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ギルド長とホットケーキ

冒険者ギルド長に金を貰って飯を作る事になったおっさん

貰った大銅貨をさっそく液晶パネルに突っ込み電子マネーに変換する


買う物はホットケーキミックスと卵と牛乳だな

トッピングにバターとメイプルシロップも欠かせない


ちなみにホットケーキは、牛乳の代わりに水でも作る事はできるんだけど牛乳で作ったほうが遥かに美味しく仕上がる


水を使うとさっぱり味で仕上がって、牛乳を使うとふんわりとコクのある味になるのだ


「ホットケーキ何だそれは?」


聞きなれない料理にギルド長が口を挟んできた


「ん~、ざっくり言うと甘いパンみたいなもんかな」


「なんだ、ただのパンか。貴様の作る物なら珍しい甘味かと思って期待していたのだがな。少しがっかりだよ」


パンとは全然違うけどね。ケーキと名が付くだけあってケーキ派生だと私は思う


私はこのホットケーキには随分と助けられた。値段も安く作るのも簡単。味よし値段よしの家で手軽に作れる最強スイーツなのだ

カップに入れてレンジでチンするとカップケーキみたいになるんだぜ、汎用性もかなり高い


私は手慣れた様子で、木製のボールに牛乳と卵を入れて混ぜ合わせる

よく混ざったらそこに主役のホットケーキミックスを入れてざっくりと10回程度混ぜる


あまり混ぜすぎると、ふんわり感が損なわれ焼いてもペタンコになってしまうので少しダマが残るくらいが丁度いいのだ


「さっきのは小麦の粉か? いや、それにしてはやけに甘い香りがするな」


「砂糖とかぶどう糖とか色々混ざってるからね。こいつを鉄板で焼いてくんだよ」


熱したフライパンにお玉で掬ったホットケーキミックスを一気に流していく

なるべく高くから、ためらわずに一気に流し込むと綺麗な丸い形になるんだ


「なかなか手際がいいな。しかし、パンを釜ではなく鉄鍋で焼くなど聞いたことが無いぞ。それでしっかり熱が通るのか?」


「問題ないよ。パンと違ってそもそも水分が多いし、空気もたくさん入ってるから熱の伝導率は悪くないんじゃないかな」


「甘くてとってもいい匂いね、味見の約束覚えてるわよね?」


「はいはい、金を貰ってる以上ギルド長の分を優先するけどね」


リザとギルド長と話していると、熱した生地からプツプツと小さな泡が出てきた

これがひっくり返すタイミングの合図なのだ


よし行くぞ! 過去に5回以上は失敗して、水道シンクに生地をぶちまけたあの技を!

その甲斐あって覚えたおっさんの極義!


「必殺! あま甘! 天地返し!」


フライパンを大きく下から上に揺すると、上に乗っている生地がポーンと勢いよく宙に舞う

その様はまるで、海からダイナミックに飛び出すイルカの様だ


生地がゆっくりと半回転したタイミングでフライパンのマットを下に敷いてやり、綺麗な着地を果たす


「どうよ!」


「おおおおおおお!」


リザが驚きの声を上げてパチパチと豪快に手を叩いた

中々オーディエンスとしての反応を弁えている。味見の量を増やしてやろう


一方、ギルド長の反応は薄かった


「少し隅の方が潰れたな。今の動きに何の意味があるのだ? 普通にひっくり返せばいいのではないか?」


「これだから素人は困る。今のは見ててビックリあら楽しいエンターテイメントだよ。子供だったら大喜びだ。論理で来ないでくださいよ」


「ふむそういったものか、悪かったな」


ひっくり返した生地を弱火で2分ほど焼くとホットケーキの完成だ

私は出来上がったホットケーキを皿に移してアイテムボックスに突っ込んだ


「おい、なぜしまった。料理は完成だろ? 早く食わせろ」


「まだ未完だよ、焼きの工程をあと2回するぜ」


やっぱりホットケーキは3段重ねじゃないとな

幸運なことに私のアイテムボックスは時間経過の概念が無いのでアツアツの状態で、3段重ねのホットケーキを作る事ができそうだ


「そうなのか、早急にな」


始めはたかがパンと期待していなかった彼だが、焼きあがったホットケーキは何と魅力的な事か

パンとは思えないほどの濃厚な甘い香りに、牛乳と卵の入ったふんわりとした生地

大の甘党の彼にはたまらない一品だったのだ


パンを焼いているカロットを待ちながら、もくもくと匂ってくる甘い香りに耐えられず意味もなく部屋の中を歩き回り、今か今かと料理の完成を待つ


私は黙々とホットケーキを焼いていき、残りの2枚を数分で焼き上げることができた

皿にホットケーキを3枚重ねて、バターを乗せる


ホットケーキの熱気でジワジワと溶けていくバターの上から、メイプルシロップをたっぷりかけて完成だ


「カロットさんの特製ホットケーキだ、召し上がれ」


「じゅるり、うむまあせっかく作ったのだから食ってやろう」


彼はホットケーキにナイフを入れると、食べやすい大きさに切り分け口に入れる


「!? パンなのかこれは? なぜこうも柔らかいのだ。それにこの甘さ! 小麦にどれだけの量の砂糖を練り込んでいるのだろうか! 上にかかってるソースは蜂蜜か? いや違うな何だこれは」


「それはメイプルシロップ、簡単に言うと木の樹液さ。よく虫さんが吸ってるだろ」


「これが樹液だと! あんなものを食用に集めたのか…… しかし、このソースはこのパンに良く合う。上に乗っているバターは香りづけの役割だな。とても食欲を刺激する匂いだ」


パクパクとホットケーキを食っていくおっさんに、さきほど生地に使った牛乳の余りをコップに入れて渡してやる


「ホットケーキは牛乳と合わせると殺人的な味になるぞ。はい、駆け付け一杯」


「おお悪いな、んぐんぐぷはぁ!」


コップにたっぷり入れてやった牛乳を一気に飲み押すと、彼は神妙な顔つきをして一言


「これは殺人的な組み合わせだ……」


「早くアタシのも焼いてよ!」


「いいとも」


私はまた焼きの作業に戻るのだった



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