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<6>

 昨日と同様…………良い晴天だった。

 空は白く。流れる風が心地良い。

 東堂宗二郎は、目を細めながら天を(あお)ぐ。

 昨日は濃厚な時間を過ごした。

 ――檜山先生によって、初めて魔術の訓練を受け。留歌子に連れられて先輩との三者面談。そして……なぜか決闘。留歌子も留歌子で、先輩が完全無欠と呼ばれるほどの実力の持ち主だと知っていて、試合を挑もうとするなどど、無鉄砲にも程がある。しかし彼女が体を張ってくれたおかげで、俺は迫っている期日と向き合い、自分の進路を真剣に考えなくては行けない。

 妥協して。安易に済ませて良いことなのだろうか。

 魔導科に対して、俺は不安を感じている。授業についてゆけるるかという事はもちろん、周りの空気……魔導科の生徒たちと上手に人間関係を構築できるかどうか。

 まだ一年生。魔導科に移れば残りの生活を、魔導科で暮らすことになる。どこまで自分の生活が変わってしまうのか。そこも悩んでいる所であった。

 そこで――今日は石蕗先輩が自ら。魔導科を案内してくれる申し出があったのだが。



 震える呼吸。

 鼻から吸い込み。

 小さく開けた唇の隙間から吐き出した。



 感傷に浸りたいのではなく。一重に強く。

 ――神による救いが存在しているのなら、是非とも今この時この瞬間。

 やんごとなき(ちょう)(えつ)した力によって、この身が救われやしないかと願ってみるも。

 空高くを過ぎ去ってゆく、名前も知らない鳥の影が、無情に通り過ぎてゆくだけだった。

 できれば。可能なら――鳥になって飛んでしまいたい。

 言葉にしたら、きっと馬鹿にされるか、頭を打ったか言われるから――いわないでおこう。



「……………………………………それで、どうしてアナタまでいるんですか。忍川さん」

 

 むぅーと、頬を小さく膨らませながら、不満を(あら)わにする石蕗祈理。


「どうしてもこうしても、今日はよろしくおねがいしますねー。セ・ン・パ・イ」

 忍川留歌子はあからさまに、意地の悪い顔をしながら笑む。

 留歌子の隣には、少し間隔をあけた東堂宗二郎が斜に構えながら、長く見つめていた空から、地上へ……現実を直視する。なんで今日もこの地獄すぎる構図が出来上がってるの? と言いたげに、額に汗しながら落ち着きがなかった。



 ――魔導科の校舎を見て回る。少しでも魔導科がどういうものなのか知ってもらうため、校内施設の見学をと、祈理が提案してくれた。校内で有名人の先輩と並んで歩くのを、宗二郎は良しとせず。不必要に目立ってトラブルに巻き込まれたらどうしようかと懸念していた。普通科のポンコツと魔導科のエリートが並んで歩くなど、世間体を考えれば恐れ多くて仕方がない。

 行くのならば、一人でフラフラした方が気遣いなく行動できる。

 だが彼の思いを――二人の女生徒が否定した。



 留歌子は『見学って、どこ見て回るの? こういうときこそアタシがいるんじゃん。一緒に行こ。それがいいよ。どーせ先輩と一緒だったら言葉で押し切られて帰ってきたときは洗脳されちゃってるに違いない。このまえのスケベ人形の件だってあるんだから、他の魔導科の人間にイチャモン付けられちゃうかもだよ。猛獣たちがいる檻の中に飛び込もうとする友達を、黙って行かせるわけには行かないよ。こういうときの優良生徒を頼りにしてもらわなきゃ。なにその嫌そうな顔。だめだよ。アタシも一緒にいくかんね! はい、けってーい!』

 まくし立てるように付き添いを申し出てきて。



 祈理は『え? 一人で見学する意味があるんですか? ないですよね? ダラダラとどこ見て良いのか解らず、無為な時間を過ごすだけです。東堂くんってそういう意味ないこと好きですね。よく誰かから変な人って言われませんか? なにも知らないから案内が必要なのではないでしょうか? ふふ。私はこう見えても一年生の時に人目を避けるため、徹底的に校内を散策した経験があるのです。私の階級でしか行けないような訓練場も案内できます。コレを聞いてしまったら、一人で見て回るなんて事、いえませんね? ……どうして嫌な顔してるんです?』

 同じく強迫じみた優しさで責め立て、選択肢を与えてくれなかった。



 二人の主張は宗二郎とついて行くに合致していて。

 逃げるに逃げられなくなった宗二郎は……目から光が失われていた。


「さあさあ東堂くん。張り切って行きましょう。魔導科に行く準備はできてますか? あ……忍川さん。もう付き添いは大丈夫ですよ。ご苦労様でした。ここから先は二人で行きますので。関係者以外は立ち入り禁止です」


「先輩こそ、宗二郎がまだ普通科だということを解っていないんですか? いろいろな意味で大丈夫ですか? 先輩が宗二郎を連れ回すことで、周囲が彼に与える影響というものを考えた方が良いです。自覚なさすぎだし。自覚していてやっているんだったら、鬼悪魔ですねー」


「………………………………あのぉ。こういうのはどうでしょ? 石蕗先輩とルカ子が一緒に行って、俺は日を改めて一人で……」


「アンタばか? なんでアタシが先輩と行く必要があんのよ」


「東堂くんも変なのに付きまとわれて大変ですね。同じ経験がありますから同情します。人付き合いは計画的にしなきゃですよ?」


「――――もぅ。俺……胃に穴あきそ」


 ぶつかり合う火花は所構わず。面と向かわず自分を介して言い合っているようで、体によろしくない悪意が、自分を伝導して言ったり来たり。なんでこんな事になってしまったのだろう。


「さぁ。ほんじゃ張り切っていこー」


「勝手に話を進めないでください」



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