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〈Epilogue〉-2

 留歌子と別れ、宗二郎は昨日渡された書類の束を片手に、魔導科の校舎へ向かう。

 祈理に教えて貰っていたのが効果的だったのか、迷わず一年生の校舎へ辿り着いた。


「えっと、教室……は? 教室ってこんなにあんの? 魔導科の生徒って何人いるんだよ」


 関原養成所は、内界にある訓練所のなかでも、特に魔導師を育成することに重点を置いているという。十分に多いと思っていた、普通科クラスの倍に迫ろうかというほどの数だった。

 校舎の中に入り、紙に書かれている情報を頼りに進んでいると……。


「おっと!」


 声を上げた相手の反応は素速く。一歩後ろに飛び退くことで、ぶつからずに済んだ。


「あぁ。ごめんなさい」


「いやいや。オレの方もよそ見してたから」


 相手の少年は、全体的に髪の毛が長く、珍しい灰色……。鼻の筋は細く伸び、二重の目には穏やかさと同時に、眼力の強さからくる鋭気を感じさせる。同姓の宗二郎が見ても『美形』だと思える男子だった。

 一瞬だけ停止した空気が二人を包む。

 お互いの波長が合ったのか〝へらぁ〟っとした笑いが生まれた。


「……なあなあ、君って、魔導科っしょ? みかけない顔だけども?」


 相手の少年が宗二郎に対し、質問した。


「今日から魔導科っす!」


「へぇ。てーっということは転校生? 見たところ一年生っぽいけど。オレもほら。この前転校してきたばっかなんよ」


 少年は体を捻って、肩のワッペンを宗二郎に見せつけた。同じ円環。真新しい一年生のマーク。


「おおー。同期だな」


「ってことになるなぁ。ま、どこかで見かけたら声でもかけてくれよ。オレもまだよくわからないことだらけでさぁ………………なんで、そんな目を輝かせてる?」


「ぐすっ。魔導科にも、イイ奴がいるんだなって、感動ですわ! お前とは友達(フレンド)になれる!」


「おおげさすぎ。……じゃあ、オレは行くところがあるから」


「ああー。わるいわるい。なんか引き留めちゃってさ」


「気にすんなって。それじゃあなぁ」


 見送る宗二郎は、心の中に暖かいものを感じつつ。

 教室を目指して廊下を進んだ。




 少年は――この時期に新しく魔導科に入ってくる生徒がいるとは、珍しいケースもあるものだと、心の中で(つぶや)いた。

 登校してくる生徒の流れに逆らって、彼は校舎を出た。

 ……屋内の空気は嫌いだ。人が密集している雰囲気。吐き気がする。

 それでも教室に行かなければいけない、学生の立場を考えると嫌気が差す。

 朝日の(まぶ)しさに目を細め、持ち上げた左手で(ひさし)を作ろうとして、少年の腕が途中で止まる。

 無表情であろうとする姿勢を貫こうとするが、彼は(わず)かに顔を(ゆが)ませた。


「あぁー。痛ぇな。あの――()()()()()




 ――()()()。撃ち抜かれた肩がまだ痛む。




 傷は短時間で完治するはずもなく。魔術を使って治癒を最優先とさせていた。魔力の無い十八区では常時魔力を回すだけでも体一杯。

 相手は逃走したが、結果として戦いは自分の負けであった。

 実力は確かにあったはず。なのに――負けた。代償がこの痛み。


「魔術のプロ、ねぇ。そういや中枢機関(ブラックボックス)では魔導師の事、魔導士征(まどうしせい)っていうんだっけか? サイファーとは別枠で、魔術専門の兵士がいるとかなんとか」


 魔術専門の人間と戦うのは初めてだった。

 間違いなく、相手は高位魔導師(ハイグレード)である。

 ――負けではあった。だけど、負けただけでは済まさない。しっかり学習した。魔導師と戦うときには、もっと慎重に行くべきだ。この体に宿っている異(ネブリビア)形を使わずとも、次はもっと上手くやってみせる。


「……オレもしっかり勉強させて貰わなきゃだな。自分自身のため。誰よりも強くなるため」


 一人で呟き。口角を上げ。不適な笑み。

 その笑いは年相応とは掛け離れた、殺気を交えた危ういものが含まれていた。



 少年……青柳善斗(あおやぎ よしと)は軽快な足取りを残しながら。

 鼻歌交じりに(きびす)(かえ)し、魔導科校舎へと戻っていった。





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