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関原養成所は、今は封鎖された西新井橋の南西一帯、数百メートルに広げた土地を利用している。また橋を跨いで、河川『荒川』を越えた先にも、養成所の土地が広がっている。
魔導師を育てることに重点を置いている特殊性が故に、敷地面積の広さにおいては、内界にあるサイファーを育成する施設の中で随一。
学生達が寝泊まりしている場所は、橋から見て南東の区画。全て徒歩数十分の範囲に収められている。
魔導科の校舎は普通科とは別にあり、普通科の校舎と共用の中庭を挟んだ反対側に隣接している。中庭は広く見渡しが利く。……ただ、どういう経緯で習慣づいてしまったのか。どこに行こうとも共用の敷地には変わりないのに、魔導科と普通科は中庭の使用スペースを分断し、使用している。お互いが干渉しないためか、あるいは余計なトラブルを未然に回避するための措置なのか。宗二郎はこのルールを好まず、あえて魔導科のエリアとされている中庭の敷地に行っては、意味もなくベンチに座って周囲を観察していたりした。
待ち合わせ場所である、普通科の校舎から出発して、中庭を横断し、魔導科の校舎を目指す。
地域の一部をまるごと学校にしていることから、養成所の建物は街としての名残を残していて、崩しては作り替えられた突貫工事の建物が校舎周辺には疎らにある。
基本的な学習は校舎の施設だけで事足りるので……その他の建造物がどんな用途で使用されているのか、三人は何も知らない。
「檜山先生の教員室に行くときは、校舎の裏側からだったから、表の方は全然見れなかったけど……結構、何もない場所が多いんですね」
宗二郎の言葉通り、魔導科の校舎周辺には平らなところが多い。点在する更地が今後どのような使われ方をするのか、宗二郎の想像力では、今ひとつ浮かんでくるものはなかった。
舗装された幅広いコンクリートの道。周辺はどれも同じような外観を持っているのだが、宗二郎からすれば、好奇心を揺さぶられる何かを感じていた。
「何もない部分は確かに多いですね。新しい建物を作る計画も持ち上がっていると言いますが、真偽のほどは定かではありません。校舎は同じくらいの大きさに見られがちですが……実は魔導科の校舎のほうが、校舎の敷地面積は狭いんですよ」
「へえ。そうだったんだ……アタシはてっきり、魔導科の方も校舎が優遇されているのかとおもった」
留歌子は意外だといった様子で、目を丸くした。
「なんでもかんでも、魔導科が優位といった考え方は、よくありませんよ忍川さん。……ただ、校舎は小さいですが、魔導科の中心部は、校舎から更に西へ行った先……『特殊エリア』と呼ばれるところにあります」
「特殊――エリア?」
普通科では聞いた事のない名称。『特殊』というくらいだ。さぞかし立派なものなのだろう。
宗二郎の横で歩いている留歌子は、移動を始めたときから一言も口を開いていない。物珍しいのか、せわしなくキョロキョロ見渡している。
道中……制服の肩に魔導科を示す、円形のワッペンを付けた生徒とすれ違う。留歌子と宗二郎には目もくれず、真っ先に祈理を見ると立ち止まって会釈をする。祈理も慣れたように頭をさげてそれに答えた。
「ほんと、どこに行っても石蕗先輩って有名なんですね」
穏やかに言うが、どこか含みのある留歌子の言い方。祈理は気にしない様子。
「私は好きで、みんなに好かれようとしているわけではありませんから」
「でも常に成績上位を収めていると、ソレを嫉んで意地悪してくるひともいるんじゃありませんか?」
「そうですね。……そんなのもいましたが、気にしないようにしています」
――まあ、確かにメンタルが強くなければ、学校で成績上位にいるわけありませんもんねぇ。
初めて彼女を見たときは――学校近くにある、河川敷……だったか。
どこか儚げで優しそうな感じだった。
次に先輩を見たときは〝完全無欠〟の名前が板に付いたサイボーグ。どんな逆境にも負けない、絶対的な生徒。初めてまともに会話をしたときは底辺の印象からのスタートであった。
異形と戦うと決めたときに見せた先輩の姿は、どこにでもいる生徒と同じで、強さと同じくらいの弱さを持った女の子で……。先輩が抱えている立場というものは、先輩にとって大切にしている拠り所と同時に、彼女自身を圧迫している、とても重い足かせなのだと思えるようになってきた。
――じゃあ、いま俺に見せている顔の彼女は……どんな時の先輩なのだろうか?




