公爵令嬢④〜貴族の資格〜
「こんにちはヘラルド様。ようこそお越しくださいました」
心身ともに疲弊していたリイナにとって、ヘラルドと共にいる時間だけが唯一癒される時間だった。
「リイナ、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。ヘラルド様」
婚約関係となったリイナとヘラルドだが、リイナは教育や聖女としての慰問で多忙を極めていたため、二人が会うのは年に数えるほどであった。
誕生日、各種式典、半年に一度のお茶会である。
その限られた時間がリイナにとってはかけがえのないものであった。
リイナの心の拠り所は、ヘラルドだけであった。
「今年はこれを……喜んでもらえると嬉しい」
王子から送られる誕生日プレゼントは、毎年素晴らしい宝飾が施された髪飾りであった。
「今年も素敵なプレゼントをありがとうございます。肌身離さず、大切に着けさせて頂きますね」
リイナはヘラルドと会う時は必ず頂いた贈り物を着けるようにしていた。茶会でも、式典でも、いつだって一番新しい贈り物を身につけてヘラルドと会った。
以前に貰ったものは、普段使いとして使用し、孤児院の慰問や令嬢たちとのお茶会などでもつけ続けた。
リイナは献身的な教会に属しているため、過度な装飾を身につけることが禁止されていた。
勿論王太子の婚約者、時期王妃という仰々しい肩書きがある公爵令嬢なら、それ相応の格好をし贅沢に装うのが本来の姿であろう。
けれど、民に寄り添う清廉な聖女のイメージを崩さないようにと、教会から命じられていた。
教会と協力関係となった公爵家も、決しリイナに宝石類を与えることはなかった。
そんなリイナに許された装飾が唯一、誕生日に贈られるヘラルドからの髪飾りであった。
聖女として質素な姿を一貫するリイナに、一部からはとても好感が持たれていた。
しかし、それは平民や爵位の低い貴族からの意見で、流行を追い続ける高位貴族からはあまりよく思われていなかった。
化粧も地味にしか施されないリイナとは違い、姉のラアナは盛大に着飾りいつでも華やかな装いであった。
同じ公爵家の令嬢なのに、その差は歴然で、お茶会などで並ぶ場になるとどうしてもリイナはラアナに見劣りすることになった。
初めて会う人によっては、リイナではなく姉のラアナを聖女と思うことも多々あった。
ヘラルドから貰った髪留めを使いまわしているのもあまり良くなかった。
ヘラルドが贈る髪飾りは、その時の流行の最先端のものばかり。それを使い回すとなると、型遅れの髪飾りを身に着けていることになる。
人々は表面は明るく柔かにリイナと接する。
けれど実際はその姿に冷笑し、力のない聖女に侮蔑の視線を向けていた。
中には同情的な人たちもいたが、徹底的に言動を管理されているリイナとの距離が縮まることはなかった。