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「俺としましては。普通科に居ながら、魔術もちょっとかじりたいなぁって」
「ほら! やっぱり普通科だよね? アタシと一緒のほうがいいもんね? 魔術なんてついでで憶えれば良いんだよ。ついで、でね!」
「東堂くん。安易な考えは身を滅ぼしてしまいますよ。魔導科に来れば東堂くんが臨む知識をえられます。普通科では教えていない勉強ができるのです。ついでなんかじゃ魔導を学ぶには時間が足りなさすぎます」
「ソレとコレとは話が別! 損得じゃなくて、まずは自分が良いか悪いかだよね宗二郎!?」
「――う、うーん」
様々な縁が絡み合って生まれた、魔導科講師、檜山の教授をうけられるようになっていた宗二郎。まだ一度も彼のレッスンは受けていなかったが、魔導科の繋がりを言われてしまうと完全には否定しきれない。説明をしたかったが、檜山から口止めをされていたので何も語れない。宗二郎は腕を組んで背を丸める。
「先輩。宗二郎を困らせないで下さい。宗二郎は普通科がイイって言ってるんです。あんな所に行ったら、絶対にイジメられますッ」
「それは東堂くんが普通科しか知らないからでは? 魔導科も普通科とさほど変わりません。忍川さんは、難癖つけて東堂くんを縛り付けているだけにしか見えないのですが。……といいますか、アナタが東堂くんをいじめているようにも見えます」
「な、なにオゥ!?」
「……………………なんで、俺いじめられている前提になっているのでしょーか?」
「んぐ! んぐっ! んんぐッ!?」
ヒートアップしてゆく空気に、七代の目には星がまたたいている。いち早く弁当を食べ終え、飲み物を飲みながら瞬き多く、双方へと目をせわしなく動かす。
「本当に東堂くんのためを思っていっているんですか?」
「もちろんだし! よく宗二郎を理解してますよ。そういう先輩こそ、自分が推薦状を出した手前、収拾が付かないから、ゴリ押ししようとしているんじゃないですかぁ? それに先輩って立場使えば、宗二郎がコロリと寝返るとでも思ってるんですかぁ? ……ああー。そうですよねぇ。先輩は指先ひとつで人を動かせるほどのすごい人ですもんねぇ。でも世の中には思い通りにならないこともあるんです! いまがそのとき!」
急にへラッと嘲笑う留歌子に、挑発を真に受けた祈理の眉が微動した。
「わ、私は、自分をそんな風に思った事は、一度としてありませんっ」
この場で初めて、祈理は声を荒げた。
本人も気にしているデリケートな部分に触れてしまったらしい。
会話を重ねるにつれて、二人とも口調が強くなってゆく。
「あなたこそ、東堂くんの進む道をコントロールしようとしているんじゃありませんか? 決めるのは本人であって、あなたではないはずです。どうしてここまで東堂くんに固執するのか、理解に苦しみます。まるで過保護なお母さんですね」
「こ、こここコントローロールなんかしてないし! どんだけ宗二郎が悩んでいるかも知らないくせに、ポッと出の人間にアレやコレや、アンニャコンニャ言ってほしくないだけだですし! 先輩こそ小姑みたいにチマチマネチネチと……」
「こ、こじゅうとー!?」
「――どどどどどうなるのぉぉ? すごーく気になるよう。この際、女の子同士で殴り合いとか始めちゃう? まさか凶器有り時間無制限高電圧有刺鉄線デスマッチ? それともそれともヘッドバッド限定の我慢比べ? お互いの片手を縛って、相手が潰れるまでポコ殴り? ナナヨそういった修羅場きらいじゃないよぉ。ウズウズウズウズ」
「…………………………」
――え。マジで何を言ってんの。いつ取っ組み合い始まってもおかしくないくらい一触即発だってのにバカなの? 空気読めないの? 実は四人の中で一番危険思想を持っているのって、ナナヨ姐さんじゃないのか? 口走っている内容が、色々とヤバすぎるですううぅぅぅッ!
基本的に温厚である宗二郎からすれば、今にも掴みかからんばかりの雰囲気に飲まれに揉まれ、両手で口を押さえ真っ青になる。いつもなら口走ってしまう心の声さえ引っ込んでしまっていた。
七代は真逆で――完全に楽しんでいる。さながら世紀のエンターテインメントショーを見ている子供のようであった。
「もうわかった。石蕗先輩! アタシは貴女に決闘をもうしこむッ!」
何が『もうわかった』でそんな結論に辿り着けるのか。
留歌子は立ち上がりざま、祈理に指さした。
「はい?」
「うわぁ……」
「――ぶっぷぅッ!?」
祈理は一瞬、呆けたものの、望むところであると立ち上がる。
宗二郎は『この先どうなるの』と言いたげに頭を抱え。
七代に至っては――予想外の展開に噴き出し、腹を押さえて笑いを耐える。
「……そうですか。……はい。……えぇ。望むところですとも。私が勝てば、東堂くんは魔導科へ行くということでいいですね?」
「えーえー。それは先輩の勝手にどうぞ! なんでもさせれば良いです。先輩が現れてしまったから、こっちも困って、宗二郎も困っちゃったんです。それに宗二郎は見ての通り、優柔不断に手足がくっついているような人間。こうなったら誰かが一押ししてあげないと、グズな宗二郎は決心付かないとおもいます!」
オレの進路が自由気ままに、言い合いの中で決まってゆく。
しかも、さり気ない悪口を添えて。
「――面白そうです。ええ。とても。……時間はどうします?」
「今日の放課後、訓練施設で! 何事も早い内が良いです」
「わかりました。逃げないでくださいね?」
「そっちこそです!」
「やばーい。ナナヨ、委員会の仕事休んでも、絶対見に行こっと。ルールどうするン? おすすめはデスマッチだよン。審判やっていい!? 武器はぁ? やっぱり女の子らしく鈍器とか?」
もはや顔も合わせていたくないらしい。
話に区切りが付くと、祈理と七代は揃って弁当と机を片付け、去って行く。
自分に関わる事が、まったく言葉で介入できないまま、勝手に進んでゆくというのは実に奇妙なものであった。
力なく、ストンと腰を落とした留歌子に対して、宗二郎は声を荒げた。
「正気かルカ子!? 相手はあの先輩だぞ! お前勝てる算段でもあるのか?」
フッと笑う留歌子。非常にあくどい表情だった。
「勝算が無ければ挑まないよ。もうアタシが勝った。見てて宗二郎。あの女をコテンパンに伸して、宗二郎との爛れた関係を断ち切ってあげるから!」
「――その言い方イヤっ。いかがわしく聞こえる!」
普通科に戻れるのならば、願ったり叶ったりであるのだが、なんか痴情の縺れみたいで聞き捨てならない宗二郎はすかさず訂正を入れる。
「大丈夫。宗二郎はアタシが守ったげるよ。過去も未来も……今もねっ。あの魔導女を『ぎゃふん』と言わしたげる」




