いちゃもん
「もう用はすんだ? アタシは終わったけど?」
おっさんがギルド長とやりとりをしていると、門番の定期連絡を済ましたリザが戻ってきた
「あぁ、もう行ってよろしいでしょうかギルド長様?」
恭しくかしづきながら、会話途中のギルド長に帰宅の許可をとる
「まだだ、連絡事項が二つある」
「何ですか」
「一つめは後日になるが、貴様には基礎能力検査を受けて貰う。これに拒否権はない。日時は追ってこちらから伝えよう」
「え? ギルド長それは・・・・・・」
受付の職員が急に口を挟んできた。しかしそれは当然の事なのだ
この能力検査はそもそも、将来有望である人材や危険人物と成り得る者にのみ行う検査なのだ
いちいちこんな小さいギルドで、一人一人の能力や適性を見れるほどの余裕や暇もないのだ
それをこんな冴えないおっさん。魔法も使えなければ、特別体も鍛えられていないカロットに本来するような物ではないのだ
「少し黙っていろ。必要な事だ」
「すいません。業務に戻ります」
ギルドの最高権力者に睨まれて職員はすぐに引っ込んだ
何でわざわざ職員が口を突っ込んで来たのか気になる所だが考えてもしょうがない
「適性検査ですね、わかりました。もう一つは?」
「貴様はこの村で珍妙な物を食べていたな? 鶏肉に卵を入れて煮たり、白く粘着性のある穀物を食べていたのを確認している」
私生活が筒抜けだ。ゾッとするね、身内にスパイでもいるのだろうか
「何を食おうと私の勝手では? フフ、私が飯を食べるたびに何を食べたかギルドに報告する義務があるんでしょうかね。あなたは私のお母さんなのですか?」
「勘違いするな、これは個人の好奇心にすぎん。こんな寂れた村では飯以外に娯楽が少なくてな。貴様の珍しい食材に興味があるだけだ」
「私にあなたの飯を作れと?」
「タダではない」
ギルド長はポケットに手を突っ込むと大銅貨を2枚取り出して机の上に置く
「1食報酬込みで大銅貨2枚だ。妥当な金額だろう? わたしに恩を売っておけば何かと便利だぞ」
金だ! 大銅貨2枚だ! 井戸汲み2時間分だ!
おっさんは金に困っていた。働いた給与はレイにピンハネされ、家無し仲間のグルスやエムルに飯を振舞うもんだから台所事情はカツカツなのだ
飯代を安く済まして差額をゴッソリいただくとしますか
「うぐぐぐ・・・・・・とてつもなくキツい条件だが仕方がない。ギルドの権力者に逆らうのはリスクが大きすぎる・・・・・・」
心の中ではボッタくってやろうと悪辣な笑みを浮かべてるくせに、さも自分にとって不利な事をするような顔つきで答える
「ついて来い、火の手が必要だろう」
そう言って彼は受付の更に奥にある扉までスタスタと歩いて行く
私も彼に続いて後を付いていくとリザも並走して私と共に扉に向かう
「無理に付き合わなくてもいいよ。から揚げは明日にでも門まで持ってくからさ」
「ん~、暇だから見て行くわ。料理をするなら味見くらいはさせてよね」
「下手に期待すんなよ、大した物なんて作るつもりないからさ。いかにコストを抑えて利益を貪るかおっさんは思案中なのさ」
「ふっ、ほんと小賢しくてしょうもない男ね」
彼女と軽く小話をしながら部屋に入っていく。部屋の中には釜戸が2つと椅子とテーブルがあった。ギルド内に台所があるとは少し驚きだね
「とりあえず火は使うだろう。 発火テントウ」
彼がパチンと指を鳴らすと、手の先に小さくて丸い火の玉が4つほど出てきて釜戸の下にある木材まで勢いよく飛んでいく
これが魔法か、この世界に来て初めてみたな。発火テントウね
発火点灯ってことなのかな
「さて、貴様は何を作るんだ」
「君の希望を聞くよ、なるべくそれに近い物を作らせてもらうよ」
「ならば甘いお菓子を作ってもらおうか。いやなに、最近は残業続きで仕事の疲れが溜まっていてね。糖分を摂取してリフレッシュしたいと思っていたんだ。くっくく」
この世界では砂糖を使った料理やお菓子はそこそこ高級品として扱われており、大銅貨2枚程度で甘いお菓子が作れるわけがないのだ
彼はそれを知って尚カロットに、作れもしないのに料理の希望を聞いたのかと嫌味を言ってやるつもりだったのだ
「甘いお菓子ね、いいよ。疲れが溜まってるなら腹持ちが良い物にした方が良さそうだな。沢山食って英気を養わないとな」
おっさんにしては真面目な受け答えだ。なぜなら仕事モードになったからだ。金を貰って飯を作る、これは立派な仕事なのだ
仕事は真面目に愚直に行う、これはカロットの人生における核となっている決まり事だ
真面目にはやるけど、利益はガッツリ取らせてもらうけどね
「おい、甘い菓子だぞ? 砂糖をまともに使ってない甘みの無い菓子では駄目だぞ」
予定外の返事が返ってきたギルド長はいちゃもんをつけて、おっさんに発言の撤回を求める
「問題ない、甘くて腹持ちが良くて最高にクールなお菓子。ホットケーキをご馳走しよう」
さーてクッキングタイムのはじまりだ




