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〈Epilogue〉

 ……正式な手続きが済んだ数日後。

 いよいよ魔導科での生活がスタートする。

 宗二郎の朝は、別の人間に生まれ変わったような気持ちになっていた。


「おおー。コレが魔導科の制服かぁ」


 支給された新しい制服。

 心だけではなく。身の引き締まる思い――。


「…………うん。いつもと変わらないな。変わったのワッペンだけだし」


 ――そうでもなかった。

 異形と戦った時に、普通科の制服を新しく支給されていたので、新品の制服に袖を通す記憶は、つい最近のものとして残っていた。

 着替えを終えると、鍵の掛かっていない玄関の扉が開かれる音。

 軽い足音。短い廊下から、寝室への扉が開かれる。


「そーじろぉーっ! ほらーっ! 遅刻するぞー。はやく――って、あれ? 起きてる?」


「………………………………げふん」


「なに。今の返事は」


「いや。いつもだったら寝てる俺の腹に、ルカ子さんがカバンを落としている頃だと思ったので『げふん』って言ってみました」


「ほぉんのちょっとだけ面白かった。四十点ッ」


「辛口ぃ~」


「………………結局、魔導科に行っちゃうんだね」


「別に、大したもんじゃないだろー。同じ学校なんだし」


「そうだけども……」


 留歌子は納得していない様子で、言葉を(にご)す。


「ほーれ。どうだルカ子! 魔導科のワッペンだぞぉ~」


 これ見よがしに宗二郎は自分の肩を押し出した。


「制服は替わっても、中身は変わらないよね。貫禄がない。迫力に欠ける」


「痛烈ッ。心にダメージです」


「せっかく早めに支度できたんだから、今日は余裕をもって学校行けるね。はい。準備準備!」



 ――なんだか今になって緊張してきた。同じ学校であるのに、まだ一度も入った事のない教室に向かうのか。


「別に緊張しなくてもいいんじゃないの? いつも通りにしてれば問題ないと思うけどな」


「やめて! 俺の心の嘆きに返事しないでッ」


「アンタが心に思った事を、口にするからでしょ」


「うっぷす」



 …………やばい。今更になって自分がやってる事のデカさを実感してきた。どうしよ。



 留歌子は左右から垂れ下がる長い髪の毛を指先で(もてあそ)びながら、優しげのある面持ちで宗二郎に微笑んだ。


「大丈夫だよ。宗二郎はいつも通りにしていれば。悪い事をしている訳じゃないし……いつも通りが宗二郎のイイところだって、アタシは思っているよ」


「そーかな」


「ま! アタシは宗二郎が魔導科で失敗しちゃえばいいって思ってるけどね!」


「ルカ子さん、ひどい!」


 留歌子は大股にステップして宗二郎の前に飛び出し、くるりと振り返った。


「半分は本音だよ。……そしたら、また宗二郎と普通科で一緒にいれるもん。そう考えるのって、意地悪になっちゃうのかな?」


 悪戯っぽく、はにかむ姿に宗二郎は、友人としての忍川留歌子をではなく、一人の女の子としての顔を見た気がして、ドキリとする。

 体を回して背を向けたとき、ツインテールが後から続き、遅れて腰に差している刀が、スカートの揺れに合わせて大きく振れた。

 留歌子は肩に掛けているカバンを背負い直して、後ろ手に組んだまま。


「…………アタシの思い通りにならないように、頑張りなさいよ。宗二郎。アンタが決めた道が、正しい事であったって思えるよう。魔導科でがんばってね。応援だけは――したげるから」


「別に俺がどこに行こうと、何も変わらんぞ。色々とルカ子にも世話になったからな。……時間が合ったら、こんど一緒に飯でも行こうぜ」


「――――うん」


 元気よく返事をしたつもりであったが、留歌子の表情は素直で。

 ……微笑みの中に、複雑な気持ちが浮かび上がっていた。


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