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「ナナヨ知ってるよぉ。この前、友達の部屋で見たテレビドラマでやってたやつ。……ドロドロの三角関係。最後は男が二人の女からメッタ刺しにされるンよぅ」
「ちょまてぃ! ニャナヨ姐さん! ソレ俺死んでることになるでふっ!」
石蕗祈理にも忍川留歌子に対しても、誑かした覚えはない。濡れ衣も甚だしい。
七代が見たというのは、サスペンスなものであろう。あるいはホラー。ドラマと重ねるは良いが、結果として自分が死んでいることに、宗二郎は大きく動揺し、思わず噛み噛みになる。
――内界のテレビ事情は少し特殊だ。有事の際に流れる緊急速報を目的として放送を行っていて、なるべく住民を屋内に留めておく目的があるらしい。家に娯楽が無ければ人は自然と外に出るものだから、不必要な外出を控える意味合いもあるのだろう。……どこまでその効果が実証されているのかは不明であるが。
もちろん放送内容も、多くの通信手段と同様に規制がかけられ、情報は得られなくなっている。例えばニュースや外界で放送されているテレビ番組も外部の情報を得られぬよう、完全にシャットアウトされ、内界で放送されているのは映画や、海外のテレビドラマ。内界の天気予報が中心となっている。
「んまぁ。祈理ちゃんに刺されるなら、本望だよねぇ」
「…………『石蕗先輩大好き人間』ならば、泣いて喜ぶのでしょうが、あいにく、俺はそんな熱狂的思考は持ち合わせてませんよ」
「んもぅ。二人して何を言っているのです? 刺したりなんかしませんよ。まるで私が暴力を好む性格みたいじゃないですか」
「ま、アタシは刺してでも、ミンチにしてでも、宗二郎を連れて帰るかんね」
「カルトどころか、ここにとんでもねえサイコがいたッ!」
冗談だと心得ているが、顔つきは真剣そのもの。祈理を見つめる目は、さながら碁盤を見つめる棋士のようだった。あるいは標的をロックオンした追尾ミサイル。
「早速なんですが、先輩……宗二郎に渡した手紙の件なんですけど」
真正面から敵意を浴び――認識しているにも関わらず、祈理は終始冷静そのもの、いつもと同じ様子で弁当の蓋を開けて、食事を始める。
「………………ん?」
宗二郎はすぐにその違和感に気がついた。
津拭七代と石蕗祈理が食べている弁当の中身が同じであったのだ。
――あれは合作か、あるいはどちらかの手作りなのか。ナナヨ姐さんって料理が下手クソそうだもんなぁ。先輩の事だから、きっと料理も完全無欠でうまいに違いない。おおぅ。一瞬エプロン姿の先輩が頭に浮かんで。やばいっすな。わるくない。
「おいカエル野郎。ナナヨのお弁当を、じぃっと見つめながら、物欲しそうに、お口パクパクさせるのやめなンよ。ものッすごく可愛そうな顔になってるンよぉ」
「いかん。言葉にはしなかったが、顔に出てしまったッ!」
「ねぇ宗二郎。いまアタシはアンタの話をしてるの。余計な事は話さないで」
「――あ、はい。すんません、まじで」
空気であると努めたはずが、怒られてしまった。反省である。
「話を進めますが、どうしてあんな推薦状を作ったんですか」
留歌子の質問に対し、すぐに答えること無く、祈理は宗二郎に目配せをした。
自分の口から勝手に喋ってしまっても良いのだろうかという、問いかけだと思った宗二郎は、自ら先に話し出した。
「ルカ子は、俺が持っている能力を知っていて、このまま魔導科に行っても、良い成績が残せるわけがないんだと思ってくれてるんですよね」
「東堂くんはどうなんです?」
「お、俺ももちろん――魔術が使えないんですから、魔導科に行ったって何もできないのは判りきっています。普通科でさえ手一杯。ですから今後も普通科継続を希望です」
「ふぅ……私はそう思いませんが」
溜息さえも優雅に。真っ向から祈理は否定し、それでも食事する手は止めない。食べながら喋らず、行儀良くメリハリを付けているところに、彼女の性格が窺えた。
「あれは良かれと思ってやったことです。東堂くんの才能はとても素晴らしいものだと、私は思っています。東堂くん。思っているほど魔導科は難しくありませんよ? むしろ東堂くんのような才能を持っている人間なんて、この学校のどこを探してもいません。断言できます。それに……あの推薦状は私だけではなく、檜山先生も許可を出しているのですから。先生も私と同じ考えなはずです」
「えー。そぉなんですか?」
「そうですよ。しっかり書類に目を通しました?」
「いえ。実は貰ったまま、玄関に放置してました」
「――はぁ。ほんとうに、アナタって人は」
祈理は駄目な人間を見る目つきで、ソレが東堂くんでしたよねと言いたげなニュアンスで、額に手を置いた。
「感情だけで推薦は出せません。私も先生も。確たる理由と確信があったからこそ、ああやって書類にすることが出来たのです」
「…………ムフ」
「こ、このおバカ、照れるな! そもそも宗二郎はどっちに居たいのさ!? アタシといっしょの普通科だよね?」
「魔術の才能があるのですから。適材適所。本来のクラス。魔導科へ行くのが道理だと思いますよ」
「うおーぅ。おもしろくなってきたぞぉ。ナナヨはいま、ドキドキでワクワクが止まんなーい。うそんこのテレビよりも面白い。ごごご、ご飯が美味しすぎるよぉ~。この空気をおかずにご飯がすすんじゃうよぉ~。もぐもぐもぐもぐ」
――清々しいまで、ネジ曲がった性格。嫌な空気で飯が食えるとは悪食すぎる。
本気で面白がっている様子。七代は食べ進めながらも、目がキラキラ輝いていた。
対して宗二郎は、食事する気も起きない。
『どっちがいい』というのは嫌な質問のされ方である。片方を選べば、片方の機嫌が損ねられる。どちらを選んでも半分バッドエンドでしかない。




