて疲弊していた。
誰かに相談する選択肢もない。
寝室にまで張り付いているメイドたちのせいで心休まる時間もない。
「ヘラルド様……」
リイナの心は、ずいぶんと前から壊れ始めていた。




