表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/325

<5>-3


「ところで話は変わるが――車の燃料には何を使う?」


「へ……? ガソリン、ですか?」


 答えは合っている。予期せぬ質問内容に、宗二郎は引っかけ問題ではないかと(かん)()って、どこか遠回し気味に返していた。


「そう。だがガソリンにも種類がある。指定された燃料を誤ると。最悪のケース、車は故障してしまう。ガソリンエンジンは適合する燃料の使用が必要になる」


 宗二郎はつまり何が言いたいのか、理解していない。話の腰を折ってしまわぬよう、次の話を忍耐強く待った。


「魔導師にもエンジンと燃料の関係が当てはまる。魔力を扱える固有刻印(エンジン)。そして燃料となる魔力(ガソリン)。……魔力は異界の中心地。異形が現れている次元の扉から流入している。この魔力は『原油』と似たようなものだと考えて良い。燃料になる前の純粋な力の(みなもと)。大気中に存在していて、物質とは違い不明瞭な『()()()()()()』だ」  


「第二世界?」


 ――あぁ。話が飛びすぎてしまったなと。檜山は眼鏡を指であげながら話を戻す。


「魔術における。一つの世界定義。主に次元の向こう側。魔術を扱える『異形の者たち』が定めている、()()()()みたいなものだ。簡単に説明すると『第一世界』は〝物質や生物〟無機物と有機物。……『第二世界』がそれらを取り払った〝魔力や魂〟目には見えない概念。存在不確かなエネルギー。……そしてそれら収まりきらない万物の根元とされるのが『第三世界』……つまり、魔術というのはこの世に存在している物質界とは違う、別の要素で構成されている目には見えない第二世界要素。……こんなことは授業でも習うものではないから、雑学程度に留めておけばいいさ。まず授業では教えていない」



 …………もしかしたら、いま自分は、とてもすごい話を聞いているのではないだろうか?

 他の生徒も知らない知識を得られている宗二郎の心は、強い満足感でいっぱいになる。

 第一世界。第二世界。第三世界。なんども頭の中で(はん)(すう)し留めることに努めた。


「話を戻すが、第二世界要素……『魔力』は、人間の認識ではかなり曖昧な定義づけをされているが……明確になっていることは、魔力を一度肉体の中で、自らのものとして変換させると、別の燃料(エネルギー)として生まれ変わる。生まれ変わったエネルギーは、変換した本人でしか使うことが出来ない。……この事を踏まえれば、君が他者からエネルギーを受け取り、使用できる能力というのが、いかに現在の魔力定義から脱線しているか、よく解るはずだ」


「エンジン……燃料……じゃあ、他人の燃料――魔力を別の人間に流すとどうなるんですか」


「一度、転換された魔力は、自分の意のままに操作することが可能だ。魔力の流れをコントロールして、魔術兵器(A・U・W)と同調させるのが最たる例だ。この魔力制御を使って、他者の体内に魔力を流し込むことを〝魔力干渉〟と呼んでいる」


「干渉……魔力干渉」


「これは魔導師の初歩として教えられているが、魔力干渉を行うと、対象の人体に悪影響を及ぼすことが出来る。一度変換されている魔力は、他者からしたら適合しない燃料だ。そんなものを体内に入れれば、人体は故障する」


「じゃあ……なんで俺のは、他人の魔力を受け取っても、おかしくはならないんです?」


「それが俺が言うところの、()()()()()なんだよ。君はどういうわけか、自分で魔力が自己生成できない代わりに、どんな魔力にも適合できる(はん)(よう)性を持っている。他人と同じ能力を持っていない欠点はあるが、逆に他人には出来ない長所がある。くわえて君の場合……他の連中が(あく)(せく)して脳内に刻みつける、短絡魔術ショートカットマジックの自己暗示を必要としないという、とんでもないアドバンテージを持っている」


 短所ばかり目に入ってしまい、ただただ劣等感でしか無いと思っている自分を、払拭してくれる気分がした。檜山の言われたとおり術式の再現については、自分でも強みと思っていた。


「そもそも、君が目指すべき魔導の道は、その特殊性が故に……他の人間とは別の方向に向かっている。通常に沿った授業内容が出来ないで当然。そもそも君は垣根が違うのだからな」


「じゃあ、俺は強くなれますか……誰かを助けられる人間になれますか」


 ずっと見せなかった、強く切望する瞳。

 どうして魔術を教わりたいのか、檜山は(へん)(りん)が見えた気がした。


「随分とこだわりがあるようだが。……強くなって、どうするつもりだ?」


「それは――単純に人を助けられる強さを持ちたいだけです」


「薄ぼんやりとした理想だな」


 その言葉で、宗二郎は初めて檜山に敵意の()もった視線を作った。


「サイファーになって異形を倒す。それが……強いってことだと思います。だけど、強くなるためには魔力が必要で、魔術も使えなけりゃいけない。俺の固有刻印は――魔術に特化していると、考えてます」


 無意識に、宗二郎は左目の下にある傷痕に触れた。


「…………………………」


 檜山は……宗二郎を何も知らないわけではない。独自に養成所が保管している生徒の個人情報を観覧していた。

 パンドラクライシスから、養成所に来るまでの経緯。だいたいの生徒は刻印の覚醒、そしてブラックボックスの保護。一時的な施設生活から、そのまま用意された学校へと入学させられる。



 …………東堂宗二郎の場合は、少々特殊だった。

 彼は施設に()らず。何年も病院内での治療(リハビリ)生活を送っていた。

 重傷を負って保護されたのは関原。この養成所から目と鼻の先にある河川敷であった。

 治療記録までは記録されていなかったが、保護された時期と病院生活を逆算すれば、自ずと彼が『もう一つのパンドラクライシス』で出現した異形が作りあげた地獄の渦中にいたと推測できる。

 それらを事前に知っていたからこそ。

 東堂宗二郎と初めて会話をしたとき、檜山はそれとなく質問したのだ。

『キミは他の人間とは違って、なにか別の――特別な体験をしたことはないか?』と。



 知っていた。全てではないが、彼が何かを得て……あるいは失うきっかけがあった。

 それがパンドライシスと()(ごう)する。

 だが東堂宗二郎は『特にない』と否定した。

 ――――嘘だ。その嘘が悪意のある嘘なのか、あるいは過去の悲惨さから、話したくないと拒絶したのか。あの時の檜山には判断できなかった。

 今でも、檜山は宗二郎が抱えている胸の内に、読み取れない部分がある。


「強くなれるかどうかは俺も確約できない。……しかし、やってみる価値はある」


 腕時計を見ながら、長く話してしまったことに驚いて見せた。


「まずは……基礎的な事から始めるとしよう」



 魔術は魔力を使い、魔力を使うには精神力や体力が必要になる。

 結局の基盤は、体力作りから始まる。

 半強制的に入学させられ、(ばく)(ぜん)とした目標を背負わされる(あま)()の生徒とは違って、彼は良い体が出来上がっていた。自主的に積み重ねてきたのだろう。()(りゅう)で形成された体つきには、少しばかりバランスの悪さが(うかが)えるが、(じゅう)(ぶん)実戦に耐えられるだろう。

 訓練することに集中し始めたのか、来た時よりも東堂宗二郎の表情に色が戻っていた。

 檜山は眼鏡の奥から鋭い視線を浴びせていた。

 東堂宗二郎がどんな思いで、この個人修錬に望んでいるのかは知らないが、

 ……彼はきっと〝偶然手に入れた貴重なチャンス〟だと。そう思っていることだろう。

 本来ならば――普通科の生徒に魔術を教授する事などしない。

 彼と――自分を繋いだ、偶然から生まれた接点。

 都合の良い幸運など――ありふれたものなんかでは決してない。



 檜山がなぜ、東堂宗二郎に魔術を教えることになったのか。

 そこには偶然など一欠片も間に挟めない。そうなるべき必然性をもっていた。

 檜山の真意は別にあった。普通科の東堂宗二郎をわざわざ、魔導科に移行させる意味。

 少年のためではなく――()()()()()



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ