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次々に言い当てる『予言者』の未来。
彼あるいは彼女が携帯端末を使用して接触してきた回数は二度。
一度目は自らの存在と、自分が『反逆者』の磯良修を匿っていることを知っていると、伝えてきた。
――二度目の接触は、予言者が『霧の発生』を予告したその夜。
ちょうど、磯良との会合で彼と分かれた直後にかかってきた。
同じく磯良しか知らない『黒端末』の回線を使用しての通話であった。
『十八区の様子はどうだ。……私が予告した通り、魔力が満ちているはずだ』
何も答えない。否定も肯定もしない無言を、肯定と受け取った予言者は淡々と、自らの用件を伝えてきた。
『東堂宗二郎に気を付けろ。彼はこの先の未来で……鍵となる人物だ。お前が魔術の知識を与え、育てろ。決して目を離すな。ブラックボックスが彼の価値を知り、本部に連れて行かれるようなことがあれば、お前はきっと後悔するだろう』
そもそも、東堂宗二郎などという人間を知らない。
惑い続ける檜山は、不快感しかなかった。
『全ては、時間が教えてくれる。お前は必ず……彼と出会う運命なのだから』
さも自らの手の上で、事が回っているような言いように、薄ら寒さを憶えた。
相手の人相も年齢も、言わない。いったいどうやって接触してくるのだろうか。
『彼と会ったら……試しに……第一級の術式でも見せてみれば良い。あの男は……高度な術式であっても短縮魔術として起こすことが出来る。…………それが、どれだけの価値を持っているか、魔術に精通しているお前ならば、考えずともわかるだろ』
第一級魔術。短絡魔術。二つの単語を知っている事から魔術の知識に長けている者。最低でも二年の魔導科レベルの知識を備えている人間――か。
これだけ情報が彫り上げられているというのに……未だに『予言者』の輪郭すら見えない。
そして、謎の渦中……唯一、姿をもって目の前に現れたのが東堂宗二郎であった。
彼は、自らが引き合いに出されている事など、まるで知らないらしい。
現に彼が中枢機関に仇成す人間『魔術師』である可能性も考えていた。
普通科に在籍しながら、自らの素性を隠している。そんな人間。
こちらの素性をもし知っているのなら、彼を捕らえ……拷問した後に『予言者』まで一気に近づこうと思っていた。
だから、初めて会ったとき。檜山は彼を試していた。
……魔力干渉。自分の魔力を相手に流し込むことによって、刻印を暴走させたり、体内にある魔力に悪循環を生ませ身体に異常を促したりも出来る方法。
良いように使えば、身体能力の向上や、治癒能力を促進させたりと、魔力干渉の用途は幅広い。
普段は行わない握手を交わすことで、東堂宗二郎が魔導師であるか否かを見極めようとした。極端な拒絶、あるいは体内で抵抗の意志を示せば魔術に精通しているだろうし、ましてや魔術師ならば他人との接触は極力避けようとするだろう。
――だが、事もあっさり、東堂宗二郎はそれらを許していた。いや……魔力干渉そのものすら気がついていない、ずぶの素人であったのだ。
なぜ普通科の彼に魔術を教えなくてはならないのか。
そのようなリスクを背負わなくてはならないのか。
檜山の不審が、ひっくり返ったのは、彼が持っている特殊性だった。
――――術式の完全再現。
通常、魔術を施行する際の魔術式は……物理的に描くか、あらかじめ授業などで修得し、自己暗示によって条件付けされた詠唱が必要となる。言葉そのものには意味はなく、自分でインストールさせた言葉によって擦り込まれた術式が頭の中で正確な形をもって掘り起こされる。
一部の人間や、簡単な術式であれば詠唱などは必要はない。しかし人間が作りあげるイメージや想起は非常に曖昧なもので、機械のように呼び出せる物ではない。
彼がもつ特殊性とは――完全暗記の力。
高度な知識を持つ魔導師ですら、詠唱では補えない術式の全てを、頭に描ける。
単純な術式再現能力であれば……彼女――『百拳赤手』の上を行くかもしれない。
……確かに。この能力が公になれば。中枢機関の魔導師たちが黙ってはいないだろう。
東堂宗二郎と出会って、檜山が察したのは……彼を保護することが『予言者』の目的では無いのだろうかと考えた。
どうして、予言者が東堂宗二郎について詳しいのか。
いや、もし本当に予言や予知があったとするのなら、面識が無くとも、予言者の歯車の一つとして、少年が組み込まれているのかもしれない。東堂宗二郎が未来でどんな引き金になるというのだろうか。単純に彼の周りにいる関係者だと考えるのは単純すぎるか。
貴重な人材。ブラックボックスに知られてはならない理由。もしかしたら『予言者』と我々が目指している〝悲願〟は同じ所にあるのやもしれない。
共通している部分があるからと言って、仲間意識を持ってはならない。
仲間は――ひとりだけで十分。
我々を揺るがすであろう不確定要素は、
――できる限り早急に排除するべきだ。
「どうですか檜山先生。今の上手くいきましたよね!?」
初期の術式を発動させながら、宗二郎は得意げに笑う。
「…………ああ。問題ない。今は魔術のバリエーションよりも、自分がどこまで出来るのかを知ること。同じ練習を積み重ねて、徐々に精度を上げていけ」
東堂宗二郎を――育てる。檜山は彼の背中に鋭い視線を送る。
今はまだ、小さな萌芽でしかない。指先で砕いてしまえるほどの、脆い蕾だ。
彼が成長し続け。我々の敵になることがあれば……厄介な『魔術師』になるだろう。
――――早いうちに、潰してしまうか?
それとも、もし予言者と本当に面識がないのなら――奴の意志を逆手に取り、こちら側に取り入れてしまうか?
どちらにせよ。まだ敵と判断を下すには、早急過ぎる。
少なくとも彼を監視していれば、いずれか『予言者』が尻尾を見せるだろう。
危険と同時に、近くで囲っていれば、いずれチャンスは訪れるはず。
来たるべき時が来れば……容赦はしない。
奇術の〝タネ〟は、まだ解らないが。必ず曝いてみせよう。




