おっさん、汚い
「ふーんふーん、ふふーん」
おっさんはご機嫌だ。悩みの種であった井戸汲みに必要な筋力ステータス問題を解決できたからだ。更には過去に私を襲ってきた狼に対しても、とても慈悲深い行為をしたと自己陶酔に勤しんでいた。ああ私は何て素晴らしい人間なのだろうか
年甲斐も無く、細い木の棒をブンブン振り回しながらおっさんのご機嫌散歩である。そうこうしてる内に村の入り口に着いた。門番に中に入れてもらうとしよう
門番はさきほど居た人と同じチーターっぽい女の獣人だった。私が門の近くまで来るとこちらに歩み寄ってきた。
「あら、早いお帰りね。もう用は済んだの?」
「ただの散歩だからね、いい気分転換になったよ」
「さっき貰った肉すごい美味しかったよ。どこで買ったの? また食べたいんだけどやっぱ高いわよね?」
製造元は目の前のおっさんの右腕さ? ほんとの事を言ったらちょっと食欲失せそうだな。おっさんの右腕から誕生したから揚げだぜ? な? ちょっとキツイだろ?
「あれは独自のルートで仕入れた物でな。ここらへんじゃあ手に入るもんじゃないな」
「ええー! ちょっとショックだわ」
ここで調子に乗ってるおっさんはある提案をする
「よし、じゃあ私と賭けをしようか?」
「賭けるって何を? 言っとくけどアタシはたいしてお金なんか持ってないわよ」
「ふふ、なーに簡単な力比べだ。私は腕力に少し自信があってね。私と腕相撲をして君が勝ったら、さっきの肉を10個あげよう」
「10個も!? ほんと!?」
よっぽどから揚げの味が気に入ったのか、彼女は尻尾をブンブンと振り回しながら私の提案を聞く
「ああ、ほんとだとも。仮に君が負けてもそうだな1個はタダであげよう。ただし負けた時は勿論君にも対価を払って貰うよ」
「急にキナ臭くなったわね、対価が高いならアタシはやらないわよ」
「そんなたいした事じゃないさ。君が負けたら私に思いっきりハグさせてくれ、あと耳と尻尾も触らせて貰おうか」
私はこう見えて結構なレベルのケモナーなのだ、前々から獣人の耳や尻尾を触ってみたいと画策していたのだ
「なーんだそんな事でいいの? 負けても肉が貰えるならアタシが乗らない手はないわね。受けるわ!!」
可哀そうに、大人は汚いんだよ。私は先ほど筋力ステータスを大幅にパワーアップし完全体と化してしまったのだ
ふふ、私の筋力で少し脅かしてやるか
「手加減はいらねえ、本気で来い。俺のウォーミングアップ程度には頑張ってくれよ? さあ行くぜ! あっ、私は右腕でやらせてくださいね」
さりげない保身もかかさない
勝ったな
「アタシは負けても何も失う物なんてないわ! よし来い!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」
勝負は一瞬で片がついた
私の瞬殺だ
「ぐわあああああああ!! 腕が! おれの、おれの右腕があああああ! ひぃー! いでぇ、いでぇよぉー」
私が痛がってるにも関わらず、彼女は右腕を天に掲げ勝者のポーズを決める
ゴミめ! 昇天したラオ〇みたいなポーズしやがって! おっさんが痛い言うてるやろが! 実際はそんなに痛くはない
「さあ出すもん出して貰おうかしら」
「はあああああああ!」
私は勢いよく左腕を前に出す
「俺は腕立て伏せを30回連続でできる男なんだ! だからお前は! 俺に腕相撲で負けるべきなんだ!」
彼女は完全にアホを見る目をしていた
「あんたがこれで負けたら肉20個よ? 止めた方がいいんじゃない?」
そう、肉40個なのだ。肉を20個も必要なはずがない。保存の効く干し肉にような物でない事も彼女はわかっている。おまけに先ほどの試合で負けた後に私は大袈裟に痛がっているのだ。彼女は気の毒に思って勝ちを私に譲ると踏んだのだ
「信じてるぜ。さあリベンジマッチだ!」
「?」
ファイッ!!
「ぐわあああああああ!! 腕が! おれの、おれの左腕があああああ!」
「やあ~儲かったわ、あんたみたいなバカ嫌いじゃないよ」
ゴミめ! なぜ勝ちを譲らない! 相場をわかってないのか?
あれだ、この女はオークションサイトで100円ずつ刻んで小競り合い入札してる所を、一気に500円UP状態で入札して相場を破壊してくるタイプの奴だ。相場破壊のブルジョワが!
このまま大人しく引き下がると思うなよ
泥水を啜って生きてきたおっさんのしぶとさを見せてやる
「ひぃ~、門番さんすいませんでしたああ!」
私はその場で土下座をかました。すると周りの人々の視線が私とチーター女に集まる
「なんだなんだ、なんで人間が門番に土下座してるんだ?」
「腕があああとか聞こえたよな、あれって人間の悲鳴だよな? 門番のリザがやったのか?」
「人族が気に食わないからって、ちょっとやりすぎよね可哀そうだわ」
住民からの冷たい目線がチーター女に集まる
「ちょ! 誤解よみんな! あんたも早く顔を上げてよ!」
私は半笑いの顔をリザにだけ見えるように顔を上げる
「ッッ! このおっさん!」
「ひぃぃぃ~、すいませんでした! ひぃぃ~、ひぃぃ~」
和紙に乗ったから揚げを20個リザの目の前に置くと、私は片足を引きずり片腕を痛そうに抑えながらその場からゆっくり去っていく
「おいおい、暴力振るった後に食い物まで奪うのか・・・・・・」
「これはちょっとなぁ・・・・・・」
「昔これと同じことおれ人間にされたわ」
オーディエンスから非難の声が上がる
いいねぇ、いいねぇ~この混沌こそ私の求めていたものだ
「これじゃあアタシが暴力振るって略奪したみたいじゃない! ちょっと! 誤解を解いてから行きなさいよ!」
リザは必死に住民に今の出来事の説明をしている。これは話終わるまで骨が折れそうだな。
なかなかおもしろい見せ物だったよ
人生はゲームだ、楽しまないとね




